「着物は染め直しができる」と言うことは、最近ではあまり知られなくなってきているようです。例えば取れないシミや日焼けでの褪色ができてしまった着物も、染め直しで新品のように綺麗にすることができること、ご存じでしたか?
振袖や留袖・訪問着などの高級な着物は、その多くが品質の良い絹で作られています。ほんの少しのトラブルで着物を丸ごと処分してしまうのでは、とてももったいないですよね。着物の染め直しについて知って、お持ちの着物を生まれ変わらせてみませんか?
「染め直し」は着物トラブルの救世主!
着物の染め直しをするというと、「飽きてしまった着物をリメイクするのかな?」という印象を持つ人もいるのではないでしょうか。もちろんこれも間違いではありません。リメイクという理由で着物を染め直す人も大勢います。
しかし着物の染め直しの意味は、単なる「おしゃれの為」だけに留まりません。さまざまなトラブルで着られなくなってしまった着物をキレイに蘇らせるーー着物染め直しは、日本の衣類向け「リペア技術」の集大成なのです。
ヤケによる色あせ・褪色に
「ヤケ」とは、元々は「日焼け」から生まれた言葉です。紫外線によって染料が破壊され、着物の色が褪せてしまったり、一部が白っぽくなることなどを言います。長期間、日の当たる場所に着物をかけていたり、直射日光に晒してしまった場合などに起こるトラブルの一つです。また、着物の長期保管中、防虫剤から発生したガスによって「ガスやけ」を起こすケースもあります。
ヤケによって起こった褪色・色あせ・変色は、汚れがついているわけではありませんから、シミ抜きでは元に戻すことができません。しかし「染め直し」であれば、色褪せてしまった着物をキレイにカバーすることができます。
保管中に浮いてきた変色シミに
汚れが付いてから時間が経つと、汚れの原因は少しずつ酸素と結びついて染料を破壊し、着物を変色させていきます。白っぽい着物の場合だと、黄ばみっぽい色味から徐々に茶色いシミへと色が深くなっていくことが多いです。また黒い喪服着物の場合、汗や食べこぼしジミが付いたままで数年が経過すると、その部分がピンク色に変色してしまうこともあります。
このような酸化シミ・変色シミについても、汚れをとるだけでは問題は解決しません。まず部分的な漂白を行って変色を取り除いた上で、部分的または全体的な染色補正(染め直し)を行い、リペアしていきます。
広範囲のシミ隠しに
汗が原因による変色シミや、雨濡れによるシミの場合、シミが広範囲にわたってしまうケースが多いです。例えばこれが普段着の真っ白なTシャツ等であれば、強力な漂白剤液に全体を漬け込むこともできますよね。
でもデリケートな絹の着物だと、このような対応はできません。着物の生地そのものがダメになってしまう可能性のほうが高いからです。こんな時も、地色の染め直しを行えば、広範囲のシミをカバーすることができます。
脆くなっている昔の着物のシミに
昔の着物は貴重なものが多いですが、その反面、生地が脆く(弱く)なっています。一般的な染み抜きや漂白などをおこなうと、着物が破れてしまうかも…そんなリスクがあるため、染み抜きNGという着物も多いです。
でも染めたり、柄を書き足す方法であれば、布へのダメージは比較的穏やかです。大切な昔の着物のリペアにも、染め直しは役立ちます。
家紋が違うときや滲み・変色がある時に
七五三着物や留袖などの礼装着物ですと、「家紋(かもん)」が入りますよね。家紋が違うから昔の着物が着られない、家紋に滲みや変色がある…このようなトラブルも、着物の染め直しで対処ができます。
金銀模様の変色やハゲ対策に
昔の華やかだったはずの振袖や留袖、久しぶりにタンスから出してみたら「なんだか、くすんで見える」…こんなことありませんか?
