「着物のおしゃれを楽しむようになったけど、着物の保管や管理の方法はどうしたら良いの?」とお悩みではありませんか?着物の保管や管理の方法は、洋服の保管とは少し違うんです。
適当に管理をしていると、大切な着物がダメになってしまう!ということも。着物の収納や保管・管理の歩法をキチンと知って、大切な着物を長持ちさせましょう。

着物の収納はタンス?ハンガー?
まずは着物をしまう場所、収納方法から見ていきましょう。
理想は「桐たんす」?
着物をしまう収納方法として、もっとも理想的なのは和ダンス(中でも桐たんす)です。質の良い和ダンスは着物を畳んだ状態で平らに重ねて収納できるだけでなく、湿気対策・防虫対策としても優れています。
最近ではクローゼットの下段に入るタイプの桐たんす(桐製の収納ボックス等)を販売するインテリアショップも登場するようになりました。本格的な和ダンスに比べれば、価格もリーズナブル。「和ダンスを置くのはインテリア的にちょっと…」という方でも、これなら取り入れやすいですね。
- 着物を持っている枚数が多い(これから増やす予定がある)
- 着物の出し入れや季節のお手入れをラクにしたい
上のような方は特に、早めの桐のタンスのご用意をおすすめします。
収納ボックスはサイズと素材に注意
「着物のためにタンスは置けない」という場合、着物用の保存箱(衣装ボックス等)を利用する人も多いことでしょう。衣装ボックスでは、サイズと素材に注意が必要です。
サイズ
着物を本畳みにしてから「タトウ紙」に入れた状態で、まっすぐ平らに入るサイズを選びましょう。サイズは多少前後しますので、ここではゆとりのあるサイズをご案内します。
横:40センチ以上(タトウ紙サイズ36センチで換算)
縦:90センチ以上(タトウ紙サイズ83~85で換算)
厚み:30センチ以上(長襦袢、帯等の収納も考慮)
素材
衣装ボックスの素材にはそれぞれメリット・デメリットがありますので、考慮しながら購入することが大切です。
- 木製ボックス:桐製等。製品価格は高いですが、湿気や防虫対策(グッズの取替等)はかなりラクです。いわゆるランニングコストと手間が少ない収納法となります。
- 金属製の衣装ボックス:ブリキ製等。近年は製品数が少ないですが、中古品をアンティークショップ等で購入する方も居ます。重いのが難点ですが、湿気対策・防虫対策ともに強いです。
- ダンボール製のボックス:ボール紙等の衣裳箱は湿気を吸いやすく、カビや縮みの原因になりやすいです。吸湿グッズの取替、虫干し等の湿気対策を通常の3倍は行う必要があります。また経年劣化が早いので、買い替えは数年ごとに行った方が良いです。荷重は比較的弱いため、たくさんボックスを積みたい人にも不向き。
- プラスチック製のボックス:安価なのが魅力。しかし湿気を溜め込みやすく、防虫的にもやや弱い面があります。防虫グッズを頻繁に取り替える、陰干しの回数を増やすといったお手入れの手間とランニングコストがかかる着物の保管方法です。
着物専用の収納袋を使う方法も
もっと手軽に着物を収納したい時には、着物専用の収納袋を使うのがおすすめです。様々な製品がありますが、ここでは「キモノの休息」をご紹介します。
【キモノの休息】
除湿シートがセットされている着物専用の保存袋です。湿気が溜まりにくいアルミナ蒸着特殊積層フィルムで作られています。
「着物」「長襦袢」「帯」をそれぞれタトウ紙に入れた状態で除湿シートと一緒に袋に入れるだけ。スライダーで開閉ができるので出し入れもカンタンです。着物ワンセット(長襦袢や帯)をまとめて保管できます。
- 着物を持っている数は1~2枚
- 着物を増やす予定は無い
- タンスやボックスを置く場所が無い
上のような人には、保存袋は特に便利ですよ。
着物のハンガー保管はNG!
