「着物をクリーニングに出したのに失敗した」「せっかくの着物がクリーニングに失敗されてダメになってしまった…」インターネット上では、このような着物クリーニングについての失敗談が多く見られます。当店にも、他店の着物クリーニングで残念な状態になってしまった着物を持ち込みご相談をいただくことが少なくありません。
なぜ着物クリーニングでは失敗例が多いのでしょう?これには「着物のクリーニング」が洋服類のクリーニングとは違う点が多くお客様による判断が難しいこと、、そして残念ながら良質とは言えない着物クリーニング点も多いということが原因として挙げられます。
着物クリーニングの失敗例と原因
「クリーニング店に着物を出したら失敗した」という話には、実際にどのような失敗例があるのでしょうか。具体的な例と、考えられる原因を見ていきましょう。
着物のシミが落ちていない
着物クリーニングの失敗談で最も多いのが「着物をクリーニングに出したのにシミが落ちていない」というものです。
例
- 振袖をクリーニングに出したが、口紅のシミが付いたまま帰ってきた。
- 留袖に醤油のシミが付いたのでクリーニングしたのに取れていない。
原因:手作業の「染み抜き」していない可能性アリ
原則として、着物の「目で見えるようなシミや汚れ」を落とすには「手作業でのシミ抜き」の作業が必要です。全体を機械(特殊な洗濯機)で洗浄する「きもの丸洗い」だけでは、食べこぼし等のシミ汚れを落とすことはできないと考えた方が良いです。
「クリーニングに出したのにシミが落ちていない」という場合、多くの原因としてはこの「手作業によるシミ抜きの作業をそもそも行っていない」というケースが考えられます。
「シミ抜き全品完全無料!」といった過剰な広告をしているお店に多いケースです。上でも解説しましたが、シミ抜きの作業には職人による丁寧な手作業が必要となります。大きいシミ、色素の多いシミになればなるほど、シミを取る作業は難しくなり手間もかかります。そこを「一律に無料」と言う説明をしているのはおかしいですよね?「かなりあやしい店舗だ」と言わざるを得ません。
いかにも安くシミがキレイになるような過剰広告をしながら、実際にはシミ抜きそのものをしていない…このような悪質な店舗もあるのです。
最近ですとネット注文が増えたことで、お客様側から「丸洗いだけでいい(シミ抜きは不要)」といった注文になっているケースも見られるようです。これはお客様側が「丸洗いすればシミも含めて全部汚れが落ちるのだろう」と誤解されたまま、オプションのシミ抜きを指定せずに注文しているというわけですね。ただこれについても店舗側の説明不足、確認不足があるのは問題です。
刺繍や加工が剥がれた
きものクリーニングの失敗例で次に多いのが、刺繍や箔押し等の特殊な加工がダメになってしまったというパターンです。
例
- 小袖の金箔模様が剥がれてしまった。
- 刺繍の形が崩れてしまい、元に戻らない。
原因:お客様とのメニュー相談と検品が甘い
特殊加工のダメージと言った問題が起こる最大の理由は、着物を引き受けた時のスタッフ側の知識不足や提案不足です。着物を専門に扱うしっかりとしたお店であれば、まず着物を全体的に徹底的に検品をします。そして、どの程度までのクリーニングが可能なのかを考え、お客様に最適な洗浄方法をご提案します。
しかし着物専門ではないクリーニング店や、スピード勝負の激安店等になると、受付側の知識も不足しがちです。「とにかく丸洗いすれば大丈夫」と安易にお引き受けしてしまったり、お客様への「万一のリスク」のご案内も不十分なものになりやすい傾向が見られます。
また激安系の店舗の場合、着物の状態や加工等をチェックせず、一律で洗浄機械に放り込んで終わり、といった店舗も見られるようです。これでは繊細な作りの着物がダメージを受けるのは当然です。
古い汚れや黄ばみ・変色が取れていない
着物クリーニングの失敗談では、黄ばみや古いシミ、茶色い変色等が落ちていないといった不満の声も見られます。
例
- 「古いシミは落ちない」とだけ断られた
- 裏地の茶色いシミがキレイになっていなかった
原因:「黄変抜き」ができない・説明を省略している
長い時間が立ったシミや黄ばみ、原因不明の茶色いシミ等は、酸化によって生まれた変色シミ(黄変)です。これは一般的な「汚れを取るだけのシミ」とは違って布地自体が変色していることが多く、除去をするのがとても難しいシミなのです。
古いシミや変色を取ることを「黄変抜き(おうへんぬき)」と言います。しかしこの黄変抜きができる職人さんは少ないです。どのお店でも古いシミや変色を直せるわけではありません。一般的な洋服向けのクリーニング店等だと、そもそも黄変抜きは「できないもの」として扱うので、最初から「お断り」になってしまうケースも多いです。
