花火やお祭り等、夏のお出かけには欠かせない浴衣(ゆかた)は、ふだんは和装をしなくても持っている人がたくさん居ることでしょう。ただ和装に慣れないため、浴衣の洗濯やお手入れ、保管方法等がわからず困っているという人も多いのではないでしょうか。
浴衣は自宅で洗える?洗えない?
浴衣というと「家で洗えるのが当然」と思っている人が多いのですが、これは大きな誤解です。昔の浴衣は風呂上がりなどに着る、いわばルームウェア的な存在でした。ですから浴衣を家で洗えるのは当然だったのですね。
ところが最近の浴衣は、花火やお祭り等の「お出かけ」のために着る「街着」となりました。オシャレのための特殊加工や繊細な染め方の製品の方が多く、家で洗えない浴衣がたくさんあるのです。まずはご自分の浴衣が自分で洗えるかどうかを確認しましょう。
洗濯表示をチェック!
現在の浴衣製品では、洋服と同じように洗濯表示タグが付いているものがたくさんあります!まずは洗濯表示を確認しましょう。
洗濯機のマーク または タライ+水マーク→
洗濯機洗いがOKです。ただしシワになることもあるので注意。基本的には浴衣は洗濯ネット有りで洗った方がいいです。不安な場合は手洗いを。
タライ+水に「手洗い」のマーク または タライに手のマーク
ご自宅での手洗いはOKです。洗濯機洗いはできません。またアルカリ性の洗剤は使わず、中性の手洗い用洗剤を使います。
ドライマーク、Pマーク指定ありまたは水を入れたタライに×のマークあり
自宅では一切洗うことができません。全体洗いもですが、汚れが付いた場合のシミ抜きなどもクリーニング店に依頼しましょう。
洗濯表示が無い場合は?
昔の浴衣だと、洗濯表示が無い!ということもありますね。あくまでも目安ですが、洗濯ができるかどうかの見分け方をご紹介します。
素材を確認しましょう
ポリエステル100%
原則としては自宅で洗える素材です。アイロン不要のものも多いです。ただし製品によって、まれに激しく色落ちすることがあるので注意です。
木綿100%
原則としては自宅で洗える素材です。仕上げにはアイロンが必須です。(スチームアイロンではNG)次項でも解説しますが、製品によっては「水洗いによって激しく縮む」ということがあります。また高級品は洗濯NGです。
麻100%または麻の混紡
原則としては自宅であらえますが、色落ちはしやすいです。濃い色等の浴衣は洗濯をおすすめしません。仕上げにアイロンが必須です。また独特な風合いの染め方をする高級品も多く、それらは自宅では洗えないので注意が必要です。
キュプラ等の混紡
洗濯表示が無い場合には洗濯を避けた方が良いです。
素材が不明
素材がわからない場合には自宅での水洗いは避けましょう。水洗いで激しく縮んだり劣化してしまうと、専門店でも浴衣を元に戻せません。
「縮み」が嫌なら洗濯を避ける
特に木綿と麻の浴衣は、水を通すことで一定率の収縮(縮み)が起きます。特に水洗いしたことない製品は、最初の1回の水通しで5%~最大8%縮むことがあります。
サイズ感が現在の体でギリギリ、丈がおはしょりを作るのにギリギリ…といった場合には、ご自宅での洗濯は避けた方が良いです。
「絞り」の浴衣は洗えない
絞り(しぼり)の加工がある浴衣は、ご自宅では水洗いすることができません。またクリーニングの際にも注意が必要です。下の「クリーニングに出す場合の注意点」も合わせて読んでくださいね。
「特殊加工」は洗濯NG
次のような特殊加工のある浴衣は、素材を問わず、自宅での洗濯ができません。
① 金箔、銀箔、金糸、銀糸の加工がある
→ 激しい変色と箔の剥がれの可能性があります
① 刺繍(ししゅう)の加工がある(縫い目模様がある)
→ 刺繍糸からの色落ち・滲み、刺繍部分の変形等の恐れがあります
① ビーズやスパンコール等が縫い付けてある
→ ビーズ縫い付け部分が取れたり、縫い付けた部分の変形の恐れがあります
① レース、チュール素材等が縫い付けてある
→ レース部分等だけが縮んだり、激しく劣化する可能性があります
天然染めの「高級品」に注意!
