結婚式は着物が活躍する代表的な場のひとつ。でも夏場の結婚式だと「着物は何を選べば良いの?」「暑さ対策はどうしたら?」などなど、悩むポイントがたくさんあって迷ってしまう人も多いようです。
目次
1.夏の結婚式に袷を着るのはマナー違反ですか?
いいえ、夏の結婚式に袷(あわせ)を着ても大丈夫です。安心してください!袷の礼服で参列している方はたくさんいます。
袷・単衣・絽(紗)の違いと基本マナー
「袷」って何?という人も多いですから、まず袷について軽く解説しますね。着物には「振袖」「留袖」「訪問着」といった種類の違いがあることは、ご存知の人も多いことでしょう。着物にはそれ以外に「作り」による違いがあります。
袷 (あわせ)
裏地のある着物です。暖かく重みがあります。基本的に10月から4月の秋・冬・春に着用します。
単衣 (ひとえ)
裏地がなく、一枚仕立ての着物です。袷に比べて涼しく着られます。基本的に6月・9月などの季節の合間に着用します。
絽 (ろ) 紗(しゃ)
絽やしゃは、いわゆる「シースルー」のような透け感のある素材です。見た目に涼しげなので、7月・8月の盛夏に着用します。
礼装は基本ルール通りでなくてもOK
マナー本を読むと「7月には絽の着物で参列すること」と書いてあることが多いですね。確かに着物の基本的なマナーは上の通りで、夏には絽や紗(または単衣)を着るのが正しいです。
しかし、これは「着物をよく着る人達の伝統的なルール」と言えます。例えば茶道や華道などの芸事であったり、そのような芸事関連の方達のご結婚式であれば、上の伝統ルールに則った方が良いです。
でも普段に着物を着ない人はどうでしょう?盛夏用の礼装をお持ちの人が一体何人いるでしょうか?現代の着物事情には、昔の伝統ルールはあまりにも合っていません。
さらに現代の結婚式の式場は空調がとてもよく効いています。夏場の結婚式にお手持ちの袷の着物を着ることは「ごく普通」のこととして見られるようになっているのが実情なのです。
2.夏の結婚式は単衣か絽か悩んでいます
夏の結婚式の着物として単衣を着るか絽(または紗)を着るかは、特に6月終わり頃などですと悩ましいところですね。原則的なマナーだけで考えるより、「結婚式のスタイル」または「周囲の方とのバランス」を考慮することをおすすめします。
ガーデンウェディング?披露宴会場?
最近の結婚式はスタイルが様々になっています。お天気の良い中でガーデンウェディングをして、そのまま立食パーティーといった少しカジュアルで「外」が多い結婚式であれば、蒸し暑さの中、涼しげに見える絽や紗の着物は粋ですし、しっくりと馴染むことでしょう。
反対に昔ながらの結婚式会場から披露宴会場と、全て建物の中で行われるお祝いですと、冷房も効きますし、周囲の方も重みのある礼装をされていることが多いですよね。このような場合には、盛夏でも単衣をきている方が馴染みやすいこともあります。
親族?ご友人として列席?
親族としての列席の場合、周囲が袷の黒留袖ばかりとなるケースも多いものです。このような時に一人で紗だと(ルール的には正しいのですが)どこかボリューム感が足りず、記念撮影などで寂しく見えてしまうことも。やや厚みのある単衣の方がバランスよし、というわけです。
反対にご友人として結婚式に出る時だと、特に真夏の場合、周囲には軽いワンピースの女性なども多いはず。この時には重めで目立つ単衣より、華奢な印象の絽や紗の方が場に馴染みやすいですね。
3.夏の結婚式に振袖を着るのはアリですか?
夏の結婚式に振袖を着るのももちろんアリです、大丈夫ですよ。華やかな振袖の装いは、お祝いの場を盛り上げてくれることでしょう。ただし成人式と全く同じコーディネートだとマナー違反となることがあるのと、暑さ対策には十分に気をつけてくださいね。
生花・襦袢・半衿・足袋に注意
成人式で振袖を着る時には「振袖の人が主役」ですし、冠婚葬祭ではないので細かなマナーは無いようなものです。いわゆる「花魁風」といった新しいコーディネートをしても、成人式であれば御本人の自由です。しかし結婚式は違います。「花嫁が主役」であり、最もフォーマルな場です。ですから、成人式よりもキチンと「礼服」として振袖をコーディネートする必要があります。
【結婚式における振袖のコーディネート】
① 頭に生花はNG
結婚式に花飾りをつけるのは主役である花嫁のみです。
① 長襦袢は薄色または白
中に着る長襦袢に、赤・紫などの濃い色や柄物はNG。カジュアル服の扱いになります。
① 半衿も薄色または白
半衿も長襦袢と同じように、淡い色か白を選びましょう。
① 足袋は白足袋で
足袋は必ず無地の白を選びます。足袋が柄物・色ものだと一気にカジュアルになってしまうので絶対に避けましょう。
エアコンのある場が理想的
振袖は他の着物に比べて帯が長くてボリュームもあり、また全体的に地厚なものも多いため、ハッキリ言ってしまうと他の着物より暑くなりやすいです。ずっと屋外のガーデンウェディング等だと、少々暑さが厳しいかもしれません。空調の効いた結婚式場での着用をお薦めします。
4.夏の結婚式の着物、暑さ対策はどうする?
