最近は若い男性の中にも普段から着物に親しむ「着物男子」が多数登場するようになりました。InstagramなどのSNSでもたくさんの着物男子がコーディネートを競っておられ、嬉しい限りです。
さて着物男子の皆さん、結婚式や披露宴の服装はどうしていますか?結婚式は最も格の高いフォーマルな場であり、着物も「礼装」としてキチンと着るものです。いつもの自由なオシャレではなく、少しだけコーディネートを見直してみましょう。
目次
黒紋付ならあるが結婚式に着て良い?
黒紋付を結婚式に着るのは新郎と親族・親戚・仲人のみです。ゲスト側は黒紋付を避け、控えめな色ものを選びます。ご友人や会社関係などで招待された結婚式には、黒紋付はやめましょう。
正礼装は主催者側
まずは日本の原則的な服装マナーを覚えましょう。「主催者側(ホスト側)の方が、招待客(ゲスト側)よりも格の高い良い服を着る」これが日本の礼儀でありマナーの基本です。
- 新郎新婦、その両親や家族 最も格の高い正礼装を身につける
- 親族(新郎神父の親戚) 正礼装または準礼装を着る
- 仲人 正礼装を身につける
- 招待客(友人、同僚など)準礼装または略礼装を着る
結婚式やお葬式は「お客さまに来ていただくもの」であり、精一杯の良い服を着てお迎えするのが礼儀と言うのが日本の考え方なのですね。反対に招待客側は主催者側より一段控えめな服装で会に参加します。
今回の質問の「黒紋付(五つ紋)」は、男性着物のフォーマルの中で最も格の高い「正礼装(純フォーマル)」です。ゲスト側がこれを着ていくのはTPOに合いません。黒紋付は「洋装で言えばタキシードに蝶ネクタイ」というと、「ゲストが着るとヘンかも?」と言うのが伝わるでしょうか。
親族としての黒紋付は周囲と相談を
親族側で黒紋付を着る場合ですが、新郎様とそのご家族の服装をよくご確認されることをおすすめします。近年ではレストランウエディングなどで、新郎や新郎新婦の父もカジュアルな略礼服を着るケースが増えています。
主役および主役に近い方が略礼服なのに、親族が改まった正礼装である黒紋付というのもバランスが悪いですし、悪目立ちしてしまいがち。マナー的にはOKでも実情にはそぐわない…と言うケースは意外とあるので、注意しておきたいですね。
羽織が無いが着ないとダメですか?
男性の羽織は、原則として結婚式や披露宴には必ず着ます。羽織は洋装で言うところの「襟付きシャツ+ジャケット」であると言えば、羽織の必要性が伝わるでしょうか。羽織なしのスタイルは、どんなに良い着物であってもカジュアルな扱いになってしまうのです。
例えば参加者がTシャツOK!ジーンズOK!といったくだけたカジュアルなパーティであれば、羽織の有無を気にする必要はないでしょう。しかし結婚式の場合、かなりカジュアルな趣きであっても男性はビジネススーツか、ノーネクタイでもジャケットを着ますよね。二次会でもジャケット参加の方が多いはず。これと同じように「着物+羽織」は必須コーディネートだと考えた方が無難です。
盛夏には絽や紗の羽織を
暑い夏に羽織を加えるのは辛いものですが、絽(ろ)や紗(しゃ)でできた薄物の羽織であれば着心地もだいぶ涼しく、また見た目にも爽やかです。ぜひ試してみてくださいね。
結婚式の参列に袴は必要ですか?
