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【完全版】留袖とは?黒留袖と色留袖の違いやTPOまで徹底解説

ミセスの着るフォーマル着物の代表格である「留袖(とめそで)」。結婚式では必ず目にする着物の一つですね。留袖には黒留袖・色留袖があり、また家紋の数によっても着用するシーンが変わってきます。趣味やおしゃれで着る着物ではなく、公の場で礼装として着る着物なので、スーツやドレス、ブラックフォーマルと同様に、正しい知識を持って身につけることが大切です。

吉原ひとし
吉原ひとし
こんにちは。創業明治三九年 四代目 ふじぜん 吉原ひとしと申します。着物を専門に取り扱うクリーニング店の店主をさせていただいております。ここでは留袖と訪問着などのその他着物の見分け方や、黒留袖と色留袖の違い、家紋によって変わる留袖の着用シーン、現代での留袖着用マナーなど、留袖についての様々な疑問を徹底的に解説していきます。

留袖とは何?どんな着物?

留袖(とめそで)はミセスが身につけるフォーマルな着物です。(現代では特例もありますが、ここでは「ミセス着物」と定義します。特例については後述します)フォーマル着物には、この他に訪問着(略礼装)や紋付の色無地などがありますが、留袖はその中でも最も格の高い着物として扱われます。

留袖は結婚式や格の高い式典といった、あらたまった場所で身につけることの多い着物です。洋服でいえば「ドレス」に対応するレベルと考えておいて間違いないでしょう。ただしドレスでも、ちょっと気楽なお昼向けの丈の短いドレスもあれば、本格的なロングドレスもありますよね。

留袖の中にもこういう「格の違い」はあります。詳しくは下の「家紋の数で着物の格が変わる?」で解説します。

留袖の特徴は?訪問着の違いや着物の見分け方は?

留袖の特徴は「帯から上には柄が無い」「比翼仕立てになっている」という2点です。着物初心者の方でもこの特徴を知っていれば、留袖と訪問着、その他の着物との見分けもしやすいことでしょう。

留袖とその他の着物の柄の違い

  • 留袖(とめそで) 胸や袖(帯から上になる部分)は無地で、裾の方に柄が入ります。ミセスでは最も格が高い着物です。お祝い事に使うので、金糸銀糸や金箔銀箔などを使った、華やかな吉祥柄が入るのが一般的です。
  • 訪問着(ほうもんぎ) 帯から上にも柄があって、上から下まで柄が一続きになっています。これを絵羽柄(えばがら)と言います。略礼装としてフォーマルにも使いますが、格は留袖よりは下がるので、結婚式に親族側が身につけるのは不向き。
  • 付け下げ(つけさげ) 帯から上にも柄があるので、留袖とはすぐ見分けられます。柄が一続きではなく布を飛ぶようになっているのが訪問着との違い。ただし最近では訪問着そっくりに作ったものも。訪問着よりはカジュアルな扱いです。
  • 色無地(いろむじ) 柄がいっさい無い、黒以外の無地の着物です。家紋が入っているとフォーマルとして着られます。
  • 小紋(こもん) 柄があちこちに散らばって、続いていない着物です。完全にカジュアル向けで、フォーマル服としては着られません。

留袖は比翼仕立て

留袖は基本的に比翼仕立て(ひよく・じたて)で作られています。比翼(ひよく)・付け比翼によって、内側にインナーを重ねているかのように見えるのが特徴です。

黒留袖と色留袖の違いは?

留袖には「黒留袖(くろとめそで)」と「色留袖(いろとめそで)」の2種類があります。黒留袖と色留袖の基本的な違いについても知っておきましょう。

黒留袖とは

黒留袖黒留袖は、地色が黒で、帯より上は無地、裾の方に柄の入る着物です。五つ紋が入っている場合は最も格が高い着物となり「正礼装」という一番あらたまったフォーマル服となります。着用するのは、人生でもっとも重要な「冠婚葬祭」である「結婚式」が主な場面。ざっくりと言うと「結婚式で、親族側(お客様を招く方)のミセスが着るのが黒留袖」です。

色留袖とは

色留袖色留袖は、黒以外の地色で、帯より上は無地、裾の方に柄の入る着物です。黒以外ならなんでも良いのですが、あらたまったお祝い事に使う服なので、柔らかく明るい色合い(クリーム色、若草色、淡いピンク、淡い水色など)の上品な色合いが基本です。

黒留袖が「親族として出るミセスの服」と、ある程度は役割のハッキリした服であるのに対し、色留袖はもう少し使用の範囲が広いです。ミセスが結婚式にゲスト側で出る時に使うほか、あらたまった式典などでも着用できます。

留袖は「家紋」で着物のランクが変わる?

