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着物丸洗いクリーニング「予洗い」とは?落ちないシミも?よくある疑問を解説

着物丸洗いクリーニングには、原則として「予洗い」という工程があります。この予洗いの有無や内容で、丸洗いクリーニングの仕上がりが大きく変わってくるのです。しっかりした予洗いを行っているクリーニング店であれば、シミ抜き無しで汚れをまとめて落とせることもあるんですよ。

ただし予洗いですべてのシミが落とせるわけではなく、別に「シミ抜き」を依頼しなくてはならないものもあります。

吉原ひとし
吉原ひとし
こんにちは。創業明治三九年 四代目 ふじぜん 吉原ひとしと申します。着物を専門に取り扱うクリーニング店の店主をさせていただいております。ここでは着物丸洗いクリーニングの「予洗い」について、落ちるシミと落ちないシミの違い等、よくある疑問を解説していきましょう。

目次

着物丸洗いクリーニングの「予洗い」とは?

着物丸洗いクリーニングの「予洗い」
着物丸洗いクリーニングの「予洗い」とは、機械を使った全体クリーニングの前に行う手作業での洗浄のことを言います。衿元や袖口などの汚れやすい部分を前もって職人が手で対処しておくことで、気になる汚れをスッキリさせることができるのです。

そもそも「着物丸洗いクリーニング」って何?

「着物丸洗いクリーニング」というのは、洋服クリーニングでいうところのドライクリーニングとほぼ同じお手入れ方法です。石油系の特殊な溶剤を使って、専用の大きな機械で着物全体をキレイにしていきます。昔のように着物をほどかずに「丸のまま」でお手入れができることから「丸洗いクリーニング」と名付けられたようです。

こんな時に丸洗いクリーニングをします

  • シーズンオフの時
  • これから長期間着物を保管する時
  • 全体的なホコリ汚れ等が気になる時 など

「予洗い」はこの丸洗いクリーニングで「機械洗浄」を行う前に、今風に言えば「プレ洗い」として行うものなのですね。

着物丸洗いで「予洗い」する理由は?

着物丸洗いの前に行う「予洗い」は、機械クリーニングだけでは落ちにくい部分的な汚れ(新しいシミ等)に対処することを目的としています。

機械で落ちない汚れも落とす「予洗い」

普段の洋服の洗濯機で洗った時、微妙に汚れが残っていることってありませんか?洗ったはずなのに首元が皮脂で黒ずんできたり、食事の時についたシミが落ちきっていなかったり…こんな経験、覚えがある方が多いはずです。

でも先に首元にプレ洗い洗剤をつけて洗っておいたり、軽くシミ抜きしてから洗濯機にかけると、キチンと汚れが落ちていますよね。着物クリーニングも基本的にこれと同じなんです。

機械での洗浄だけだと、全体的なチリ汚れ・ホコリ汚れ等には対処できますが、衿元や袖口等の汚れが残りがち。また機械洗浄だけだと、いわゆる「シミ」まではキレイに落とすことができません。

このような汚れにも対処をするのが「予洗い」なんですね。

予洗いでクオリティがワンランク上がる!
予洗いがしっかり行われることで、残りやすい着物の汚れもスッキリ。着物丸洗いクリーニングのクオリティを大きく引き上げているのが「予洗い」なんです。

着物丸洗いの「予洗い」で落ちる汚れとは?

一般的なクリーニング店の予洗いだと、着物丸洗いの予洗いでは「油溶性汚れ」の新しく軽いシミには対処できます。他の汚れは厳しいかもです。

当店『着物ふじぜん』では、これに加えて「水溶性汚れ」や「混合性汚れ」の新しいシミにも対処ができます。最近付いたシミで小さめのものであれば「ほぼ予洗いで落とせる」と言っても良いでしょう。

油溶性汚れ・水溶性汚れ・混合性汚れとは

着物に付く汚れには、大きく分けて4種類があります。

油溶性汚れ:油には溶けて水に溶けない汚れ。石油系溶剤等を使って、溶かすように落としていきます。

<<例>>
・オリーブオイルのシミ
・バターのシミ
・ファンデーションのシミ 等

水溶性汚れ:水には溶けるけれど油(石油系溶剤)などには溶けない汚れです。

<<例>>
・お茶のシミ
・お酒のシミ
・よだれのシミ など

混合性汚れ:水と油の両方の性質を持っている汚れ。まず油剤で溶かしてから水性汚れを落とすといった2段階の処理が必要です。

<<例>>
・ラーメンのスープのシミ
・母乳のシミ
・ドレッシングのシミ など

不溶性の汚れ:水にも油にも溶けない性質の汚れです。これについては後でも詳しく書きますが、予洗いでは対処できません。

<<例>>
・ペンキのシミ
・ボールペンのシミ
・墨汁のシミ など

お店によって予洗いで落ちる汚れに違いがある?

