着物ブームの到来によって、日常的に着物を楽しむ若い方が増えましたね。また最近では結婚式や葬儀の場など、「あらたまったシーンでも着物に挑戦したい」という声がよく聞かれるようになっています。でも着物の「礼服」と「喪服」の違いがわからなくて、「何を選べば良いの?」と悩んでいる方もいる様子。礼服と喪服とは、一体どのように違うのでしょうか?今回は礼服と喪服の違いについて、わかりやすく解説していきます。
目次
礼服とは?
「礼服(れいふく)」とは、礼装(正装)をする時に着る服のこと。この礼装(正装)とは、現代の言い方でいうと「フォーマル」ということになります。フォーマルな服を着る場というと、洋服で言えば男性がブラックスーツにネクタイを着用したり、女性がワンピースにヒールの靴を合わせるようなシーンです。カジュアルスタイルとも一般的なビジネススタイルとも異なる、ワンランク上の「あらたまった場面」ですね。一例としては、以下のようなシーンが挙げられます。
【礼装を着るシーン】
・結婚式
・葬儀(お葬式)
・入学式/入園式
・卒業式/卒園式
・成人式
・授与式
・七五三
・お宮参り
・格式の高いパーティー 等
つまり礼装(礼服)とは、冠婚葬祭を含む様々な「あらたまった場」で着るべき服装をすべてまとめた総称なのです。結婚式やお祝いごと等の「晴れの場」で着るものも礼服ですし、「お葬式」で着るものも礼服。つまり「喪服(喪服着物)」も、礼服の一種なんですね。
礼服の種類と格の違い
フォーマル服(洋服)で「正式なもの・略式のもの」があることは、ご存知の方も多いことでしょう。洋服の場合、裾の長いドレスが最高ランクのフォーマル服です。次に丈の短いパーティードレス、フォーマル向けのワンピース、ツーピース…と、徐々に服のランクが下がっていきます。
日本の結婚式だと、女性の洋装であればパーティードレスやワンピース等をお召しになるのが一般的ですね。卒業式に参列する親だと、もう少し控えめなツーピース等の格好をするでしょう。同じ「フォーマル服」でも、無意識のうちにランク分けをして、場に応じて使い分けているわけですね。これと同じように、着物の礼服にも「格(ランク)の違い」があるのです。
● 正礼装(第一礼装)
最も高いランクの礼装です。
- ・打掛(うちかけ):ミスのための礼装。白無垢(しろむく)、色打掛(いろうちかけ)等。独身最後の晴れ着という意味合いがあり、花嫁が着るための「婚礼の着物」として使われます。いわゆる花嫁衣装です。
- ・本振袖(ほんふりそで):ミスのための最高礼装。成人式のもの等に比べて袖が非常に長く、花嫁の晴れ着として使います。打掛と考え方は基本的に同じです。
- ・黒留袖(とめそで)・五つ紋:ミセスのための正礼装。黒地で帯から下の裾部分に柄が入ります。両胸・両袖・背中の五ヶ所に家紋が入ったものが正礼装格となります。花嫁の母親、近親者(親族側)が結婚式で着用する他、地域によっては親族全員が黒留袖着用をする場合もあります。
● 準礼装
正礼装の次に格の高い礼装です。
- ・振袖(ふりそで):ミスのための準礼装。成人式等の式典の他、結婚式の参列、パーテイー等にも使用可能です。お正月等の祝い事にも着用できます。七五三にお子さんが着るのも、こちらの「振り袖」です。
- ・色留袖(いろとめそで)・三つ紋:ミセスのための準礼装。黒以外の地色で、帯から下の裾部分に柄が入ります。両胸・背中の3箇所に家紋が入ったものが準礼装用のものです。結婚式でやや縁遠い親族(招待客側)が着用したり、祝賀会・授与式等といった高い格式の祝い事で着用します。
● 略礼装
名前のとおり略式の礼装です。幅広いシーンで使える点が魅力となっています。
- ・訪問着(ほうもんぎ):胸から裾にまで、一続きに柄が入っている着物。ミスもミセスも着用できます。「色留袖を簡略化したもの」という扱いになっています。入学式等の式典・七五三(母親)・お見合い・パーティー等にも使われる他、カジュアルな色柄のものは観劇等に使うこともあります。場合によっては「準礼装」扱いとされることも。
- ・付下(つけさげ):柄が全て上向きになるように模様が描かれているか、縫い目をまたいで柄が続かず、飛び柄となっている着物です。訪問着に比べると、少しカジュアルな扱いになる傾向があります。
- ・色無地(一つ紋):黒以外の地色で、なおかつ無地の着物(同色の地紋は入ることはあります)。「家紋」が入らないと「普段着」なので礼装には使えません。背中にひとつ「家紋」を入れると格が挙がって「略礼装」となり、結婚式(招待客側)や祝賀会等のパーティーにも着用できます。
喪服とは?喪服着物とは?
