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抜き紋・縫い紋…家紋は「入れ方」でも着物の格が変わるってホント?

お着物にそれほど詳しくない方でも、「紋付きの着物」は改まった場で着るもの…という印象はなんとなくありますよね。これは大正解で、「着物の格」を考える上で、とても重要になるポイントが「家紋」です。

家紋はその有無や数だけでなく、「入れ方」によっても着物の格を変えてしまいます。お手持ちのお着物の家紋は「抜き紋」でしょうか?それとも「縫い紋」ですか?今回は染め紋(抜き紋)や縫い紋の特徴やその格・TPOについて、色無地に入れる家紋について、お嫁入り道具に入れる家紋の注意点等、家紋の入れ方による着物の格の変化をご紹介していきます。

染め紋・抜き紋とは?

染め紋(染紋)とは、家紋を染めること(もしくはその部分を染めないこと)で紋を象る技法のこと。その名の通り「染めている」から「染め紋」というわけですね。一口に染め紋と言っても、その技法によって細かく名称が異なります。

1)染め抜き紋(抜き紋・日向紋)
紋の形を白く染め抜く技法です。家紋を象る技法の中では、最も格が高い家紋の入れ方となります。そのため以下のような「正礼装」の着物には、染め抜き紋(抜き紋・日向紋)を入れるのが一般的です。

・黒留袖
・色留袖
・喪服
・男性の紋付き 等

通常では、染め抜き紋(抜き紋)は着物を仕立てる前に、反物の段階で紋を入れていきます。抜紋が入っている=オーダメイドの証、といったものとも言えますね。ただ専門店等に依頼をすれば、仕立て後に抜紋を入れたり、染め直しを行って抜紋の家紋を入れ替えることも可能です。

2)石持、石持ち入れ紋(こくもち)
石持ち紋とは、家紋を入れる部分があらかじめ白い丸に染め抜いてあり、後から家紋を描いて足す技法です。紋を描き足すことから、「描き紋」と呼ばれることもあります。百貨店等で既に仕立てられて売られている着物等の場合、この「石持ち」タイプが珍しくありません。

技法は異なりますが、石持ちもやはり「留袖」といった正礼装の着物に用いられます。ただし「オーダメイド」の抜紋が入った着物に対して、石持ちは「プレタポルテ(既製服)」のような扱い。そのため家紋の格としては「染め抜き紋」の方が上です。

3)染め紋
その他、色によって紋を染める技法のことは「染め紋」と呼ばれます。「抜き紋」に比べると染め紋は格が下がり、「略紋」の扱いになります。

フォーマルな服のための「抜き紋」

上記のように様々な種類がある染め紋ですが、まずは「抜き紋はフォーマル向け」と覚えておくと良いですね。正礼装(純フォーマル)の着物とは、洋服で言えば裾の長いドレスや燕尾服といったもの。特別な日のために誂えた着物には、特別な日にふさわしい家紋を入れるのが理想的ということになります。

縫い紋とは?

縫い紋(ぬいもん)とは「染め」とは反対に、「縫う」という工程を加えて家紋を入れる技法のこと。こちらもその方法によって、いくつかの名称があります。

1)縫い紋・刺繍紋
細かい糸で模様を付ける「刺繍(ししゅう)」によって紋を表現した技法です。紋を縁取る円の周辺に飾りを入れる「加賀紋(かがもん)」も、この「縫い紋」に含まれます。加賀紋については「洒落紋(しゃれもん)」と呼ばれることがあるため、現代では刺繍紋=洒落紋と考える方も多いです。縫い紋は「抜紋」に比べて格が下がるため、一般的には「略礼装」に使用されます。

2)貼付紋・貼付け紋・貼り付け紋(はりつけもん)
貼付紋とは、紋を染めたり描いたりした丸い生地を着物にくっつける技法のこと。着物や紋の入れ方によって、貼り合わせてある場合もあれば縫い付けてある場合もあります。現代の洋服の考え方ですと、「アップリケ」や「ワッペン」のような技法…と考えるとわかりやすいのではないでしょうか?家紋を変える際にうまく色が抜けない場合等には、この「貼付紋」が使われます。

