「タンスから着物を出したら黄ばんでる」「汚したつもりが無いのに、着物に茶色いシミがある…」こんなトラブルが起こっていませんか?これは着物の「黄変(おうへん)」というトラブルです。
着物に黄変が起こった場合は、「黄変直し(おうへんなおし)」という対処をしなくてはなりません。

着物の黄変とは何?原因は?
着物の「黄変(おうへん)」とは、古い着物や長期的に保管していた着物に起こる生地の「変色」のトラブルのひとつです。「黄変」という名前のとおり、白等の薄い色の生地の場合には、初期症状としては「黄ばみ」として発見されます。しかし時間が経つごとに症状は重くなり、様々なシミ・褪色等の症状が現れてきます。
これらの黄ばみ・古いシミ等を取り除き、着物を元の状態へと近づけるのが「黄変直し(おうへんなおし)」という対処法です。
これは黄変?症状のチェックリスト
・白・薄い色の着物の一部(もしくは全体)が黄ばんでいる
・薄オレンジ~薄茶色~濃い茶色のシミができている
・着物をある程度長い間(1年~3年以上)保存していた
・黒等の濃い色の着物の場合、着物の地色の一部が変色している(薄茶色・薄ピンク等に変化)
・着物の柄の一部が変色している
・着物の生地の一部がもろくなっている
・変色は特に裏地(胴裏)で強く起こっている
上記のリストでひとつでも合致する点がある場合、トラブルの原因が「黄変」である可能性は高いです。
黄変は原因によって、全体的に症状が出ることもあればプツプツとした斑点のようなシミとして浮き上がることもあります。しかしいずれの場合でも、初期症状は薄い黄色の黄ばみとしてスタートし、徐々に色が濃くなり、最終的に着物の地色が抜けていくという症状の進み方をするのは共通です。
黄変が起きる3つの原因
黄変という変色は、汚れの成分または繊維そのものの「酸化」によって起こります。酸化とは、酸素と物質が結びつくことによって起こる現象。長期保管中のタンスの中等で、空気に含まれる酸素と少しずつ繊維・汚れの成分が結びつき、「変色・シミ」ができてしまうというわけなのですね。
このような酸化による変色が起きる原因は大きく分けて3つあります。
A)汗の成分の残留
もっとも多いと言われるのは、「汗汚れ」が繊維に残ったことで起こる黄変です。汗は体液の一種ですから、その中にはマグネシウムやカリウム、カルシウムといった様々な成分が含まれています。これらの成分が少しずつ酸化することで、着物を黄変させてしまうのです。
夏の暑い時期に着物を着た
着用後の汗抜きをしなかった、汗抜きが不足していた
着用後の陰干しが不足していた
ワキと背中と帯まわりが黄変している
シミの範囲が比較的広い
汗染みは乾いた時には目に見えないので、「大丈夫かな」と判断されてしまいがち。しかし時間を置くと少しずつ色が濃くなって、黄変ジミに変化します。この場合、まず汗の成分を十分に取り去るプロセスを行ってから変色を取るという工程が必要になります。
B)カビによる酸化
汗以外の主な原因としては、カビ(白カビ等)が挙げられます。白カビは初期症状では表面にふわふわと生えた状態で、外側を払えば目には見えなくなるもの。しかしカビの根はとても深く繊維に張られており、少しずつ繊維を酸化させて変色を起こします。
シミがポツポツと変形した水玉のようにできている
着物がカビ臭い
カビによる黄変が起きている場合、黄変抜きの他に着物全体のカビ取りを行う必要もあります。またカビで黄変が起こった場合、一緒に保管している全ての着物の状態チェック・カビ取りも行った方が良いでしょう。
C)シルク繊維(正絹)の酸化
原因A)の場合は着用後のアフターケアの不足、原因B)の場合は保管中のケアの不足が原因の一つとも言えます。しかし熱心に着物のお手入れをしている場合でも、着物の黄変が起こってしまうことも。その理由のひとつが「正絹そのものが黄ばみやすい」という点です。
黄ばむというよりは、「黄色に戻る」といった方が正確かもしれません。正絹(シルク)の糸はそもそも白くなく、濃いクリーム色をしています。絹地を作る時にはこの色を取り除いて、白い糸を作り上げているのです。
しかし絹の糸は空気と触れることでもう一度、少しずつ元々の濃いクリーム色(=薄い黄色)へと色合いが戻っていきます。
花嫁衣装等、購入時は地色が真っ白(または薄色)だった
地色が全体的に変色している
素材は正絹(シルク)である
なお昔の着物の場合、着物の生地に加えられた増量剤(糊)の影響で、さらに激しく黄変が起こることもあります。
着物の黄変直しは自分ではできないの?
