気軽に着ることができるポリエステル着物は、普段着として使ったり、着物を着る練習としてもピッタリ。価格もお手頃でデザインも豊富なので、「とりあえずポリエステル着物から着物に挑戦する」という人も多いのではないでしょうか。
ポリエステルは丈夫な素材ですから、着物のシミ抜き等のお手入れがしやすいのも魅力です。でもしみ抜きする場合には、いくつか気をつけた方が良い点もあるんですよ。
目次
ポリエステルの着物、水洗いOKではないことも?
ポリエステル着物をシミ抜きする場合、まずその着物が水洗いができるか、そうでないかを確認する必要があります。
ポリエステルは基本的に水濡れに強い素材です。そのため一般的には「ポリエステル着物=すべて水洗いできる着物」と思われがち。でも次のような場合には、ご家庭では水洗いすることができません。
ポリエステル混紡は洗えないことも
混紡(こんぼう)とは、2つ以上の素材を混ぜて織り上げた布地のことを言います。ポリエステルは丈夫で安価な素材なので、様々な素材と混紡されていることも多いのです。
混紡の例
- ポリエステルとウール混紡
- ポリエステルとレーヨン混紡
上の例の場合、レーヨン混紡は家では洗えない可能性が大!レーヨンはとても縮みやすい素材なので、家で洗うと型崩れしやすいです。またウール混紡の場合も、ウールの加工の有無によって、洗えるものと洗えないものがあります。
特殊加工は洗えない
次のような特殊加工がついている場合には、ポリエステル素材の着物でも自分で水洗いすることはできません。
- 刺繍(ししゅう)がある
- レースが付いている
- ビーズが付いている
- スパンコールが付いている
- 一部に皮革が使われている
- 一部に金箔・銀箔等の加工がある 等
上のような着物を無理に水洗いすると、その部分が縮んだり、加工が取れたり、色落ちをして周囲に色が広がることがあります。
繊細な作りは水洗いNG
次のような作りの場合も、水洗いは不可となっています。
- シワ加工がされている
- 特殊な絞り加工がある 等
水洗いを繰り返すとシワ加工が取れてしまったり、せっかくの風合いがダメになってしまうことがあるのです。
洗濯表示を確認しよう!
メーカーの洗濯表示は、上のような様々な要素を考慮して水洗いの可・不可を決めています。着物に洗濯表示がある場合には、その内容を必ず確認して、指示に従いましょう。
また洗濯表示が無いポリエステル着物については、上でご紹介したような要素を考慮しつつ、自己責任で判断をしてください。
洗えるポリエステル着物のシミ抜き方法
水洗いができるポリエステル着物のシミ抜き方法は次のようになります。
※注意※
この方法では落とせないシミの種類もあります。このページの最後の項目まで必ずチェックし、シミの原因を特定してからシミ抜きを行いましょう。
準備するもの
- キッチン用洗剤
- 洗濯用洗剤(中性タイプ)
- 酸素系漂白剤(液体タイプ)
- 歯ブラシ(捨てても良いもの、毛の柔らかいもの)
- 小皿かボウル等の容器
- 洗濯用ネット(畳んで着物が入るサイズ)
- 着物専用ハンガー(洋服用はNG)
- アイロン、アイロン台
シミ抜きの手順
- シミのある部分をぬるま湯で濡らします。
- 容器に少量の水を入れてからキッチン用洗剤を適量溶かします。
- シミの部分に溶かしたキッチン用洗剤を歯ブラシで付けて、軽く叩いていきます。
- 汚れが取れない場合には、酸素系漂白剤を少量付けてから、中性洗剤を溶かしたぬるま湯に10分程度浸します。
- 汚れが取れたら、着物を畳んでネットに入れ、中性洗剤を使って洗濯機で洗います。モードは手洗いモードかソフトモードを選びます。型崩れが不安な場合は、中性洗剤を溶かしたぬるま湯で優しく全体を押し洗い(手洗い)しましょう。
- 洗濯機での脱水は、シワを防ぐためにできるだけ短めにします。
- 着物専用のハンガーにかけて、直射日光のあたらない場所で陰干しします。
- 細かなシワが残った場合には、あて布をしてアイロンし、形を整えます。
