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小学校の卒業式で増える袴姿。賛否両論の理由や平均費用は?

卒業式のシーズンである3月には、袴姿の女子大生の姿をよく見かけますね。でも最近では、女子大生だけでなく「小学生」の卒業式でも袴姿が増えました。中には袴や着物姿を禁止とする学校もある様子。またテレビや新聞等のメディア・インターネットでも小学生の袴姿に賛否両論が巻き起こっています。なぜ小学校の卒業式での袴姿がここまで問題にされるのか?今回はその理由や卒業式の袴姿の平均費用等について解説していきます。

小学校の卒業式で袴姿が増えた理由とは?

「袴=卒業式」という認識の定着

「そもそも女性の袴姿って、礼服・正装ではないのでは?」と思う方も中にはいらっしゃるはず。これは実はそのとおり。女性の袴姿は実は「正装」ではありません。「華やかな着物+袴」というスタイルは、元々は明治・大正時代に生まれた「女学校の制服(標準服)」として生まれたものなんです。

着物と比べて動きやすく活発に活動できる袴姿は、当時の「現代的な女性」を生むための女学校の制服にピッタリだったというわけですね。そのため女学校(現在の女子高校・女子大学)の卒業式では、「制服のままで式典に出る」ということで着物+袴での卒業式出席が標準とされてきました。つまり今で言うと、高校の卒業式にセーラー服で出るのと同じ扱いだったわけです。

その後の洋服の普及によって「着物+袴」という制服はなくなりますが、女子大生の卒業式に「かつての女学生の姿」として袴姿で出席をするという文化が残ります。これが多くの人々に「袴=卒業式に着るもの」という認識をもたらしたのでしょう。

子どもの晴れ姿を見られる装いのチャンス

七五三が終わると、子供の晴れ着姿を見られるチャンスはなかなか無いもの。最近ではハーフ成人式等も人気となってはいますが、「成人式までに着物を着させるチャンスがなかなか無い」と感じている親御さんも多いようです。中学校や高校の卒業式ですと「学校の制服での出席」が当然となりますから、式典といった公の場で晴れ着を着る機会は確かに少ないですよね。お子さんのイベントに力を入れる親世代・祖父母世代が増えていることも、袴姿人気に拍車をかけていると言えます。

「袴姿で登場する芸能人」の増加

かつて大正時代の女学校を舞台としたマンガ「はいからさんが通る」が人気作になった後、女子大学生で卒業式に袴姿を選ぶ人が増えたと言われています。近年でも競技百人一首をテーマとした映画『ちはやふる』等が映画化され、人気女優さん達の袴姿が話題となりました。またアイドルグループ等が春頃に袴姿を披露することも増えていることも、近年の袴人気を後押ししているようです。「憧れの芸能人のような晴れ姿を…」そう考えている人が増えているわけですね。

振袖姿よりはチャレンジしやすい?

小学校卒業式に子供に袴姿で出席させた親御さんを対象にしたアンケートでは、袴を選んだ理由に「振袖よりは動きやすいかと思った」「足元は靴でも構わないと言われたので、気が楽だった」という回答も多く見られています。確かに振袖で出席と言うと、帯も大きく結ばなくてはなりませんし、裾捌きや慣れない草履姿に苦労をするお子さんも多いことでしょう。「晴れ着を着せたいけれど、振袖はちょっと…」という時の「着物のカジュアルスタイル」ということで、袴姿を選択される方も多いようです。

 

卒業式の袴姿を禁止する学校も登場、その理由は?

年々人気が上昇している小学校卒業式での袴姿ですが、ここ数年では袴姿を禁止する小学校も出てきており、賛否両論がネットでも噴出する等話題となっています。なぜ学校側が小学校の卒業式の服装規定を行うようになったのでしょうか?