また裏地の変色については、裏地が漂白に耐えられないため、専門店でも「黄変抜き」は行うことができません。ただし着物の加工ができるお店であれば、裏地の布を部分的にお取替えすることで、新品のようにきれいな状態にすることもできます。しかし一般的なクリーニング店では、このような説明や提案が行われることはほとんどありません。
カビくさいニオイやカビのシミが落ちていない
「クリーニングに出したのに、カビのニオイやシミ等の問題が解決していない」といった失敗例も、着物クリーニングでは多く見られます。
例
- 丸洗いクリーニングしたのに、またカビくさくなってきた
- カビらしい黒いシミが取れていない
原因:カビ取りクリーニングが行われていない
まず「カビは丸洗いクリーニングだけでは落ちない」ということを店舗側が説明していないか、顧客への説明が不足していることが考えられます。店舗側にカビ取りクリーニングのサービスが無いのかもしれません。
カビの症状の原因である「カビ菌」は、丸洗い(ドライクリーニング)だけでは根絶できません。イオン洗浄等で布地の奥の奥から殺菌をする「カビ取りクリーニング」を行うことで、ようやくカビ菌の根を退治できるのです。
またカビによるシミができてしまっている場合には、別途、シミ抜きや漂白といった作業も必要になります。しかしこのような手作業による細かなメニューを用意していないクリーニング店も多いのが実情です。
着物を着たい時に間に合わなかった
これは一概にお店が悪いわけではないのですが、着物クリーニングの失敗談としては「クリーニングが間に合わない」という話もとても多く見られます。今後の「失敗」を減らすためにも、一例として挙げておきます。
原因:手仕事をする店ほど納期に時間がかかる
着物のクリーニングでは、上でも挙げたように、シミ抜きやカビ取り等、様々な手作業が必要になります。ワイシャツのように「大きな工場でほとんど機械が洗い、プレスも機械がして一気に出来上がり!」というわけにはいきません。洋服クリーニングのような「即日仕上げ・翌日仕上げ」というものは完全に「ムリ」なのです。
さらに言うと、着物クリーニングやシミ抜きができる職人さんの数は残念ながら減ってきています。特に難しいシミになるほど、一人の職人さんに何百枚ものシミ抜きの依頼が来てしまうこともあるわけです。
着物クリーニングの納期
- 基本が丸洗い(機械洗浄のみ)で済む場合 → 1~2週間
- シミ抜きが必要な場合 → 1ヶ月~2ヶ月
- 古いシミ(黄変抜き等)が必要な場合 → 3ヶ月~4ヶ月
またこの納期目安は、平均的な時期のものです。成人式等の繁忙期前になれば、納期はさらに時間がかかることになります。
着物クリーニングに失敗しないためのポイント
では着物クリーニングに失敗しないために、どのような点に気をつければよいのでしょうか。8つのポイントをご紹介していきます。
1.「着物専門」のクリーニング店を選ぶ
まずクリーニング店舗では「洋服がメインだが着物も受付できる」という店は避けましょう。着物を専門に扱うクリーニング店、もしくは悉皆屋(しっかいや)が理想的です。
理由の一つとして「スタッフ全員が着物を理解しており、お客様に最適なご案内ができる」という点が挙げられます。また洋服クリーニング店では、クリーニング受付だけを行って殆どの店が「着物専門店」に委託をしています。着物専門店に最初から依頼をした方が、余分なマージンもかからずお得、というわけです。
2.「丸洗い」以外のメニュー例を確認
着物クリーニング専門店なら何でも安心というわけではありません。店舗の中には丸洗い(機械洗浄)しかしないような店もたくさんあります。公式ホームページ・サイトを除いてみて、どのようなお手入れのメニューがあるのかよく確認してみましょう。
3.「染み抜き」が見積もり制か確認
シミ抜きの料金は、一般的に「シミの大きさ」または「シミの古さ」によって、段階的に料金が高くなっていくシステムの店舗がほとんどです。これはシミが大きくなればなるほど、シミ抜きの手間がかかるためです。
そのためシミ抜きができるお店では、まず着物を実際にスタッフが見てシミの原因や大きさ、古さ等を確認します。そして「シミ抜き料金は●●円です」とお客様にお伝えし、ご納得いただいてから作業に入ります。これが「事前見積り(じぜん・みつもり)」という方法です。
- シミ抜きで見積もりをしない
- シミ抜きが全部無料等と書いてある
