着物でおしゃれをする時には口紅やリップグロス・リップティント等で唇メイクをすることが多いですよね。その分だけ、着物には口紅(リップ)の汚れが意外と付いてしまいやすいです。
着物に口紅が付いた時の基本の落とし方
着物に口紅が付いた時の基本の落とし方は「油剤をなじませて溶かしていく」という方法です。口紅(リップ、リップグロス、リップティント)には、唇を潤すためや塗り心地をなめらかにするための油剤(鉱油やエステル油)が多く含まれます。また発色を良くするため、たくさんの色素成分が配合されています。この油剤と色素成分をしっかり浮かせないと、着物の口紅汚れは落ちません。
着物の口紅汚れ落としでやってはいけないこと
着物の口紅シミ抜きを行う前に、応急処置等でやってはいけないことについて説明しておきます。
× 濡れたタオルやおしぼりで拭く
× ウェットティッシュで拭く
× 水で濡らして叩く
× いきなり水洗いする
× ネイルリムーバーや食器用洗剤を使う
上でも書きましたが、口紅のシミは「油と色素」で構成されています。そのため「濡らして水分だけ溶かす」という方法ではほぼ汚れ落としは無理です。濡れタオルやおしぼり等を使って手当てすると、色がどんどん周囲に広がるだけで、汚れは落ちません。
またネイルリムーバー(除光液)等の使用もNGです。染色や繊維によっては元々の色が変わったり色抜けを起こして、専門店でも復帰させられないような事態になることがあります。
※もしも既におしぼりやウェットティッシュ、除光液等でシミを拭いており、汚れを広げている場合には、それ以上は触れずに早めに専門店に相談しましょう。
着物の口紅落としで用意するもの
ご家庭での着物の口紅落としで用意するものをご紹介します。
クリーニング用ベンジン
着物の口紅を落とすには、油を溶かすための揮発性油剤である「ベンジン」を使用します。ベンジンは空気中に素早く飛びやすいため着物を長時間濡らすことがなく、正絹(シルク)等の着物のお手入れにも使われます。
ベンジンは薬局・ドラッグストアで500円~1,000円前後で販売されています。カイロ用ではなくクリーニング用のものをご購入ください。
柔らかい布
ベンジンは汚れた場所に直接付けるのではなく、別の布に含ませてから使用します。色が薄くて柔らかく、汚れても良い布(ガーゼ等でも可)を用意しましょう。数枚あると理想的です。
下にあてるためのタオル
ベンジンは家具・床材等の変色や変質を起こすことがあります。作業中にベンジンが他の場所につかないように、汚れても良いタオル等を敷いておきましょう。
ハンガー
ベンジンで着物の口紅汚れを落とした後には、ベンジンが完全に乾くまで、室内で乾かすことになります。この際にハンガーを使います。できれば着物用のものが型崩れしにくく、理想的です。
中性タイプの洗剤(おしゃれ着用洗剤)
着物が水洗いに対応している場合には、最後に仕上げ洗いを行います。着物へのダメージが少ない中性タイプのおしゃれ着用洗剤を用意しておきましょう。
その他
肌が弱い場合には手袋を着用した方がベンジンによる肌荒れをしにくいです。またベンジンを吸い込むと刺激が強いため、できればマスク着用での作業をおすすめします。
着物についた口紅汚れの落とし方の手順
では実際に着物についた口紅汚れをどのように落としていくのかを見ていきましょう。
※着物の口紅汚れの状態や着物の種類によっては、家でのシミ抜きができず、失敗する可能性があります。必ず次の「注意!落ちない着物の口紅シミ・失敗編」を読んでから、作業に入りましょう。
1.下準備
作業する部屋の窓を開けて換気するか、換気扇を回して、部屋の中にベンジンの成分がこもらないようにします。またストーブ、コンロ、ライター等の火器類の使用はすべて中止します。
汚れても良いタオルを下に敷いてから、着物を上に広げておきます。
2.ベンジンで汚れを溶かす
汚れても良い布にベンジンをたっぷりと染み込ませます。この布で、着物についた口紅汚れの部分を軽く叩くようにして、ベンジンで汚れを溶かしていきます。
3.口紅汚れを移す
