着物の着付け、慣れない着物でのお出かけ…着物のオシャレは楽しいけれど、意外と疲れる時もありますよね。着物のお出かけをした後は、洋服にきがえてゆっくり寛ぎたい…という人も多いのではないでしょうか。でも着物を脱いだ後に忘れてはいけないのが、着物のお手入れ。せっかくの着物を長く着るためには、「着物を着た後のお手入れ」が大切なんです!
目次
着物を着た後のお手入れの基本は「陰干し」!
着物を着た後はベッドやソファの上に置いておいて、そのまま畳んでタンスやクローゼットにしまって、おしまい…これはもっともやってはいけないことです!一回着た着物には、着用した時の汗(水分)が多く含まれています。汗に含まれる皮脂や水分はカビ菌が最も好むもの。
汗をきちんと飛ばさずに着物をしまうと、保管中に着物の中でカビ菌が繁殖しやすくなるんです。
次回に着ようと思った時にはカビだらけ、変色だらけ…となる可能性はとても高くなります。着物を着た後のお手入れの基本は、まずしっかりと水分を飛ばすこと。そのために大切なのが「陰干し」です。陰干しとはその名のとおり、日陰で着物を干すことを指します。
【陰干しの手順】
- 脱いだ着物を和装ハンガーにかけ、形を整えます。
- 日光が直接入らず、風が通るところに干します。室内干しをする場合には、窓を空けて換気をした状態にしましょう。
- 平均2時間程度は陰干しします。汗をたくさんかいた場合には半日程度陰干ししてください。
※直射日光に着物を当てると、褪色・色あせ・変色等を起こす可能性があります。屋外直射日光の場合、半日程度の陰干しでも褪色が起きてしまうことも。必ず影になる場所を選んで干しましょう。
※湿度が高い時期の場合、室内でエアコンをかけた状態にした方が湿気が飛びやすくなります。
着物の汚れをチェックしましょう
和装ハンガーに着物をかけている間に行いたいのが、汚れのチェック。食事時等にシミ・ハネ等が気がついた場合にはもちろんですが、一度着た着物には知らない間に色々な汚れが付いていることもあります。早めに汚れを発見すると、適切な対処が取れますよ。
【着物汚れのチェックポイント】
・襟元:ファンデーション汚れが付きやすい
・胸の周辺:食べ物・飲み物のハネが付きやすい
・袖口・袖の裏:汗ジミ等ができやすい
・裾:天候が悪い場合、泥ハネができやすい
・背中:暑い時期に汗ジミができやすい
・帯部分:暑い時期に汗ジミができやすい
・脇(ワキ):汗ジミができやすい
・肘の裏・膝の裏:暑い時期に汗ジミができやすい
※着物の状態をしっかりと確認できるよう、チェックは明るい場所で行いましょう。
中でも注意をしたいのが、「襟元」と「袖口」。女性の場合には「襟元」「襟周辺」にお化粧の汚れ等が付きやすいです。ファンデーション汚れは白っぽい汚れとなります。また見落としてしまいがちなのが「袖口」。特に袖の裏側は意外と汗汚れ等が付きやすい箇所なので、裏側全体をしっかりとチェックしましょう。
またお天気が悪い日に着物を着た場合、付きやすいのが裾の「泥ハネ」。泥ハネも外側だけでなく内側にも付きやすいので、こちらも丁寧にチェックしておくと安心です。
着物に汚れが見つかったら?汚れの取り方・シミ抜き方法
汚れチェックでシミ・汚れ等が見つからなければ、そのまま畳んで保管をしてOK。でも「あれ?」と思うところがあったら、早めにシミ抜き等の対処をしましょう。
着物の素材・シミの状態によっては自宅で着物のシミ抜き・汚れ取りをすると着物を傷めてしまうことがあります。「自宅でシミ抜きができないケースとは」を必ず確認してから汚れ取りを行いましょう。
汗汚れがある場合には「汗抜き」を
着物のチェック中に触れた場所が汗で濡れている、夏場で着用中にたっぷりと汗をかいた…という場合には、陰干しの前に「汗抜き」を行います。
【汗抜きの手順】
1)細かい霧の出る霧吹きもしくはスプレーボトルに水(水道水)を入れます。
2)汗をかいた場所に軽くスプレーします。