一見すると普通の浴衣に見えても、実は洗えない高級品ということもあります。
- 本麻染の浴衣
- 柿渋染の浴衣
- 絹紅梅の浴衣
- 有松絞りの浴衣
- 一部の草木染の浴衣 等
伝統工芸品の指定があったり、証紙等が付いている浴衣については、自宅での洗濯を避けることをおすすめします。
「帯」はすべて洗濯不可
浴衣の「帯」については、原則としてすべて自宅での水洗いはできません。汚れが無い場合には、風とおしの良い場所で干し、水分を飛ばしてお手入れしておけばOKです。
シミ等が付いてしまった場合は、着物専門のクリーニング店に相談しましょう。
【コインランドリーでは浴衣は洗濯できません】
コインランドリーでは、原則としては浴衣は洗えません。これは浴衣が「乾燥機」に極端に弱く、はげしく縮んでしまうため。また乾燥機を使わない場合でも、コインランドリーでは脱水時間が長いため、浴衣がシワだらけになってしまいやすいです。
「自宅に洗濯機がない」という場合には、浴衣はクリーニング屋さんに出した方が良いですよ。
自宅での浴衣の洗濯のリスクを知っておこう
- 色落ち
- シワ
- 型崩れ
- 縮み
自宅で浴衣を洗う方法(洗濯機・手洗い)
では自分で浴衣を洗う方法を、洗濯機洗いと手洗い、それぞれの方法でご紹介します。
用意するもの
- 液体タイプの洗濯用洗剤(中性のおしゃれ着用タイプ。アクロン、エマール等)
- 洗濯用ネット(浴衣を本畳みして、2つ折りにしてピッタリと入れられる大きめサイズ)
- 洗濯ノリ(パリッとした仕上げにしたい場合)
- 着物専用ハンガー(物干しでも代用OK)
- アイロン、アイロン台、あて布、霧吹き(木綿・麻素材の場合には必須です。スチームアイロンでは布地が伸ばせないのでNGです)
丈夫な浴衣は「洗濯機洗い」
洗濯表示で「洗濯機OK」の表示があった浴衣は、カンタンに洗濯機で洗うことができます。
- 洗濯ネットに浴衣を入れます。ネットと浴衣のサイズがキチンと合うようにすると、シワができにくいです。
- 洗濯機のコースを「ドライコース」「手洗いコース」等の優しい洗い方のコースに設定します。
- 洗濯機に水を入れ、中性洗剤を溶かし入れてよく撹拌させます。(先に浴衣を入れてから洗剤や水を入れないこと)
- 浴衣を洗濯機に入れます。色移りしやすいので、他の衣類と一緒には洗濯せず、一枚のみで洗います。
- 脱水の時間を短め(30秒~1分程度)に設定し、洗濯・脱水を行います。洗濯機による乾燥は一切行わないでください。はげしく縮む原因になります。
- 洗濯機から浴衣を出し、洗濯ノリを適量入れた水に全体的に漬けてから取り出します。
- 30秒程度、軽く脱水させます。
- 洗濯機から浴衣を出し、濡れた状態で広げて、すぐにアイロンがけの準備をします。
- アイロンを高温設定にして、布地をひっぱるようにしながらアイロンを強めにかけていきます。あて布を忘れずに。
- 半乾き程度になったら、浴衣を着物専用ハンガーにかけて形を整えます。直射日光の当たらない風通しの良い場所で自然乾燥させます。
ダメージ少なめの「手洗い」
手洗いの方が、型崩れや縮みの心配は少ないです。大切な浴衣を洗いたい時には手洗いをしましょう。
- 浴衣を本畳みしておきます。(気になる汚れがある場合には、汚れがある部分を外に出すように畳みます)
- バスタブや洗面ボウル等に30℃以下のぬるま湯を入れて、中性洗剤をよく溶かします。
- 浴衣を②で作った洗濯液に全体的に漬けて、両手で押すように優しく「押し洗い」をしていきます。
- 汚れが気になる部分は、優しく手でもみ洗いします。
- 水を取り替えて、すすぎを行います。このときも優しく押すように洗いましょう。すすぎは2回以上行ってください。
- 仕上げとして、水に適量の洗濯ノリを入れてよく溶かし、浴衣を全体的に漬けます。
- 浴衣を洗濯ネットに入れて、洗濯機で30秒程度だけ脱水させます。(長く脱水するとシワが取れなくなるので、短く脱水させてください。)
- アイロンを温め、浴衣を洗濯機から出して、すぐにアイロンがけの準備に入ります。
- アイロンを高温に設定し、布地を引っ張るようにしながらアイロンを強めにかけていきます。水濡れで縮んだ浴衣の生地を元に戻すための作業です。襟まわりなどは型崩れしやすいので重点的にアイロンがけをしておきましょう。
- 半乾き程度までになったら、浴衣を着物専用ハンガーにかけて形を整えます。直射日光の当たらない風通しの良い場所に干して仕上げます。
洗濯時の注意点
※アイロン不要の製品の場合は、軽く脱水させた後にそのまま着物専用のハンガーにかけて自然乾燥させます。
※パリッと張りのある状態にしない場合には、洗濯ノリの工程は不要です。
※ゴシゴシと強く浴衣を洗わないでください。色落ち、色ハゲの原因になります。
※アルカリ性の洗剤、各種の漂白剤は使えません。
浴衣をクリーニングに出す時の注意点
自分で洗えない浴衣や、型崩れ・色落ち等をさせたくない浴衣は、クリーニングに出しましょう。ただしクリーニング店に出す場合にも、次のようなポイントを気をつけた方が良いです。
大切な浴衣は「プレミアム」な洗い方を注文
一般的な洋服向けのクリーニング店でも、浴衣のクリーニングは受付けているところが多いです。この場合、通常のコースと、さらに上のプレミアムなコース(高級コース)が段階的に準備されていることがほとんどとなっています。
次のような浴衣については、高級コース・プレミアムコースを選んだ方が良いです。
金箔等の箔加工がある
刺繍加工がある
縫い付け加工がある
天然染め等の高級品である
手織り等の高級品である
絞りの浴衣である
上級コースの方が一度に洗う枚数も少なく、よりソフトで浴衣にダメージの少ない洗浄方法となっています。箔の剥がれといったトラブルを減らすためにも、上級コースを選ぶことをおすすめします。
絞りの浴衣は「プレス」を弱めに
絞りの浴衣は、独特の凹凸(シボと言います)があるのが魅力です。しかし一般的なクリーニング店だと、アイロン(プレス)を強くかけてしまい、このシボの風合いが取れてしまうことがあります。
絞りの浴衣をクリーニングに出す場合には「プレスを弱めにしてほしい」と注文した方が安心です。
シミのある浴衣は別途「シミ抜き」を!
