着物ブームの到来によって、日常的に着物を着る方が増えている最近の日本。夏シーズンの着物人気も高まっており、デートやお食事などのお出かけに夏着物を着たり、花火やお祭りなどに浴衣を着たり…様々なシーンで和装が楽しまれるようになっています。その反面、「暑いのが辛いから」「着物を汗まみれにしてしまうから」といった理由で夏の和装を避けてしまう…という方も少なくないようです、。でも夏の間ずっと和装のオシャレができないなんて、なんだかもったいないですよね?
夏着物や浴衣の場合、中に着るインナーである「和装下着・肌着」の選び方で涼しさや快適さは大きく変わってきます。またインナー類の選び方で、着物が汗ジミになることも防げるんですよ。今回は夏着物の下着・インナー選びについて、そのポイントをご紹介していきましょう。
目次
1.浴衣でもインナーは必要?
「浴衣にインナー」と言われて、「浴衣は一枚で着るでしょう?インナーなんて要らないのでは?」と思った人も多いはず。確かに浴衣は、元々は湯上がりのバスローブのように使うために発生したもの。その後も人々の気楽な夏のワンマイルウェアやナイトウェアとして活躍してきました。そのため本来であれば、インナー無しで一枚で着るのが基本なんですね。
でも現在では「浴衣」の存在は昔と大きく変わり、「街着(オシャレ着)」として着られることが普通となっています。デートやショッピングの時に着るカジュアルなワンピースと同じような感覚で「浴衣」を楽しむ方がほとんどとなっているんです。そのため着付け方も昔に比べて遥かにキチンと腰紐等を使うようになっていますし、素材や織りも「外出着」として使えるしっかりとしたものが増えました。その分だけ、浴衣でも汗対策・暑さ対策を丁寧に行う必要が出てきたんです。
ですから「浴衣でもインナーを着た方が良い」というわけなんですね。
さて「インナーを着る」というと「余計に熱くなるのでは?」と思う人もいることでしょう。でも実はインナーには、以下のような働きがあります。
インナー・肌着の役割
- ●生地を肌に付けず、空気を通す:綿等の浴衣をそのまま着用すると、かいた汗によって浴衣が肌に張り付き、風を通しにくくなります。胴体・足回り等の空気が密閉されると着物の中の温度はますます上がることに。肌につきにくい織りや素材のインナーを身に着けておけばこのような密着感が軽減され、風通し良く涼しく過ごせます。
- ●不快指数を下げる:着物の中でかいた汗をそのままにしていると、肌はベタついてムレた状態に。不快指数が上がり、よけいに暑く感じられます。汗をすばやく吸って外気へと放出できるタイプの素材を選べば、肌は汗をかいてもすぐにサラリとした状態に。サッパリ感をキープすることで、快適な状態が長持ちします。
- ●汗ジミを防ぐ:薄色の浴衣や着物の場合、背中・腿裏等に汗がしみて色が変わって見えてしまうこともあります。また洗えない着物の場合、残った汗が変色やカビの原因となることも。きちんとインナーを付けておけば、着物・浴衣に汗ジミがつくことを防げます。
上手にインナーを使った方が、涼しく快適、更にオシャレに浴衣を着られるわけですね。
カジュアルに着る浴衣の場合、インナーは洋服用の涼感インナー等で代用をしてもOK。ただきちんとした汗対策の和装インナーを使った方が、更に快適に過ごすことができます。
2.肌襦袢・長襦袢を涼感素材にしてサッパリ!