留袖は「留袖である」というだけでも格は高い着物なのですが、その中でも「家紋(かもん)の数」でさらに格が変わります。面倒ですが、着物マナーを知る上ではここが結構重要なのです。知っておいてソンは無いですよ。

五つ紋の留袖 (正礼装)

五つ紋とは、「両胸(左右」「両袖」「背中」の五箇所に家紋が入っていることを言います。五つ紋が入った留袖は一番格が高い「正礼装」と言う、最高のフォーマル服です。洋服でいえば正式なロングドレス、男性のフォーマル服で言えば紋付袴やタキシードと同格です。

日本では「主催者側が格の高い服を着る」と言うのが基本マナーなので、結婚式などでは親族側(新郎新婦の母親など)が五つ紋の留袖を身につけます。

三つ紋の留袖(準礼装)

三つ紋は、胸には家紋がなく、「両袖(左右)」と「背中」の三箇所に家紋が入っていることを言います。三つ紋が入った留袖は、「準礼装(じゅんれいそう)」といって、五つ紋よりはワンランク格の下がるフォーマルと言う扱いです。男性の洋装ならブラックスーツといったところでしょうか。

一つ紋の留袖(略礼装)

一つ紋は、「背中」の一箇所だけに家紋が入っていることを言います。一つ紋が入った留袖は「略礼装(りゃくれいそう)」となり、フォーマルではありますが、少し気軽さがあります。主にゲスト側で結婚式に参加するや、少し気軽な公の場時などに使う着物です。洋装の場合だとあらたまった色とデザインだがビジネススーツ、といった感覚です。

黒留袖・色留袖 TPOは?着るシーンは?

黒留袖・色留袖の種類と家紋の数によって、着物の格が変わることは上で解説しました。つまり同じ「留袖」でも、どんな場所にどんな立場で着ていくのかによって、選ぶ留袖は違うわけです。

五つ紋 黒留袖の着用シーン

  • 新郎新婦の母親として
  • 仲人として
  • 新郎新婦の近い親族(伯母・叔母など)として  等

※地域によっては親族のミセスは全員黒留袖の場合あり

五つ紋黒留袖は、原則として「家族」や「身内」の結婚式にミセスが着用する礼服です。新郎新婦の母親の衣装の格にもよりますが、叔母・伯母も黒留袖でOK。親族側として身につける着物であると覚えておけば良いでしょう。

【黒留袖は基本的に五つ紋】
黒留袖は基本的に結婚式に使う着物なので、最高格である「五つ紋」を入れることがほとんどです。よほど着物をお持ちの方でなければ、三つ紋・一つ紋の黒留袖をわざわざ誂える人はいません。新郎新婦とその母親がよほどのカジュアル・スタイルでなければ、親族側で黒留袖を着ておいてマナー違反となる心配はほぼ無いでしょう。

五つ紋 色留袖 の着用シーン

  • 叙勲
  • 宮家の歌会

五つ紋の色留袖を持つ人は、非常に数が少ないです。これはなぜか?というと、「主催者側とゲストが同格の着物を着る」と言うのは、基本的にマナー違反となるため。主催者が黒留袖五つ紋でお出迎えするのですから、ゲストが五つ紋で結婚式には参加できない、と言うわけですね。

では五つ紋の色留袖は活躍する場はどこか?というと、天皇陛下から勲章をいただく「叙勲(じょくん)」の場であったり、天皇家の歌会に参加したりといった「とても珍しい場面」しかありません。これは宮家(天皇家)の祭事においては黒は「喪」の色なので、ゲストも黒留袖を着られないためです。一般社会の場合ですと、基本的には五つ紋色留袖は「存在しない着物」と考えておいても間違いありません。

三つ紋色留袖 の着用シーン

  • 近い親族として結婚式に出る
  • 新郎新婦より目上のゲスト(先輩、上司)として結婚式に参列
  • 結婚式でスピーチをするゲストとして参列
  • 祝賀会、会社創立記念など、格の高いパーティーや式典に出席
  • パーティーの主催者として
  • 何らかの賞の受賞者として  等