男性の着物の装いで、フォーマルだからといって必ずしも袴(はかま)は必要ないというのが基本的な考え方です。袴なしで参列される方は大勢いらっしゃいます。
ただし、実情については「袴なしで良いよ」と言いづらいところがあります。着物に慣れていない方、フォーマル着物とカジュアル着物の見分けがまだよくわからないというビギナー向けのコーディネートとしては、袴を身につけるのがオススメなんです。
袴なしフォーマルは「上級者向け」
上でも書きましたが、袴は必ずフォーマルに着なくてはいけない訳ではありません。しかし実際に袴なしでフォーマルシーンにいらっしゃる方がどういう人たちか?というと「普段から着物を着て、着物に慣れている人たち」なんですよね。(例えば呉服関係の人、和の芸能関係の人だったりです)
つまり着物の種類を知り抜いていて、羽織の色、着物の素材、色柄、どのようなものがその場にピッタリ合うものなのかをよくご存知で、袴が不要か必要かの判断を適宜できる状態です。だから「袴なし」でも相手に失礼な印象にならないし、適度に洒脱な印象を与えます。
しかしこれを初心者がいきなり練習なしでやると「失敗コーデ」になりやすいんですよね。例えば羽織の中の着物が普段着向けだったりして、カジュアルすぎて失礼なことになってしまうケースも多いです。特にお世話になった方、目上の方の結婚式にお若い方が袴なしスタイルを選ぶのはお勧めができません。
無地または縞の袴でフォーマル度を上げる
無地または縞の袴を合わせることは、和装フォーマルのコーディネートの最もベーシックで手軽な方法と言えます。極端な話、中に来ている着物を多少失敗したとしても、キチンと羽織を着て袴と白足袋を身につけていればとりあえずOK!と言うところがあるわけです。洋装で言えば「とにかくスーツを着てネクタイをしていれば略式フォーマル」といったところでしょうか。
「まだちょっとフォーマルスタイルには慣れない」と言う着物男子は、とりあえず袴コーディネートから挑戦した方が、新郎新婦や皆様にも失礼をするリスクは減らせます。まずは袴ありから挑戦されることをオススメします。
柄着物を結婚式に着て行っても良いですか?
男性の和装の場合、柄着物を結婚式や披露宴に着るのは避けた方が良いです。これには「服の格」という基本的な意味合いと、「主役は新郎」と言う実情があります。
男性の柄着物はカジュアル扱い
男性の着物は、ざっくり言うと「無地ほどフォーマルで柄があり目立つほどカジュアル」という分類になります。
- 無地 正礼装、準礼装として着用できる
- 無地風 一見して無地だが、目を近づけると柄(地紋)があるといったもの。略礼装に使用できる
- 細かで地味な柄 連続した柄で、1メートルくらい離れると無地っぽく見える。よそ行きのお出かけ(例えば上級のレストランや良い席で見る観劇など)に着られる
- 1メートル離れて柄が見える カジュアル、街着扱い
- ハッキリと柄物 完全にカジュアル ジーンズや浴衣と同じ扱い
派手な柄シャツを着て結婚式に参列する人がいないのと同じ、と考えてもらえると良いかと思います。準礼装または略礼装にとなる無地または無地に見えるものを選んだ方が良いです。
目立ちすぎない控えめな色柄を
上に解説したのは基本的な着物マナーですが、さらに結婚式の実情として「和装男子は普通にしても目立ちやすい」と言うのがあります。結婚式の主役は新郎新婦であり、男性の場合は「新郎より目立たないこと」が意外と大切なのです。華やかな色合いや柄物は、マナーに合わないというだけでなく「悪目立ち」をしてしまいがちなのです。
アンティーク着物をコーディネートに入れるのはアリ?
アンティーク着物がダメと言うことはありません。大切なのは「フォーマルに向いた素材と色柄を選べているか?」と言うことです。フォーマル向きの正絹(お召し)で、状態の良いもの、目に見える色あせや傷み、襟などの型崩れが無いことをよく確認しましょう。
素材不明の場合はアンティークや中古は避ける
普段着や遊び着としてアンティーク着物を着る場合には、素材はなんでもアリですよね。でも結婚式にフォーマルとして男子がアンティーク着物を着る場合、ウールや木綿、ポリエステルはNGです!