「着物は洋服のようにハンガーで保管できないの?」と思う人もいることでしょう。しかし残念ながら、着物はたとえ和装専用のハンガーでも、ハンガーにかけたままでの収納はできません。
着物は洋服のように人が着ている状態(吊るした状態)を考えた立体裁断ではなく、平らに置いた状態を基本にして作られています。ハンガーにかけていると段々と襟等が「型崩れ」を起こしてくるのです。
また、畳んだ状態でスラックスハンガー等に引っ掛ける方法もNG。ハンガーにあたっている部分が徐々に擦れて色落ちや加工のハゲの原因になったり、取れないシワを作ることもあります。
販売店やレンタル店で着物をハンガーにかけているのは、頻繁に着物を動かす「短期間の展示」であるため。ご家庭で1年~数年とずっと着物を保管するのには、ハンガー保管は不向きなのです。
- 着物は畳んでしまうこと
- 平らに保管すること
着物を長持ちさせるために、上の2点は必ず守りましょう。
着物保管中の湿気対策・除湿剤
日本は湿気が多い気候です。そのため湿気で着物にカビが生えるというトラブルがとても多く見られます。また湿気の多さは着物の酸化による変色(黄変)の原因にもなります。湿気を溜め込まないことは、後述する防虫対策のためにも大切です。
除湿シートや吸湿グッズは必要!
従来の着物の保管方法ですと、「引出しやボックスに新聞紙を敷いて、除湿剤を入れれば十分」という方も多いのではないでしょうか。しかし残念ながらこの方法では、現代の除湿方法としては不十分です。
昔の木製の日本家屋の時代に比べて、現代の家屋は密封性が高く、それだけ湿気が溜まりやすくなっています。より徹底した湿気対策をしないと着物にカビが生えるのです。
- クローゼットには『水とりぞうさん』等のボックス型除湿剤
- ボックス内は引き出しには除湿シート
- たとう紙の中に除湿剤(シリカゲル等)
これを全部やっても、湿気が頻繁にたまるご家庭もあります。除湿グッズは定期的に状態をチェックして、交換するようにしましょう。
タトウ紙の中に入れる除湿剤は着物専用のものにするとさらに安心です。着物専用除湿剤は、呉服店や着物のお手入れ専門店で販売しています。
タトウ紙も定期的に交換を
着物を包むタトウ紙(文庫紙)、買ってきたままのものを使い続けていませんか?タトウ紙は着物を湿気から防ぐ役割も持っていますが、同じものを使い続けていると吸湿力が落ちてきます。
「高級な品物だから交換は不要」といったことはありません。タトウ紙の品質にかかわらず、2~3年に一度はタトウ紙を交換しましょう。
タトウ紙はどこで買える?
呉服店での対応はまちまち
店名入りのタトウ紙は販売してもらえないことが多いです。これはブランドショップの紙袋を売ってもらえないのと同じ。店名入りタトウ紙は「お店で購入した証」なので、単品販売はしないんですね。
でもお店によっては、店名が入らないタトウ紙をお手入れ用に売っていることもあります。取り扱いを確認してみましょう。
ネットで買う時は枚数に注意
最近ではタトウ紙(文庫紙)をインターネット(Amazonや楽天市場等)でも買えるようになりました。ただ、購入する時には枚数に注意です!
「たくさん買った方が一枚あたりの単価が安いから」とまとめ買いをするのはNG。湿気の多いご家庭でタトウ紙を置いておくと、湿気を吸ったり劣化してしまうことがあります。できるだけ必要最小限を購入することをおすすめします。
タトウ紙は当店でも取り扱い中です
当店できもの丸洗い等のクリーニングをご利用いただいた方には、きものを新しいタトウ紙に包んでお送りしています。
またタトウ紙単体での販売も1枚200円(税別・送料別)で承ります。タトウ紙ご購入をご希望の場合は、お気軽にご相談ください!
着物保管中の防虫対策・防虫剤
日本には「ヒメカツオブシムシ」「ヒメマルカツオブシムシ」「イガ」「コイガ」の4種類の衣類害虫がいます。正絹(シルク)の着物やウールの着物はもちろん、木綿着物が虫食いの被害にあうこともあるのです。
虫被害に遭ってから対策をするのでは間に合いません。早めに、かつしっかりと予防対策をすることが大切です。
防虫剤の選び方
防虫剤には、次のような種類があります。
- パラジクロロベンゼン
- ナフタリン
- 樟脳(しょうのう)
- エンペントリン(ピレスロイド系)
好みにもよるところはありますが、樟脳は独特の匂いがつきやすいためあまりおすすめができません。また種類によっては着物の金彩などの施し(箔)の変色が起こる可能性もあるので注意が必要となります。
防虫効果も高く、匂いもつきにくいものとしては「エンペントリン(ピレスロイド系)」の使用がおすすめです。
防虫剤は1種類を選ぶ
使用する防虫剤は必ず1種類に限定しましょう。あれこれと混ぜて使用すると、化学反応を起こして着物の変色トラブルの原因となることがあります。
防虫剤の置き方にも注意
防虫剤や乾燥剤は、着物の上に直接置くのはやめましょう。タトウ紙の四隅に置くようにした方が、万一の変色トラブルを防げます。
香り袋・アロマオイル等はNG!
