着物のシミ抜き等のお手入れをするには、まずその汚れの原因に合わせた対処法をすることが大切です。ここでは着物に「水溶性のシミや汚れ」が付いた場合のシミ抜き方法や、家でシミ抜きができない場合のクリーニング方法等、正しい対処法について解説していきます。
着物の「水溶性の汚れ」とは?実例と特徴
着物についた「水溶性のシミや汚れ」とは、水分がベースとなっており、油分をほとんど含まないシミのことです。「水性のシミ」とも言います。
例
- 汗の汚れ
- お茶のシミ
- ジュースのシミ(果汁のシミ)
- お酒のシミ 等
ちなみに水ベースでも油を多く含むもの(例えばドレッシングやラーメンのスープ等)は「混合性のシミ」となりますので注意しましょう。水溶性のシミには、次のような特徴が挙げられます。
水に溶けるが油には溶けない
水溶性のシミは、「水溶性」という言葉のとおり水にはよく溶ける汚れです。反対に油にはまったく溶けません。そのため石油をベースにしたベンジン(揮発油)を使っても、水溶性シミや汚れには効果がまったく無いのです。
一見すると無色のことも
着物に付く水溶性のシミや汚れは、汗や日本酒のように色がなく、乾くと見えなくなってしまうものも多いです。しかし「汚れの成分」は繊維に残っているので注意!時間が経つと汚れが酸素と結びついて、変色シミとして浮き上がってきます。早めの対処が必要です。
色素が多い汚れは手強い
水溶性汚れは油を含まずサラリとしているので、カンタンに落とせそうに思えますよね。しかし果汁やコーヒー等には色素成分が多く含まれていて、繊維に定着するとその部分を染めてしまいます。時間が経つと家では対処ができなくなる手強い汚れなんです。
着物の水溶性汚れのシミ抜き方法
着物についた水溶性のシミや汚れは、上でも解説したとおり「水」を使わないと家では溶かし出して落とすことができません。ご家庭での着物のシミ抜きでは、作用の穏やかな中性タイプの洗剤を使って水洗いをしていきます。
※※事前に確認しましょう※※
正絹(シルク)や一般的なウール等は水洗いできません。また木綿や麻でも著しく色落ちするもの等は水洗い不可のことがあります。地の素材が洗濯OKでも、刺繍や特殊加工があると洗えない場合もあります。素材や洗濯表示をよく確認してから作業を行いましょう。
2)汚れの状態によっては、家ではシミ抜きができないことがあります。下の「家で落ちない水溶性のシミや汚れもある?」を確認しましょう。
用意するもの
- 中性タイプの洗濯用洗剤(アクロン、エマール等のおしゃれ着洗剤)
- 柔軟剤
- タオル 数枚
- 洗濯ネット
- 着物用のハンガーか物干し
- アイロン、アイロン台、あて布(スチームアイロンはNG)
下準備
着物を洗う場合、もっとも型くずれしやすいのが「衿(えり)」です。ここだけはヨレてしまわないように、木綿糸で軽く縫っておきます。縫うといっても、ザクザクと長め・粗目でかまいません。または安全ピン等で仮止めをしてもOKです。
シミ抜き・汚れとりの手順
1.部分洗いをする
まずは汚れのある部分を重点的に洗います。
- タオルを敷いてから、着物のシミがある場所を広げます。
- 洗面器等に水を入れて、中性洗剤を適量垂らして溶かします。
- 薄めた洗剤液をシミがある場所にたらして、汚れに染み込ませます。丈夫な素材の着物であれば、洗剤液の中に漬けて優しく振り洗いしてもOKです。
- 上から乾いた布やタオルを置いて優しく押さえ、水分を吸い取ります。
- 「洗剤液をたらす」→「水分を取る」を何度か繰り返して汚れを吸い取ります。ゴシゴシこすらないようにしましょう。
2.本洗い(仕上げ洗い)をする
部分的な汚れやシミが取れたら、着物を本洗いします。全体的に仕上げ洗をすることで、汚れが輪郭的に残る「輪ジミ」等を防ぎます。
【洗濯機洗いの場合】
次のような着物は洗濯機洗いができます。
- 化繊(ポリエステル)等の着物
- 洗濯表示で「洗濯機OK」の表示がある浴衣
