「七五三着物をクリーニングに出すべき?」「出さないのってアリなの?」ネット上では様々な情報が飛び交っていて、何が正解なのか悩んでいる人も多いことでしょう。
目次
七五三着物クリーニング「出さない」がアリなケース
まず最初に、七五三着物は、必ずしも毎回クリーニングに出す必要はないよ!ということをお伝えします。「クリーニングに出さない」がアリなケースもあるわけです。
最近では「洋服は一度着たら洗う」が普通になって、ニットなどでも毎回水洗いする方が珍しくなくなりました。そのためか「着物も一度着たら洗うのでは」と考える方は大勢おられます。しかし別に着物は毎回洗う必要はありません。シーズン中に同じ着物を洗わずに何度も着ている人の方が多いんですよ。
次の場合には、七五三着物をクリーニングに出さなくて大丈夫です。
【着物をクリーニングに出さなくて良い4つの条件】
- 着物に目立つシミ・汚れが無い
- 夏場の屋外などでの着用では無い(激しい汗汚れが無い)
- 次回の着用予定が6ヶ月~8ヶ月以内にある(お正月、誕生日、家族のお祝いなど)
- 次の着用までに、1?2回は陰干しのお手入れができる
以上4つの条件を全てクリアしていれば、クリーニングに出さない選択肢も「あり」ということになります。
シミがなければ即時での対応は不要
七五三着物を着用された後には、まず全体の状態をよくチェックしてみましょう。
- 衿元 ファンデーション汚れ、白粉汚れがつきやすい
- 胸元 よだれ、食べこぼし、油しみなどがつきやすい(油しみは後から浮いてきやすいので注意)
- 袖口 水はねなどがつきやすい、裏側は皮脂汚れが残り黒ずみになることも
- 裾 泥はね、雨しみなどがつきやすい
- 帯の正面 食べこぼしなどがつきやすい
裏側などもよくチェックしてみて、汚れやシミがないようであれば、即時でのクリーニングは不要という判断で構いません。
次回着用予定があればそれまで自宅保管
目立つ汚れがなく、シーズン内(おおよそ半年以内程度)に着用予定がある場合、次回の着用機会までは自宅保管のままでも大丈夫です。なお着用後にはよく陰干をして汗を飛ばしましょう。また、次回着用までにワンシーズンに1回程度は着物を広げて室内で干す「陰干し」のお手入れを必ず行なってください。
七五三着物クリーニングに出した方が良いケース
次のような場合には、七五三着物をクリーニングに出した方が良いです。
シミや汚れには即時での「染み抜き」が必要!
まず、目に見える何らかのシミ・汚れがある場合です。
- 食べこぼし
- 飲み物のシミ
- よだれ
- 母乳の汚れ
- インクや筆記具の汚れ
- 雨濡れによる雨シミ(ウォータースポット)
- 黒ずみ
- 変色、黄ばみ など
どんなに小さい汚れでも、上記のような「おかしいな?」と思う点があったら、これはスピーディに専門店で染み抜きしておくのが一番です。次回の着用予定がある場合なら、全体洗いは次に回して、とりあえず染み抜き(部分洗い)で素早く対処しましょう!
洋服の汚れと同じで、着物の汚れも時間が経てば経つほど落ちなくなります。そして着物のシミ抜きは職人さんが手作業で行うので、「落ちにくい汚れ」になればなるほど、染み抜き料金が上がっていきます。放置するほど料金が高くなると思ってください。
さらにシミが悪化すると「漂白しないと落ちない → 地色の色が落ちる → 染め直しも必要」となることも。もっと最悪の場合だと「専門店でも元に戻せない」となるケースになる可能性もあります。
着物のクリーニング専門店で良心的なお店なら、染み抜きだけ(部分洗いだけ)でも受け付けてくれます。「次に着たあとにまとめてキレイにしよう」ではなく、その都度に染み抜きをした方が安上がりですよ。
びっしょり汗をかいたら早めに「汗抜き」を
七五三着物を早めにクリーニングに出した方が良い場合がもう一つあります。「汗汚れがたくさんついてしまった」というケースです。汗汚れは一度乾くと目に見えにくいので、着物を脱がせた時の状態をよくチェックしてください。
- 着物が汗で色が変わるほど濡れた
- 着物の内側を触れると「汗だ」とハッキリわかった
このような場合、着物についている汗の量はかなりのものです。半年程度の保管でも、汗染みなどになる可能性が否定できません。ご自宅での汗抜き・汗取りケアだと追い付かないので、着物クリーニング専門店での「汗抜きクリーニング」をした方が安心です。
長期保管前には「丸洗い+汗抜き」が安心
最後に、即座ではなくても良いのですが、長期保管前のクリーニングについてです。次にいつ着るかわからず、数年間はしまっておくことになりそうといった場合ですね。例えば「弟が5歳下なので次に使うのは5年後かも」といった場合も同じです。