式典中・校内での転倒トラブル

意外にも多く指摘されているのが、転倒等のトラブルについてです。ふだん着物・袴姿に慣れない子供にとって、袴の長い裾はなかなか動きにくいもの。大事な卒業式の日に転倒してケガでもしたら大変、というわけですね。

着崩れへの対処ができない

もうひとつ指摘が多いのが、「着崩れ」についての問題です。活発に動く小学生の場合、着崩れは多く起こるもの。先生等の学校側では和服の着崩れ対処はできませんし、本格的な袴の場合、親御さんでも再度の着付けが行えないことがあります。

校内でのトイレのトラブル

「トイレに行くのに時間がかかる」「トイレで着物を汚してしまった」といったトイレ関係のトラブルも比較的多く見られるようです。現在のレンタル袴では裾を分けず、ロングスカートのようになっているスタイルのものも多いのですが、小学生の場合「そもそもロングスカートの経験も無い」という子も少なくありません。そのためトイレに手間取ってしまう、手伝いが無いとトイレに行けないといったトラブルも見られているようです。

防寒対策の不足

3月に行われる卒業式。地域によってはまだ寒い時期であることも多く、防寒対策の不足も指摘されています。子供向けレンタル着物の場合、中に着る長襦袢がノースリーブ型であることも多いもの。また着物+袴の場合、袖が入らないため通常のコート等は羽織ることができません。寒さによる体調不良等を不安視することも禁止理由のひとつとなっているようです。

準備の「早朝化」の問題

袴人気の上昇に連れて、卒業式当日の着付け・ヘアセットの予約が取りづらくなっており、準備が年々早朝化している点も問題となっているようです。成人式のように、「早朝5時に美容院に行ってから卒業式へ」といったケースも珍しくなくなっています。慣れない早起きで大切な式の最中に眠くてたまらない…ということは困る、と考える学校も多いようです。

費用面の高額化・華美化の問題

最も問題とされているのが、卒業式の服装費用が高額化しているという点です。かつても「卒業式にブレザー、ワンピース」といった礼服着用の文化はありましたが、「袴姿」の定着によって卒業式にかける服装費用の平均相場は従来の200%~300%以上にまで上昇しています。

更に「着物の柄被りは避けたい」「他の子より目立ちたい」ということで、着物選びやヘアセットに費用をかけるご家庭も増加。卒業式の準備にかける平均費用相場は、年々上昇傾向を見せています。「華美になりすぎるのは困る」「経済的に裕福でない家庭との差別化が激しくなる」と考え、袴姿禁止を選ぶ学校も増える傾向にあります。

 

卒業式の袴姿、準備はみんなどうやっている?平均費用は?

では卒業式の袴姿を選んだご家族は、どのように準備をされているのでしょうか。

袴姿はレンタルが優勢

小学校の卒業式の袴姿については、「購入せずにレンタルで済ませる」という率が非常に高い傾向を示し、70%以上がレンタルという状態になっています。七五三の振袖・着物準備では着物購入者の率も比較的ある傾向なのですが、袴では「借り物でOK」という方が多いようです。

これには振袖がお正月や親戚の結婚式等にも着用できるものであるのに対し、袴姿は「卒業式だけにしか着られない」ということも関係している様子。前述のとおり女性の袴姿は実際のところ「正装」ではないので、その後に着用できるシーンはほとんどありません。「1日だけの晴れ着だから、買うほどではない」という方が多いのも頷けますね。

卒業式の袴のレンタル費用の相場は?価格帯や平均費用は?

小学校の卒業式に着る袴姿のレンタル費用は、年々料金価格帯に開きが出るようになってきています。袴人気の上昇に伴って、「着物を借りたい」という人も増加。そのため比較的リーズナブルな価格帯のレンタルも人気となりましたが、反面「着物の柄が他の子供と被るのを避けたい」「一生に一度のイベントなのでこだわりたい」という方も増え、高級品レンタルの人気も上昇しています。

【小学校卒業式の袴のレンタル費用】

リーズナブルな料金価格帯の場合1日あたり15,000円~20,000円(保証料込)
人気柄・高品質のレンタル袴の場合1日あたり50,000円~100,000円以上(保証料込)

※ただし上記は「着物+袴」の価格帯であり、実際には以下のような出費が必要となることもあります。

【小学校卒業式の袴姿にかかるその他料金】

・肌着、草履(靴)、鞄等の小物類
・髪飾り等のアクセサリー類(業者によっては衣類とワンセットレンタルの場合あり)
・着付け料金
・ヘアセット料金
・記念撮影料金

簡易版の着物+袴の場合には、着付けの知識が無い方でも子供にサッと着させられるものも。しかし本格的な袴の場合、着付け経験が無い方が着せないと着崩れをしやすいため、美容院や着付け師等への依頼が必要となります。また卒業式当日に写真館・フォトスタジオに赴いて記念撮影をされる方も増えています。