これは施された金銀の模様が変色・色あせを起こしてしまっているせいかもしれません。着物の染め直しでは、このような専門的なトラブルにも対処可能です。
着物染め直しのバリエーション
「着物の染め直し」と言っても、そこには様々な種類、バリエーションがあります。ここではその一例をご紹介していきます。
柄を加える「柄足し」
柄足し(がらたし)とは、現在の着物の紋様に合わせて、新しく柄を追加する染め直しの方法です。例えば留袖や訪問着などの場合、胴部分や胸周りにある柄に似せて柄を描き足し、シミなどのカバーを行います。もちろん、無地の着物(色無地)に新たに柄を書き足すことも可能です。
柄足しは、シミやトラブルの状態に合わせて染色の範囲を調整できるのが魅力です。例えば小さな変色であれば、ほんの数センチ四方だけ柄を書き足してもらうだけで、着物が新品同様に生まれ変わります。
地色を濃くする「色掛け」
色掛け(いろかけ)は、柄足しとは反対で、柄ではない「地色」の部分に染色を施します。例えば薄いクリーム色だった訪問着に色掛けをして、落ち着いた草色や紺色などの訪問着に生まれ変わらせるといった具合です。
色掛けは、着物全体に変色が起きていたり、小さなシミがあちこちにあるといった場合のカバーにも向いています。また、着物の印象をガラリと変えたい時にもおすすめです。
紋抜き・紋入れ替え・家紋修復
「紋抜き」とは、家紋部分を染めて無くす作業のことを言います。紋付のために格が高すぎて、着用する機会が少ない着物などに行う方法です。また家紋を新たに入れ替えて、現在の家紋にすることもできます。黒留袖や七五三着物などでは特にご依頼の多い染め直しです。
このほか、家紋が滲んでしまった場合(これを「家紋が泣く」と言います)にキレイに直すことも可能です。また、白かった家紋が黄色っぽくなってしまったものをキレイにする「家紋洗い」という方法もあります。いずれも紋付の礼装用着物の見た目を良くするにはぴったりのリペア方法です。
金彩・金箔の修復
着物に施されている「金」「銀」を使った彩色を「金彩(きんさい)」と言います。時間が経つと変色してしまいやすい金彩も、専門的な対処をすればキレイに修復することが可能です。また、金彩を使った柄を増やして、着物をより華やかに見せることもできます。
あなたの着物の状態に合いそうな「着物染め直し」の手段はあったでしょうか?もちろんこの他にも、着物染め直しには様々なテクニックがあります。「この着物をどうにかしたい…!」といったお悩みがある時には、とりあえず着物を持ち込んで相談するのも手ですよ。プロが着物を実際に拝見して、できる染め直しテクニックをご提案します!
着物染め直しのお店を選ぶ方法は?
着物染め直しの様々な方法を見て、「わたしも着物を染め直ししてみたい!」と思った方もおおいはず。これで昔であれば、「お近くのお店に相談してみてくださいね」で終わりなのですが…最近だと、着物の染め直しができるお店や職人さんも少なくなってしまいましたね。
どうやって着物の染め直しのお店を探したり選べば良いのか、悩む方もたくさん居ることでしょう。着物染め直し店舗の選び方について、いくつかヒントをご紹介します。
リペア専門の方が料金は安めです
着物の染め直しは、昔ながらの呉服店(着物を販売するお店)でも相談を受け付けていることがほとんどです。また呉服をしっかりやっている百貨店(デパート)でも、染め直しリペア対応ができるお店もあります。もともと「呉服屋さん」は、着物を売るだけでなくお直しのご相談も受け付けていたんですね。
呉服屋さんや百貨店さんの提携店の場合、長く実績があるお店が多いでしょうから、技術面では信頼がおけるのは良いところです。ただ着物屋さん・呉服屋さん・百貨店の場合だと、そのお店を通してリペアのお店(染め直し職人が居るお店)に依頼することになります。なので、余分に手数料(紹介料)がかかってしまうこともある…というか、実際にかかります。
着物の染め直しを依頼するなら、着物の仕立直しや染め直しなどのリペアや加工を専門に扱うお店に直接依頼をした方が安上がりです。ちなみに当店『着物ふじぜん』も明治からやっている着物加工店なので、当然ながら着物の染め直しを受け付けています!お値段も百貨店さんに比べてお値打ちですよ。
激安店舗にはご注意を
「着物の染め直し料金が安いお店の方が良いですよね」という話をしましたが、料金があまりに安すぎたり、料金システムがザックリしすぎているお店には注意しましょう。そもそも着物染め直しは職人さんの手作業なので「一枚いくら」といった表での料金のご案内がしにくいのです。
