「結婚式にこの柄の着物ってダメなんですか?」という質問を寄せられることが増えました。結婚式は振袖や留袖、訪問着といった礼装着物を着る良い機会。でも周囲の方に「あの柄を着るのか」と思われてしまうのは避けたいところですよね。
目次
結婚式で縁起的に避けたい着物の柄の例
結婚式の着物の柄について考える時、まず知ってほしいのが「縁起の良い・悪い」という考え方です。
「縁起(えんぎ)」とは、良いことが起こる「吉」または悪いことが起こる「兆」の先触れ、つまり予告のようなものです。これは洋風の縁起ですが「黒猫は凶兆の前触れ」というのは聞いたことがある人も多いことでしょう。
これと同じように結婚式は「おめでたい場」なので、参加者は良いことが起こりそうな柄を選び、悪いことに繋がりそうな色柄は避けた方が良い、ということになります。
着物の柄の場合、日本の伝統的な「縁起」についての考え方に強い影響が残っています。そのため、次のような柄は避けた方が無難と言えます。
桜(メイン柄+写実的なもの)
桜という花は、実は伝統的にはあまり縁起の良い花ではありません。桜の見頃って短いですよね。しかも「散り方」の方に目が行ったりします。「早く散ってしまう花」だから、永久の幸せを願う結婚式には不向きというのが、伝統的な考え方です。
桜が写実的に描かれているもの、桜吹雪のように散り際を描いているものなどは、結婚式の着物の柄としてはできれば避けたいところです。
椿(メイン柄+写実的なもの)
椿の花は、花の終わりに花ごとボトリと下に落ちます。人間で言うと「頭がゴロンと首から落ちた」ように見えるものです。
昔の日本では、武将などは戦いで負けると首を切られたことは、歴史で習いましたよね?また罪人も首を切られました。そのため「首が落ちる」とは、日本文化では「死」を示します。さらに「敗戦」「斬首」といったマイナスイメージを与えやすかっ他のです。(もちろん、冬の時期に華麗に咲く良い花ではあるのですが)
そのため結婚式の着物の柄として、「死」を連想させる椿(特に写実的な柄、椿の花落ちが描かれたもの)は避けるべきと言えます。
藤(下がり藤+写実的なもの)
藤は初夏を感じさせる美しい花であり、通常の場であれば着物の柄として人気です。しかし結婚式では避けた方が良い柄とも言えます。これは藤が「垂れ下がる」形を取る花であるためです。
特にリアルに藤を描いた「下がり藤」は、「今後の運気が下がる」というイメージを与える場合があるため、お祝い事の席では避けた方が良いとも言われます。できれば結婚式の着物としては選択肢から省きたい柄と言うわけですね。
蝶(メイン柄+写実的なもの)
蝶々には様々な謂れがあり、良い縁起とも悪い縁起もあります。しかし「虫であるが故に短命である」「ヒラヒラとあちこちの花に移る浮気ものである」といったイメージから、できたら結婚式には避けた方が良い柄の一つに加えられます。
なお、例えば「花束柄に蝶が一つ舞っている」といったような「蝶が脇役」の柄であれば、そこまで蝶を気にすることはありません。(これは意外と多い柄行です)また家紋やそれに類するようなデザイン的な柄行であれば、これも大丈夫です。
反対に見た目にリアルで、ざっくり言えば「虫っぽさ」のある蝶がメインに大きく描かれている柄は、できれば避けたほうが良いところです。
【組み合わせている柄ならば大丈夫!】
例えば桜の花が描かれているとしても、「春の花があれこれと描かれているうちのひとつが桜」ということであれば、そこまで縁起を気にすることはありません。、また例えば花束のような柄で四季折々の花が描かれていて通年着られるものも多いですが、このうちの一つが桜や藤であっても大丈夫です。