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着物の中に着る「肌襦袢(はだじゅばん)」や「長襦袢(ながじゅばん)」「裾よけ」等の和装下着類。訪問着等の着物を買った時に肌着類も一式買って、そのまま通年使っている…という人も多いのではないでしょうか?通年向けのインナー類では、絹(正絹)、ポリエステル100%等の素材が多く使われています。しかしこれらは暑い夏にはちょっと不向きなことも。洋服で言えば、冬用の「ババシャツ」を夏にも着ているようなものなんです。
現在の洋服用のインナーでは、ユニクロの「エアリズム」を始めとした様々な涼感インナーが販売されていますよね。これと同じで、和装用の肌着・下着にもサッパリと着られる素材を使ったものがあります。夏着物を涼しく着るために、和装下着類を夏素材のものに切り替えてみましょう。
夏インナーにおすすめの素材
- ●麻素材:麻(リネン)は吸水性・発散性に優れており、夏にはピッタリの素材。ざっくりとした織りとなるため肌に付きにくく、空気を通しやすいという利点も持っています。ただしやや素材が固いので、麻100%だと違和感を覚える人も。実際に素材に触れてみることをおすすめします。
- ●綿素材:吸水性が高いのが特長。楊柳等の肌に付きにくい凸凹のある織り方が特におすすめです。こもった湿気を飛ばすことがやや苦手なので、二重になったもの・厚手素材は夏には避けましょう。
- ●綿麻素材:綿と麻の混紡素材。麻の独特の固さをカバーしており、価格も比較的お安めになります。
- ●綿麻ポリエステル:化学繊維を混紡することでシワを付きにくくしています。自宅であらうのも干すのもカンタン。お手入れのラクさが魅力です。
3.二部式襦袢や半襦袢で涼しくスッキリ!
本来の着物の着付け方では、肌襦袢を着て裾よけを付け、更に長襦袢を重ね、その上から着物を着る…というのが基本。でも何枚もインナーを重ねると空気の層ができて、着物の中の温度を上げてしまいやすくなります。特に長襦袢は空気をこもらせやすく、「着物=暑い」と感じさせる大きな原因とも言われているんです。
そこで「夏の暑さ対策」として重宝されているのが、長襦袢を簡略化させたスタイルの襦袢。「半襦袢(はんじゅばん)」や「二部式襦袢(にぶしきじゅばん)」と呼ばれています。
半襦袢とは
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肌襦袢に半襟を付けたもので、パッと身には胸元が長襦袢を着ているように見えます。もっともカジュアルかつ簡略化させたタイプのインナーです。基本的に袖はレース等の筒袖(つつそで)タイプとなっています。筒袖は着物の袖丈に合わせずにどんな着物にも着ることができます。ただし袖口からは襦袢が見えないので、簡略化されていることはすぐにわかります。
二部式襦袢
上半身は半襦袢型、下半身には裾よけを付けたタイプの襦袢です。洋服でいうと「セパレート式」の襦袢というわけですね。これ一枚で長襦袢に見せかけるため「うそつき襦袢」と呼ばれることもあります。汗かきの方の場合、裾よけをステテコなどに切り替える方も居ます。
大うそつき襦袢
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半襦袢の「筒袖」だと、正式な襦袢を着ていないことが袖口からバレてしまいますね。そこで考えられたのが、筒袖部分に取り外し式の袖を付けたタイプの半襦袢です。より襦袢の形がバレにくいので「大うそつき」と呼ばれています。袖は現在ではマジックテープ等で着脱をする方式が多いです。
これらの簡易式襦袢は着付けがササッとラクにできるうえに、一枚で肌襦袢+長襦袢を兼ねてくれるので涼しいのが魅力。またセパレート式ですから、既成品でも様々な身長に合わせやすいのも利点です。ショッピングやデートといったカジュアルな場面で夏着物を着ることが多いという方は、こんな気軽な襦袢を持っておくととても便利ですよ。
半襦袢・二部式襦袢は、あくまでも「簡易式」のものです。用途としてはカジュアルシーンや、飲食店の店員さんの制服のインナー等として用いられます。「正式な着姿(礼装)」が求められる結婚式の留袖、式典の訪問着といったフォーマルシーンの使用には向いていません。着用シーンをきちんと選ぶように注意しましょう。
4.和装ブラ・補正着で胸元を涼しく!
「和装ブラ」とは、その名のとおり着物用に作られたブラジャーのこと。洋装のブラジャーとは異なりワイヤーは入っていません。またバストのボリューム感を強調させる洋装ブラジャーとは反対に、和装ブラでは着姿をキレイに見せるために胸をなだらかに見せる(凹凸を目立たなくさせる)工夫がされています。着物をキレイに着るためには、とても便利な存在なんですね。
ただ着物初心者の方の場合、「和装ブラは持ってない」「ノンワイヤーのスポーツブラで代用してる」という方も多いようです。ところがこの「和装ブラ」などの「補正着」、夏着物の涼しさ・快適さをアップさせる上でも意外と大事な存在なんですよ。
和装ブラを使わないと暑い?
