お手入れ

着物の虫干し・陰干しの時期は?方法は?回数は?完全ガイド

お手入れの基本のひとつが、着物の虫干し・陰干しです。着物を一枚しか持っていない初心者さんはもちろん、タンスにたくさんの着物を持っている上級者さんにも必ず行って欲しいお手入れなんですよ。

吉原ひとし
吉原ひとし
こんにちは。創業明治三九年 四代目 ふじぜん 吉原ひとしと申します。ここでは着物の虫干し・陰干しの違いや用具の準備、虫干しのやり方、適切な時期、注意点等を着物のプロが詳しくご案内していきます。

「虫干しとは何?」という人はもちろん、今までなんとなく陰干しを行っていた…という人もぜひ読んでみてくださいね。

目次

着物の虫干し・陰干しとは?

まずは着物の虫干し・陰干しの概略についてカンタンに説明します。

虫干し・陰干しは「日陰で着物を干す」お手入れ

着物の虫干し・陰干しとは、着物を直射日光に当たらない場所で干して乾燥させるお手入れの方法です。「着物の繊維の中にこもっている湿気や水分を飛ばす」ということが主な目的となります。

ちなみに虫干しの読み方が「むしぼし」、陰干しの読み方が「かげぼし」です。

「虫干し」と「陰干し」の違いは?

着物のお手入れの中で「虫干し」「陰干し」と2つの言葉が書かれているので、どういう違いがあるのかと悩む人も多いのではないでしょうか。基本的にやっていることは「着物を干す」でほぼ同じです。ただ、言葉の始まりや意味に多少違いがあるので、知っておいてくださいね。

虫干し

「虫干し(むしぼし)」は、着物や干して水分を飛ばし、繊維に巣食う「虫」をつかないようにする「防虫のためのお手入れ」であることから名付けられました。着物だけでなく、本を干してお手入れする時にも「虫干し」という言葉が使われます。

着物の場合で「虫干し」という言葉を使うのは、年に何度か定期的に行うお手入れ(保管中の着物を取り出して、まとめて干す)を指すのが一般的です。

陰干し

「陰干し(かげぼし)」は、その名の通り日陰(ひかげ)で衣類等のモノを干すことを意味します。直射日光を当てないから陰干し、というわけです。着物だけでなく、一般的な洋服やフトン等でも直射日光に当たらないようにして干せば「陰干し」です。

例えば着物を着用したすぐ後、汗を飛ばすために着物を干すのも「陰干し」ですし、シミ抜きをした後等で着物を干すのも「陰干し」に当たります。また定期的なお手入れ(保管中の着物を取り出してまとめて干す)を「陰干し」と読んでも、けして間違いではありません。

※お手入れの名称については地域による差も大きいです。必ずしも「虫干し」が正解、「陰干し」が正解といった決まりはありません。

着物の虫干し(陰干し)を行う理由やメリット

着物の虫干し・陰干しは、着物のお手入れの基礎でありとても重要なポイントとも言えます。なぜ着物の虫干し・陰干しは必要なのでしょうか。

1)着物のカビの発生を予防

着物カビ増える
着物のトラブルで特に多いのは、保管中に発生する「カビ」です。カビ菌が着物に発生するとカビくさくなるだけでなく、青カビ・黒カビによるシミ汚れや、白カビの変色による茶色いシミ(黄変)等の原因となります。

着物のカビは一度発生すると、ご自分では取り除くことができません。何より大切なのが「カビを発生させない」という予防対策なのです。

カビ菌が好むのは、湿気が多いしめった繊維の中。長期間、クローゼットやタンスの中にしまいっぱなしになっている着物には湿気がたまるので、カビ菌が発生しやすくなります。

