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【完全版】半衿(半襟)の種類や選び方と洗濯・お手入れ方法

    半衿(半襟)は、着物の衿元を飾る欠かせないアイテムのひとつです。ほんの少し見えるだけのオシャレですが、実はシーンによっても半衿の選び方には一定のマナーがあります。また着物の色に合わせて上手に半衿を選ぶことで、コーディネートを新鮮に見せることもできるんですよ。

    吉原ひとし
    吉原ひとし
    こんにちは。創業明治三九年 四代目 ふじぜん 吉原ひとしと申します。着物を専門に取り扱うクリーニング店の店主をさせていただいております。ここでは半衿の選び方や、半衿の洗い方、お手入れの方法等についても詳しく解説していきます。「半衿とは何?」という着物初心者の人にもわかりやすく解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。

    半衿(半襟)の選び方

    半衿は着物のインナーである長襦袢(ながじゅばん)に縫い付け、衿元からチラリと見せるオシャレ衿です。昔は「着物の汚れを防止する」という利便性のためのアイテムでしたが、和装が日常着でなくなるにつれて、純粋にオシャレのためのアイテムになりました。

    現在では様々な半衿がありますが、選び方にはいくつかのポイントがあります。「着ていくシーン」「お手入れ」「着物の色柄」「価格」の4つのポイントから見ていきましょう。

    1.半衿を「着ていくシーン」で選ぶ

    半衿選びで何より大事なのが「どこに着物を着ていくのか?」です。着ていくシーンによっては、カラフルな半衿や柄物の半衿は使うことができません。

    街着(気軽なお出かけ)の場合 →色柄は何でもOK

    デートやお友達同士のお出かけ等であれば、半衿の色柄に特に決まりはありません。好きなものを選んでOKです。ただし「高級なお店」で食事をする…といった場合には、薄い色合いの半衿を選ぶのがおすすめ。色の濃い半衿は、ジーンズやサンダルのような「カジュアル」な扱いになるためです。

    成人式の場合 → 色柄は何でもOK

    成人式の場合には、振袖に合わせる半衿の色柄に特に決まりはありません。好きなものを選んでOKです。

    卒業式・入学式等の式典の場合 → 白または薄色の半襟

    式典に着物を着用する場合には、セミフォーマル程度の着物のコーディネートが求められます。そのため半衿は白、または薄く淡い色(クリーム色や淡いピンク等)のものを。また柄は無地か、ごく細かな柄(柄がハッキリと見えないもの)の方が格の高いコーディネートとなります。

    七五三の場合 → 白または薄色の半衿

    七五三で両親・祖父母などのご家族が着る着物も、白または薄色のものが最適です。濃い半衿、ハッキリと見える派手な柄半衿は「カジュアルコーディネート」となるため、神社や寺院での慶事には不向き。上品な色合いを心掛けましょう。

    結婚式の場合 → 白の半衿(金糸の模様はOK)

    結婚式の半衿の色は「白」の一択です。これは結婚式が「もっともフォーマルな場」のひとつであり、純フォーマルとして着物を着る時のマナーが「半衿は白」とされているため。新婦や親族はもちろん、列席する客側も、結婚式では着物の人は全員が「白半衿」を使用します。

    例えば成人式では「色柄ものの半衿」を振袖に合わせていた人でも、お友達の結婚式に振袖を着ていく時には半衿を「白」に変える必要があるわけです。この点は注意しておきたいですね。

    なお結婚式は慶事(おめでたい席)なので、白地に細い金糸の模様が入った刺繍半衿は使うことができます。

    お葬式の場合→白の半衿

    葬儀も結婚式と同じく「もっともフォーマルな場」です。そのため葬儀用の着物(喪服着物)に合わせる半衿は「白半衿」の一択となります。また弔事の場合には華やかさを控えるため、無地(または無地に見える)の白半衿を選びます。

    半衿のフォーマル・カジュアルの考え方

    フォーマル

    白(無地に近く見える)
    ※白無地半衿は万能でカジュアルシーンに付けても良い
    白(柄有り)
    薄い色(無地に近い)
    薄い色(柄あり)
    濃い色(無地)
    濃い色(柄あり)

    カジュアル

    濃い色の半衿は洋服で言えば「Tシャツ」や「ジーンズ」「スニーカー」「パーカー」等と同じ感覚です。これが薄色になると「ビジネススーツ」や「セミフォーマルのツーピース」といった感覚になります。

    ただし白半衿は「フォーマルにしか使えない」というわけではありません。洋服のフォーマル服とは違い、白半衿はフォーマルでもカジュアルでも、いつ付けても構わない「万能の半衿」です。一枚だけ半衿を持つなら「白無地の半衿」が一番!というわけですね。

    2.半衿を「お手入れ方法」で選ぶ

    次に半衿を「お手入れの方法」で選びます。

    正絹(シルク)の半衿

    原則としては、正絹(シルク)はクリーニングでのお手入れの方が無難です。家で洗えないことは無いのですが、とても縮みやすいので、しっかりとしたアイロンがけ等のコツが必要です。

