着物に付く汚れの中でも、比較的に自分で対処がしやすいのが油溶性のシミや汚れです。例えば皮脂汚れ等は早めに自分でお手入れすることで蓄積を防げ、着物のキレイな状態を長持ちさせることができます。
着物の汚れについて正しい知識を持っておけば、コストを抑えてお手入れができますよ。
目次
着物の「油溶性の汚れ」とは?実例と特徴
着物についた「油溶性のシミや汚れ」とは、油分が多く、水分(水性の汚れ)をほとんど含まないシミのことです。「油性のシミ」「油性の汚れ」とも言います。
例
- 皮脂の汚れ
- パウダリーファンデーションの汚れ
- 口紅の汚れ
- バターソースのシミ
- オリーブオイルのシミ 等
ちなみに油分が多くても、同時に水分(水性の汚れ)も多く含むものは「混合性のシミ」となり、シミ抜き方法が違うので注意しましょう。例えばドレッシング等は「油 + 水(果汁や酢等)」の汚れなので混合性です。牛乳や母乳等も脂肪分が多いため、混合性と考えた方が失敗しません。
油溶性汚れには、次のような特徴があります。
油によく溶ける
油溶性汚れは、その名前のとおり「油には溶けやすい」という特徴を持っています。そのためクリーニング店等でも石油系の溶剤を使って汚れを溶かします。一般家庭でも、石油から精製されたベンジン等の揮発油を使って汚れを溶かすことができます。
水には溶けずに広がる
油溶性汚れは水には溶けません。水をいくら含ませても汚れが落ちず、かえって汚れが水に乗って広がり、シミ被害が拡大することが多いです。着物に油溶性のシミや汚れが付いた時、応急処置では水で濡らしてはいけません。
後から汚れが目立つことも
着物の油性汚れは、キチンと落とさないと後から汚れが酸素と結びつき、油染みや変色シミとして浮いてきます。また皮脂汚れ等は時間が経つほど黒ずんで目立ちます。
シミが目立ってからだと自分での対処ができないことも。早い段階でキチンとシミ抜き等の対処をしておきましょう。
着物の油溶性汚れのシミ抜き方法
着物についた油溶性のシミや汚れは、付いたばかりの新しいものなら自分でベンジンでシミ抜き対処ができます。ただ、ベンジンのシミ抜きには失敗してしまう人も。正しい対処法を知っておきましょう。
用意するもの
- ベンジン(クリーニング用のもの。カイロ用はNG)
- 柔らかい布かガーゼ(汚れて捨てても良いもの)
- タオル(色が薄く、汚れて捨てても良いもの)
事前の準備
※窓を開けて換気します。乾燥終了までは常に換気しましょう。ベンジンは揮発性で、刺激のある成分が空気中に飛び散ります。
※ベンジンは引火性で火事の危険があります。火器類(コンロやストーム、ライター含む)の使用は全て止めてください。
※染料や生地によっては、ベンジンで色落ちや変色が起きることがあります。共布や裏面の目立たない場所等で「色落ちテスト」を行っておきましょう。
※シミの状態によっては家で汚れが落ちないことがあります。下の「居で落ちない油溶性のシミ」の項目も必ず読んでから作業に入りましょう。
油溶性汚れのシミ抜き・汚れとりの手順
- 下にタオルを敷いてから、着物の汚れがある部分を広げます。
- 柔らかい布にベンジンを適量染み込ませて、汚れの部分を軽く叩きます。
- 汚れが溶けて、タオルやガーゼに移ってていきます。常にタオルや布の位置を動かしながら、きれいな面が着物に触れて、汚れを吸い取っていくようにしましょう。
- 着物の油溶性汚れが落ちたら、布にもう一度多めにベンジンを染み込ませて、広い範囲にベンジンをふくませるようにして、境目をぼかします。乾いた面と濡れた面の色ムラ(輪ジミ)が目立ってしまわないように、しかりとぼかしこむようにしましょう。
- 着物用のハンガーに着物をかけて、着物を十分に乾かしてベンジンの成分を飛ばします。
(着物が水洗い可能な場合には、乾燥前にすぐに水と中性洗剤を使って部分洗い・全体洗いをするのがおすすめです。水と中性洗剤で仕上げ洗いすることで「輪ジミ」になるのを防ぎやすくなります。)
注意点
※ベンジンを使って強く布をこすると、毛羽立ち・色ハゲの原因になります。着物はやさしく叩くようにしましょう。また汚れが落ちきらない場合、無理に何度も同じ箇所を叩かないようにしてください。
※ベンジンの「ぼかし」に失敗すると輪ジミができてしまいます。いきなり振袖や留袖等の高価なフォーマル向け着物でベンジンを使用せず、一般の洋服等の衣類、普段着着物等で十分に練習をしておくことをおすすめします。
自分では落とせない油溶性のシミもある?
