留袖や振袖等、礼装用の着物の多くは「正絹(しょうけん)」というシルク100%の布で作られています。このような着物を「正絹着物(しょうけん・きもの)」と言いますが、シルクなので保管方法が少々難しいです。正絹(シルク)は衣類を食べる虫の大好物ですし、さらにカビ等の被害にも遭いやすい傾向があります。
また、変色等が起きてしまうことも…。正絹着物を長くキレイに保管するために、正しい保管方法を知っておきましょう。
目次
正絹着物の保管はタトウ紙or専用袋
まずは正絹着物を何に入れて、どこに置いておくのかから見ていきましょう。
タトウ紙
正絹着物は原則として1枚ずつ「タトウ紙」に包んだ状態で保管します。1枚のタトウ紙の中に2枚も3枚も着物を入れるのはNG!空気がこもってしまいやすく、カビ菌発生等のリスクが上がってしまいます。またタトウ紙は2~3年に1回程度は交換するようにしましょう。
タトウ紙は一部の呉服店や、着物クリーニング店等で扱っています。最近ではネット購入することも可能です。当店『着物ふじぜん』でも1枚200円(税抜)でタトウ紙を販売していますので、御入用な場合にはお気軽にお申し付けください。(着物クリーニングご利用の方には、無料で新しいタトウ紙に包んでお送りしています)
衣装箱・タンス
タトウ紙に入れた正絹着物は、衣装箱やタンスの引き出し等に平らに重ねて保管します。桐等の木製の箱やタンスは、通気性が良いので理想的。プラスチックのケースは通気性が悪いので、どうしても使う場合には後から解説する「除湿剤」をたくさん入れて、頻繁に交換するようにしましょう。
なお、正絹着物を吊るして保管するのはNGです。重さがかかった部分が傷みやすくなるだけでなく、縫い糸にも余分な負担がかかります。
着物専用の収納袋
着物用のタンスや衣装箱を置けない、持っている着物の枚数が少ない…という人には、着物専用の収納袋を使う手もあります。収納袋は不織布でできているので軽く、扱いやすいのが魅力です。最近ではAmazonや楽天等、ネットでも購入できます。
正絹着物は湿気が敵!除湿剤は2種類
正絹着物はカビ菌が比較的発生しやすく、カビの匂い・カビによるシミ・黄変といったトラブルが起きやすい傾向があります。正絹着物の保管中にこのようなトラブルを起こさないために、除湿剤を入れて湿気をしっかり取るようにしましょう。除湿剤は2種類使うのが理想的です。
a.置形タイプの除湿剤
備長炭ドライペット 除湿剤 タンクタイプ 3個入×6個パック
箱のような形をしていて、中に水を溜め込めるタイプの除湿剤です。大型の方が長くたくさん湿気を取り込むことができます。クローゼットの中に何個置けばよいのかは、製品の説明書をよく読んで確認しましょう。
b.シートタイプの除湿剤
きものの友 着物 和装用防カビ乾燥剤 シートタイプ【5枚セット】
シートタイプは周囲の湿気を取り込んで、ゼリーのように固めるタイプの除湿剤です。引き出しの中やタトウ紙の中等、狭い場所にも入れておくことができます。置形タイプと合わせてシートタイプの除湿剤も入れておくと、カビの発生リスクをさらに下げることができます。
正絹着物を虫食い予防!除虫剤を入れます
正絹(シルク)は動物性繊維であり、イガやヒメマルカツオブシムシという衣類を食べる虫の大好物です。正絹着物はすべての着物の中でもっとも虫食い被害に遭いやすい衣類と言えます。正絹着物の保管で、防虫剤は欠かすことができません。
「着物用」「金糸銀糸対応」を確認
防虫剤にも様々な種類がありますが、「着物用」と製品説明に書いてある物が安心。また礼装用着物等を保管することを考えて「金糸銀糸」に対応している物を選びましょう。製品によっては金糸・銀糸を変色させてしまうので、十分に注意してください。
他の防虫剤と併せて使える?