「数センチなら何円位」という目安程度なら良いのですが、「一律数千円で済みます」と豪語するようなお店は避けた方が良いかもしれません。着物の染め直しなどのリペアを激安でやる!と言うお店の場合、染色補正師(染めの技術者のことです)が洋服系の資格しか持っていなかったり、着物での染色実績が少ないケースが見られます。
激安店でのトラブルとして、絵柄を描いてスレをキレイにカバーしてもらえると思って依頼をしたのに、実際にはスレた部分に似たような色をつけてごまかすだけだった(しかもキチンとカバーできていない)といった事例も見られています。「とにかく安くて手軽なお店」というだけで、実績が少ないお店を選ぶのは避けた方が良いですよ。
無料見積もりができる店が理想的
着物の染め直しにかかる料金は、職人さんにかかる手間であったり、染色に使うインク(絵の具)の代金で変わってきます。柄の細かさ、大きさ、色の多さなどでお値段が変わるわけです。また金彩などはそもそもの原料が高いので、それだけ料金も上がることになります。
ですから、基本的に染め直し料金は「着物をプロが見る」→「お客様の要望を聞く」→「できる対策と予算をご提案する」という「見積もり方式」で行うのが一般的です。ただ初めての方ですと一体料金がいくらになるのか不安でしょうし、できれば「無料で見積もりしてくれるお店」を選ぶのがおすすめと言えます。
当店も無料見積もりを常時受け付けております。ご予算に納得できないときはもちろんキャンセルで大丈夫ですし、お見積り料金をいただくこともありません。「そもそも染め直しにいくら位かかるのか知ってみたい」と思った時には、気軽に相談してみてくださいね。
着物染め直しをする時の注意点
着物染め直しは、様々な方法でトラブルが起きた着物をリペアできるのが魅力。ちょっと古くなった着物でも、着物染め直しなら対処ができることが多いです。とは言え、安易に染め直しをした結果「失敗した…」といったケースもあるのは事実。着物染め直しで失敗しないためにも、次のような点には注意しましょう。
大胆な柄足しはバランスが崩れやすい
着物の染め直しでは、原則としてどんな着物にも柄を描き足していくことは可能です。お客様からのご要望があれば、現在の着物の柄に似た柄行の追加だけでなく、オリジナルの柄を描き足すことなどもできます。
ただ大きすぎる・多すぎる柄の描き足し等は、職人側からはあまりおすすめしないことが多いです。拡げて見ているときは美しくても、着て見た時にバランスが崩れてしまった…となる恐れはあります。
当店ではお客様のご要望を伺いつつベストバランスとなる方法をご提案するので「おかしくなった!」といったお声はないですが、どのお店でも事前に徹底したカウンセリングをするとは限りません。
せっかく染め直しをして着物を素敵に蘇らせるのですから「着るバランス」もぜひご考慮いただきたい…というのが本音です。
現在より薄い色には染め直せない
地色の染め直しでは、現在の色の上に色を掛けていくことになります。ですから「今現在が薄い地色」の着物を濃い色に染めることはできますが、「濃い地色の着物」を薄く染め直すことはできません。
また上に掛けていく色味と元の地色の色味が合わないと、色が濁ったり、思っていた色味にならない可能性もあります。「何色にでも変更できる」というわけではないので、染め直し作業に入る前に、よくお店と相談するようにしましょう。
描き足しは見た目ではわからないが?
柄を描き足した部分を見ただけで判別できる人は、ハッキリ言ってほぼいません。それだけ柄足しができる職人は高いレベルでの補正ができるのです。この点は安心してご依頼してください!と太鼓判が押せます
ただし上から染料(顔料)を加えているわけですから、描き足した部分は他の部分とは感触は違います。「見てもわからないが触れば大体わかる」わけです。着物を着る方ご本人であったり、着物を着付ける方等「着物に直接触れる方」には、修正した部分が判別できることはあります。
この点については、染め直し依頼をする方はもちろん、例えば今後着物を譲る予定がある方にもご了承いただいた方が良いでしょう。
おわりに
着物の染め直しについては、文章でご案内をするよりも画像を見てもらった方がその「凄さ」が伝わりやすいかもしれません。染め直しでシミや褪色が消えて新品になったような姿を見て、驚く方も多いことでしょう。
「もう着られないと思っていた」…そんな着物が美しく蘇りまたお客様に着てもらえるのは、当店としても嬉しい限りです!染め直しや柄足し等についてのご質問やご相談は、お電話だけでなくメールでも受け付けています。「ブログを読んだけど、まだわからない!」と思うところがあったら、お気軽にご質問くださいね。