着物に付いた油溶性のシミや汚れは、状態によっては家では落とせないことも。シミの古さ、大きさ、色味等を確認してみましょう。
乾いてしまっているシミはNG
布についた汚れは、時間が経って乾燥すると繊維に定着してしまい、取れにくい汚れになります。特に色素成分が多いシミだと定着力が強いです。
シミの原因にもよりますが、ご家庭用のベンジンで対処ができるのは汚れが付いてから2~3日程度が限度。数日以上が経過して乾いてしまっている油溶性のシミ汚れは、家庭用の溶剤では落とすことができません。
後から浮いてきた古いシミはNG
見た目にはわからなかった油溶性シミが、後から「油シミ」になって浮いてきた…このような古いシミ・酸化シミは、残念ながら家では対処することができません。下の「クリーニング」の項目で詳しく解説しますが、一般的なクリーニング店では落とせないシミもあります。
黒ずみになった皮脂汚れはNG
衿・袖裏等で縦縞のようになっている「黒ずみ」は、皮脂汚れが固まって層になり、酸化して黒ずんだものです。これも油溶性汚れの一種ではありますが、蓄積して完全に固まっている状態なので、ご自宅のベンジンでは対処することができません。専門的で部分的な汚れ落とし(シミ抜き)を依頼しましょう。
着物の油溶性汚れはクリーニングで落ちる?
着物の油溶性汚れが自分では落とせない状態だったり、自分でシミ抜きをするのはちょっと不安…という時は、クリーニングに出すことになりますね。でも一般的なクリーニングで着物の油溶性汚れは落ちるのでしょうか?
丸洗いで落ちるのは軽い油溶性汚れまで?
一般的な着物クリーニングの「きもの丸洗い(全体的なドライクリーニング、機械洗浄)」で落ちるのは、最近付いたごく軽い油溶性汚れまでです。例えば最近付いた皮脂汚れといったところですね。くっきりと付いた「シミ」を機械洗いだけで落とすのは厳しいと言わざるを得ません。
特に激安系の着物クリーニング店だと「何もチェックせずに機械に放り込むだけ」といったところもありますので…これだと油溶性シミが落ちるのは期待できないでしょう。
ちなみに当店『ふじぜん』では、着物丸洗いクリーニングの前に手作業での予洗いを行っています。そのため、最近付いた軽いファンデーション汚れ等であれば、丸洗いでもキレイに落ちます。同じ「丸洗い(ドライクリーニング)」でもお店によって少し内容に違いがあるのです。
ハッキリわかる汚れは「シミ抜き」を依頼
見た目にもハッキリとわかる油溶性のシミ・汚れが着物に付いた場合には、着物の丸洗い(全体洗い)ではなく部分洗い(シミ抜き)をオーダーした方が安心です。その場合、お店に「何の汚れなのか」をわかる範囲で申し伝えた方が、より的確にシミ抜き作業をしてもらえますよ。
なお専門の職人さんが居ないお店だと「洋服シミ抜きはできるが、着物のシミ抜きはできない」ということがあるので注意しましょう!
古いシミは「黄変抜き」が必要かも?
「何年も保管していた着物にシミが浮いていた」「黄ばみや茶色いシミになっている」このような場合には、シミが長い時間をかけて酸素と結びつき、変色シミ(黄変)になってしまっている可能性が高いです。
黄変は一般的なクリーニング店だと「落とせない」と断られてしまうことがほとんど。「黄変抜き(古いシミ抜き)」ができるような、着物の扱いに詳しいクリーニング店を選びましょう。
おわりに
着物についた油溶性の汚れやシミは、上で解説したとおり、自分でシミ抜きできるものもあります。ただシミ抜きで失敗して汚れを広げてしまった…という事例も多いので、十分な注意が必要です。
着物のクリーニング店でのシミ抜きは、だいたい「汚れの大きさ」で料金が決まります。自分で無理してシミ抜きした結果、汚れを広げてシミ抜き料金が高くなってしまった!」ということも正直、多いのです。
また最悪のパターンとしてはゴシゴシと着物をこすりすぎて、表面が白くなる「スレ」ができてしまう…というものがあります。酷いスレになってしまうと、後から専門店に持ち込んでも元に戻すことができません。
着物の油溶性シミや汚れは、早い段階であれば専門店でスムーズにキレイにすることができます。お手入れに慣れない方や、高価なフォーマル着物等の場合には、早めに専門店に相談するのも良い手ですよ。