喪服(喪服着物)とは、その名の通り「喪(も)」に関わる葬儀や通夜等の弔事で着用するフォーマル着物です。前述したとおり、この喪服も「礼服」の一種にあたります。前項で礼装には「正礼装・準礼装・略礼装」があることを解説しましたが、喪服着物にも同じように「正喪服」「準喪服・略喪服」というランクの違いがあります。ここでは女性向けの喪服着物の違いについて解説します。
正喪服(せいもふく)
・黒無地染め抜き・五つ紋:地色は真っ黒で、無地。「両胸・両袖・背中」の五ヶ所に「家紋(染め抜き紋)」が入ります。関東地方では黒の羽二重で作られることが多いですが、関西地方では一越縮緬(ひとこしちりめん)が多い等、生地の仕様には地域性があります。帯は「黒無地の袋帯」もしくは「黒無地の名古屋帯」を合わせます。更に「帯締め」も、黒の平打もしくは丸くげを使用します。一般的に「喪服着物」といった場合には、着物の「黒無地染め抜き五つ紋」を指します。
正喪服は最も格の高い喪服です。喪主や家族・親族が「葬儀・告別式」や「初七日、四十九日、一周忌」等の法事に着用します。その他、「世話役代表」や故人とお付き合いが長い方、親しい知人等の方の場合、親族に近い扱いとして正喪服を着用してもOKとされる場合があります。
準喪服(半喪服)・略喪服
・色無地一つ紋:祝い事とは異なり、灰色・茶色・紺色・藍色等のくすんだ色合い(暗い色合い)の色無地を用います。色無地は前述したとおり家紋が入らないと「普段着」ですが、背中に入れた一つ紋によって格が上がり、準喪服(略喪服)としての着用ができます。黒ではない色を使うため「色喪服(いろもふく)」と呼ばれることもあります。
喪服として使用する場合、帯は「黒地の帯」もしくは「くすんだ色帯」を使います。帯締めには黒を使用するのが一般的です。また草履・ハンドバッグ等の小物類も黒に統一します。色喪服にくすんだ色の帯(色帯)や帯締めをあわせることもありますが、より格が下がって略式となっていきます。
準喪服・略喪服は、喪主・親族は通夜・初七日や四十九日、一周忌・三回忌以降の法事等に使用します。忌明け間もない頃であれば、喪主・親族は正喪服に近い姿でも問題ありません。しかし三回忌頃までには喪の表現を減らしていき、少しずつ略式へと移行していくのが一般的とされています。一般会葬者の場合には、葬儀や告別式は準喪服で、法事などでは略喪服と、より格の軽い着物で伺った方が礼儀にかなっています。
気をつけたい!礼服着物・喪服着物のマナー
礼服着物・喪服着物等のフォーマルな着物を着用する際に気をつけたいのが、着物の「格」とマナーについての考え方です。着物のマナーでは、開催者側・儀式を催行する側(ホスト側)が格の高い着物を着るのが鉄則です。結婚式ならば花嫁花婿やその家族・親族が「ホスト側」、葬儀であれば喪主とその親族が「ホスト側」ということになります。多くのお客様にわざわざ足を運んでいただくのですから、精一杯の格式の高い服を着てお出迎えをするのが大切な礼儀…という考え方なのです。
反対に招待客側(ゲスト側)、葬儀であれば一般会葬者の場合には、主催者側よりも格の低い着物を着ていくことがマナーになります。例えば結婚式で、花嫁花婿よりも華やかな格好をしていったら失礼ですよね?これと同じで、一段下げた控えめな服を着ていくことが、招待客側の礼儀なのです。
おわりに
礼服と喪服の違いはいかがでしたか?礼服・喪服というと「とにかく黒い着物」と勘違いされてしまうことも多いもの。しかし実際には様々な礼服があり、喪服にも違いがあるのです。冠婚葬祭やお祝いごとは、いずれも人生における大切な節目の時と言えます。きちんとした礼服・喪服を身につけて、その場にふさわしい装いをしたいですね。