「アップリケやワッペンで後から付けた」というと、ちょっとカジュアルな感じが洋服でもしますよね?その印象通り、貼り付け紋は最も核の低い家紋です。

ややカジュアル寄りになる「縫い紋」

家紋を入れた着物は、普段着よりも格が高い「フォーマル向け」の着物です。しかし縫い紋の場合にはやや家紋の格が落ちるので、「正礼装(純フォーマル)」ではなく「略礼装(セミフォーマル)」的な扱いとなります。洋服の場合ですと、お出かけ用のワンピース、スーツスタイル等を着る場が「縫い紋」というわけですね。

「色無地」の家紋に注意!家紋の入れ方で格が変わります

「黒留袖」といった正礼装の着物であれば、抜き紋が入っていれば大丈夫。また略礼装でも「訪問着」の場合には近年家紋入れを省略することが多いので、家紋の入れ方に敏感になる方は少ないことでしょう。ところがここで一つの着物の問題が出てきます。「色無地の家紋はどうしたらいいのか?」という点です。

「色無地」とは?

色無地(いろむじ)とは、その名前のとおりに柄の入らない「無地」の着物のこと。とは言えまったく模様がゼロというわけではなく、織りの文様(地紋)が生地に入っており、染め等で柄が入れられていないものを「色無地」と呼称します。黒が使われることは無いのですが、朱色・藤色・藍色・若草色等、その色合いは様々です。

「家紋の数」で格が変わる『色無地』

色無地は紋の有無・数によって、着物の格が変わってきます。

1)紋が無い色無地:紋無しの色無地はカジュアルな装いで、普段着に近い着物です。街着等に着ることはできますが、お茶会やパーティーといったフォーマルな集まりに着るのは不向きです。
2)一つ紋入りの色無地:背中の中央に一つ紋が入った色無地は「略礼装」の扱いとなります。
3)三つ紋入りの色無地:三つ紋(背中、両袖)に家紋が入った色無地は「準礼装」の扱いとなります。準礼装の中でも格が高い着物となる分、用途範囲がかなり限定されるので、三つ紋入りの色無地を誂える方は少なめです。

「家紋の入れ方」でも色無地の扱いが変わる

着ていける場が比較的広いことから、色無地では「一つ紋」を入れる方が多いです。しかしこの時の家紋の入れ方でも、用途が微妙に異なってきます。

≪抜き紋の場合≫
抜紋を入れた色無地は、略礼装の中でもよりフォーマルな装いとなります。そのため、以下のような場合に着用する着物として使用するのが一般的です。

・友人や知人の結婚式
・遠い親戚の結婚式
・ドレスアップした方の参加が多い観劇
・祝賀会等のお祝いの席
・家族の結納の立ち会い
・お宮参り
・子どもの七五三
・入学式・卒業式等の式典
・初釜等の大掛かりなお茶席 等

また藍色・鈍色・灰色といった抑えた色合いの抜紋一つ紋を入れた色無地に法事用、もしくは喪用の帯を合わせる場合には、親戚の法事、年忌の茶会等に使用することもできます。

反対にご友人同士での集まり、気軽な観劇といったシーンに「抜き紋一つ紋」の色無地を着るのは少し大袈裟…ということに。カジュアル寄りの場面には、抜紋の色無地はふさわしくありません。また目立つ白抜き紋の場合、普段のお茶のお稽古事等には少々格が高すぎる恐れもあります。

≪縫い紋の場合≫
縫い紋は抜き紋よりも格が下がる分、縫い紋入りの色無地は略礼装の中でも「少々軽め」な扱いになります。染め抜き紋ではやや大袈裟に感じられる場合や、おしゃれさを楽しみたい場合等に使用するのが一般的です。

◆金糸・銀糸、もしくは地色との濃淡の場合
縫い紋の中でも比較的フォーマル向けな装いです。軽めのパーティー、大寄せ茶会といった「外出着に格調を出したい」という場合に使用します。

◆多色使いの縫紋の場合
ぼかし・多色使いの家紋(縫い洒落紋)は「おしゃれ扱い」であり、よりカジュアルな扱いになります。紬・小紋といった普段着向けの着物にも自由に付けられる家紋ですので、現代では「おしゃれ着」といった感覚と考えておくと良いのではないでしょうか。気楽な観劇、友人同士でのちょっとした食事会といったシーンに向いています。反対に「礼服」的な意味合いは弱くなるので、結婚式といったシーンには不向きとされます。

嫁入り道具の着物に入れる家紋は?