着物の虫干し・陰干しをすることで、カビ菌発生のリスクを減らしていきましょう。

2)着物の虫害(虫食い)を予防

ヒメマルカツオブシムシ幼虫
着物の虫干し・陰干しをする理由のもうひとつに「虫害(虫食い)」の予防があります。

着物の素材では絹(シルク)やウール等の動物性繊維が多いですよね。これらはヒメマルカツオブシムシ等、繊維を食べる虫の大好物!虫対策をせずに着物を保管したままにしていると、虫が産み付けた幼虫に繊維を食べられて、着物が虫食いだらけになってしまうこともあります。

カビと同じく、虫も湿気が多くて温かい場所が大好きです。着物の虫干しを定期的にして繊維の中をしっかり乾燥させることで、害虫の取り付きを防ぎ、虫食いのリスクを下げていきます。

3)着物のシミや変色トラブルのチェック

大島紬の変色染み ビフォー
着物の虫干し・陰干しを行う時には着物を広げますから、襟元から裾、袖口まで、着物全体をつぶさにチェックすることができます。

着用している時には気づかなかったシミ、汚れ等を見つける絶好のチャンス!また保管中にシミが浮き上がってきたり、変色を起こしていることもあります。早めにトラブルを見つければ、それだけ着物のシミ・汚れを除去しやすくもなるのです。

4)着物のニオイを取る(消臭効果)

着物の繊維の中にこもった空気が入れ替わることで、食事等で付いたニオイが目立たなくなる消臭効果も期待できます。着物のカビ臭いニオイを一時的に目立たなくさせることも。(ただしカビ臭さはカビ菌を除去しないと根本からは解決できません)

着物の虫干し・陰干しの準備【用具と場所選び】

実際に着物の虫干し・陰干しをどのようにして行えばよいのか、準備の段階から見ていきましょう。

虫干しで必要なもの

ハンガー


きものハンガー5本組セット(和装用)オリジナル専用箱入り

着物をかける時にハンガーを使います。できれば着物専用の和装ハンガーを使った方が、襟等の型崩れの心配が少ないです。着物用ハンガーは、一度着物を着るたびに使います。これからも着物を着るご予定があるのなら、着物用ハンガーを一本はお持ちになることをおすすめします。

【洋服用ハンガーは使える?】
4~5時間程度の短い虫干しであれば、洋服用ハンガーを使っても構いません。最近では肩の形がつかないタイプの洋服用ハンガーも登場していますから、そのようなハンガーを使うのも手です。

ただし洋服用ハンガーを使うのは、短期間の虫干しの場合のみです。2~3日以上も長く虫干し・陰干しを行う場合、洋服用ハンガーに掛けっぱなしだと型崩れを起こします。長期間の虫干し・陰干しには着物専用ハンガーを使いましょう。

着物用ブラシまたはハンカチ


Yartar 天然馬毛 毛玉取り 花粉対策 着物お手入れブラシ

着物のチリ・ホコリを取るのに使うのが着物専用のブラシです。お持ちでない場合には、清潔なハンカチ等で代用できます。色移りの心配が無い白色または薄い色のもので、ガーゼ等の柔らかい素材のものを選びましょう。

扇風機・エアコン・除湿機


アイリスオーヤマ 除湿機 IJDC-K80 ホワイト

屋内で虫干し・陰干しをする場合、常に室内の湿度が理想的とはいかないこともあります。冷風をあてるための扇風機、湿度を調整するエアコンや除湿機などがあると、より効率的に着物を乾燥させられます。

新しいタトウ紙

虫干しの際に古いタトウ紙の交換をしましょう。詳しくは「6.着物の陰干し・虫干しでタトウ紙を交換!」で解説します。

虫干し・陰干しの場所を決める

虫干し・陰干しでは、着物をハンガーなどにかけて広げ、空気を通していきます。どこに着物をかけるかを先に決めておきましょう。

屋内の場合

和室の場合だと、鴨居やふすまの梁(はり)を使って、ハンガーをかけていく方法がやりやすいです。着物の裾が床につかないかどうか、よく確認しましょう。

洋室の場合だと梁が無い、ということも。クローゼットのドアや、タンスの引き出し等を使ってハンガーをかけるのがおすすめです。こちらも高さが十分あるかどうかをよく確認してください。