結論から言うと、残念ながら着物の黄変直しは自分では行うことができません。「着物のシミなら、ベンジン等を使ってシミ抜きしている」という人も多いかとは思うのですが、「黄変」は一般的な「シミ」とは対処法がまったく違うのです。
繊維に汚れが絡みついている状態
ベンジン等の溶剤で汚れを浮き上がらせる
汚れが取れる(キレイな状態になる)
とてもカンタンに言えば、一般的なシミというのは「汚れがくっついている状態」なので、それを剥がしてあげればキレイになるというわけですね。
汚れの成分等によって繊維自体が変色している
「漂白」で変色部分を取る
色抜けが起きている場合、「色掛け」で染色補正を行う
ところが黄変の場合、酸化によって「変色」をしてしまっているため、汚れ落としだけでは問題が解決しません。そこで「漂白」が必要になるのですが…デリケートな着物を漂白するのはとても大変!着物の生地を傷めることが無いように最新の注意を払って変色を取り除く技術は、職人さんだけが持つ専門的な技術なのです。
また黄変の症状が酷い場合、染料をかけなおして色を戻す「染色補正」も必要になります。ワイシャツやTシャツの黄ばみを取るようには、着物の黄変を自宅で取ることはできないのです。
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着物の黄変直しはクリーニング店に出せばいい?
上記の2.で解説したように、着物の黄変は専門店で対処をしてもらう必要があります。しかし、クリーニング店であればどこでも着物の黄変直しができるのか?というと、残念ながらこれも不正解なのです。
「黄変直し」は着物クリーニングの中でも非常に高度な技術で、どこのクリーニング店でも備えているメニューではありません。黄変直しを依頼する場合、クリーニング店選びでは以下のような点に気をつけましょう。
着物のクリーニング専門店か悉皆屋を選ぶ
「洋服向けクリーニング店で着物も受け付ける」というお店もありますが、黄変直しの場合にはおすすめしません。実店舗型のクリーニング店の場合、店頭カウンターで衣類の状態を見て、適切なメニューを案内するといった方法が一般的です。
しかし基本が洋服向けのお店の場合、「着物の黄変」についての詳しい情報を持っているスタッフさんが居る確率はとても低いです。一般的なシミ抜きで取れるシミなのか、黄変なのか…といった切り分けができず、「とりあえず専門業者に回す」といった対応になってしまう可能性も考えられます。
最初のチェックの段階から「黄変直し」の話ができる着物クリーニングの専門店、または悉皆屋を選んだ方がスムーズです。
黄変直し・古いシミ抜きについて明記してある
「着物クリーニング店」と看板に出ていても、実際にやっているのは機械を使った着物丸洗いがほとんど…といったお店も、最近では珍しくなくなっています。また「しみ抜き」ができても、「黄変抜き(黄変直し)」ができないというお店は意外と多いです。
「黄変直し(黄変抜き)」もしくは「しみ抜きで古いシミにも対処する」とメニューや料金表に明記してあるお店を選ぶことをおすすめします。
見積もりを先に出すクリーニング店を選ぶ
着物の黄変直し・黄変抜きの料金は、シミの状態、着物の状態によって大きく上下します。黄変直しの作業に入る前に、どのような工程が必要になるか、料金が全体でいくらかかるかという見積もりをキチンと出してくれるお店を選びましょう。
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着物の黄変直しができないこともある?