- ミシン縫いの着物
- 着物を畳んでネットに入れます。
- 洗濯機は「ドライコース」「ソフトコース」等に設定します。
- 中性洗剤・柔軟剤をそれぞれ機内の所定の位置に投入します
- 脱水は30秒程度で終わらせるよう設定してください。
- 洗濯・脱水が終わったら、タオル2枚で浴衣を挟んで軽く叩き、残った水分を取ります。
- 着物を着物ハンガーか物干しにかけてよく形を整え、直射日光を避けて陰干しします。
- アイロンで形を整えます。
【手洗いする場合】
次のような浴衣は手洗いをした方が良いです。
- 手洗い表示、または手洗い推奨の着物
- 天然染料を使用している着物
- 型崩れさせたくない着物
- 縮ませたくない着物
- バスタブ等に水をはって、中性洗剤を適量溶かします。使用量は、製品パッケージ裏の説明書「手洗い」の項目を参照しましょう。
- 洗濯ネットに着物を畳んで入れたら、ネットごと洗濯液に漬け込みます。
- 上から両手で着物を押して、全体を押し洗いします。
- 水をとりかえて、また押し洗いしてすすぎます。すすぎは2~3回程度行います。
- 最後のすすぎで柔軟剤を適量加えて、全体に行き渡らせます。
- タオル2枚で着物を挟んで軽く叩き、水分を吸い取ります。
- 着物ハンガーか物干しにかけて形を整え、陰干しして乾かします。
- アイロンで形を整えます。
家で落ちない水溶性のシミや汚れもある?
次のような水溶性のシミや汚れは家では対処することができません。
時間が経ったシミ
ご家庭で水溶性シミや汚れに対処ができるのは、付いた当日~数日以内の場合です。
- 完全にシミが乾いている
- いつ付いたかわからない
- 後からシミが浮いてきた
このようなシミは残念ながらご家庭では対処ができません。
変色シミ(黄ばみ、黄変)
汗汚れ等の見えない水溶性シミが酸素と結びつくと、長い時間をかけて「黄ばみ」や「茶色いシミ」へと変化していきます。これを「黄変(おうへん)」と言います。
- ワキや背中等が黄ばんでいる
- オレンジ~茶色のシミがある
- 原因がよくわからない
このような変色シミもご家庭では落ちないシミです。
縫い目をまたいだシミ・汚れ
汚れが縫い目をまたいで広範囲に広がっている場合は、ご家庭の対処だけで終わらせない方が良いです。シミが「縫い目」に染み込んでしまっていて、あとから縫い糸が脆くなる恐れがあります。
シミや汚れが上のような場合には、早めに専門店に相談しましょう。
着物の水溶性のシミや汚れはクリーニングで落ちる?
着物が家では水洗いできなかったり、家では落ちないタイプのシミだったり…そんな時は、どのようにプロに依頼すればよいのでしょうか。
着物丸洗い(ドライクリーニング)では汚れが取れない!
着物の水溶性汚れやシミは、一般的な着物クリーニング(着物丸洗い、ドライクリーニング)では落ちません。ドライクリーニングとは石油からまれた溶剤を使う洗濯方法です。皮脂汚れ等の「油溶性の汚れ」は落とせますが、「水溶性の汚れ」を落とすのはニガテとしています。
専門店での「シミ抜き」や「洗い張り」が必要
着物に水溶性の汚れやシミが付いたら、着物専門の職人がいて手作業で「シミ抜き」をしてくれるクリーニングのお店を選びましょう。また、シミ範囲が広かったり、汚れの程度が酷い時には、一度着物をほどいてから洗う「洗い張り(あらいはり)」が必要となることもあります。
いずれにしても、まずは着物の状態をよく見てからクリーニング方法を提案できる専門的なお店を選ぶことが大切です。
おわりに
着物に付いた水溶性のシミや汚れを落とすのは、プロでもなかなか難しい技術が求められます。一般的な洋服クリーニングのチェーンのお店等だと、「汚れが落ちない」と断られてしまったり、ドライクリーニングだけして終わりになってしまう…ということも多いようです。
着物の水溶性シミ汚れに対処できずに困った時には、「着物専門のクリーニング店」に相談した方が良い結果が得られますよ。