    着物中級者程度で、頻繁に家で半衿を洗いたい人には正絹半衿は少し不向き。反対に完全に初心者で「長襦袢も毎回クリーニングに出す!」という人なら、半衿を長襦袢に付けたままでクリーニングに出せるので、正絹でも大丈夫です。

    ポリエステルの半衿

    原則としてはご自宅で洗濯ができます。製品によっては洗濯機洗いも可能です。頻繁に半衿を洗いたい人、半衿のお手入れに慣れたい人にピッタリ。

    刺繍・特殊加工の半衿

    刺繍や箔押し、ビーズ加工、レース素材等の半衿は、素材を問わず、家では洗うことができません。すべてクリーニング店でのお取り扱いとなります。

    3.半衿を「着物の色・柄」で選ぶ

    色柄ものの半襟が使える時には、着物の色柄に合わせて半衿を選ぶのも素敵です。

    薄色の着物の場合

    着物より少し濃い色味の半衿を合わせた場合、カジュアル寄りですが引き締まった「粋なオシャレ」を演出できます。

    濃色の着物の場合

    着物より淡い色味の半衿を合わせることで、優しさ・女性らしさ等を演出できます。また顔色を暗く見せるのを防止する効果もあります。

    最初は「同系」または「柄から一色」を

    半衿の色味に困った時には、まずは着物の地色の同系色(地色より淡い、または濃い色)から選ぶのが無難。もしくは着物の柄から一色を選ぶと、全体がまとまりやすくなります。

    4.半衿を「価格」で選ぶ

    半衿を買う時には、その価格も気になりますよね。半衿の価格帯の相場、適正価格についても見ていきます。

    1,000円以下の半衿

    1,000円以下の「激安半衿」は、残念ながらちょっとオススメができません。

    • 長襦袢に縫い付けづらい
    • 縫い付けても衿がガタガタに見える
    • 衿元が安く見えて目立つ

    デメリットばかりがとても多くて、せっかくの着物まで安く見えてしまう可能性の方が高いのです。特にフォーマル~セミフォーマルでは、激安半衿は避けることを強くおすすめします。

    ファストファッションが流行している昨今ではありますが、「安すぎ半衿」には要注意なのです。

    1,000円~2,000円の半衿

    ポリエステル半衿(無地等)であれば、おおむねこの価格帯が相場です。正絹だとやや安すぎなので、粗悪品のリスクも考慮した方が良いかもしれません。

    2,000円~3,000円の半衿

    正絹半衿の一般的な品物であれば、この価格帯が概ねの相場です。ただ最近では絹の値段も上がっていますので、刺繍等に少し凝ったものですと3,000円台に乗るものも多々あります。

    4,000円以上の半衿

    かなり高級な半衿と言えます。お手入れ等も基本的にはクリーニングに任せた方が良いでしょう。

    半襟(半衿)の洗濯・お手入れ方法

    次に半衿のお手入れや洗濯方法について見ていきましょう。

    あなたの半衿は洗える?洗えない?

    半衿をご自分で洗えるかどうかは、次のポイントで決まります。

    1.半衿の素材

    まずは半衿の素材を確認しましょう。

    ポリエステル:ほぼ自宅で洗える。洗濯機で洗えるお手軽な製品もある。
    正絹(シルク):モノによっては手洗いOK。ただし縮みやすいので難易度は高い。着物初心者の洗濯は避けた方が良い。
    その他化繊混紡:洗濯機表示を確認。ドライ指定がある場合はクリーニング。

    「半衿の素材がわからない」という場合には、正絹(シルク)が混じっている可能性を考慮しておいた方が無難です。

    2.半衿の加工の有無

    次のような特殊素材・特殊加工がある場合には、自宅での洗濯は行なえません。

    • レース素材
    • シフォン素材
    • 刺繍(ししゅう)
    • ビーズ、スパンコールの縫い付け
    • 金糸・銀糸・金箔・銀箔
    • 天然草木染等の天然染料
    • 絞り
    • 縮緬(ちりめん) 等
    3.お裁縫の技術力

    半衿は長襦袢に縫い付けて着るものですが、ご自宅で洗濯をする際には長襦袢から外して洗います。次回に着る際には、ご自分で長襦袢に半衿を縫い付け直す必要があります。

    街着としてカジュアルに着物を使う場合だと、安全ピン等でサッと半衿をつける方も居ます。しかしフォーマルの場では、この方法は避けた方が無難。安全ピンだと衿の形が波打ちやすく「縫い付けていない」のがバレやすいからです。

    そのため、基本的には「半衿を洗うには、お裁縫(手縫い)に慣れている人が必要」ということになります。縫い物をほとんどしたことが無い人だと、半衿の縫い付けは難しいです。

