着物を着る時に欠かせない存在である「帯(おび)」。袋帯や名古屋帯、兵児帯などなど、着物や浴衣をお持ちの方ならば必ず持っているアイテムですね。でもその有名さに比べて、正しい帯のお手入れ方法は意外と知られていません。
例えば結婚式やお葬式等で着物を着た後に、お手入れのために着物をクリーニングに出すという人は多いことでしょう。
また花火大会の時に浴衣を着た後には、クリーニングに出す、もしくは自宅で洗う…ということになりますね。でもこの時「帯はどうしたらいいの?」「クリーニング頻度は毎回?」と悩む方がとても多いのです。
目次
帯のクリーニングの頻度、正解は?
帯は「使ったらクリーニング」というような、頻繁な洗濯を必要としないアイテムです。ですから「喪服着物の帯」「結婚式に着た訪問着に合わせる帯」「浴衣の帯」等で、一緒に着た着物の方はクリーニングに出す…という場合でも、帯の方には汚れが無ければクリーニングに出す必要はありません。
着用後のお手入れ・保管中のお手入れがキチンとできていれば、帯はほとんどクリーニングしなくても問題ないのです。実際、着物をお持ちの人で「帯は洗いに出したことが無い」という方は珍しくありません。
帯を使ったらまず汚れを確認!
着物を着用して帰ってきたら、まず明るい場所で帯の状態をよくチェックしてみましょう。
【帯の汚れチェック】
特に以下の部分は丁寧に確認をしましょう。
1)正面にあたる部分:お腹にあたる部分は、食べ物のシミ・ハネが付きやすいです。
2)後面にあたる部分:雨が降った時の雨ジミができやすい箇所です。
3)裏面:カビ・変色等は裏側にも起こりやすいので、変化が起きていないかよく確認します。
上記の汚れチェックで帯に問題がなければ、あとは「基本のお手入れ」をするだけでOK!クリーニングには出さなくても大丈夫です。
【帯の着用後の基本のお手入れ】
1)和装ハンガー等にかけて、十分に陰干しをして湿気を飛ばす
2)汗をかいた場合には、水にひたして硬く絞ったタオルで裏面をよく叩いて汗抜きをし、陰干しをする
3)和装用ブラシで丁寧にブラッシングをして、チリやホコリをよく落とす
4)タトウ紙にしまって、通気性の良い場所に保管する
帯の自宅でのクリーニングはNG!
帯に汚れが見つかった時、「帯も自宅で洗いたい!」と考える人はとても多いようです。確かに浴衣類等は自宅で洗うことができますし、着物でもウォッシャブルウール等であればご自宅でも丸洗いできますよね。
「クリーニング代をできるだけ節約したい」という時に、自宅洗いができた方が良いなあ…と思うのは、当然のことと言えるでしょう。
でも残念ながら、帯を自宅で洗うのはおすすめできないんです。
帯が自宅で洗えない4つの理由
1)洗える素材の製品が少ない
着物向けの帯の場合、「正絹(シルク)」の帯は水洗いにまったく適しません。
正絹は水分を含むことで非常に縮みやすい素材であり、水通し後にサイズを元に戻すにはかなりの技術が必要となります。また一般的には「洗える」と思われやすい「綿素材」「麻素材」の場合にも、帯ではかなりの収縮が起こることがあります。
メーカー側が「水洗いをしてもOK!」と太鼓判を打っている素材で無い限り、型崩れや収縮といったトラブルが非常に起きやすいのです。
水洗い可能な帯(ウォッシャブル加工ありとメーカー側が明確に書いてあり、洗濯表示をしている帯)がまったく無いわけではありませんが、その数はまだまだ少ないのが現状となっています。
2)帯芯・接着芯が剥がれる
袋帯や名古屋帯には、「帯芯(おびしん)」や「絹芯(きぬしん)」と呼ばれる芯が入っています。素材は様々で、絹であったり丈夫な三河木綿(みかわもめん)や化繊が使われることもあります。