着物の状態や種類によっては、技術力のある専門店でも着物の黄変直しができない場合もあります。代表的な例について解説しましょう。
生地そのものが薄い場合
・着物の裏地(胴裏)の黄変
・長襦袢の黄変 等
胴裏等の生地は、表地に比べてとても薄く作られています。そのため強い漂白をすると繊維が壊れて、元に戻らなくなってしまうのです。そのため、原則的にどこの悉皆屋やクリーニング店でも、「裏地」と「長襦袢」の黄変は受け付けていません。
裏地が黄変してしまった場合は、仕立直しで裏地を新しいものに取り替えた方が良いでしょう。クリーニングだけでなく、仕立直しも含めて相談に載ってくれるお店に持ち込むことをおすすめします。
先染め生地の着物(織りの着物)
・紬
・御召(御召縮緬)
・木綿着物
・ウール着物 等
「先染め(さきぞめ)」とは、先に糸を染めてから織った生地のこと。「後染め」は反対に、生地を織り挙げてから色を付けます。
先染めの場合、縦糸・横糸の「織り」によって色を表現するのが特徴です。洋服の場合だと、デニムジーンズの生地が「先染め」。デニム生地をよく見てみると横糸には「白糸」が使われていて、3回に1回は白色が見えるようになっています。ジーンズの独特の風合いは、このような「織り」でできているのです。
着物の場合もこれと同じ。先染め生地は「織り」によって色の風合いが決まるため、色が変色したところ、色が抜けてしまったところを後から染料を足して直す、ということがほぼできません。そのため黄変直しをすることが非常に難しいのです。
とても細かい地柄の着物
・江戸小紋
後染め着物(染の着物)の中でも江戸小紋等は「極小」とも言える細かな柄行が全面的に入っているのが特徴です。このような柄の場合、変色した部分を漂白しても、後から染色補正をすることができません。
柄の大きさやシミの状態にもよりますが、原則として江戸小紋は黄変直しNGとするお店が多いと考えておいた方が良いでしょう。
生地が劣化している着物
・アンティーク着物
・タンスの中に何十年も眠ったままの着物
正絹等の繊維は、酸化が進むことで徐々に劣化し、弱くもろくなっていきます。強度が大幅に下がっている場合、繊維が漂白・染色等に耐えることができません。生地に穴が開く、生地がやぶれる…このようなトラブルが起こる恐れがあるため、黄変直しができないケースが多いのです。
ただし外側の見た目だけで、生地の状態が劣化しているかどうかを素人判断しない方が良いでしょう。一度クリーニングのお店に持ち込んで、専門家の目で判断してもらった方が安心です。
チョコレート色の黄変・広範囲の黄変
上の項目の1「着物の黄変とは」で解説したとおり、黄変シミの症状は時間が経つごとに徐々に色が濃くなっていきます。濃いチョコレートのようなシミは、黄変の最終段階と言ってもよいような重い症状です。
シミの色がここまで濃くなってしまうと、漂白作業を相当に行わないと色が取れなくなります。着物の生地が漂白に耐えきれない可能性が高いため、「黄変直しができない」と言われてしまうケースもあるのです。また黄変シミの範囲がとても広い場合も、同様に漂白だけでは対処ができないことがあります。
ただこれらの場合「地色を全面的に濃い色に染め替える」「柄を付け足す」といった方法で着物を美しい状態へと蘇らせることができるケースもあります。染色補正についても詳しく、様々な視点で着物の復活」を案内できる専門店に相談をしてみることをおすすめします。
おわりに
着物の黄変について、また黄変直し・黄変抜きについてのよくある疑問の解説はいかがだったでしょうか。なお、当店・着物ふじぜんでは「黄変直し」等の古いしみ抜き、また黄変による染色補正のご相談も承っています!
「この黄変は直せるの?」といった素朴な疑問についても、専門家である着物鑑定士がご相談にメール・LINE等で回答中です。着物の黄変直しでお困りの場合には、一度『ふじぜん』までご相談ください。