- シミ抜き料金が一律である
このような店舗は一見すると良心的なのですが、着物のシミ抜きのシステム上、かなり怪しいところがあります。「1センチあたりの料金」等は明示してあり、なおかつ「1センチ大きくなる毎に上がる(見積もり制)」となっているお店の方が、実際には「信頼できる店」なのです。
また見積もりの際には、お見積りだけなら無料かどうかをよく確認を。見積もり無料であれば、気軽に相談ができますね。
4.「黄変抜き(古い染み抜き)」ができるか確認
着物のシミには、比較的最近付いた新しいシミと、時間が経って変色しているシミの2種類があります。このうち古いシミ(変色シミ・酸化シミ)は対処が難しいので「シミ抜きできない」とするお店も多いです。
シミ抜きを依頼するのであれば、まずシミが付いた時期や原因等を言い添えて「黄変抜き(古いシミ抜き)」ができるかどうかを相談しておくことをおすすめします。
5.サイズ直しや加工ができる店か確認
「着物クリーニングではサイズ直しは関係無いのでは?」と思われるかもしれませんね。しかしサイズ直しや仕立直し等ができるお店ということは、それだけ着物に詳しく、様々な職人さんと密接な関係を築いている「信頼できるお店」であるという証です。
また様々な加工ができるお店なら、お客様だけでは思いつかない「着物をキレイにするテクニック」をご提案することもできます。
例
- 家紋が合わず困っている → 家紋の入れ替え(染め替え)をする
- 裏地がシミだらけで嫌だ → 裏地だけの入れ替えをする
- 古いシミがあるが着たい → 柄を付け足してシミを隠す 等
「もう着られないのだろう」と諦めていた着物でも、キチンとした着物クリーニング店ならば再生できる可能性があるのです。
6.メニューを相談できるか確認
「カビ取り」「丸洗い」「シミ抜き」等等、着物には様々なメニューがあって「一体どれを選べばよいのだろう」と迷ってしまう人も多いことでしょう。
着物クリーニング店を選ぶ際には、ぜひ「申し込む前に相談ができる店」を選ぶことをおすすめします。お客様の自己判断に任せ、「丸洗い」だけを受付し続けるようなお店より、汚れを落とすために様々な提案をしてくれる店の方が「信頼できる店」と言えます。
最近ではメールやLINE等で無料相談ができるお店も増えていますから、そのようなシステムを使ってみるのも良いですね。
7.激安価格の店は避けよう
ザックリとした言い方になりますが、相場の半分程度の価格でサービスを提供しているような、いわゆる「激安店」は避けておいた方が無難です。
料金が安いのは、必ずしも良心的とは言えないところがあります。安すぎるということは、それだけ「何かを省略して利益を出している」からです。
予洗いをまったくせず、機械だけでカンタンに洗浄をして終わらせている、何十枚もの着物をひとまとめにして洗っている……このような悪質な着物クリーニング店舗があるのが実情です。実際のところ、着物クリーニングの失敗エピソードで多いのはやはり「激安系」での失敗なのです。
「安い」「最安値」「激安価格」だけに飛びつかず、落ち着いて適切なサービスを選ぶことを強くおすすめします。
8.着物クリーニングは早めに出そう
着物クリーニングは、シミ・汚れの状態によっては、3~4ヶ月、場合によっては半年程度も納期に時間がかかることがあります。成人式、お正月、七五三といった繁忙期になると注文が込み合いますから、さらにお時間をいただく場合もあるわけです。
信頼できる着物クリーニング店ほどリピーターのお客様も多いですから、混み合いやすいと考えてください。反対に年末になっても「即時仕上げOK」等とホームページで言っているお店があったら、そちらの方が危険です。
着物を着る予定ができたら、すぐに着物をタンスから出して、状態を細かくチェックしておきましょう。また着物をクリーニングに出す時には、できるだけ早くお店に出すことが大切です。
また「どうしても急ぎで」という時には、申し込む前にお店に相談を。確約ではありませんが、お店によっては特別料金等でお急ぎ対応をしてくれる場合もあります。
おわりに
着物クリーニングの失敗例について、実例を挙げながらご案内をしましたが「洋服とは色々と違う!」と驚かれている人も多いのではないでしょうか。
着物独自のクリーニングやお手入れの方法を知り、適切にお店を選ぶことで、着物クリーニングの失敗は大幅に避けられることでしょう。当店『着物ふじぜん』でも、着物クリーニングやシミ抜き、その他の各種加工を受け付けています。着物クリーニングでお困りのことがあったら、お気軽にご相談くださいね。