着物の保管には欠かせない存在である「たとう紙(畳紙)」。でもその読み方や選び方・値段・買えるお店等については「意外と知らない…」という人も多いのではないでしょうか?
目次
タトウ紙とは何?
そもそもたとう紙とは何なのでしょう?たとう紙(畳紙)とは古来より、様々な道具や衣類を包むための紙のことを意味してきました。日本での製紙の歴史は非常に古く、610年頃には大陸から製紙製法がもたらされたと言われています。
平安時代にはさらにその技術が発展し、貴族達は大切な道具類や服を紙に包んで相手に渡したり、保管などに使ったり、またその他の生活の中でも紙を便利に駆使するようになったのです。
21世紀の日本においてもこのような「たとう紙(畳紙・多当紙・帖紙)」を使う伝統はそこここに残されています。
懐紙としての畳紙:着物の懐に入れておく紙(懐紙:かいし)のことを、「畳紙」と呼ぶこともあります。懐紙はかつてはティッシュペーパーとして使われてきた紙ですが、現在では茶席で使用したり、詩歌の案を書きつけるのに使うといった使用用途で登場することが多いです。
昆虫採集用の半紙・畳紙:日本で作られる和紙の通気性が良いことなどから、日本の昆虫採集業界では半紙(畳紙)を標本の保存・管理等に使うのが一般的でした。この際にも「タトウ紙」という名称が使われることがあります。
装飾品としてのタトウ紙:懐紙(ティッシュペーパー)として使われてきた畳紙は、現在の神道では禰宜さんや巫女さんが催事で持つための装飾的なアイテムとして使われることもあります。
衣裳敷としての畳紙:「たとう紙」の意味は地域によっても大きく変わることがあります。特に顕著なのが京都です。京都でたとう紙と言えば、着物を着替える時に下に敷く「衣裳敷(いしょうじき)」のことを意味します。
このページでは一番上で紹介した、「着物を包むための紙」としてのタトウ紙について詳しく解説をしていきます。すべての意味を細かく知る必要はありませんが、ネット上で「たとう紙(畳紙)」と検索すると上記のような様々な意味合いのアイテムが出てきますので、「意味がひとつでは無い」ということは覚えておきましょう。
着物向けのたとう紙の役割とは?
洋服を購入した時のラッピングペーパーや紙袋は、「自宅に持って帰ってきたらすぐに捨ててしまう」という人も多いことでしょう。しかし着物を包むたとう紙は、購入後にも着物の保管のために使われるのが一般的。それは、タトウ紙に以下のような役割があるからなのです。
湿気を吸って防カビ対策!
着物に非常に多いトラブルが「カビ」です。日本は湿度の高い気候であるため、押入れやクローゼットの中にもたくさんの湿気が入り込みます。そのため保管をしている間にもカビ菌が発生しやすく、「久しぶりに着物を出したらカビが…」といった被害が多いのです。
畳紙とはその名の通り「紙」で作られており、湿気を吸い取る「吸湿性」に優れています。着物を畳んでそのままタンス等に入れておくよりも、一枚ずつたとう紙に包んでおいてあげた方が湿気を吸ってくれて、カビ被害を防ぎやすくしてくれるのです。
チリ・ホコリを避けて虫害防止!
タンスやクローゼット等での保管中、着物の生地に少しずつ降り積もってしまうのが「チリ」や「ホコリ」です。これらの細かなホコリは「虫食い」の原因となるカツオブシムシ(ヒメマルカツオブシムシ)を発生させる大きな要因に!きちんと畳紙に包んでいるかどうかで、虫の発生被害率も変わってくるのです。
特に正絹着物(シルクの着物)やウール着物等の動物性の素材の着物や長襦袢は虫食い(虫害)のトラブルに遭いやすいので、一枚ずつタトウ紙で包んでおくことをおすすめします。
シワを防いで着物をきれいにキープ!