長期的な保管になる前には、丸洗いで全体的なチリ・ホコリなどを落としておいた方が良いでしょう。また「汗汚れ」は丸洗いだけでは落ちないので、長期保管中の変色を防ぐために汗取りクリーニングを付け加えることを強くお勧めします。(長期保管中に起こる黄変という変色シミの原因は、その多くが汗の成分の残滓によるものや、汗汚れから発生したカビなどによるものです)
「昔のままのお手入れと保管」ではNGな理由とは
七五三着物をクリーニングに出した方が良い場合もある、という話をすると「私の時代の七五三着物はクリーニングに出さなかったのですが大丈夫でした」という反論をされる方が大勢います。これについては「確かに昔はクリーニングなしでも大丈夫だった時代やご家庭もあるんですよね…でも今はだいぶ違うのです」としか言いようがありません。
着物を取り巻く着用環境、着物を保管する環境が大きく変わってしまっている点に、ぜひ一度着目してみてほしいのです。
着用回数・着用シーンの変化
七五三着物は、かつては高価な礼服として「七五三の当日の昼に一度来たらおしまい(そして次の兄弟に回す)」といった使い方も多く見られました。しかし近年では七五三着物を購入した場合、前撮りやその他のお祝いなどで複数回に渡り、何回も七五三着物をお召しになるお子様が多いです。
また七五三パーティーなどで、ご家族での食事会になるケースも増えました。「七五三着物が汚れる機会が増えた」とも言えます。
子どもと親の「着物への意識」の変化
ファストファッション化により、現代ではリーズナブルな洋服を買ってしばらく着ては捨てることが普通になっています。高級服をクリーニングしながら長く使う方は減っているのが現状です。
子供服だと1~2年でサイズアウトしてしまいますから、余計に「キレイにきなくては」とはなりにくいですよね。礼服に対しても「絶対に汚してはいけない!」と考える方は減ってきているようです。これはお子様本人だけでなく、ご両親も同じです。
例えば七五三でのお食事の時に七五三着物に大きな前掛けをかけるだけでなく、飲み物を飲ませる時にも必ず前かけをつける!という親御さんは最近とても減りました。お子様の胸元のジュースシミや母乳シミ、水シミなどのトラブルのご相談が増えているわけです。
気候の温暖化と「前撮り」
お子様はそもそも体温が高く、着物の汗汚れは大人よりつきやすい傾向があります。さらに追い討ちをかけたのが「前撮り」の習慣の定着です。七五三は元々は秋の行事でしたが、春夏に撮影を行う「前撮り」をする…これがスタジオ撮影なら良いのですが、最近では見栄えの良い屋外撮影をされる人も多いわけです。
これにさらに気候温暖化が加わります。5月でも30℃を超える日すらでてきた近年の日本でで、慣れない振袖を着たお子様たちがどれだけ汗をかくことになるでしょうか。礼装用着物の汗汚れによる汗シミや変色の問題は、年々増えてきています。汗染み・汗による変色は悪化するとお直しをすることも大変なので、できるだけ早い対処をしておきたいところなのです。
ご家庭の通気性
昭和時代までには木造の日本家屋のご家庭は珍しくありませんでした。寒い建物でしたが通気性は良いので、湿気は溜め込みにくかったわけですね。しかし近年では、コンクリートなどの現代建築の方が「一般的」です。タワーマンションなど、集合住宅にお住まいの方も多いことでしょう。ここで大きく変わったのが「家屋の通気性」です。
現代の日本家屋は密閉性が高く、それだけ衣類に湿気を溜め込みやすくなっています。そこに置かれたデリケートなシルクでできている七五三着物の場合、少しでも湿気や汚れが残っていると「カビ」「虫害(虫食い)」などのリスクが格段に上がっているわけです。
和タンスの減少
家屋の作りに加えて、現代ではインテリアのあり方も大きく変わりました。通気性を保持し、着物の保管に最適とされる「桐たんす(和ダンス)」をお持ちの方は残念ながらほとんど居られないことでしょう。近年、特に問題となりやすいのがプラスチック製の衣装ボックスでの保管によるカビなどの発生です。着物に汚れが残っている場合、カビ発生のリスクはさらに高くなります。
虫干しの習慣の激減
昔の日本ではシーズンごとに着物を広げて干す「虫干し」の習慣がありました。年に3~4回は着物の湿気を飛ばすことでカビや変色などを防ごうとしていたわけです。しかし近年では、このようなきめ細かいお手入れができる人は少ないのが現状です。