一般的な着物クリーニングのお店だと、予洗いにも石油系溶剤を使うことが多いようです。そのため、予洗いで落とせる汚れの種類は上の4種類のうち「油溶性汚れ」のみ……ということになります。

【一般的なクリーニング店の予洗いで落ちるシミ】

  • オリーブオイル ○
  • お茶のシミ ×
  • お酒のシミ ×
  • 母乳のシミ ×
  • ラーメンのスープのシミ ×

でもせっかく予洗いをするのに、落とせる汚れがこれだけでは残念すぎますよね。そこで当店『着物ふじぜん』では、予洗い用の洗剤について長年、研究に研究を重ねました。

そして独自の配合の予洗い用洗剤を作り、水溶性汚れや混合性汚れにも予洗いで対処できるようにしたのです。

【ふじぜんの予洗いで落ちるシミ】

  • オリーブオイル ○
  • お茶のシミ ○
  • お酒のシミ ○
  • 母乳のシミ ○
  • ラーメンのスープのシミ ○

これで最近に付いた小さめのシミであれば、ほとんどのシミ・汚れを予洗いで落とせるようになりました。着物丸洗いのクオリティが一気に上がったわけですね。

丸洗いの「予洗い」はどの店でもやってる?

丸洗いクリーニングの「予洗い」は、どのお店でもやっているサービスではありません。この点は残念ながら事実です。

昔ながらのキチンとした着物のお手入れ店であれば、丸洗い前の予洗いは必須事項にしていることでしょう。もちろん当店『着物ふじぜん』でも予洗いは必ず行っています。しかし、激安価格の着物クリーニング店等だと、コスト削減のために予洗いをやっていない可能性が高いです。

予洗いには手間と時間がかかる

着物丸洗いクリーニングの「予洗い」は、人間が手作業で行うものです。予洗いを丁寧に行うほど、人件費もかかりますし、着物1枚を仕上げるまでの時間もかかることになります。

そのため、丸洗いクリーニングを予洗い込みでキチンと行おうとすると、それなりに料金が上がってしまうわけなんです。

激安店は予洗い省略のことも多い

最近だと安い料金設定の方がお客さんを呼べるから…ということで、丸洗いどれでも1枚5,000円!といった激安価格を設定するお店も増えてきました。

でもこのような安い価格で、はたして丁寧な手作業の予洗いが行われているか?というと、これは疑問です。予洗いを省いて機械でサッと回してしまった方が、安く素早く着物を仕上げることはできてしまうわけですからね。

実際「激安クリーニングに着物を出したけれど汚れが落ちていない」ということで当店に改めて着物のご相談をいただくことも多いです。

丸洗いクリーニングの料金設定だけでなく、検品や予洗いをキチンと行っているのかといった工程面もチェックした上でお店選びをしていただきたいなというのが、着物クリーニング店の本音ではあります。

予洗いでは落ちないシミもある?

着物丸洗いクリーニングの予洗いでは、すべてのシミをなんでも落とせるわけではありません。当店『着物ふじぜん』でも多様なシミに対処はしていますが「古いシミ」「変色したシミ」「広範囲のシミ」等については予洗いでは落とせません。

このようなシミには別途、専門の職人によるシミ抜き等での対処が必要です。予洗いで落ちないシミについて、詳しく解説していきます。

時間が経ったシミはNG

繊維に付いた汚れは、時間が経つごとに乾燥してしっかりと定着し、落ちにくくなっていきます。これは洋服のお洗濯でも同じですよね。

シミが付いた着物を早めに持ってきて貰えれば、丸洗いの「予洗い」でまとめてあちこちの汚れをキレイにすることもできます。しかし何ヶ月も経ってすっかり定着してしまったシミを「予洗い」だけで落とすことはできないのです。

① いつ付いたかわからないシミ
① 数週間~数ヶ月以上の時間が経過しているシミ

このようなシミは、別途シミ抜きでの対処が必要です。

定着しやすいシミは特に早めにクリーニング

シミ・汚れの中には、特に繊維に素早く定着してくっついてしまい、取れにくくなるものもあります。

  • ワイン(色素が多く強い)
  • ぶどうジュース(色素が多く強い)
  • 血液シミ(凝固が早い)
  • タンパク質シミ(凝固が早い)