また室内であっても、窓ガラスを通して直射日光が挿す場所は絶対にNGです。一日を通じて日陰で、風通しの良い場所を選びましょう。

屋外の場合

直射日光に当たらない「日陰」で風通しの良い場所であれば、ベランダやお庭等でも虫干しを行うことは可能です。ただし着物の裾が地面につかない高さが必要なので注意!ハンガーではなく、物干しに直接着物をかけた方が高い位置に着物を掛けられます。

また午前は日陰でも午後は日向となる場所もありますから、日光の動き等もよく確認しておきましょう。

天気予報を確認する

定期的なお手入れとして虫干しを行う場合には、事前に天気予報(週間天気)を確認しましょう。

  • 虫干し前後の数日間が晴天が続く
  • 湿度が低く空気が乾燥している

上のような天候の日が理想的です。反対に、前日が雨だったり、ムシムシとした天気が続く頃だと、まとめて着物を干すような定期的なお手入れには不向きです。とは言え着物を着た後の陰干しは必要なので、こんな時にはエアコンや除湿機等をフル活用します。

着物の虫干し・陰干しの方法

着物の虫干し・陰干しを行う方法・手順を見ていきます。

1)着物を広げてブラッシング

まずは着物を広げて、着物専用のブラシで全体をブラッシングします。優しくブラッシングして、表面のチリ・ホコリ等を取り除きましょう。ブラシが無い場合には、ハンカチで優しく叩くようにしてホコリを取り除きます。

2)着物をハンガーにかける

室内または屋外の決めておいた位置で、着物をハンガーにかけます。襟元等の形をよく整えておきましょう。

3)湿度の調整

天候の状態が良い場合には、窓を開けて風通しを良くします。外の湿度が高い場合等には、エアコンや除湿機等で湿度を下げてください。また扇風機(弱冷風)をあてることでも、衣類の乾燥をはやめることができます。

4)着物を数時間~数日干す

虫干し・陰干しで着物を干す時間は、目的や着物の状態に合わせて切り替えます。

  • 保管中の着物のお手入れ:定期的にお手入れをしており、湿度が低い日であれば3~5時間程度(半日)で大丈夫です。ただし、しばらくお手入れをしていなかった場合には一日~二日程度は陰干しした方が良いでしょう。
  • 着用直後の着物のお手入れ:1~2日程度は陰干しをして、こもった湿気を飛ばします。屋外で干す場合には、朝や夜間は取り込んでください。
  • 汗をかいた日・雨の日の着用後のお手入れ:着物が湿気でしめっている状態です。3日~4日以上はしっかり陰干しをして、湿度を完全に取り除きましょう。汗をかいた日は陰干し前に「汗抜き」のお手入れも行ってください。
  • 着物のニオイ・消臭対策したい場合:着物についたニオイを取る場合には、5日~10日程度の陰干しが必要となることもあります。着物が日焼けしないように十分に気をつけて陰干しを続けましょう。

5)干している間に着物をチェック

着物を干している間に、襟や胸元・裾等をよくチェックしましょう。浮き上がってきたシミや変色、カビ等のトラブルは起きていませんか?

6)着物を取り込んで畳む

十分に着物を干したら、着物を取り込んで畳みます。たたみ方は「本畳み」が基本です。

7)タトウ紙を交換する

タトウ紙が古い場合には、タトウ紙を交換します。詳しくは「6.着物の陰干し・虫干しでタトウ紙を交換!」で解説します。

定期的な着物虫干しの回数と時期・時間

着物の保管中には、お手入れとして定期的に虫干しを行います。

虫干しの時期はいつ頃が良い?