もちろん、湿気とりや除湿機などのアイテムの利便性は現代の方が上がっています。しかし湿気とりや虫除けは、定期的に交換をしなければ意味のない品物です。「着物の定期的なお手入れ」という意識が無いと、どうしても後回しになりやすいのでしょう。七五三などの礼装用着物の場合「5年以上もクローゼットに放置していたら変色していた」といったご相談をいただくことが増えています。
上記のような点をまとめれば、次の3点に言い換えられます。
- 現代人の方が礼装用着物を汚しやすくなった
- 密閉性の高い保管環境でカビ・変色は起こりやすくなっている
- 保管中のこまめなお手入れができるご家庭は減っている
このような問題点を少しでも緩和に近づけられるのが、保管前のクリーニングによる汚れ落としです。例えば汗抜きクリーニングで汗の成分を丁寧に落としておけば、激しい黄変(酸化による変色)のリスクをだいぶ減らすことができます。「長期保管の前には汚れを落としておいた方が良い」というのは、現代人の着物との付き合い方を考えた「最適な選択肢」なのです。
【着物をよく着る人と着ない人では扱いが違います】
「着物をクリーニングに出さないで大丈夫です」と言い切る方の多くは、着物をよく着ている人です。つまり年に何度かはその着物を着るし、こまめにチェックしているし、気づいた時には自分でお手入れしている方の話であることが多いのです。
「私は着物をクリーニングに出さない」という方が嘘をついているわけではありません。しかし七五三着物などの礼装用着物は着用回数が少なく、保管する期間がとても長いです。「きものをよく着る人」と「特別な時にしか着ない人」は条件がかなり違います。着物のクリーニングについてのご意見はさまざまなのですが、この点は考慮してほしいところです。
トラブルを防ぐクリーニング方法と保管方法
着物に残った汚れは、その時には小さく目立たなくても、数年も経つと「黄ばみ」「茶色いシミ」などの黄変として現れたり、「カビ」の繁殖を招いたり、さらには「変色」「色抜け」といった現象にまで悪化していきます。大切な七五三着物を長くキレイに手元においておくためは、次の点を重視していきましょう。
汚れは小さく早いうちに対処する
上でも触れましたが、着物の汚れは新しいものなら比較的簡単にお店で取れることが多いです!反対に数年も経ってしまうと、染め直しなども視野に入れた対処が必要になってしまいます。後回しにせずにお店に相談しましょう。
長期保管前には全体の汚れ落としをしておく
「しばらく着なそう」と思った着物は全体の汚れ落としをしておきましょう。
真空パックやお預かりサービスを使ってみる
現代ではお仕事等で忙しく、着物の定期的なお手入れが難しい方も少なくありません。そんな時には次のような保管技術やサービスを検討してみるのも手です。
無酸素パック
着物をクリーニングしてから特殊な袋に入れて、酸素と触れさせないようにするサービスです。一回パッキングすれば3~5年前後は虫干しなどのお手入れが不要になります。パッキングサービスは着物クリーニング店などで依頼できます。
お預かりサービス
クリーニングと併せ、着物の保管(お預かり)をプロが行うサービスです。湿度管理などを最適に調整したうえでほかんされるため、トラブルのリスクは最大限に抑えられます。着物を保管しておくスペースがない!という時にも便利です。
終わりに
七五三着物をクリーニングに出さない選択肢はアリか?という問題について解説しましたが、お役に立ったでしょうか。「長期保管の前には七五三着物をクリーニングに出しましょう」というと、「クリーニング屋だから儲けたいんだろう」と言われてしまうことも、残念ながらあります。
もちろん商売が繁盛すればありがたいことですが、決して不要なクリーニングをお勧めしているわけではありません。ここで紹介した「小さいシミ抜き」って、クリーニング屋的にはあまり良い商売ではないんです。「毎回絶対に丸洗いしてください」といった方が、よほど儲かるのではないでしょうか。
数年放置し、カビと変色だらけになった七五三着物を持ってきていただいた時に「これだと直すのに一度解かないといけません、染め直しも必要です、だいぶ料金がかかってしまいます」というご案内を差し上げるのは、クリーニング屋としてもとても心苦しいものです。早めにお手入れをすれば、それよりもっと安く気軽なお値段で、キレイな状態を保つことができます。
大切な思い出である七五三着物を長くキレイに保たせるために、どうか「適切にお手入れする」という習慣をつけていただきたいというのが私ども『ふじぜん』の願いです。七五三着物のクリーニングのご相談はいつでもお受けしています。迷うことやわからないことがあったら、どうぞお気軽にご相談くださいませ。