反対にメイン柄で、パッと見て「いかにもその花の着物だなあ」とわかるようなものには気をつけておくと良いですね。
【抽象的なデザインならばOK】
着物の場合、原則としてデザイン性が高く、抽象的な柄になればなるほど、季節性や縁起からは離れたものとして考えられることが増えます。(例えばリアルな梅の花の柄は春を表しますが、抽象的デザインならば通年使えます)
あくまでもザックリとした区分けになってしまいますが、パッと見て「本物の花のように見える描き方」をしている写実的な柄には注意する、という考え方を持っておくと良いでしょう。
結婚式で気をつけたい着物の柄
結婚式に着る着物の柄で、特に「マナー」とされているわけではないのですが、できれば避けておいたほうが良いと考えられる柄行もあります。結婚式では参列者が白いワンピース、白に見えるワンピースを身につけないことは、皆さん知っていますよね。また、参列者側は頭に生花をつけるのも良くないとされています。
これは「白い洋装」や「花かんむり」は花嫁だけができる装いであるためです。同じように見える装いを参列者側が行うのは「かぶっている」ことになるため、マナー違反になるとされています。
旧来の日本の着物文化では、花嫁との柄かぶりというのはあまり重視されるものではありませんでした。吉祥柄(おめでたい柄)は誰もが身につけるものですし、古典柄はデザイン性が高く抽象的であるため、「同じ柄」を気にする人も少なかったのです。現在でも古典的な着物の柄かぶりについては、そこまで心配する必要はありません。
問題なのは、モダンな柄です。最近ではリアルに洋風の花を描いた、洋装風のモダン柄の着物が多数登場するようになっています。これだといくら「着物の柄だ」といっても「花嫁(のブーケ、花かんむり等)と同じ花だ」という点が遠目から目立ってしまいがちなのです。
実際にそのような着物をお召しになって参列し、結婚式場で気まずい思いをされた経験をお持ちの方が少なくありません。「絶対に着てはいけない柄」ではありませんが、できれば気をつけておきたい柄をいくつかご紹介します。
白または薄い色の百合(写実的な柄)
白い百合は洋装文化においては純潔を意味する花であり、花嫁のブーケ等に好んで使われます。白いユリの花がリアルに描かれている着物等は、できたら結婚式の参列には避けておいた方が無難と言えるでしょう。またクリーム色等の場合でも、照明によって「白」に見えてしまうケースは多いです。濃い地の色に薄い色のユリ、という組み合わせもやや白に見えやすいと考えておいた方が良いでしょう。
白または薄い色のバラ(写実的なメイン柄)
バラも近年のモダン柄ではよく登場するようになった花のひとつです。そして、花嫁のブーケ、結婚式場を彩る花などにも非常によく出てくる代表的存在のひとつと言えます。白バラ模様の着物(特に細密に描かれているもの)については、やはり避けた方が良いところでしょう。
白いカラー
洋装の花嫁が持つブーケでは、カラー等もよく使われます。これもモダン柄でしか見ることはありませんが、目立ちやすい花柄(柄が大きくなりやすい)でもあるので、できれば避けておけると良いですね。
【マナーやルールではなく「思いやり」を】
着物文化においては、白い花は特に花嫁を指すものではないので、「白い花を着てはいけない」といったルールがあるわけではありません。しかし近年では花嫁がドレスと着物の両方を着ることも多いですし、花嫁と一緒にご友人やご親族が写真撮影をする機会も増えました。
結婚式では花嫁が主役であり、唯一無二の存在となります。「できれば花嫁に近いものを避ける」という思いやりの気持ちを持っておくと、気持ちよくお式の日を過ごせるのではないでしょうか。
結婚式の着物でNGな色は?白や黒はダメ?