帯芯は生地にハリをもたせて形をキレイに見せる働きや、湿気を吸い取る効果、生地の傷みを緩和させる働き等のために入れられているもの。しかしこの「帯芯」があるということが、帯が水洗いができない大きな理由なんです。
帯と帯芯の収縮率が異なると、帯におかしなシワが寄ってしまって戻らなくなることもあります。また帯芯が剥がれてしまい、形が崩れてしまうことも少なくありません。帯芯が剥がれ、更に生地も収縮してしまった…ということになると、専門業者でも元に戻せないことがあります。
この他、浴衣用等に売られている「作り帯」(リボンの形ができている帯)も同様です。こちらは接着芯が入っているので、水洗いをすることはできません。
3)繊細な染め・織り・刺繍の製品が多い
着物コーディネートのポイントとなる「帯」には、非常に繊細な加工が施されていることが多いです。例えば浴衣用の総絞りの「兵児帯(へこおび)」は、その独特のシワ加工のような見た目が魅力ですよね。
ところがこれを水洗いしてしまうと繊維が伸びてしまい、美しい見た目が損なわれてしまいます。また刺繍が入っている帯の場合、水洗いをすると「刺繍糸」の部分から染料が流れ出て、色落ちをするケースも多々見られます。カンタンに言えば、「水洗いを想定しない作り」になっている帯が多いのですね。
4)カビやすい
前述のとおり、袋帯や名古屋帯には「帯芯」という芯が入っています。
水洗いをして芯の部分がどっさりと水を吸うと、一般的な自然乾燥では内側の水分が飛びきらず、湿気がこもることになります。これによって起こるのが、保管中の「カビの発生」です。帯にカビが生えてしまうと嫌な匂いが出るだけでなく、帯の表面の変色ももたらします。
帯に汚れやシミがある時には専門クリーニング店へ
帯に汚れやシミがある場合には、すみやかにクリーニング店に依頼をしましょう。ただし、ここで気をつけたいのが注文内容です。ただクリーニング店に持っていくだけでは汚れが落ちきらないことがあります。
一般的なクリーニング店の場合、「和装類のクリーニング = 着物丸洗いのみ」という扱いになっていることがあります。
「丸洗い」とは有機溶剤を使った機械洗のことで、洋服で言うところの「ドライクリーニング」に近い洗い方です。「丸洗い」は油剤を使うので食品シミ等は比較的落としやすいのですが、水性のシミを落とすのは苦手。また油性のシミでもシミが古かったり範囲が広かったりすると、全体洗いである「丸洗い」だけでは汚れが落ちきらないこともあるのです。
シミを発見したら、クリーニング店では必ず「染み抜き」を依頼するようにしましょう。またシミの原因がわかる場合には、なにのシミなのかを言い添えることも大切です。
油性シミ・水性シミといった性質がわかれば、クリーニング店でできるだけ的確な対応を取ってもらえる確率が上がります。和装クリーニングに強い専門業者や、着物クリーニングに力を入れている店舗を選ぶことも大切です。
帯のシワが気になる時には?
帯の「結びシワ」が気になる時には、着用後に「手」で軽くプレスをして、おおまかなシワを取っていくようにしましょう。
【帯のシワのとり方】
1)バスタオル等を敷いた上に、帯を裏面を上にして広げます。
2)帯の上に大判ハンカチやバンダナ等を乗せます。
3)ハンカチやバンダナの上から、手でシワの部分を優しく伸ばしていきます。
4)シワがある程度とれたら、再度和装ハンガーなどにかけて形を整えます。
※素手で帯に触れないようにしましょう。手垢・手汗が変色やカビ発生の原因となることがあります。
なお、「帯のシワが気になるから」と言って、自宅で帯にアイロンをかけるのはNGです!
