「タンスにしまいこんであった昔の留袖、まだ着られるかしら?」「祖母や母の留袖を、いま着てみたいんだけど…」最近の着物ブームを受けて、このようなお話もよく聞くようになりました。留袖等の着物は洋服とは違い、娘・孫へと受け継がれ長く着られるのが魅力。昔の留袖がまた活躍してくれるのは、とても嬉しいことですね。
でも昔の留袖を着用される場合、まずはいくつかの点をチェックしておいた方が安心です。ここでは昔の留袖について確認しておきたい「比翼」や「家紋」等について解説していきます。
目次
留袖は比翼仕立てになっていますか?
比翼仕立て(ひよくじたて)とは、留袖の独特の仕立て方のこと。襟・袖・裾等の裏側に白い生地を付け、まるで重ね着をしているかのように見せる仕立て方を指します。
格調高い礼服である留袖は、かつて白い下着となる薄い着物(本襲・ほんがさね)を一枚下に着込むのが正式な着方でした。しかし二枚の着物を重ねて着ると嵩張りますし、重いですよね。そのため重ね着風に見せる「比翼仕立て」を行うのが一般的となったのです。
重ね着は「良いことを重ねる」という意味もあるため、慶事である結婚式にはピッタリ。そのため比翼のある留袖は最も結婚式にふさわしい格調の高いフォーマル服(正礼装・準礼装)とされています。
もしも比翼がなかったら?
上記のとおり、かつての留袖の着方は「留袖+白下着」であり、比翼はありませんでした。そのため昔の留袖を出してみたら、比翼仕立てではなかった…というケースは珍しくありません。この場合、どうしたら良いのでしょうか?
1)本襲を下に着る
昔通りに薄い下着(白の羽二重)を一枚着込む方法です。マナーとしてはもちろんこの方法は礼儀に叶っており、伝統的な着用法と言えます。しかし夏季の場合等には非常に暑い上、ふだん着物を着ない方にはかなり重苦しく感じられ、着崩れる可能性も高いです。
2)比翼無しで一枚で着る
比翼無しのままで、帯揚げや半衿を白にして礼服風に着る…という方もいらっしゃるようです。しかしこの方法はあまりおすすめできません。というのも比翼が無い(重ね着に見えない)留袖は「留袖」として扱われず、着物の格が訪問着レベルに下がります。いくら紋が入っていても着物の格としてかなり落ちるため、特に親族の方が着用される留袖の着方としては不適格とされる可能性が高いです。
3)比翼仕立てに仕立て直す
今後も礼服として留袖を着用されるなら、比翼仕立てにお直しする方法が最も効率的と言えるでしょう。現在では留袖をほどいて仕立て直さず、お着物の形のままで比翼を作り付けることが可能です。その分、お直しの価格もグッと手軽になりました。これから新しい留袖をレンタルされるのと変わらない料金ですので、今後の着用を考えるのならお直しされた方がオトクと言えるのではないでしょうか。
留袖の「家紋」を確認しましょう
家紋についての考え方は、地域によって大きく異なります。近畿地方を中心とした西日本の場合、留袖に「女紋」を入れることも多いです。女紋とは母譲りの紋であり、お祖母様・お母様・そしてお嬢様へと受け継ぐ女性専用の紋を指します。
関東の場合には、女紋の習慣はあまり一般的ではありません。この場合、女性が着用する着物の家紋は「着物を仕立てた家」や「着物の着用者の出身」表すことが多くなります。
嫁入り道具として仕立てた黒留袖に、ご実家の紋が入ることがやや多いと言えるでしょう。反対に結婚後に婚家が留袖を仕立ててくださったら、婚家の紋が入る…というわけですね。ただしこれも地域性が大きく、一概に「家紋の考え方はこれが正しい!」とは言い切れません。
留袖を譲られる場合にはご注意を
上記のとおり、家紋についてはお住いのご地域・ご家庭によっても考え方が大きく異なりますので、ここではあくまでも一例としてご注意をさせていただきます。
例えば家紋が示すのが「実家(嫁入り前に黒留袖を誂えた家)」を意味する地域であったとしましょう。この場合、お母様がお持ちになっている黒留袖の家紋は「お母様のご実家の家紋」ですね。ところがこれをお嬢様にお譲りするとしましょう。この時、お嬢様が付けるべき家紋は「お嬢様のご実家のもの」となります。つまりお嬢様のお父様のおうちの家紋(お母様の婚家の家紋)であり、家紋が違うことになってしまいます。
家紋は入れ替えが可能です
「娘に留袖をお譲りになりたい、でも家紋が合わない…」そんな時には紋の入れ直しをしてみましょう。着物のお直しの専門店では、現在有る家紋を落とし、新たな家紋を入れるお直しを承っています。「家紋が違うから」と古い留袖をそのまま眠らせるのはもったいないもの。紋ひとつを入れ直せば、お嬢様の着る礼服として新たに留袖が活躍できるのです。
留袖に「カビや変色」はありませんか?
さて「比翼」や「家紋」がOKであったら、今度は留袖全体を広げて、明るい場所で留袖の状態をよく確認してみましょう。20年~30年以上タンスで眠っていた…という留袖の場合、カビや変色といった問題が起きている可能性も少なくありません。着る直前になってから「しまった!」と思うより、早めのチェックが大切です。
【チェックするポイント】
・黒留袖の茶色い変色(湿気による変色、水性の汚れ残り・汗残りによる変色)
・黄変(保管中の酸化による白黄色になる変色)
・白カビ・黒カビ・青カビ
・黒ずみ等
カビや変色を見つけたら?
「カビてしまっているから、もう着られない…」そんなふうに諦める必要はありません。上記のような変色や黄変・カビについては、着物カビ取りクリーニング専門店であれば対処することが可能です。プロの技術であれば、かつて着用されていた頃のように留袖を美しく復元することもできます。
なおカビや変色について「通常のシミと同様に自分で対処しよう」と言うのはかなり危険ですのでおすすめできません。カビ菌は一度生えると生地の奥にまで繁殖するため、外側からのみの対処で駆除するのは難しく、拭うだけでは汚れを広げる可能性も。また黄変は拭って取れる汚れではなく、生地の繊維の酸化(染め自体の変色)なので、専門知識がなければ対処できないのです。
素人対処で汚れを広げ、専門家でもカバーできなくなってしまった…というケースもある様子。せっかくの大切な留袖ですから、無理にご自分で対処なさらず、早めに専門家に頼りましょう。
おわりに
昔の留袖を着る際のチェックポイントはいかがでしたか?20年前~30年前の着物には、生地の品質が良い品物も多いもの。ほんの少しのお直しで昔の留袖を蘇らせれば、現在販売されている留袖よりも美しく装えるかもしれませんよ。