結婚式の着物、柄だけでなく地色についても知っておきたいという人が多いことでしょう。結婚式の着物の色選びのポイントについてもご紹介します。
白はNGではない!が「写真目立ち」に注意
まず結論から言いますと、着物の場合、白地の着物を着ることはマナー的にはNGではありません。洋装とは考え方が違うので、白地はタブーではないのです。ですから着物のプロとして本来は「白い着物を着ても大丈夫ですよ」と解説したほうが正解、ということになります。
しかし実際のところでいうと、白地の着物はあまりおすすめができません。というのが、白地の着物は、結婚式の記念撮影で発光するように浮き上がり、目立ってしまいやすいのです。特に黒留袖や黒スーツのご親族の中で白い着物の方が居ると、写真のお仕上がりではかなり目立つことになります。
花嫁が真っ白なので、写真で「花嫁と白い着物の方」の2名が浮き上がるように見えてしまうわけですね。特に最近はデジタル撮影で皆様がすぐに写真を確認するので、「白い着物で失敗した」と当日に実感される方が多いようです。
黒はOKだが「黒振袖」では柄行に注意
日本では黒留袖はミセスの着るフォーマルの再降格ともされており、黒地の着物がNGということはありません。ただし、「黒地の振袖の柄と着付け」については十分にご注意いただきたいところです。
黒地(または特に濃い紫等の濃色)の振袖は2000年~2005年位から人気を博し、いわゆる「ギャル系振袖」としても現在も根強い支持を得ています。黒い振袖というのはその頃まではかなり珍しかったもの。そのため黒振袖は原則として、柄の考え方がとても洋服的で現代的(モダン)です。
いわゆる古典柄とは柄行が大きく異なり、「花がバラ、ユリ、ダリアなどの洋花または桜等が多い」「柄が非常に大きい」「濃色の地色に銀や金を使うので目立ちやすい」「花の描き方がリアルなものが多い」といった特徴があります。遠くから見ても柄がわかりやすく、上で解説したような「縁起的に避けたい花」や「花嫁との花かぶり」が起きやすい上に、それがとても目立ちやすいのです。
また黒振袖の場合「色が映える」ということで濃い色の色襦袢や色足袋をコーディネートされる方が多いのですが、これは原則として成人式のみのコーデとなります。結婚式の際には「礼装(フォーマル)」として着物を着るので、襦袢は白か薄色、足袋は白一択です。十分にご注意ください。
訪問着は淡い地色の方が良い
最後に結婚式に着用する訪問着の色についてです。訪問着とは肩から裾までの柄がひとつづきになっている着物のことで、基本的には「略礼装」という扱いでフォーマルに使えることになっています。しかし「訪問着」というグループであっても、実際には色柄でその雰囲気や扱いは違ってきます。
これは洋装の「ワンピース」で考えていただくとわかりやすいかもしれません。ワンピースは「フォーマルに着られる服」ということになっていますよね?でも本当にどのワンピースでも結婚式に着ていけますか?「結婚式に着るワンピース」というと、だいぶ色やデザインが限られますよね。大きな柄物やチープに見える素材等は避けて、無地の優しい色合いのワンピース、または落ち着いたベージュや紺色、シフォンやシルク等の素材感を選ぶ方が多いのではないでしょうか。
これと同じで、着物の訪問着では「淡い色合いのほうがフォーマルらしい」というのが基本的な考え方になっています。結婚式に着用するのであれば、淡い草色、淡いピンク、水色、藤色等の柔らかで優しい地色の訪問着がおすすめです。またモダンかつリアルな柄行のものを選ぶより、古典的な柄行の方が落ち着いたフォーマルらしい装いになります。
おわりに
今回は結婚式できる着物の柄選びについて、避けておきたいところ、注意しておきたいところをご紹介しました。最近では着物ブームによって、日常的に着物を楽しむ方も増えています。
しかし結婚式できる着物は、普段のおしゃれとして楽しむレトロ着物やアンティーク着物とは異なり、れっきとした「フォーマルな服」です。さらに言うと、参加者はあくまでも「脇役」であり、花嫁よりは目立たない形で華を添えることが求められます。
上でも触れましたが、特に近年ではデジカメやスマホの登場によって、花嫁や花婿と一緒に写真撮影をする機会も増え、その日に着た着物の色柄が記憶に残りやすくなりました。またInstagram等のSNSの登場で、式の参列者の方の装いが多くの方の目に触れる機会も増加しています。
参列した御自分やご友人同士だけでなく、花嫁・花婿、そしてご親族の方々、お仕事関係の皆様等が気持ちよく過ごせるような装いに気を配りたいですね。