3)柔らかいタオルで生地を軽く叩き、含ませた水分を吸い取ります。
4)やや長めに陰干しを行います。
※水分を含ませすぎると生地の縮み・変質が起きる可能性があります。
※染めの手法・染色原料によっては色落ち等の恐れがあります。目立たない場所に水スプレーを行い、色落ちが無いか事前にチェックをしましょう。
※金箔・銀箔・刺繍部分等には水を含ませないでください。
汗をかいたまま放置すると数年後には必ず変色してしまいますので汗が気になるようでしたら汗取りクリーニングをお勧め致します。
ジュース等の水溶性のシミが付いている場合
ジュース・ワイン・コーヒー・紅茶といった水分系のシミが付いている場合には、早めの対処で色素を取り除くことでシミを取れることがあります。
【シミ抜きの手順】
1)シミ部分をティッシュ等で軽く抑えて、シミの水分を丁寧に吸い取ります。
2)シミ部分の裏側にタオルをあてておきます。
3)中性洗剤を水で薄め、柔らかい布・ガーゼに浸してよく絞ります。
4)洗剤液を付けた布(ガーゼ)で、シミ部分を軽く叩くようにしてシミを取っていきます。
5)別の布・ガーゼをぬるま湯に浸して、よく絞ります。
6)ぬるま湯に浸した布で、シミ部分を軽く叩いていきます。シミ部分とその他の部分をぼかすように叩くと、輪ジミになるのを防げます。
7)シミが取れない場合には、4)~6)をもう1回行います。
8)別の乾いた布・薄手のタオル等でシミ部分を軽く叩き、水分をしっかりと取り除きます。
9)長めに陰干しを行い、残った水分を飛ばします。
※水分を含ませすぎると生地の縮み・変質が起きる場合があります。
※染色原料・生地素材によっては色落ち・変色が起きる可能性があります。事前に裏部分等の目立たない箇所で必ずテストを行ってください。
※洗剤液でのシミ抜きを行ってもシミが取れない場合には、それ以上シミ抜きを無理に行わず、専門のクリーニング店にご相談ください。
ファンデーションや油汚れが付いている場合
ファンデーションや口紅等のお化粧のシミ、ステーキソースやケチャップ等のシミは油を含む油溶性のシミです。これらの汚れは水と中性洗剤だけでは落とせないので、油汚れを融解させる揮発油(ベンジン)を使用します。
【シミ抜きの手順】
1)シミ部分の裏側にタオルをあてておきます。
2)ベンジンをガーゼか綿棒に少量含ませます。
3)ガーゼもしくは綿棒でシミを柔らかく叩き、汚れを溶かします。
4)別のキレイなガーゼでシミ部分を柔らかく叩き、ガーゼに汚れを移していきます。
5)汚れが取れたら細かい霧吹きで水をかけて、シミの周辺部分をぼかし、輪ジミを防ぎます。
6)長めに陰干しを行って、水分をよく飛ばします。
※ベンジンは生地・染色によっては変色・褪色・生地劣化等を起こす揮発油です。必ず事前に裏面等の目立たない箇所で小さくテストを行い、色落ち等が起きないか確認しましょう。
※ベンジンを付けた箇所を強くこすらないでください。色落ちの原因となります。
※ベンジンは揮発性があるので、必ず窓を空けて換気した状態で作業しましょう。
※ベンジン使用中には火気厳禁です。火災の原因となるので、喫煙・調理等は絶対に行わないでください。
泥ハネが付いている場合
裾などにつきやすい泥汚れ・泥ハネは、ごく小さな砂によってできているため、洗剤等では溶かし出すことができません。できるだけしっかりと乾燥させて、砂を取り除いていきます。
【汚れ取りの手順】
1)柔らかい布等をシミ部分にあてて、水分を吸い取ります。(砂を押し込まないようにご注意ください)
2)シミ部分に水分が残っている場合には、陰干しをして十分に乾かします。
3)毛の柔らかい歯ブラシをシミ部分にあててゆっくりと一方向に動かし、繊維の奥に入っている砂を少しずつ掻き出します。
※使用するブラシは必ず柔らかい毛質のものを選びましょう。
※ブラシで強く擦ったり、ゴシゴシと往復させるのはNG。生地を傷める原因になります。
自宅でシミ抜きができないケースとは?