一般的な紙袋等に着物を畳んでいれておくと、いつしか着物が偏ってシワだらけ…なんてことも。凹凸のある和紙製のたとう紙は、このような着物の滑りや偏りをできるだけ防いでくれます。長期保管の中で余計なシワができるのを防ぎ、次回に着物をきれいに着るための一助となってくれるのです。
たとう紙の読み方と漢字
さて、ここまで記事を読んで「たとう紙って『たとうかみ』?『たとうし』?」と、たとう紙の読み方に迷っている人も多いのではないでしょうか。実はこれ、読み方はどちらも正解なんです。たとう紙は奈良時代~平安時代にはすでに使われてきた歴史の古いアイテムで、その分だけ多くの人に言葉も用いられてきました。そのため、「たとう紙の読み方」や「使われる漢字」にも、多くのバリエーションがあるのです。
【たとう紙の読み方】
・たとうし
・たとうがみ
・たとうかみ
・たたみがみ
【たとう紙に使われる表記】
・たとう紙
・タトウ紙
・畳紙
・帖紙
・多当紙
これらのたとう紙の読み方や漢字のあてかたには地域性も大きく、「どれが一般的、どれが正解」と断定できるものではありません。「いろいろな言い方がある」とおぼえておけば十分です。
たとう紙?文庫紙?様々な名称
様々な読み方・漢字の当て方がある「たとう紙」ですが、実は地域によっては名称そのものが変わってくることもあります。
・文庫紙(ぶんこし/ぶんこかみ/ぶんこがみ)
・きもの文庫/キモノ文庫
・よつ手・四つ手(よつて/よつで)
・たとう/タトウ
近畿地方等ですと「文庫紙」や「キモノ文庫」といった名称が使われることが比較的多く、「たとう紙」とはほとんど言わないこともあります。また前述のとおり京都では「たとう紙」と言えば衣裳敷のことですから、着物を包む紙のことは「文庫紙」と言った方が混乱が防げます。
最近では呉服関連店舗でもインターネット販売をするようになったことから、各地方共通の言い方として「たとう紙」を取り入れる店舗が増えてはいる状態です。しかし実店舗等では「たとう紙」では通じにくいこともありますので、「たとう紙・文庫紙・きもの文庫」のバリエーションを覚えておいた方が良いでしょう。
あなたのたとう紙は大丈夫?古さのチェックリスト
たとう紙は前述のとおり、吸湿性に優れチリやホコリからも守ってくれる大切な着物保管用のアイテムです。しかし長年使っていれば湿気を徐々に吸わなくなります。あなたのたとう紙も、そろそろ交換をした方が良いかもしれません。
1)購入後、一度もたとう紙を替えたことが無い
2)3年以上は同じたとう紙を使っている
3)たとう紙に変色が見られる
4)たとう紙にシミのようなものがある
5)結ぶ紐や窓の部分等が劣化している
お持ちの着物を包んでいるたとう紙について、上記に思い当たる点が多い場合には、できるだけ早く新しい畳紙を購入して交換をした方が安心です。
タトウ紙を新しくしよう!サイズの選び方
一口に「着物を包むたとう紙」と言っても、実はいろいろなサイズがあります。購入してから「サイズが違った!」と焦らないように、畳紙のサイズの種類を知っておきましょう。
「二つ折りサイズ」のたとう紙
長さ約83センチのタトウ紙です。本畳みをして二つ折りにした女性用着物をそのまま入れることができます。着物用のタトウ紙の中ではもっとも取扱が多いサイズで、一般的に「畳紙」というと、この二つ折りサイズのことを指します。
「特大サイズ」の畳紙
長さ約87センチで、「着物用特大たとう紙」「二つ折り特大たとう紙」等と呼ばれます。男性向け着物、背の高い女性向けの着物等、丈の長い着物を包みたい時に向いています。
「三つ折りサイズ」のたとう紙
長さ約64センチのタトウ紙です。本畳をした一般サイズの着物を三つ折りにして入れるために、また羽織を包むためにも使用します。「羽織用畳紙」というと、このサイズのものになることが比較的多いです。
「三つ折り小サイズ」のタトウ紙
長さ約55センチのタトウ紙です。小柄な方向けの着物や子ども向け着物、短めの羽織。長襦袢等を保管するのに使います。また袋帯(ふくろおび)等、比較的かさばる帯の収納にも使われます。
「四つ折りサイズ」のたとう紙
サイズはもっとも小さく、約48センチです。本畳にした着物を四つ折りにして入れますが、長期保管向けといよりは、一時的な移動のため等に使用しされる人が多いです。また名古屋帯等、ボリュームの少なめの帯をしまうのにも使います。
どのたとう紙が良い?畳紙の紙質と値段
たとう紙の価格・値段は、ほぼ「紙質」によって決まります。「たとう紙は安い方が良い」と考える人も多いかもしれませんが、必ずしも安い=良いとは言い切れません。
着物の使用頻度、メンテナンス頻度等によって使わ行けることをおすすめします。
厚口和紙のたとう紙
雲竜紙、美濃和紙等、伝統的な製紙方法で作られた「和紙」による畳紙です。かつては和紙製といえば楮(こうぞ)・三叉等の植物性のものだけでしたが、現在では比較的安価に作れる化学繊維を混ぜた和紙も登場しています。
一枚1,000円~4,000円と、価格が高いのが難点。しかし吸湿性には優れており、安心して着物を保管しておけます。一度買えば3年くらいは使えるでしょう。手持ちの着物が少ない人、振袖等の大切な礼服を保管する人等であれば、和紙製のタトウ紙が向いています。
中性紙のタトウ紙
中性または弱アルカリ性の性質の紙で作られたタトウ紙です。比較的耐久性があり、通気性もそこそこあるのが特徴。それでて値段は一枚500円前後と、和紙に比べれば安価です。しかし除湿力はほぼ無いので、別途吸湿系のアイテムは入れる必要があります。「1年に1回くらいは虫干しできる」という人向けです。
クラフト紙のタトウ紙
いわゆる「パルプ紙」という安価で丈夫な紙で作られた畳紙です。一枚あたりの値段は100円~200円と、とにかく安価で買いやすいのが魅力。たくさん着物を持っている人なら、クラフト紙の方が気軽に交換できます。
しかし吸湿力などはほぼ期待できません。除湿アイテムなどは別途用意しましょう。また1年に2回くらいは陰干しして、こまめに湿気を取った方が安心です。
たとう紙はどこで買うことができる?