夏の結婚式で着物を着る場合、気になるのが暑さですね。着物は紐や帯で体に巻き付けるため、どうしても空気が篭りやすく、暑さを感じやすいです。夏の結婚式の暑さ対策についていくつかヒントをまとめてみました。
夏素材・冷感素材の襦袢を選ぶ
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中に着る肌襦袢、通年同じものを身につけていませんか?夏素材の肌襦袢に切り替えるだけでも風通しがよくなり、涼しさを感じられます。
最近では冷感素材の肌襦袢も登場しているので、こちらにも注目です。なお化学繊維は正絹の礼装との相性もあり、素材によっては摩擦による静電気なども起きやすいため、その点には十分ご注意ください。
着付け前にはベビーパウダーを
着付けをする前に、ワキや背中に薄くベビーパウダーをはたいておくと、襦袢がベッタリと肌につきにくくなり、快適に過ごせます。なおパウダーのつけすぎには注意!長襦袢や着物に移ってしまうと、ご家庭では落とせなくなってしまいますよ。
直射日光は避けて
着物を着た後には直射日光に当たらないようにしましょう。移動には必ず遮光性の高い日傘をさすか、日陰を選んだ方が良いです。
徒歩5分でもタクシーを
夏場の結婚式に着物での注意点は「体温を上げないこと」です。3から5分程度の徒歩といった軽い運動でも体温が上がって汗をかきやすく、その熱がこもって不快な思いをします。徒歩数分の距離でもタクシー移動を選ぶのが理想的です。
背中側にタオルで汗対策
暑い日に着物を着ると、内側に汗をかいてしまって気持ちが悪くなることが多いもの。特に汗をかきやすいのが背中です。薄いガーゼタオルなどを着付けの際に入れてもらうと、汗が流れ出すのを防ぐことができます。
暑さ対策重視なら薄い単衣を
単純に「涼しさ」と言う観点で考えた場合、やはり裏地の無い単衣の着物はラクです。最近は平均気温も上がり暑くなりやすいので、お手持ちの袷の着物が何枚もあるならば、思い切って裏地を取って単衣にしてしまうのも手と言えます。
【お仕立て直ししなくても裏地は取れます】
なお当社「着物ふじぜん」では、完全に着物を解かず、胴裏だけを取る加工も受け付けています!「単衣で涼しく夏の結婚式に出ようかな」と思ったら、お気軽にご相談ください。
5.夏の結婚式の着物、柄選びはどうする?
夏の結婚式の着物については、今度は「柄」の選び方を見ていきます。
少しシーズンを先取るのが基本
夏の結婚式に限らず、着物の柄選びでは「少しだけシーズンを先取りする」と言うのが基本的な考え方です。例えば6月下旬から7月初旬であれば、「これから咲き始める朝顔」、8月に入ったら「秋の七草や桔梗」といった具合ですね。その時期にちょうど咲く花ではなく、1ヶ月位先に満開になる花、と考えておくとわかりやすいです。
大まかには、7月中までは「夏っぽい花」、8月に入ったら「初秋の花」と捉えておけば良いでしょう。
吉祥柄が無難
結婚式の場合、吉祥柄(鶴、亀、鳳凰、松)などは「おめでたい柄」ですから、夏場を問わず通年で使うことができます。結婚式で柄行に悩んだら吉祥柄にしておくのが一番無難です。
デザイン的なら梅も大丈夫
梅は春の花ですが、季節違いの花でも、デザイン的なもの(リアルに描かれていないもの)であれば、夏の結婚式に着ることができます。デザイン的に描かれた梅は「吉祥柄(おめでたい柄)」の範疇に入るので、一年中着て大丈夫なのです。
反対にリアルに描かれている梅や桜などの着物は夏場の結婚式には不向きです。
NGな着物の柄はある?