着物の素材・シミの状態が以下にあたる場合には、シミ抜きによる生地の変質・変色・褪色等が起こる可能性があるため、自宅での汚れ取り・シミ抜きがおすすめできません。
1)生地が正絹(シルク)である場合、また着物の素材が不明の場合
2)シミの汚れ範囲が直径2センチ以上ある場合
3)生地の色が黒、紺、濃い紫、濃い赤等の濃色の場合
4)シミ部分に刺繍がある場合
5)シミ部分に金箔・銀箔加工等の特殊加工が施してある場合
6)シミの原因がわからない場合
7)シミが今回ついたものではない可能性がある場合(古いシミの場合)
8)カビ・古い汗ジミ等による変色が見られる場合
9)シミ抜き前のテストで色落ち・変色が見られた場合
上記のような場合には無理にご自宅でシミ抜きをせず、早めに着物染み抜きクリーニングを行える専門店に依頼をしましょう。
6ヶ月後にはもう一度「着物の状態チェック」をしましょう
「汚れも無かったし、これで着物をしまって大丈夫!」と、次回の登場まで着物をしまいっぱなし…これも、ちょっと不安なところ。かつての日本の家屋は木造で風通しが良かったのですが、現代の日本のマンション等は湿気をためこみやすく、クローゼットの中で雑菌やカビ菌等が繁殖することが多いんです。
特にクリーニング無しで着物を保管した場合、しまう時には汚れが目立たなくても、何ヶ月か時間が経ってからカビ汚れ等が出てくることがあります。何年もしまっておいて、次に着る時に「変色だらけで着られない!」ということになっては大変。
着物を一度着て保管したら、半年後(6ヶ月後)程度にはもう一度着物を広げてみて、状態をしっかりチェックしておくと安心です。
虫干しの習慣を付けると安心
着用した着物だけでなく、保管してある着物の全て虫干しする習慣を付けると、着物のカビの繁殖を抑えることに繋がります。「虫干し」とは虫害を防ぐために陰干しを行うことですが、着物の虫食いを防ぐだけでなく、カビ予防にもなってくれるんです。
虫干しは数日間良いお天気が続いている、乾燥した日に行うのが理想的。お天気の良い日が続く5月頃や梅雨明けの7月上旬頃、また空気が乾燥しやすい10月頃等が虫干しの時期に適しています。1年に2回~3回程度、タンスの中にある着物の虫干しを行っておくことをおすすめします。
2年に1回は「タトウ紙」を交換しましょう
「タトウ紙(たとう紙)」とは、着物を包んで保管しておくための紙のこと。「文庫紙」と呼ばれることもあります。呉服店等でお着物をお買い求めになった場合には、購入時にタトウ紙に包まれた状態でお着物が手元に届きます。タトウ紙は吸水性の高い和紙でできているため、タンスの中等にある湿気を吸い取り、中の着物に湿気がこもるのを防いでくれる便利な存在。でも何年もタトウ紙をそのままにしていると徐々に吸湿効果が落ちて、着物に湿気がこもりやすくなるんです。
以下のような場合には早めにタトウ紙を購入・交換されることをおすすめします。
1)着物購入後3年以上が経過しており、一度もタトウ紙を交換していない
2)中の着物にカビ・変色等が見られた
3)タトウ紙に茶色い斑点(シミ)が浮いている
4)フリーマーケット等で着物を購入したため、タトウ紙で着物を包んでいない
タトウ紙を買えるお店はどこ?
タトウ紙は以下のような店舗で販売されています。
・呉服店、きもの専門店(店舗により対応が異なる)
・ネット販売(楽天市場、amazon等)
・和装専門のクリーニング店 等
なお呉服店の場合、お店によってはタトウ紙のみの販売を受け付けない場合があります。店舗の名前が入っているタトウ紙しか扱わない店舗の場合、タトウ紙がブランドグッズ(ブランドの紙袋のようなもの)の一種となるため、単体での取扱ができないのです。お近くの呉服店で無記名のタトウ紙を扱っているか、記名のタトウ紙を売ってもらえるか確認をしておくと良いでしょう。
なお当店ではタトウ紙を一枚200円(税抜)で販売しております。「タトウ紙を新しくしたい!」という時には、お気軽にお問い合わせください。
タトウ紙は2年に一度は取り替えましょう
タトウ紙は2年に1回は定期交換するのが理想的。長くても3年経過すると、吸湿効果が落ちてきます。虫干しや着物の状態チェックを行う時等にタトウ紙を交換する習慣を付けて、2年に1回ペースで交換をしておくと安心です。
おわりに
着物は大切にお手入れをすれば、何十年も着ることができる衣類です。またお着物の柄には流行がほとんどありませんので、お祖母様からお母様へ、そしてお母様から娘様へ…と受け継ぎながら着ていくこともできます。お手入れ・保管にちょっと気を使って、次回も着物を美しく着られるようにしておきたいですね。