新作着物ですと、シルクウールと言ってプロがパッとみてもシルク(正絹)に見ま間違うようなウールや、上質な化学繊維も登場しています。そのため一概に「ウールはフォーマルにはダメですよ」と言い切れないところがあります。
しかしアンティーク着物の場合、多くは昭和の着物なわけです。これらの木綿着物やウール着物はハッキリと普段着向けであることがほとんど。どんなにオシャレに着こなしても「普段着を結婚式に着てきた人」になります。
まだ着物に慣れなくて、アンティークや中古着物の素材の見分けがつかない、どれがフォーマル向けよくわからないという場合には、アンティーク着物をフォーマルコーディネートに組み合わせるのは避けた方が良いです。
結婚式に色足袋はダメですか?
結婚式・披露宴の場合、親族側は必ず白足袋ですが、ゲスト側も白足袋を着用されることをおすすめします。普段着でも白足袋OKの女性に比べ、男性の場合、通常の場ですと黒足袋やグレーなどの色足袋を身につけることが多いですよね。でもこれはあくまでも「普段着」の場合です。礼装をする場合や茶席の場など、改まった場では白足袋を身につけます。
例えば着物や羽織ひもに少し遊び心があっても、足元が白足袋であればキュッと引き締まったフォーマルらしい装いになります。また、いわゆる「足袋ソックス」は礼装の場合にはNG。きちんとコハゼのある足袋を選びましょう。普段が足袋ソックスが多くて足が慣れないと言う場合、ストレッチタイプの足袋を選ぶと比較的快適に過ごせますよ。
また白足袋は汚れが目立ちやすいものです。雨などで足元が悪い場合を考慮し、外を歩く時用の足袋カバー、または替えの足袋をお持ちになることをおすすめします。
結婚式に下駄はNG?履物は?
男性が和装で結婚式に出る場合、足元が下駄はNGです。下駄(げた)とは、胴の部分が木製のもののことを言います。原則としてカジュアルな扱いの履き物です。洋装で言えばスニーカーやブーツといった扱いでしょうか。せっかくフォーマルな和装に挑戦するのに、足元が下駄なのはちょっと合いませんね。
かなりカジュアルなスタイルのパーティーであっても、下駄は避けておいたおいた方が無難と言えます。木製の下駄は、床材によってはカランカランと大きな音を響かせやすいためです。
新郎や親族として結婚式に和装する場合(黒紋付に袴のスタイル)には、最上級の履物である畳表(たたみおもて)に白い鼻緒(はなお)の雪駄を選びます。ゲストの場合には必ずしも白鼻緒である必要はありませんが、雪駄または草履をチョイス。お色があまり派手でなく、控えめなものを礼装用に持っておくと便利です。
【『主役は新郎新婦』を大切に!】
結婚式の服装マナー(洋装の場合)で「白を身につけない」というものがあることは、ご存知の方も多いのではないでしょうか。白いドレスや花冠は主役である新郎新婦のためのもの。ですから、脇役である周囲が同じような白い洋服を身につけることを避けるのですね。
結婚式の服装マナーは上記のように「華やかであらたまった服装はするが、主役である新郎新婦よりは控えめであること」が基本的な考え方になります。女性の場合、新婦はウェディングドレスやカラードレス、打ち掛けなどを身につけますからとにかく華やかです。ですから女性招待客がどんなに華やかな振袖を着てきても、新婦の方が目立つことでしょう。(もちろん女性客にも花を頭に飾らないといった心配りは必要になりますが)
しかし新郎の場合ですと、ベーシックで控えめなスタイルを好まれる方も多いです。招待客側が気張って華やかな和装をした結果、新郎よりもはるかに目立ってしまっては意味がありません。「主役が自分ではなく新郎新婦である」と言うことを目安にすると、普段のコーディネートとは違う考え方ができるのではないでしょうか。
おわりに
今回は着物男子のための結婚式・披露宴の服装やコーディネートについて、よくある疑問を解説してみました。結婚式に初めての和装をする際には、不安なことやわからないことも多いはず。また礼装用着物(正絹着物)や袴のお手入れにお困りになる方も多いかもしれません。
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