浴衣の丸洗い(全体的なドライクリーニング)をするだけでは、食べこぼし、飲み物のシミなどは落とすことができません。目に見えるシミがある場合は、別途「シミ抜き」をキチンと指定するようにしましょう。
ただし古いシミや変色シミ等、シミの種類等によっては、一般的なクリーニング店だと浴衣のシミ抜きを断られてしまうことがあります。
【着物専門のクリーニング店なら安心】
キチンとした着物専門のクリーニング店の場合には、浴衣の特殊加工に合わせた洗濯方法、絞りの有無等を見た最適なアイロンがけ等は、指定をしなくても行ってもらえます。
また浴衣のシミ抜きについても、着物のシミ抜き専門の職人さんが居るので、幅広いシミ抜き対処が可能です。「近所のクリーニング屋で断られてしまった」「高級浴衣なので大切にしたい」といった場合には、職人の在籍する着物専門クリーニング店に相談することをおすすめします。
浴衣の保管方法
自分で浴衣を洗った場合にも、クリーニングに出した場合にも、次に浴衣をキレイに着るためには浴衣を適切に「保管」していくことが大切です。
畳んで「平ら」に保管しよう
浴衣は本畳みした状態で、平らに保管をします。ハンガーにかけっぱなし等はNG。かけている部分に負担がかかって型崩れしたり、縫い糸に負担がかかってしまいやすいです。
ビニール袋は必ず取って
クリーニング屋や購入時に入っていた「ビニール袋」のままでの保管は絶対にしてはいけません。空気がこもってしまい、カビ等が発生しやすいです。
浴衣一枚ずつを「タトウ紙」に
浴衣は基本的に一枚ずつ「タトウ紙」に包んで保管します。タトウ紙が湿気等から守ってくれやすく、他の衣類との摩擦などによるシワも防止してくれます。
タトウ紙は最近ではネットでも単体販売するようになりました。当店「着物ふじぜん」でも一枚ずつ販売しているので、御用がある場合にはご注文ください。タトウ紙が無い場合には、着物用の保管袋等でもOKです。
防虫剤と防湿剤を入れておく
浴衣はタンスやクローゼット等で保管しますが、必ず防虫剤や防湿剤を入れておきましょう。防虫剤・防湿剤は、定期的に交換します。
年に2回は風にあてる
年に2回は浴衣を取り出して、半日~1日程度は風にあてる「陰干し」を行います。陰干しすることで繊維の中の湿気を飛ばし、カビの発生、虫食い等のリスクを軽減していきます。
【保管が難しい時にはプロのお預かりサービスを】
浴衣をキチンと保管するのが難しい…という時には、プロによる「お預かりサービス」を使うのも手です。次回に使う時まで、気温や湿度がキチンと管理された状態で浴衣を保管してくれます。
現在では衣類保管サービスは多々ありますが、浴衣の保管についてはやはり着物を専門に扱う業者を選ぶのが一番と言えます。当店『着物ふじぜん』でもクリーニング後のお預かりサービスを行っているので、浴衣の保管にお困りの時にはご相談ください!
おわりに
浴衣の洗濯はカンタンそうに見えて意外と難しく「型崩れさせてしまった」「縮んでしまったのが戻らない」といった失敗例も多く見られます。何枚か浴衣をお持ちでしたら、まずは古い方の浴衣、普段着に近い方の浴衣等から練習していくのがおすすめです。
また浴衣は盛夏にしか着用しないため、「久しぶりに出したら変色していた」「虫食いにあっていた」といったご相談も少なくありません。「洗ったらおしまい」と考えず、浴衣の保管中にも定期的に陰干し等のお手入れをすることを習慣づけましょう!