厳格なマナーというわけではないのですが、最近よくある失敗例として「花嫁の身につける生花やブーケ、式場の花と着物の柄が被ってしまって気まずい思いをした」というケースが増えています。
昔は礼装用の着物の柄というと古典柄でしたのでこのような例はなかなか無かったのですが、最近では特に振袖でモダンな柄行が増えたので、気をつけておきたいところです。
【かぶりやすい柄の例】
- 百合(カサブランカなど)
- バラ
- カラー など
6.夏の結婚式に浴衣を着てはいけないのですか?
浴衣はTシャツと同じレベルのカジュアル服なので、結婚式には着られません。
どんなに高級でも浴衣は「カジュアル」
浴衣は最近では「特別な夏のイベントに着るもの」という扱いにされやすいですが、元々はお風呂上がりにきたり、近所を歩く時のための衣類という扱いです。
洋服でいうとTシャツ、ジーンズといった扱いになります。どんなにキレイでかっこいいデザインの高級なブランドTシャツでも、結婚式に着ていったら失礼ですよね。それと同じで、結婚式に浴衣を着てはいけません。(参列者のほとんどがTシャツとチノパンのカジュアルなパーティーです、といった場合なら話は別ですが)
浴衣を着物風に着付けてもNG
「浴衣に半衿や襦袢を合わせて着物風に着れば結婚式にも着れないでしょうか?」というご質問をいただくこともあります。残念ながらこれもNGです。というのも、浴衣の柄はほぼ「フォーマル用」にできていないのです。
【着物の種類(初心者向けのザックリ版)】
- 振袖 袖が長い着物、独身女性が着る晴れ着、結婚式OK
- 留袖 帯より下に柄がある、既婚女性向け、結婚式OK
- 訪問着 一続きの柄になっている、原則フォーマルOK
- 色無地 柄がない、家紋が一つ?三つ入っていれば結婚式OK、家紋のないものは結婚式NG
- 小紋 柄が散らばっている、柄が全体に入っている、カジュアル向け、結婚式NG
浴衣をもしも襦袢と合わせて着物風に着ても、その着物はとてもカジュアルな木綿着物。そして化学繊維であっても「小紋風」の柄行です。例え「着物」として着たとしても、あくまでも街で遊ぶための服であって、フォーマル向けではありません。
着物の文化も色々と変化してはきていますが、「浴衣はフォーマルに着られない」というルールには変更がありません。
7.夏の結婚式の着物、着用後はクリーニングすべき?
夏の結婚式に着物を着た後は、できれば「汗抜きクリーニング」をするのが理想的です。汗の汚れをしっかり落とすことが、保管中の黄変(変色)、カビ、虫害などのトラブル防止に繋がります。
汗汚れは黄変しやすい
長期保管後に着物を取り出した時、着物に原因不明の茶色いシミができていた…こんな経験がある人、多いのではないでしょうか。これは汚れが長い時間をかけて酸化したことで起こる「黄変(おうへん)」という変色シミです。
黄変が起こる原因のひとつが「汗」の汚れ。汗汚れは乾くと目に見えなくなってしまいますが、ミネラルなどの成分は繊維の中にしっかり残っています。これが長い時間をかけて、黄ばみやオレンジ・茶色などの手ごわいシミになってしまうのです。
丸洗いではなく「汗抜きクリーニング」を
着物の一般的なクリーニングである「丸洗いクリーニング」は、石油系の溶剤を使って行う、いわゆるドライクリーニングです。「丸洗いクリーニング」は軽い皮脂などの油性汚れを落とすのには適しているのですが、汗などの水性汚れを落とすのは苦手としています。
夏の結婚式で汗がたっぷりついた着物には、専用の「汗抜きクリーニング」をした方が汚れをしっかり落とせます。礼装着物を長期保管する前には「丸洗い+汗抜きクリーニング」のセットにしておくと安心です。
おわりに
夏の結婚式に着る着物について、よくある疑問を解説しましたが、お役に立てたでしょうか?結婚式の着物選びのポイントは「ちょうどよい脇役になること」と言えそうです。一人で目立ちすぎず、でも祝いの席に華やかさを添える…そんな意識をもって着物を選ぶと、失敗しにくいのではないでしょうか。
「着物ふじぜん」では着物の有資格者であるスタッフが皆様の疑問にお答えしています。夏の結婚式に着た着物のクリーニング等についてお悩みがあったら、お気軽にLINEやメールでお問い合わせください!