「ブラを重ねると暑いのでは…」と思う方も多いことでしょう。しかし着物をキレイに、着崩れないように着るためには、実際のところ胸元の補正は欠かせません。補正着を使わずに補正を完成させようとすると、どうしても暑く・着苦しくなりがちなんです。
【和装ブラ・補正着物無しの場合】
- ●タオルを重ねる必要がある:胸元のボリュームが少ない方の場合、補正着無しだとタオルを襟元に何枚か重ねて巻くような補正方法を行うことがあります。空気がこもりやすく、暑くなってしまいがちです。
- ●胸をさらし等でボリュームダウンする:胸にボリュームがある方の場合、帯の上に胸が乗らないように胸を抑える必要があります。さらし等を巻いて押さえつけるケースもあり、胸周りが余計に暑くなりがちです。
- ●紐がキツくなりやすい:補正着なしで、更にタオル・さらしなどでの補正が甘い場合、着付け師によっては着崩れを防ぐために紐をキツめに結ぶ人も居ます。これにより、着苦しさを感じる人も多いようです。
- ●湿気がこもりやすい:和装ブラの代用としてスポーツブラを使う人も居ますが、スポーツブラの素材はその多くが綿フライス。汗の吸収性には優れていますが放出性に欠け、下着が張り付くような不快感を覚える方が多いです。
【和装ブラ・補正着物ありの場合】
- ●一枚で補正作用がしっかり:きちんと体に合った補正着を選べば、インナー一枚でも胸元のボリューム感を適度になだらかに見せてくれます。何枚ものタオル等を重ねる必要が無いため、着物の中もスッキリと快適です。
- ●ほどよい着付けで着崩れしにくい:補正着で体を適度に補正しておくと、紐で強く締め付けなくても着崩れが起きにくくなります。伊達締め等の締め方が軽くてもOKとなれば、胸元の涼しさも大きく変わってきます。
- ●メッシュ素材なら通気性も◎:「夏用の和装ブラ」では、涼しいメッシュ素材のものも多数登場しています。通気性の良いメッシュなら、汗や熱気が下着の中にこもる心配もありません。
- ●汗染みを防ぐ:吸水性・蒸散性が高い繊維の和装ブラ・補正着物を選べば、胸元(バスト下)や背中の中心部分等、汗がたまりやすい部分の汗を吸い取り、着物に汗ジミができるのも防いでくれます。
特に以下のような方の場合には、分厚いタオルで補正を続けるよりも、専用の「補正着(ほせいぎ)」「きもの補正下着」を使った方がより快適にキレイに着物を着ることができます。
【補正着が向いている人】
・他の人よりも汗かきだと思う
・普段、脇・背中等も汗をしっかりとかいている
・補正のために何枚もタオルを使っている(体のボリュームが少ない、凹凸が激しい等)
・洗えない着物(正絹の礼装用着物等)を真夏に着る 等
夏用素材の和装ブラ・補正着を選ぼう
補正着・和装ブラの形状・素材には様々なものがありますが、汗ジミ対策をしっかりと行うのであれば、「ノースリーブ型で前合わせになっているものが便利です。背中の中心・ワキ・ウエスト回り等の汗ジミポイントを全体的にカバーすることができます。素材は「東レ」のフィールドセンサー等、吸水性に加えて蒸散性が高い化学繊維を選ぶと、より涼しく過ごすことができます。
暑さ対策を中心に行うのであれば、通気性の良いメッシュ素材の和装ブラがおすすめです。和装ブラは近年、ネットでも1,000円~2,000円台のリーズナブルな価格のものが続々登場するようになりました。着物をキレイに快適に着るためにも、一枚常備しておいてはいかがでしょうか。
おわりに
たかが下着、されど下着。襦袢や和装ブラといった下着・肌着の素材や形を見直すことで、着物の中の体感温度は大きく変わってきます。和装下着を上手に使いこなして、夏の季節の着物のオシャレを楽しんでいきましょう!