【注意点】
※シミの原因が「血液・卵・牛乳」等を含むタンパク質シミの場合、洗浄には冷たい水を使いましょう。ぬるま湯を使うとタンパク質シミが固まって、取れないシミになってしまいます。
※布地を強くこするのは厳禁です。色あせ等の原因になります。
※アイロンは必ずあて布をして、温度設定に注意しましょう。ポリエステルは高温に弱く、アイロンで変質する恐れがあります。
※シミ抜き・洗濯後はかならず着物専用ハンガーを使いましょう。洋服用ハンガーでは型崩れを起こします。
水洗いNGのポリエステル着物のシミ抜き方法
「加工があるから水洗いは無理そう」「縮む素材との混紡だから水洗いできない」こんな時には、水を使わない「ベンジン」でのシミぬきをしてみましょう。
※注意※
ベンジンで落とせるのは、ファンデーションや皮脂汚れ等の油溶性のシミだけです。汗やお茶・コーヒー・醤油等の水溶性シミ、カレーやスープ・ドレッシング等の混合性シミは取り除くことができません。シミの種類が油溶性ではなかったり、シミの原因がわからない場合には、無理に自宅でシミ抜きをせず、専門店に依頼をしましょう。
用意するもの
- ベンジン:シミ抜き・クリーニング用のもの
- 古い布かガーゼ:汚れて捨てても良いもの
- バスタオル:汚れて捨てても良いもの
- 着物用ハンガー:洋服用はNG、和装専用のもの
下準備
- ベンジンは空気に飛び散る性質が強いため、使用の際には、窓を開けるか換気扇を回して換気をします。
- ベンジンは引火性です。使用の際には火器類の使用は厳禁です。ストーブやライター、コンロ等は使用をやめましょう。
- きものの染色方法によっては、ベンジンで色落ち・変色等が起きることがあります。シミ抜きを行う前に、裏面等の目立たない箇所でテストすることをおすすめします。
シミ抜きの手順
- バスタオルを敷いて、ポリエステルの着物を上に広げます。
- ガーゼまたは古い布にベンジンを染み込ませます。
- シミが付いた部分をガーゼで軽く叩きます。
- 常にキレイな面が着物に触れるようにガーゼやタオルを動かしていきます。
- 汚れが取れたら、もう一度ガーゼにベンジンを染み込ませて輪郭を叩き、濡れた部分の境目がわからなくなるようにぼかします。
- 着物用ハンガーに着物をかけて形を整え、乾かします。
【注意点】
※ベンジンを付けたガーゼでこすったり、強く叩くのはNGです。色ハゲ、色落ちの原因になります。
※ぼかしを行わないと「輪ジミ」の原因になりますのでご注意ください。
家では落ちないポリエステル着物のシミもある?
シミの原因や状態によっては、自分ではポリエステル着物のシミが落とせないこともあります。
色素の多いシミ
ワイン等の色素が多いシミの場合、ご家庭の洗剤や漂白剤では汚れを落としきれないことがあります。
固まったタンパク質シミ
血液・卵・牛乳等のシミが時間が経って乾いたり固まってしまうと、取れにくいシミになってしまいます。
不溶性のシミ
マスカラやジェルインクのボールペンのシミ、墨汁、サビ等の汚れは不溶性であるため、ご家庭で汚れを落とすのは困難です。
カビや変色によるシミ
時間が経ってカビが発生したり、黄ばみ(黄変)が起きている場合には、ご自宅ではシミ抜きができません。
上のような種類のシミを取ろうとシミ抜きや漂白を行うと、着物がダメージを受けてしまう可能性が高いです。無理に自己処理を続けず、早めに専門店に相談することをおすすめします。
おわりに
ポリエステル着物というと、かつては「洗える着物」の代名詞でした。しかし最近ではデザインを重視したポリエステル着物や、リーズナブルさを重視したポリエステル混紡着物も多数登場していて、必ずしも「ポリエステル=家でガンガン洗える」とは言い切れなくなっています。
ポリエステル着物をシミ抜きする際には、まず洗濯表示をよくよく確認するようにしましょう。またシミの原因によっては「家で汚れが一切落ちない」ということもありますので、まずは原因特定をしっかり行うことが大切です。