かつてはお嫁入り道具には、黒留袖等の礼服を誂えるのが「常識」とされていました。最近でも着物文化の見直しによって、お嬢様のお嫁入りの際にお着物を仕立てるご家庭が増えているようです。この場合の家紋はどうしたら良いのでしょうか?

礼服には「抜き紋(日向紋)」を入れておく

五つ紋黒留袖といった正礼装・喪服等を嫁入り道具としてお仕立てになる場合には、前述のとおり「白抜き紋」を入れておきましょう。最も格の高い紋入りのお着物をご用意しておくことで、ご家族の結婚式・弔事といった際にも慌てることなく準備をすることができます。

家紋は実家のものを入れるの?

嫁入り道具の着物に入れる家紋については、地域によって考え方が大きく異るため注意が必要です。

【西日本エリアの場合】
近畿地方を中心とした西日本側の場合には「女紋(おんなもん)」という考え方があります。これは母から娘へ、娘から更に孫娘へ…と受け継いでいく女性専用の家紋です。

女性の場合には母方の家紋、男性は父方の家紋を入れるため、一家の中でも男女によって家紋が異なる場合があります。全体的には嫁入り道具に「ご実家の家紋(女紋)」を入れる地域が多いですが、地域によっては女紋を使用しない場合もあります。

【東日本エリアの場合】

関東以北のエリアでは、女紋の概念は一般的ではありません。女性の着用する着物の家紋については、「着物の着用者の出身(家)はどこなのか」もしくは「着物を仕立てた家がどこなのか」を示すものとなります。

家紋が「出身家を表すもの」である場合には、嫁入り道具には「お嫁さんの実家の紋」を入れるということになりますね。しかし「着物を誂えた家がどこか?」という考え方の地域の場合、必ずしも「実家の紋」とはなりません。お嫁入りの際のご費用を婚家が出した場合、留袖を仕立てたのが婚家側である場合には、着物には婚家の家紋が入ることになります。

上記説明では「西日本」「東日本」というざっくりとした分け方をしてあります。しかし家紋の考え方については沖縄~北海道の各地方によっても大きな違いが見られるため、「東日本だからこれが絶対!」と言った説明をするのがかなり困難です。

特にご実家と婚家の地方が大きく異る場合、ご両家の間で家紋への考え方の相違が見られるケースも多々あります。事前にご両家ならびに地域での家紋の考え方について確認を取っておかれることをおすすめします。

譲りたい着物の家紋が違う時には?

「娘に着物を譲りたいけれど、家紋が合わないからどうしよう」とお困りになっている方も多いのではないでしょう?例えばお母様がご実家の家紋を入れたお着物を持っていて、娘さんに着物を譲る場合。「女紋」の地域であればそのまま着ることもできますが、そうでない場合ですと、娘さんの実家の家紋は「お父様の家の家紋」ということになり、家紋が合わなくなってしまいますね。

●貼付け紋だと着る場が限定される

上記のような「家紋の違い」が出た時、シール式の「貼り付け紋」等で手早く紋替えをする方もいらっしゃいます。しかしお譲りになるのが礼服の場合、前述の通り「貼付紋」ですとかなり格が下がるのが問題です。張付紋は厚みが出るため、そこまで着物に詳しくない方でも「貼っている(縫い付けている)」ということが一目でわかります。

フォーマルな場にカジュアルな装いで出かけてしまったような「ちぐはぐさ」が目立つこともありますし、「借り着」を着ているようにも見えてしまいます。

●長く着るなら専門店での入れ替えを

着物のお直しの専門店では、家紋の入れ替え(紋替え)を行うことができます。現在染められている家紋を落とし、新たに家紋を入れ直し(染め直し)をすれば、留袖等でもフォーマルな場へ堂々と着用することが可能です。譲られた着物を長く着るご予定があるなら、お早めに家紋の入れ替えをされることをおすすめします。

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おわりに

洋服を着ている時、相手の持っているバッグや服についたブランドロゴについつい目が行く…という方は多いはず。着物の場合もこれと同じで、ごく小さなマークである「家紋」はとても目に付く存在となります。TPOに合わせて、上手に家紋入りの着物を着こなしていきたいですね。

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吉原ひとし


着物ケア診断士 吉原ひとし


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