「虫よけの香りだから」と香り袋やアロマオイルを付けた紙等をタトウ紙に同封する方が居ますが、これは絶対にNGです。
人工香料、アロマオイル等の自然香料を問わず、「香料」は長く繊維と触れていると「シミ」になります。香料系のグッズと着物を一緒に保管すると、取れないシミができてしまう可能性が高いのです。
香り袋やアロマオイルによるシミは、最悪の場合、専門店でも落としきれないことがあります。十分にご注意ください。
着物は保管前に陰干し・お手入れを
着物をタンスや保管袋に入れる前には、必ず次のような手順でお手入れをしておきましょう。
シーズン中には「陰干し」を
一度着物を着たら、タンス等にしまう前にかならず「陰干し」をして繊維の中の湿気を飛ばします。
【陰干しの手順】
- 着物専用のハンガーに着物をかけて、形を整えます。(屋外干しの場合は物干し竿でもOK)
- 屋外もしくは屋内で、直射日光が当たらない場所に干します。屋内の場合は窓をあけて換気します。
- 衿元(えりもと)・裾(すそ)・胴裏(裏地)等に汚れが付いていないか、全体をチェックします。
- 二日程度は干し続けます。汗をかいた場合や雨の日の着用後等は三日以上干します。
※屋外の場合は夜間は取り込みます。
※室内干しで湿度が高い場合には、エアコン等で除湿をしましょう。
※扇風機やドライヤー(冷風)で風をあてるのもOKです。
汚れを発見したら「シミ抜き」
陰干しの際には、今回の着用で汚れがついていないかを徹底的に確認します。もしも何らかの汚れを発見した場合には、原因に合わせたシミ抜き対処を行います。
ご家庭でのシミ抜き対処が難しい場合には、専門店で「シミ抜き(部分洗い)」をしてもらいましょう。
ご家庭でシミ抜きができるかどうか、その方法等はシミの原因や着物の素材によっても違います。当店のブログでも様々な原因のシミ抜き対処法をご案内していますので、あわせてご参照ください。
長期保管の前には「丸洗い」で汚れを落とす
シーズンの終わりや、しばらく着ることの無い礼装用の着物(喪服着物や振袖、留袖等)は、長期保管をする前に着物丸洗いクリーニングをしておくと安心です。
「着物丸洗い」をしておけば、着用でついた皮脂汚れ、チリ・ホコリ汚れ等も落とすことができます。
ふじぜんの丸洗いなら水性汚れもスッキリ!
当店『ふじぜん』の丸洗いであれば、事前にシミ・汚れの種類をご指定いただくことで、一般的な丸洗いでは落とせない「水性汚れ」のシミも一緒に落とすことができます。
シミ抜きも全体的な汚れ落としも一回で済みますから経済的です。長期保管の前にぜひご利用ください!
保管中も定期的に虫干しを
「保管する前にクリーニングをしたから」という場合でも、数年もそのまま保管をするというのはNGです。必ず定期的に虫干し(陰干し)をして、保管中にこもった湿気を取りましょう。
虫干しの方法は?
虫干しの方法は上でご案内した「陰干し」と同じです。
虫干しの時期は?
虫干しの時期は、一般的に次の時期が良いとされています。年に最低2回、できれば3回するのが理想的です。
- 冬の場合:1月~2月上旬頃
- 夏の場合:梅雨の終わり~8月上旬頃
- 秋の場合:10月~11月上旬頃
※本州で標準的に湿度が低く、空気が乾燥している時期を想定しています。お住まいの地域によっては時期が変動します。
※梅雨の時期、台風の接近している時等は湿度が上がるため、虫干しをしないでください。
※晴れの日が2~3日続く時が理想的です。
除湿剤や防虫剤の交換も!
虫干しの際には、入れておいた除湿剤や防虫剤の状態もチェック。次回までに不足しそうな場合には、早めに交換しておくことが大切です。
おわりに
着物は大切に管理・保管をすれば、子・孫の代にも受け継ぎながら着ることができる品物です。しかし着物の収納方法を間違ったり、管理を手抜きしてしまうと、高級な着物が一年でダメになってしまうこともあります。
当店でももちろん「着物にカビが生えた」等のトラブル対応は承っております。でも虫食いやカビ、黄変等の状態によっては、着物を元には戻せない…ということも。「あのとき、ちゃんと管理をすればよかった……」と後悔することのないように、着ない時こそ着物を大切に扱いましょう。