扇子(せんす)・扇(おうぎ)は、平安時代の頃から使われてきた歴史ある日本の道具のひとつです。長い歴史の中で扇子は日本の様々な文化と混じり合い、納涼アイテムとしてだけでなく、インテリアとして、また儀式のための小道具としても扱われてきました。
また礼服として着物を着る際にも、扇子(末広)は欠かせない存在となっています。ここでは扇子の代表的な種類や扱う時のマナーについて紹介していきましょう。
目次
扇子にも種類がある?
一口に扇子・扇と言っても、実は様々な種類があります。用途別・素材別の代表的な扇子の種類を知っておくことも大切です。
用途による種類
● 夏扇子(なつせんす):一般的な納涼のための扇子を指します。風を起こすためのものなので、もちろんあおいで使って構いません。最近では洋装に合わせて扇子を持つ方も増えました。「夏」という名前が付いていますが、通年使うことができるアイテムです。女性用・男性用があり、男性用の方がワンサイズ大きめに作られています。
● 能扇(のうおうぎ)仕舞扇(しまいせん):能・能楽でシテ方が舞う際に使う扇子です。舞台上で遠目からも美しく見えるように、夏扇子よりも大きく作られています。またその華やかな見た目から、床の間等にインテリアとして飾られることもあります。舞台での演舞のため、もしくは飾るためのものですので、あおいで使うことはできません。
● 舞扇(まいおうぎ):こちらも舞台用に使われる扇子です。主に日舞等の舞踊向けのものを指しますが、能扇や仕舞扇を含めて「舞扇」と呼ぶこともあります。骨の素材等によって、お稽古用と舞台用(本番用)に種類分けされます。こちらも演舞を用途にしたものであり、暑さしのぎのために使うことはできません。
● 茶扇子(ちゃせんす)茶席扇(ちゃせきせん):茶(茶道)のお稽古や茶席で使われる扇子です。茶道では欠かせない小道具のひとつとなっています。閉じた扇子を前に置いて挨拶をすることは相手への敬意を表し、また自分の結界という意味も示しています。このような儀礼的な意味を持つため、茶席で扇子を広げて使うことはほぼありません。茶扇子は五寸と、夏扇子よりも小ぶりです。
● 祝儀扇(しゅうぎせん・しゅうぎおうぎ)祝儀扇子(しゅうぎせんす):結婚式・披露宴・結納等、特別な祝いの式に使用される扇子です。立場やシチュエーション・性別・和装洋装・着物の格等に合わせて、持つべき絵柄や色味が変わります。慶事に使用する扇子は、「扇の末広がりの形が縁起が良い」ということで、「末広(すえひろ)」とも呼ばれます。
素材による種類
● 紙扇子(かみせんす):扇面に紙を張り合わせて作られた扇子です。一般的に「扇子」というと、この紙扇子をイメージする方が多いでしょう。
● 生地扇子(きじせんす)刺繍扇(ししゅうせん)絹扇(きぬおうぎ):扇面に布を貼った扇子です。紙扇子が両面から紙を張り合わせるのとは異なり、生地扇子では片面のみの張りとするのが一般的となっています。優雅で華奢な刺繍の入った刺繍扇子は女性向けです。
● 白檀扇(びゃくだんせん):香木である白檀(びゃくだん)を使った、木(薄い板)を原料とする扇です。細かな透かし彫りを入れたり、繊細な絵を入れてあります。シースルーのように彫りを入れてある分、風を作ることはほとんどできません。納涼のためというよりも、白檀の香りを楽しむ・涼し気な見た目のおしゃれを楽しむという用途で持たれます。
生産地による種類
● 京扇子(きょうせんす):京都を発祥とし、現在も京都・滋賀で作られている「京都扇子団扇商工共同組合」の製品のこと。扇の骨の本数が比較的多いため、折幅が狭くコンパクトに畳めるのが特徴です。また製作工程は分業となっています。京扇子には飾り用のものなど、華やかなデザインのものも数多くあります。
● 江戸扇子(えどせんす):扇の骨が京扇子より少なく、その分だけ折幅が広いのが江戸扇子の特徴です。また江戸前好みのシンプルで粋なデザインが主流となっています。京扇子とは異なり、江戸扇子は職人が最初から最後までの工程を一人で行うことがほとんど。現在では職人の数が減り、生産数が少なくなって貴重な扇子となっています。
夏に扇子を使う時のマナー
扇子の使い方(扇ぎ方)を知らないという人はほとんどいないはず。ところが意外にも、扇ぎ方・扇子での涼み方にもマナーがあることは知られていません。特に着物姿での扇子の扱いは目立ちますので、マナーを守った使い方を心がけましょう。
高い位置で仰がない
顔の真正面といった高い位置で仰ぐと、風が周囲の人にも向かい、不快な思いをさせることになります。扇子は胸程度の高さに持ち、顎の方に向かって仰ぐようにしましょう。
早く動かしすぎない
パタパタパタと忙しく扇子を仰ぐのはNG!特に着物姿の時には、気ぜわしくみっともなく見えてしまいます。扇子はゆったりと優しく動かしましょう。「暑いな」と感じた時には、袖口から風を少しずつ入れるようにすると体感温度が下がりますよ。
香りの付け過ぎやTPOに注意
扇子に少量の香を染み込ませ、香りを楽しむ方法も人気です。でもあまり強く香らせすぎるのはマナー違反。また食事の場や茶席など、その場のメインとなる香りを邪魔するような場所で香りつきの扇子を扱うのも良くありません。
レストランでのお食事会等では白檀扇の使用も避けた方が良いでしょう。
祝儀扇・末広の選び方やマナー
黒留袖には金・銀のものを
結婚式・披露宴に「黒留袖」をお召しになる場合には、合わせる祝儀扇(末広)は「黒い骨」に金・銀の地紙を貼ったものとするのが一般的です。白い骨の末広は格下扱いとなりますので、最高礼装である黒留袖には合わせることができません。
黒留袖以外の場合には?
訪問着・振袖・色留袖等をお召しになる場合には、黒い骨の祝儀扇でも白い骨の祝儀扇でもOK。パール加工や貝細工等、趣向を凝らしたデザインを選んでも構いません。
また金・銀にとらわれず、お着物の色に合わせた蒔絵入りの末広等もお使いいただけます。ただしあまり強い色味の扇子は避けた方が無難。桜色や草色等、淡く上品な色味の扇面のものを選ぶと良いでしょう。薄い色味の末広は普段遣いにも使用することが可能です。
末広は開かない
黒留袖に合わせる末広は、あくまでも儀礼・儀式のために持つ小道具です。そのため結婚式や披露宴の最中に広げて使うことはありません。「暑いから」と祝儀扇をパタパタ…といったことが無いように気をつけましょう。
祝儀扇は帯からほんの少し見せて
末広(祝儀扇)は、原則として体の左側(前帯の部分)に挿しておきます。全体を挿さずに上部は帯から見せますが、あまり扇子を見せすぎるのはNG。チラリと見える程度に扇子をのぞかせた方が品が良く見えます。ご挨拶をする時には、畳んだ状態で手に持ちましょう。
おわりに
扇子・扇についての基礎知識はいかがだったでしょうか?最近では日本の扇子が外国からも注目されるようになり、それに連れて日本国内でも扇子の良さが再認識されるようになっています。着物に合わせた扇子のおしゃれを楽しむのはもちろん、洋装にもどんどん扇子を合わせて、粋で涼しい風を楽しんでみてくださいね。