着物の帯は前述の通り、繊細な染色や加工がされています。そのため高温のアイロンをあてることで変色・色落ち等が起きてしまう可能性が高いのです。アイロンの高熱によって変色・色落ち等が起きてしまうと、その部分を元に戻すことが困難になります。
「どうしてもシワが取りたい」という場合には、和装を取り扱うクリーニング店に帯の「プレス仕上げ」もしくは「プレスのみ」を依頼してみましょう。
帯を汚さないための注意点
帯は上記でご紹介したように、基本的には「洗わないこと」を念頭に置いているアイテムです。そのため着物を着用する時には、できるだけ帯を汚さないことが大切。まずは3つのポイントを押さえるようにしましょう。
食事の時にはハンカチ・ナフキンを
食事の際には、かならず大判のハンカチやナフキンを使って着物・帯を保護しましょう。帯の上の部分に挟むようにしてハンカチ・ナフキンを固定すると、少々動いてもずれにくく安心です。またコーヒーや紅茶、ペットボトルに入った飲料などを飲む時にもハンカチを使うようにしてください。
帯を手で触らない
帯にはできるだけ素手で触らないことをおすすめします。
着用中にも、着崩れを直す場合等の最低限をのぞき帯に触れないようにすることが大切です。またお手入れをする際、特にシワをのばす時等には、綿の手袋等をはめて作業をするのが理想的。綿の手袋は100円均一ショップやドラッグストア等でも購入できますよ。
夏の汗対策をしっかりと
夏場になると「暑いから」と、補正タオルや補正着を省略してしまう人は少なくありません。でも補正着には、ウエストを隠して体の線をなめらかに見せるだけでなく、しらないうちに胸の下~腹部の上や背中にたまりがちな汗を吸い取る働きもあります。あまり補正類を省略しすぎず、適度に汗を吸い取れるようにしておいた方が安心です。
特に汗がたまりやすい場所にはきちんとガーゼやタオル等を挟んでおいた方が、帯に汗がうつってしまことを防げます。
「保管中のお手入れ」も忘れずに!
着用後にいくら丁寧にお手入れをしても、タンスやクローゼットにしまった後にはそのまま1年も2年もしまいっぱなし・・・これでは、次に帯をキレイに着られる可能性は低くなります。
前述のとおり、帯はとってもカビやすいアイテム。また正絹(シルク)は虫食い(虫害)にも遭いやすい素材です。帯をしまったままに放っておいたせいで、カビによる変色や虫食いでボロボロになってしまうケースは珍しくありません。洗わずにしまうからこそ、保管中に定期的にお手入れをすることを忘れないようにしましょう。
【保管中のお手入れ方法】
1)1年に1~2回以上は虫干し(陰干し)をして、帯にこもっている湿気を飛ばします。この虫干しの時も着用後のように、帯の状態を丁寧にチェックするようにしましょう。
2)防虫剤・防湿剤等は製品の説明書をよく読み、定期的に取り替えるようにします。
3)帯を包む「タトウ紙」も、湿気から守るための大切なアイテムです。こちらも年に1回程度は取り替えるようにしましょう。タトウ紙は当店でも1枚200円(税別)で販売していますので、お近くに販売店舗が無い時等はお気軽にご相談ください。
おわりに
帯のクリーニング頻度やお手入れ方法についての基礎知識はいかがでしたか?帯は自宅で洗うことはできませんが、丁寧な汗抜き・ブラッシング・陰干しといったお手入れをキチンと行えば長持ちをするアイテムです。
品質の良い帯は、娘さんへ、そしてお孫さんへと受け継いで貰うこともできます。ぜひこの機会に、「着たら手入れをする」という習慣をつけてみましょう!
また汚れやシミを発見したり、「お手入れが上手にできていないかも?」と不安になった時には、早めに和装専門のクリーニング店に相談することが大切です。当店でも着物アフターケア診断士がお客様のご相談を受け付けていますので、お気軽にご利用ください。