溶けた口紅の汚れは、布に移ったり、下のタオルに落ちたりします。どんどん布の位置をずらしながら、口紅汚れを布やタオルに移していきます。ゴシゴシ擦ったり、無理に汚れを落とそうと広げないことが大切です。
途中で乾かないように、常に布をベンジンで濡らしておきましょう。
4.ベンジンの輪をぼかす
汚れが十分に落ちたら「輪ジミ」を作らないために「ぼかし」作業を行います。布にたっぷりとベンジンを染み込ませてから、ベンジンで濡らした部分と乾いている部分の境目がわからなくなるように、輪をぼかしていきます。
5.仕上げ洗いまたは自然乾燥
着物が水洗いに対応している場合には、中性洗剤を使って全体を手洗いします。着物を畳んでから洗剤を適量溶かした水につけて、優しく押し洗いをしましょう。(水洗いできる着物の場合、最後に仕上げ洗をした方が輪ジミになりにくいですよ)
正絹(シルク)等の水洗いができない着物については、水洗いをせずに、そのままハンガーにかけて形を整え、室内で自然乾燥させて仕上げます。
注意!落ちない着物の口紅シミ・失敗編
家で行う着物の口紅のシミ落としでは、高い確率で失敗が起きやすいです。特にこれから解説するような口紅のシミの状態、着物の状態の場合には、ムリに自分でシミ抜きを行うより、専門店でシミ抜きしてもらうことをおすすめします。
薄い色の着物
口紅は色素が多いので、家で行うシミ抜きでは完全に色が取り切れないことがあります。白、クリーム色、薄い黄色や水色、ピンク、藤色等の着物に口紅シミが付いた場合には、広がった色素シミが輪ジミのようになって、かえって目立つことも。
特に「色留袖」「振袖」「訪問着」「色無地」等でフォーマルに着用される着物については、ムリに自己処理するより、専門店でのお手入れをおすすめします。
特殊な織りや染めの着物
ベンジンは万能ではありません。染色によっては色落ち・色抜け・変色等が起きる場合があります。天然染色製品等、特殊な染めや織りの製品には使用を避けた方が良いです。
また万一の変色トラブルを防ぐため、いきなりシミ抜きを行うより、共布等でテストをすることを強くおすすめします。
キスマークのような広範囲のシミ
上の項目でも書きましたが、口紅は色素がとても多いので、汚れを全部溶かして移すことがなかなか難しいシミです。1~2ミリ程度の汚れならご家庭で目立たなくさせることもできるのですが、ベットリとついた口紅汚れを完全に自己処理で取り除くことはできません。
目安として直径5ミリ~1センチ近いシミについては、自己処理するよりプロに任せた方が無難です。
付いてから一週間以上経ったシミ
これは口紅シミには限りませんが、汚れやシミは時間が経つほど繊維にしっかり吸着して落ちなくなっていきます。状態にもよりますが、自己処理で着物についた口紅汚れをスムーズに落とせる目安は大体汚れが付いて1週間程度が限度と言えるでしょう。
「何ヶ月も前に汚れを付けたが放置してしまった」といった場合には、今から自己処理でシミ抜きするより、専門店でのお手入れをすることをおすすめします。
おわりに
今回は着物についた口紅汚れの落とし方について解説しましたが、実際のところでいうと、口紅のシミ抜きはご家庭だとかなーり難易度が高いです。意地悪で言っているわけではなくて、上でも書きましたが、絵の具と同じで、赤やピンクの色素がとても強いんですよね。この点は十分にご注意ください。
なお着物についた口紅汚れは、早めに専門店に持ち込めばほぼキレイに落とせます。ちなみに当店『着物ふじぜん』では、汚れた部分だけをピンポイントでキレイにする「シミ抜き」のご依頼も受け付けています。
全体を洗わずにシミ抜き単体でのご依頼ができるので、最安なら550円(税込)でのお手入れが可能です。料金はサイズによって変動しますが、もう少し大きなシミでも1箇所1,000円~2,000円位でキレイにできることが多いです。(古いシミもお気軽にご相談ください!)
今からベンジンを買ってお手入れするより、プロの手で安くシミ抜きしてもらった方がラクだし確実かも…と思う方も多いのではないでしょうか。宅配でのご依頼も広く受け付けているので、お近くに着物専門クリーニング店が無い!というときにも、お気軽にご相談くださいね。