たとう紙・畳紙は、以下のような店舗で扱われています。
呉服関連店舗
百貨店や大手の呉服屋等の場合だと、自社の名前入りのたとう紙しか扱っておらず、畳紙販売をしていないケースも多々あります。小物類なども扱っていたり、庶民的なアイテムも扱うような呉服関連店舗を当たってみたほうが良いかもしれません。
着物クリーニング店・悉皆屋
着物を専門に扱うクリーニング店等だと、クリーニングサービス利用時に畳紙を新しいものに交換する店舗も多いです。店舗によっては、サービス利用時に以外にも単品でたとう紙販売をしてくれる場合もあります。
インターネット販売
最近ではAmazonや楽天市場等、大手のネットショッピングモールでもたとう紙が扱われるようになっています。まとめ買いなどをするのであれば、ネットも安く買えて便利です。ただし配送料無料の業者等の場合、たとう紙を小さく折って送ってくることも。着物にシワが寄る原因になるので、できるだけ平らに配送してくれる業者を選ぶことをおすすめします。
たとう紙を扱う時の注意ポイント
たとう紙の吸湿力や防虫機能を十分に発揮させるために、以下のようなポイントには注意しましょう。
薄紙は外す
たとう紙の内側に付いてくる薄く柔らかな紙には、包装紙的な役割しかありません。薄紙を固定するためのノリが虫を呼び寄せてしまうことがあるため、薄紙はすぐに外して捨ててしまいましょう。
陰干しして湿気を取る
吸湿力を回復させるために、定期的にたとう紙も陰干しをして湿気を取り払いましょう。着物を虫干しする時に、たとう紙も一緒に干す習慣をつけるのが理想的です。できれば年に2回程度は陰干ししたいところ。、最低でも2年に1回はたとう紙も干すか新しいものに交換しましょう。
たとう紙の紐の結び方に注意!
たとう紙の紐には、柔らかなリボン紐とのものと、紙縒り(こより)でできているものがあります。このうち「紙縒り」の場合、結び方には要注意。紙縒りは硬いため、結び目の部分が着物にあたると「アト」を付けてしまうことがあるのです。
1)右側の紐(a)を左側の紐(b)を交差させる
2)(a)を持ち上げて、根本に(b)を巻きつける
3)(b)の先端を(a)の上に渡らせる
4)上から(b)をくぐらせて、結び目を引いて糸を張る
上記の結び方だと結び目がゴロゴロしにくく、着物にアトがつきにくいです。「たとう紙の紐をきれいに結ぶのが難しい…」という場合には、やわらかな「リボン紐」タイプのたとう紙を選ぶことをおすすめします。
ただしリボン紐でも、「縦結び」にならないようにご注意を。縦結びは不吉ともされるため、結婚式場等に持ち込む際に「縦結び」の多当紙に包んだ着物を持ち込むとマナー違反と取られる恐れもあります。
おわりに
たとう紙の選び方や値段、読み方等の情報はいかがだったでしょうか?ちなみに当店『ふじぜん』では、クリーニングをご利用になるお客様にはすべての方に新しいたとう紙へと交換をしております。またタトウ紙単体も1枚200円(税別)で販売中です。「たとう紙を売るお店が見つからない」「高いタトウ紙はちょっと…」という時には、ぜひお気軽にお問い合わせください。