このような汚れについては、本当に「スピードが勝負」です。どんなに小さな水滴のようなシミでも、時間が経ったら落ちにくくなります。

「丸洗いに出すのは来週にしようかな」ではなく、汚れがあるなら「今すぐ」クリーニングに出していただくのが理想的です。

変色したシミも落とせない

予洗いでは絶対に落とせないシミの代表格としては「変色シミ」も挙げられます。「変色シミ」だと想像がつかないという方も多いと思うので、代表例をピックアップしてみました。

  • 原因不明の黄ばみ
  • 原因不明の茶色いシミ
  • オレンジ色のポツポツしたシミ
  • 裏地の茶色い変色
  • 濃い地色に起こった原因不明の色抜け 等
汚れやカビが酸化すると変色する

例えば汗の汚れや日本酒のシミ等は、乾いてしまうと目に見えなくなりますね。また、白カビも表面を払うと症状は一見してわからなくなります。

しかしクリーニング等の対処をしていなければ、これらの汚れやカビ菌の根は除去されたわけではありません。いつまでも繊維の中に残っています。

そして長い時間をかけて少しずつ少しずつ酸素と結びつき、着物の布地を変色させていくのです。変色は大体「黄ばんだような色」として始まり、オレンジから薄茶色へ、さらに焦げ茶色へ…と、時間が経つごとに色が濃くなっていきます。これを「黄変」と言います。

さらに変色が進むと、着物の染料も破壊されます。喪服着物のような濃い色の場合だと、黒かった着物がピンクっぽく色抜けするといったトラブルも起きるのです。

変色シミには特別な対処が必要

変色シミ(黄変)は、汚れがくっついているだけでなく、繊維そのものが変色を起こしてしまっている状態です。ですからまずは丁寧に漂白をして変色部分を取り除き、それから色掛け等の染色補正をして問題部分を目立たなくしていく対処が必要になります。(これを黄変抜きと言います

着物はそもそもデリケートなので、漂白をするのも染色補正をするのも専門の職人さんでないとできません。予洗い等で対処ができないだけでなく、通常の「シミ抜き」でも対処できないことも。難易度の高い「黄変抜き(古いシミ抜き)」ができるお店で相談をするしか手が無いのです。

大きなシミ・広範囲のシミもNG

着物に付いたシミは、その範囲が広くなるほど汚れがたくさん付いていることになります。サッと洗っただけでは落ちず、汚れが余計に広がってしまうリスクも高くなってくるわけです。

そのため着物の丸洗いクリーニングの「予洗い」で対処ができるのは、ポツッと付いた小さなシミ、軽いシミまでが範囲内ということになります。

2~3センチ以上は「シミ抜き」が必要

シミ汚れの種類にもよりますが、大体直径3センチを超えるようなシミは別途「シミ抜き」でキチンと落としたほうが仕上がりがキレイになりますし、汚れが広がるリスクも減らせます。

縫糸が汚れた場合は「洗張り」が必要

「飲み物のグラスを倒した」といった理由で広範囲が汚れてしまい、汚れが縫い目をまたいでしまった…このような汚れには要注意。汚れが縫糸にまで染み込んでいる可能性が高いからです。

このような汚れについては、一度着物をほどいて対処する「洗張り」をおすすめします。

不溶性汚れには特別対処が必要

水にも油にも溶けない「不溶性の汚れ」は、その大元が炭素や細かな砂・石等の溶けない物質であり、対処がとてもむずかしいです。予洗い等のカンタンな対処で取れるものではありません。

【不溶性の汚れの例】

  • ボールペンの汚れ
  • ペンキのシミ
  • サビによる汚れ
  • 墨汁の汚れ
  • 泥によるシミ 等

このような汚れについては別途ご相談いただき、対処が可能なものについてはシミ抜きで対処ということになります。どの原因についてもできるだけ早くシミ抜きを依頼することを強くおすすめします。

おわりに

着物丸洗いで行う「予洗い」についてよくある疑問を解説してみましたが、疑問は解消できたでしょうか?できるだけ詳しく解説をしたのですが、着物に慣れない人だと難しい点もあったかもしれず、申し訳ない限りです。

なお当店『着物ふじぜん』では、専門の着物診断士が無料でお客様の着物のお悩み相談を受け付けています。「自分が持っている着物の汚れは予洗いだけで落ちるのか、別にシミ抜きを依頼した方がいいのか、よくわからない!」と悩んでしまったら、どうぞお気軽にご相談くださいませ。お客様の着物にとってベストな方法をご提案します!

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吉原ひとし


着物ケア診断士 吉原ひとし


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