着物の虫干しは、雨が少なく湿度の低い時期が最適とされています。本州の関東~中部あたりですと、以下の時期が理想的です。

  • 梅雨明け後(7月末~8月初旬)※ただし台風の前後はNG
  • 秋晴れの続く頃(10月初旬~中旬頃)
  • 冬晴れの続く頃(2月頃)

ただしこれはあくまでも、本州の平均的な気候です。お住いの地域によっては気候や天候が違うこともあります。「雨が少ない時期」「空気が乾いた時期」を狙うようにしてみましょう。

虫干しの頻度・回数は?

虫干しは、年に3回程度を行うのが理想的とされています。昔は着物が生活の中心だったので、年3回の虫干しが基本だったのです。年3回はちょっと厳しい…という方は、年2回でも大丈夫です。

虫干しを行う時間は?

まとめて虫干しをパッと短時間で行う!という時には、午前10時位から、午後3時くらいまでの時間帯がベスト。一日の中でいちばん空気が乾燥しやすく、気温も高くなるためです。

反対に朝や夕方以降は湿度が上がってしまいがち。定期的なお手入れにはあまり向いていません。着用直後のお手入れとしての陰干しで、どうしてもこの時間帯にしか陰干しできない…という時には、エアコンや除湿機をしっかり使ってくださいね。

着物の陰干し・虫干しでタトウ紙を交換!

着物の陰干し・虫干しの際には、タトウ紙をチェックして交換しましょう。

タトウ紙とは?役割は?

タトウ紙とは、着物を包んでいる紙のことです。文庫紙、着物文庫等と呼ぶ地域もあります。タトウ紙はチリやホコリから着物を守るだけでなく、余分な湿気を吸い込んで着物をカビ・虫などから予防する役割も持っています。

古いタトウ紙は交換を

  • タトウ紙が黄ばんでいる
  • タトウ紙に茶色いシミがある
  • タトウ紙を3年以上交換していない

上のような場合、タトウ紙の吸湿性が落ちており、カビ防止等の効果が期待できなくなっています。虫干しのときにタトウ紙を新しいものに交換しましょう。

タトウ紙はどこで買える?

タトウ紙は現在ではAmazonや楽天等、インターネットでも取り扱われるようになっています。また着物クリーニング店で単品販売していることも。当社「着物ふじぜん」でもタトウ紙を単品で販売しています。御入用の時にはお気軽にご相談ください。

着物の虫干し・陰干しの注意点

着物の虫干し・陰干しの際には、次の点に注意しましょう。

日光に絶対あてない

着物の染色や素材によっては、短時間でも日焼けによる色あせ・褪色が起きます。絶対に直射日光に当てないようにしましょう。

着物同士の間隔をあける

着物がたくさんあるから…と、ハンガーをいくつもかけすぎていませんか?着物同士の距離が近いと空気が通らず、虫干しの意味がなくなります。

一気にまとめて着物を干さず、「引き出しの着物を一段ずつ」等、干す点数を調整しながら虫干しをしていきましょう。

【お手入れできないときはプロに頼む手も】

虫干しするのは面倒
虫干しは「一度やればOK」ではありません。年に1~2度は必ず、定期的に行う必要のあるお手入れです。「定期的に虫干しするのが面倒で難しい…」このような場合には、専門店によるお預かりサービスを検討してみてはいかがでしょうか。

お預かりサービスでは、着物にとってベストな保管状態で次に着る時まで着物を保管してもらえます。当店『着物ふじぜん』でも着物お預かりサービスを行っていますので、お困りの時にはご相談ください。

おわりに

着物の虫干し・陰干しは、着物のシミ・汚れ・変色等を早期発見する良い機会でもあります。少しでも汚れやトラブルが気になったら、早めに専門店に相談しましょう!早く対策することで、カビや変色等のトラブルを解決しやすくなりますよ。

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吉原ひとし


着物ケア診断士 吉原ひとし


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