防虫剤の種類によっては、他の防虫剤と組み合わせると良くないガスが発生してしまうことがあります。「ピレスロイド系」の防虫剤であれば、基本的に他の防虫剤と一緒に使うことが可能です。ピレスロイド系の防虫剤としては、製品名『ミセスロイド』等が挙げられます。
正絹着物は年に2回「虫干し」
正絹着物は、一度保管した後にそのまましまって置きっぱなしにするのはNGです!年に2回は虫干しをして、着物の中にこもった湿気を取り去りましょう。またその際に着物の状態確認や、保管状態のメンテナンスを行います。
虫干しの方法
- 庭・ベランダ等の屋外、または屋内の直射日光の当たらない場所で、風通しの良い場所を選びます。
- 物干しまたは着物専用のハンガーに着物をかけて、形を整えます。
- そのまま一日~二日程度干します。(屋外の場合には夜間は取り込みます)
※室内の場合、エアコン等でしっかり除湿をしておきましょう。
※扇風機等で冷風をあてつづけるのも効果的です。
※日光に当たらないように十分に気をつけましょう。
虫干しの時期
虫干しを行う時期は、「晴れが何日か続くこと」「空気が乾燥していること」の2点が守れる季節であることが大切です。お住まいの地方の風土にもよるので一概には言えませんが、例として関東であれば1月下旬頃や10月頃等が虫干しに良い時期であるとされています。
保管グッズの交換
虫干しの際には、タトウ紙や除湿剤・除虫剤等の交換も定期的に行うようにしましょう。
- タトウ紙:変色等が見られたら即時、その他は3年に1回程度のペース
- 除湿剤:水がタマリすぎている場合は即時、その他は気候にもよるが3~4ヶ月に1回のペース
- 防虫剤:年に1回程度の交換ペースの製品が多い
正絹着物の長期保管前は「クリーニング」
正絹着物を着る予定がしばらく無さそう、数年単位で長期保管することになりそう…このような場合には、正絹着物を保管する前にクリーニングに出しておきましょう。
着物丸洗い(ドライクリーニング)
着物用の溶剤を使って、着物をほどかずに全体を洗うクリーニング方法です。付いたばかりの軽い皮脂汚れや、全体的なチリ・ホコリ等を落とします。特に目立つ汚れは無いけれど、長期保管前にキレイにしておきたいという時におすすめです。
皮脂汚れや水性汚れもスッキリ!丸洗いクリーニング
着物汗抜きクリーニング
ドライクリーニングだと、水溶性汚れである「汗汚れ」は落とすことができません。汗の成分が長期保管中に酸化すると、「黄ばみ」や「黄変(茶色っぽい変色シミ)」として浮いてきてしまいます。着物を着た時に汗をたくさんかいた場合等には、丸洗いと併せて汗抜きクリーニングを依頼すると安心です。
着物の汗抜き 汗取りクリーニング
家での保管が難しい時はプロのお預かりサービス
- 正絹着物を平らに保管する場所が無い
- 除湿剤や除虫剤を選ぶのが大変
- 虫干しをする時間が無い
- お手入れが正しいのか不安
正絹着物をご自宅で保管していくことが難しい…そんな時には、プロによる衣類の保管サービスを利用するのも手です。特に着物専門の業者が行う保管サービス・お預かりサービスであれば、適切な環境下とメンテナンスで正絹着物を保管して貰えることが期待できます。
着物専門のクリーニング店である当店『着物ふじぜん』も、着物お預かりサービスを受け付けています。正絹着物の保管場所やお手入れにお悩みの際には、お気軽にご相談くださいませ。
おわりに
正絹着物は、適切に保管をすれば30年も40年も長持ちし、子どもだけではなく孫にも受け継がせることができる着物です。しかし正絹着物の保管方法が正しくなかったことで、たった2~3年で着物を変色シミだらけにしてしまい、もう使えなくなった……というケースも多く見られています。
高価で貴重な着物である正絹着物、できるだけ大切に保管していきましょう。当店では着物の保管についてのご質問等も受け付けていますので、お気軽にご相談ください。