上でも解説しましたが、五つ紋の色留袖は一般社会では「存在しない」着物と考えます。ですので「三つ紋の色留袖(準礼装)」は、五つ紋黒留袖の次に格の高いフォーマル服という扱いになるわけです。

そのため、家族ではないけれど親しい親族として結婚式に出る場合などには色留袖を着用します。またゲスト側で結婚式に参列する場合でも、新郎新婦の上司(または上司の奥様)としての出席だったり、会社の先輩だったりするのなら、格の高い三つ紋色留袖を着用するのは良い装いと言えそうです。

大規模に行う祝賀会やパーティーも、あらたまったものであれば三つ紋色留袖を着て参列して構わないでしょう。

一つ紋色留袖の着用シーン

  • 結婚式に同僚や友人としてゲストで参列する
  • カジュアルな結婚式や結婚パーティーにゲストで参列
  • 幼稚園・小学校の入学式・入園式・卒業式に親族として出席 等

一つ紋の色留袖は略礼装であり、幅広いフォーマルシーンに使える着物です。結婚式のゲスト側としてミセスが着る着物として、一つ紋色留袖はピッタリ。

最近多いレストランウエディングや立食式パーティーなど、ちょっとカジュアルな雰囲気の結婚式であっても、一つ紋色留袖なら装いすぎずちょうど良いスタイルと言えるでしょう。

幼稚園や小学校のお子様の式典に親族として出席する場合も、一つ紋色留袖ならOKです。(三つ紋色留袖だと主役であるお子様達と同格の着物を着る可能性が高いので、避けたほうが良いです。)

比翼でない留袖もある?フォーマルにNG?

「留袖の特徴は?訪問着の違いや着物の見分け方は?」で案内したように、留袖は通常、比翼仕立てになっています。しかし色留袖の場合「気軽に着たいから」といった理由で比翼無しでのお仕立をする方も一時期には多くいらっしゃいました。特にアンティーク着物・中古着物などだと、この手の「比翼無しの留袖」が意外とあるので注意が必要です。

留袖は最高格の着物ではあるのですが、比翼がないとフォーマル扱いになりません。親族側のミセスが結婚式に着る着物としてはカジュアルすぎで不適格です。同じように、新郎新婦の上司や上司の奥様、新郎新婦の先輩等としてゲスト参列する場合でも不向きと言えます。結婚式にこの手の色留袖を着る対策としては、次の2つの方法があります。

伊達襟と長襦袢でごまかす

伊達襟を付けて白い長襦袢を身に着け、パッと身に「比翼風」にする方法です。訪問着くらいの感覚のフォーマル服(略礼装の中でも、かなりカジュアルより)の扱いになります。

同僚や同じ年、または年下のお若い友人として結婚式にゲスト出席するなら、この方法でもOK。しかし親族として結婚式に出る時や、上司・先輩として目上格でゲスト参列するときは避けた方が良いでしょう。比翼でないことはひと目でわかります。

比翼に仕立て直す

今後も結婚式やフォーマルな場に色留袖を着るご予定があるなら、比翼に仕立て直すのが一番です。留袖の比翼への仕立直しは、着物加工の専門店なら着物をほどかずに行えますし、部分的であればお値段もお安めです。当店『着物ふじぜん』でも比翼仕立てへのお仕立て直しは行なっていますので、お気軽にご相談ください。

留袖はミセスだけ?独身女性が着てOK?

留袖はミセスの服とされていますが、最近では独身女性が色留袖を身につける事例も増えています。ミス向けのフォーマル着物の最高格は「振袖(ふりそで)」ですが、振袖はちょっと…という時に便利な存在が色留袖、というわけです。

家族の在り方やライフスタイルの多様化に合わせ、着物の考え方も少しずつ変化しているのですね。新郎新婦の近しいご親族として出席される場合には三つ紋色留袖、少し遠い親族や目上のゲストであれば一つ紋色留袖なら、着物の格として十分と言えるでしょう。

ただ地域によっては「留袖を着ること=ミセスの証」という考え方も根強くあります。ゲスト側で結婚式に参列する場合であれば、略礼装として訪問着を着たり、紋付きの色無地を着るといった方法で参列するのも手です。

結婚式にミセスは全員黒留袖と聞いたのですが?