上記のような諸々の出費を総計すると、小学校卒業式の袴姿への平均出費は以下のようになっています。

【小学校卒業式の袴姿にかかる平均費用】

リーズナブルなセット料金等の場合35,000円~50,000円以上
セミオーダー・人気製品等の上位プランの場合70,000円~100,000円以上

レンタル予約は年々早まる傾向

小学校の卒業式の袴姿のレンタル予約をする時期も、年々早まっている傾向です。近年では前年4月(学年開始時期)に卒業式日程が確定した時点で、レンタル予約をするという方も増えています。

成人式ほどではないにせよ、各学校での卒業式日程は3月上旬~中旬に集中するもの。そのため早めに予約をしておかないと、人気製品が予約でいっぱいになってしまうことも多いんですね。また中学受験等の関係で「秋頃以降はバタバタするから」と、一学期中等の早めに卒業式の準備を済ませてしまう方も多いようです。

平均相場は上昇傾向を持続

なお上記の卒業式にかける平均費用の額は、2015年のアンケート回答調査のもの。子供の卒業式にかける平均費用額は徐々に上昇傾向を示しており、この点が前述の「袴禁止」を招いているとも言えます。

 

小学校卒業式の袴姿、費用を抑えてオリジナリティを出すには?

小学生の袴姿の「料金高額化」が起こる一因には、「袴を選ぶご家庭が増えた分、色柄の被りが増えた」「製品品質の差が見た目にわかるようになった」ということもあるようです。

クラス内に袴姿の子が一人なら、色柄の被り等もありませんし、着物の質等が気になることも無いでしょう。しかし袴の子が増えるにつれて、「安価なレンタルを選んだら、同じ柄の子がいた」「借り着の化繊と正絹では見栄えが違った」という点を気にされる方も増えています。成人式と同じで、「一生に一度の晴れ姿なのだから、他の子とは違う特別で上質なものを」と考える親御さんが増えているんですね。

とは言え、一度きりの袴姿のために着物を一から誂えるのは大変なもの。そんな時には、お母様やお祖母様がお召しにならなくなった着物を仕立て直してみてはいかがでしょうか。

高品質の「家族の着物」でワンランク上の袴姿を

「着物+袴」という同じスタイルの子どもが並ぶと、素材の善し悪しが素人目にも伝わりやすくなります。安価なレンタル製品に使われる化繊素材(ポリエステル素材)は洗いやすく扱いやすいのがメリットですが、モノによっては「ペラペラ感」が目立ってしまうことも。

その点、タンスに眠っている昔の振袖等の礼服はそのほとんどが正絹(シルク)素材であり、見た目にも上質。着物の場合、洋服のような「柄行の流行」がほとんどありませんので、現代の卒業式にも十分にお使いいただけます。

新品を誂えるより低価格

上質な正絹の着物を一から誂えるということになると、その料金は10万で済むものではありません。刺繍や染めにこだわった高品質なものとなれば、価格は天井知らずになってしまいます。

しかし「仕立直し」の場合には、既にあるお着物を一度解いて作り直すため、必要となるのは技術料のみです。オリジナリティがあり、なおかつ上質な趣のある着物姿を、新調するよりもずっと気軽に実現できるというわけですね。

思い出の着物を子へ、孫へ

かつて若い頃に袖を通した着物、もう着ることは無いけれど思い出が詰まっていて手放せない…そう考える方も多いのではないでしょうか。上質な着物は、お手入れさえ怠らなければ20年、30年と長い期間を越えて着続けてゆけるもの。お祖母様からお孫様へ、お母様から娘様へ…卒業式という門出の時の袴姿にご家族の思い出の品を使うことが、ご家族皆様の喜びとなることでしょう。

 

おわりに

卒業式や入学式といった「家族のイベント」を大切にする傾向は、今後も強まっていくと考えられています。卒業式の袴姿も、学校全体での禁止が無い限りは増えていくのではないでしょうか。とは言え、「トイレトラブル」「転倒トラブル」といった式典でのトラブルの報告例が増えているのも事実。長襦袢やロングスカート等をお家で着てみて着物姿で動くことに慣れさせるく、ご家族が着崩れ対処等を覚えておくといった対策も取っておいた方が良さそうですね。

また着物・袴のご購入やレンタル・仕立直しのいずれにしても、準備は早めに行っておくことが大切です。直前になって慌てることが無いよう、万全の準備をしておきましょう。

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吉原ひとし


着物ケア診断士 吉原ひとし


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