着物で礼装をする時にプラスしたいのが「重ね襟(伊達襟)」です。
目次
重ね襟(伊達襟)とは何ですか?
重ね襟(かさねええり)とは、着物の衿元と半襟の間に重ねるように少しだけ見せる「飾りの襟(えり)」のことを言います。基本的に慶事の礼装をより華やかに見せるためのアイテムです。
長さは大まかに120センチ程度、幅10センチ程度で作られており、裏地のついた二重仕立てになっています。
重ね着に見せるオシャレ襟
着物は昔から「何枚も重ねて着る」と言うのが高級で正式という考え方でした。例えば平安時代の十二単(じゅうにひとえ)などは最高級の衣装ですよね。
でも本当に何枚も着物を重ねて着るのは暑いし重いし大変です!そこで「まるで重ね着をしているように見せる」という重ね襟と言うオシャレが生まれたわけですね。
伊達襟とも呼ばれる
仙台藩初代藩主である伊達政宗(だて・まさむね)公は、大変なおしゃれであり、また派手で周囲の度肝を抜くような姿をすることでも有名でした。そんな逸話から「オシャレのためだけのもの」「華美なもの」「元々の用途の意味は為さないもの」を「伊達(だて)」と呼ぶようになったと言われています。
度が入っていないメガネを「伊達メガネ」と言いますよね。それと同じように、重ね襟のことも「おしゃれのためだけの襟」と言う意味で「伊達襟」とも呼びます。
重ね襟は必ずしなくてはいけない?
重ね襟は必ずするものではありません。あくまでも着用が自由の、フォーマル向け特別版アクセサリーのような存在です。着物の時には必ずつける「半襟(はんえり)」とは、そこが大きく違います。
「重ね襟をどうしよう!?」「色合わせがわからない」と迷うのであれば、なくてOKと言うわけです。ただし着物が「留袖」の場合、お仕立てによっては重ね襟を必ずつけることが求められる場合もあります。
比翼の無い留袖には必要
留袖は格の高い正装なので、元々は中に白い着物を一枚重ねて着るものでした。しかしこれだと暑くて重いため、近年では襟・袖などに白い着物を重ねているように見せる「比翼仕立て(ひよく・したて)」が一般的となっています。
ところが留袖のお仕立てによっては、比翼になっていないものもあります。この場合には、比翼の簡易版として白い重ね襟をつけなくてはなりません。
着物の種類と重ね襟の選び方は関係ある?
はい、重ね襟には向いていない着物の種類もあります。基本的に重ね襟は「おめでたいお祝い事に着ていくフォーマル服向けのアクセサリー」なので、着物の種類に合わせて、次のように選んでいくと無難です。
- 打掛(花嫁衣装)→ 重ね襟で華やかに見せることが多い。地域によって色合い・刺繍有無などのルールが大きく異なる。地域の呉服店や着付け師さん、結婚式場などに確認を取るのがおすすめ。
- 黒留袖 → 比翼仕立てなら不要、比翼がない場合には白い重ね襟で簡略化した比翼に見せる
- 色留袖 → 比翼仕立てなら不要、比翼がない場合には原則として白い重ね襟で比翼に見せるのが一般的。ただし地域によってやや色合いなどのルールが異なる。
- 振袖 → 重ね襟で華やかにする着付けが人気。成人式の場合には色合いやデザインは自由。ラインストーンなどの派手襟も人気。結婚式に着ていく場合などは薄色が無難。
- 訪問着 → フォーマル向けのおとなしめの柄行の場合、式典や七五三などに薄色の重ね襟をする方も。ただ元々が略式礼装なので、結婚式等には重ね襟があまり向かないケースもある。
- 色無地 → 家紋入りの場合にはフォーマル向けのため、重ね襟で遊び心を出したフォーマルコーディーネートをする方も多い。紋無しは普段着(街着)なので原則として重ね襟はしない。
- 小紋 → 原則として普段着(街着)なので重ね襟はしない(あくまでも遊び着としてコーディネートするのは構いません)
- 浴衣 → 原則として普段着なので重ね襟はしない(あくまでも遊び着としてコーディネートするのは構いません)
カジュアルオシャレとしての重ね襟について
近年の着物ブームによって、普段着(街着)として着る小紋や浴衣で重ね襟をするコーディネートも人気となっていますね。例えばコンサートに行ったり、映画や美術館、花火に行ったりする「普段の遊び」の中で、小紋や浴衣に重ね襟をしても、もちろん全然問題はありません。自由に楽しんでいただきたいです。
ただし、いくら重ね襟をしても小紋や浴衣は「普段着」の扱いです。フォーマルな場(各種式典や七五三、結婚式、高級なレストラン、あらたまったパーティーなど)に着ていける服ではありません。また訪問着に重ね襟をしたからといって、着物の格は上がりません。重ね襟をしても、訪問着はあくまでも略式の正装です。重ね襟は どこまでも「おしゃれのためのものだ」と考えましょう。
「重ね襟をしても着物の格は上がらない」「重ね襟をすれば特別なフォーマルになるわけではない」と言う点には十分にご注意ください。
重ね襟で気をつけるマナーはある?