結婚式の着物マナーについては、地域性がいまだ強く残っているというのが現状です。「結婚式には親族もゲストも、ミセスは全員が黒留袖を着るものだ」という地域もたしかにあります。

これも、けっしてイジワルで黒留袖マナーが作られたわけではないのです。「黒留袖なら絶対にOK」というルールがあれば、着物一枚あれば何回結婚式があっても大丈夫…といった利便性から、このようなルールが生まれたとも言われています。

このような地域による文化の違いについては「どれが正解だ、どれが間違っている」とは言えません。結婚式やお葬式などの文化や習慣が地域によって少しずつ違うのと同じです。特に親族として結婚式に出る場合には、他のご親族に着用する着物のことを確認されることをおすすめします。

新郎新婦の母ですが色留袖はダメ?

「新郎新婦の母親が三つ紋の色留袖を着たい」というのは、絶対にダメというわけではありません。ただし、かなり様々な条件が必要と考えた方が無難です。

  • 新郎新婦の父親・母親の全員が準礼装で、正礼装を着用していない
  • レストランウエディングや気軽な人前式などで、神前式などの儀式は無い
  • ゲスト側が全員、平服OKな略式なパーティー等である

なぜこのような条件が必要になるのか?というと、結婚式では次の2つの点がとても大切だからです。

新郎側と新婦側の装いが同格ですか?

これはとても大切です。新郎側・新婦側のどちらかがフォーマル過ぎたりカジュアル過ぎるのはNGということですね。極端に言えば「新郎側の親がフォーマル服なのに、新婦側の親がTシャツ」だったら誰もが驚くはず。これと同じで、新郎側・新婦側の親族はできるだけ同格の服でお客様をお迎えします。

ですから、新郎の母親が五つ紋黒留袖(正礼装)ではなく簡略化して三つ紋色留袖(準礼装)するなら、夫も正礼装ではなく準礼装に。同時に新婦側にも同じように「準礼装」で、全員揃えてもらう必要があるわけです。

ゲスト側がカジュアル服でも良いですか?

上でも何度か解説しましたが、日本の服装マナーでは「主催者側がゲストより良い服(格の高い服)を着る」というのが大前提です。ですから結婚式では新郎新婦に続き、新郎新婦の両親が一番格の高い服(正礼装)を身につけて、お客様をお出迎えします。これが基本の考え方です。

ここで母の着物を三つ紋色留袖にする場合、着物の格がワンランク下がるわけですから、周囲の親族にはより着物の格を下げてもらう必要があります。ゲストであるお客様にはもっと気軽な服で着てもらうのが礼儀です。

ゲストが平服OK、ノーネクタイもありといった気軽なパーティーウェディングであれば、お母様の着物はまったく問題にされないでしょう。

しかし親族側に五つ紋黒留袖で来る親戚も居る、ゲストにも色留袖の人が居るだろう…と予測が付くような大掛かりな披露宴等の場合、新郎新婦の親が準礼装なのはやや不適格となると言わざるをえません。

ご自分一人で衣装を決めるのではなく、主役であるお子様、そして結婚相手となるお家とよく相談することをおすすめします。

黒留袖でも華やかにできますか?

黒留袖というと「色が黒いから地味なのでは」とお考えになる人も多いですね。しかし実際には「黒留袖」と一口に言っても、柄行は色々あります。お若い方向けに金彩を多く施した黒留袖もあるので、カタログで見比べてみることをおすすめします。ヘアスタイルも少しアップ気味にするなどの工夫をすれば十分に華やかです。

現在お手持ちの黒留袖が昔のものでちょっと地味…というときには、柄を描き足したり、金彩を加えたりする方法もありますよ。当店『着物ふじぜん』でも、柄の描き足しや金彩の付け足しなどの染め直しを承っています。留袖のクリーニングやお手入れだけでなく、このような事例もお気軽にご相談ください!

おわりに

留袖について、黒留袖と色留袖の違いについてなどを解説しましたが、参考にはなったでしょうか。留袖はふだんに着る小紋やウール着物とは違い、確固たる「礼装のための服(フォーマル服)」という役割を持っています。

単に「キレイで華やかな着物」というだけでなく「特別な日を祝い、祝われるためのキチンとした着物」なのです。留袖を着る日は、ぜひ背筋を伸ばして着物の装いを楽しんでみてくださいね。

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吉原ひとし


着物ケア診断士 吉原ひとし


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