    ちなみに専門店でのクリーニングの場合だと、半衿は長襦袢につけっぱなしでクリーニングに出せます。「縫い物はニガテ」という場合には、半衿は長襦袢ごとクリーニングした方が無難です。

    4.アイロンの有無

    半衿は水で洗うと少し縮んで、型崩れします。そのため洗濯後には必ずアイロンで引っ張って布の縮みを戻して、型崩れを治していくのです。

    「布を強く引っ張る」という工程があるので、スチームアイロンではこの作業はできません。昔ながらのアイロン・アイロン台が必要です。

    半衿の洗い方

    半衿の洗い方を、洗濯機洗いと手洗いの2種類でご紹介していきます。

    用意するもの

    • 液体タイプの洗濯用洗剤(必ず中性タイプのもの。エマールやアクロン等のおしゃれ着用洗剤が最適)
    • 柔軟剤
    • タオル2枚(白または薄色のもの)
    • アイロン
    • アイロン台
    • あて布
    • ハンガー
    • 洗濯用ネット(洗濯機洗いの場合)
    半衿を洗濯機で洗う

    無地のポリエステル半衿等を気軽にお手入れしたい時の洗濯方法です。正絹半衿は洗濯機では洗えません。

    1. 半衿を長襦袢から外します。
    2. 半衿をサイズに合った洗濯ネットに入れます。女性向けのアンダーウェア用等、ワイヤーが入った丈夫な洗濯ネットがおすすめです。
    3. 洗濯機の設定を行います。「手洗いコース」「ドライコース」等、標準より優しい洗い方のコースを選びます。最後の脱水は行わないので、事前に設定可能な場合は設定しておきます。
    4. 洗濯機に先に水を入れて中性洗剤を加え、よく撹拌してから半衿を入れます。
    5. すすぎの最終工程で柔軟剤を加えます。
    6. 洗濯機での最後の脱水はせずに半衿を取り出します。
    7. 2枚のタオルで半衿をはさみ、ポンポンと叩くようにして水分を吸い取ります。
    8. 濡れている状態でアイロンがけを行います。適温に温めたアイロンで、強く布地を引っ張るようにしてアイロンをかけていきます。
    9. 半乾きまで半衿が乾いたら、ハンガーにかけて、形を整えます。
    10. 直射日光が当たらない、風通しの良い場所で自然乾燥させます。

    ※洗濯機での乾燥は行わないでください。激しい縮みや型崩れの原因になります。
    ※40℃以上のお湯の使用は厳禁です。

    半衿を手洗いで洗う

    正絹半衿等、デリケートな半衿を洗う時の洗濯方法です。

    1. 半衿を長襦袢から外しておきます。
    2. 洗面器・洗面ボウル等に水かぬるま湯(30℃程度)を入れて、中性洗剤を適量溶かします。
    3. 半衿を3.の洗剤液に全体的に溶かします。
    4. 優しく全体を押し洗いしていきます。汚れが気になる部分だけ、軽くつまむようにして洗います。
    5. 水を取り替えて2回、すすぎを行います。
    6. 洗面器にもう一度水を入れて、柔軟剤を適量溶かします。半衿を漬けます。
    7. 最後に軽く水ですすいで仕上げます。
    8. 2枚のタオルで半衿をはさみ、ポンポンと軽く叩くようにして水分を取っていきます。
    9. 濡れている状態でアイロンがけを行います。適温に温めたアイロンで、強く布地を引っ張るようにしてアイロンをかけていきます。特に正絹は水濡れすると激しく縮むので、強く伸ばすようにしてアイロンをかけていきましょう。
    10. 半衿の縮みが戻り、半乾き程度にまで乾いたところで、ハンガーにかけて形を整えます。
    11. 直射日光が当たらない、風通しの良い場所で干します。

    ※半衿の縮みが戻らない状態で完全に乾燥させてしまうと、その後には布地が元に戻らなくなります。必ずしっかりとアイロンで布地を引っ張り、収縮した布を元の状態に近づけていきましょう。
    ※正絹半衿に「アルカリ性洗剤」や「粉状酸素系漂白剤」等は絶対に使わないでください。激しい縮みや変質が起こり、半衿が元に戻らなくなります。

    おわりに

    半衿の選び方、洗い方等のお手入れ方法は着物ライフのお役に立ちそうですか?どんなに高級で繊細な半衿でも、汚れていたり、波立つように縫い付けてあっては見た目が台無し。衿元は目立つので、着物全体の高級感にも影響してしまいます。半衿はいつでもキレイに、美しくしておきたいですね。

    なお当店『着物ふじぜん』では、長襦袢のクリーニングをご依頼いただいた場合、半衿は付けたままで洗ってお返ししています。半衿の縫い付けがニガテな方でも安心です。また特殊な半衿等のお手入れにお困りの場合にも、ご相談を受け付けております。お気軽にご相談ください!

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    吉原ひとし


    着物ケア診断士 吉原ひとし


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