重ね襟のマナーとしては、まず「弔事にはNG」と言う点が挙げられます。また絶対的なルールではないですが、あらたまった場になるほど薄い色・淡い色・穏やかなデザインを選んだ方が好まれやすいです。
通夜葬儀や法事にはNG
弔事とは、お通夜や葬儀、一周忌・三回忌などの法事のことを言います。簡単にいうと、誰かが亡くなった場合のイベントですね。
このような弔事は、できれば何度も起こってほしくないものです。ですから「重ねる(何度も起こる)」を感じさせる重ね襟をするのは、縁起が良くないことになります。ですから喪服着物には重ね襟をしません。法事などの時に身につける色無地などにも重ね襟はNGです。
フォーマルな場では淡く上品な色重ねを意識して
フォーマルな場では、強く濃い色味同士の重ね方はあまり良くありません。淡い色、柔らかな色合いを意識すると上品に仕上がりますし、あらたまった雰囲気になりますよ。
重ね襟は縫い付けなくてはいけない?
重ね襟は必ずしも縫い付ける必要はありません。クリップなどで固定して着付けしてしまう方もいらっしゃいます。きちんと襟が固定されていればそれで大丈夫です。ただし自分以外の誰かに着付けをしてもらう場合には、事前に確認を取ってください。
着付け方法が異なる場合がある
振袖などで着付師(美容院など)に着付けを依頼する場合には、事前に重ね襟について必ず確認をとりましょう。着付けの方法によっては、事前に長襦袢の方に重ね襟を縫い付ける方もいるからです。
当日になってから「重ね襟を」という話になると、重ね襟をお断りされてしまったり、思った着付けと違う形になってしまう可能性もあります。
重ね襟(伊達襟)は自分で洗える?
原則として、重ね襟(伊達襟)は自分で洗わずにクリーニングに出した方が良いです。一部の化繊製品では洗えるものもありますが、型崩れなどが起きやすい製品が多く、ご自宅での洗濯はあまりおすすめしません。
正絹(シルク)は絶対クリーニング
まず正絹(しょうけん、シルク100%)の重ね襟や、シルクが混じっている重ね襟は、家で洗うと縮みます。型崩れすると元に戻らなくなるので、クリーニングに出しましょう。
木綿もクリーニングの方が良い
木綿の重ね襟は素材的には洗えそうに見えますが、実際には縮みやすい素材です。これも一度縮んでしまうと扱いが難しいです。縮んで柄が歪んでしまったら、後から専門店に相談しても元に戻せない可能性が高いです。まずは洗濯表示をよく確認するのが一番ですが、洗える製品であっても、できればクリーニングでお手入れすることをお勧めします。
刺繍や特殊加工製品は絶対クリーニング
化学繊維(ポリエステル混紡など)の製品であっても、刺繍が入っているもの、ラインストーンなどの縫い付けがあるもの、フリルやレースなどの特殊加工製品については、クリーニングの方が良いです。
重ね襟(伊達襟)は、一度型崩れを起こしてしまうと次の着付けがしにくくなってしまいます。あまり汚れにくいアイテムではありますが、汚してしまった場合は早めに専門店でお手入れした方が、きれいな状態が長持ちしますよ。
おわりに
今回は重ね襟(伊達襟)についてよくある疑問・質問を解説しました。重ね襟はそもそもが必需品ではなくアクセサリー的なオシャレ用品なので、取り扱いもなかなか繊細です。
よくわからないシミができてしまったといった場合には、早めに専門店に相談してみてくださいね。当店『ふじぜん』も、着物クリーニングの専門店として、重ね襟(伊達襟)のお手入れのご相談を受け付けています。宅配での全国対応もできますので、お近くにお店がない時にはお気軽にご相談ください!