今回は着物についたコーヒーのシミについてです。喫茶店やカフェのコーヒーはもちろん、最近はコンビニでも本格的なドリップコーヒーが飲めるようになりましたね。美味しいコーヒーがいただけるのはありがたいことですが、着物のシミとなるとコーヒーは厄介です。
目次
着物のコーヒーのシミは家で自分で落とせますか?
着物のコーヒーのシミを自分で落とせるか、対処できるかどうかは「着物を水洗いできるか」「シミが新しいか」「シミの大きさ」「着物の地色や種類」の4つで決まります。まずはこの4つを確認しましょう。
水洗いできる着物ですか?
着物についたコーヒーのシミをご家庭で自分で落とすには「水洗い」が絶対に必要です。コーヒーのシミは水溶性汚れであり、水を使ってしか溶かし落とすことができません。つまりベンジンなどの家庭クリーニング用の溶剤(油溶性シミに対処する溶剤)では溶かして落とせないのです。
ご家庭でのコーヒーのシミ抜きでは、部分的に水を使うだけでなく、輪ジミを防ぐための全体的な仕上げ洗いも必要になります。そのため「家庭での水洗いに対応した着物」のみが、ご家庭でコーヒーの染み抜きができる着物ということになります。
【水洗いできる着物の例】
- 一般的なポリエステル着物(特殊装飾なし)
- ウォッシャブルウールの着物
- ウォッシャブル加工済みの着物 など
【水洗いできない着物】
- 正絹(シルク)の着物
- 一般的なウールの着物 など
なお振袖・留袖といったフォーマル向け着物の多くは、正絹というシルク100パーセントで作られています。水濡れに大変に弱く、濡れた部分から縮むため、ご家庭での水を使ったシミ抜きは一切できません。すみやかに専門店に相談しましょう。
シミは新しいですか?
水洗いに対応した着物であっても、コーヒーのシミをご家庭で落とせるのは「シミがついてから2日程度」が限度です。コーヒーの色素は定着しやすく、乾くと取れにくくなってしまいます。定着してしまったシミを無理に落とそうとすると、デリケートな着物そのものがダメになる可能性の方が高いです。「1週間以上はシミを放置していた」という場合や「だいぶ前のシミでいつのものかわからない」といった場合には、自己処理ではなくプロに任せましょう。
シミ範囲は1~2センチ程度?
コーヒーのシミが5センチを超えるような場合、色素量が多く、自己処理だとシミが取れてもムラになったり、輪ジミとして広がってしまう可能性が高いです。大きなシミはプロのシミ抜きで取ってもらった方が良いでしょう。また、シミが縫い糸を跨いでいる(縫い目がコーヒーで濡れた)場合には、縫い糸にダメージが及んでいるため、必ずクリーニングのプロに相談してください。
着物のコーヒーのシミの落とし方は?
着物のコーヒーのシミにご家庭で対処するには、できるだけ着物の繊維に負担をかけにくい中性洗剤を使用するのが原則です。以下に、用意するものや染み抜きの工程を解説します。
※シミ抜きの作業に入る前には、シミ抜きができる状態であるかどうか、必ず上で解説した項目を確認してください。
※シミ抜きによって着物の変色・変質などが起きる可能性があります。作業は自己責任で行ってください。
【用意するもの】
- 中性タイプの洗濯用洗剤(おしゃれ着用の洗剤)
- 柔軟剤
- 洗濯用ネット
- バスタオル 2~4枚
- 着物用のハンガー(物干しでも代用できます)
- キッチン食器用洗剤(ポリ着物などの場合)
- ・アイロン、アイロン台、当て布、霧吹き
※木綿製品などの縮みやすい着物の場合、ハンガーにかけた状態でアイロンする「スチームアイロン」ではNGです。アイロン台の上で引っ張りながら布を伸ばすアイロンで、縮みを伸ばして元に戻していく作業が必要になります。
【事前準備】
- 襟元をぐし縫いで固定するか、安全ピンで固定しておきます。
※仕上げ洗い・脱水時の型崩れ防止のために襟固定を行います。コーヒーのシミの場合、輪ジミになるのを防ぐため、仕上げ洗いは必要です。
【シミ抜きの工程】
- シミの部分をぬるま湯で濡らします。
- 中性タイプの洗濯用洗剤の原液(ポリ着物の場合には食器洗剤に置き換え可能)をつけて指でなじませ、優しく撫でるようにして汚れを落としていきます。強く擦らないように注意しましょう。
- ぬるま湯で流して汚れをチェックします。2回まで繰り返してOK。
- 汚れが落ちたら仕上げ洗いに入ります。着物を畳んだ状態でネットに入れておきます。
- バスタブ、シンクなどにぬるま湯をためて、中性洗剤を適量溶かしておきます。
- 着物をネットごと入れて、両手で優しく押し洗いします。
- 水を取り替えて2回以上濯ぎます。最後の濯ぎで柔軟剤を行き渡らせます。
- ネットごと洗濯機に入れて、脱水機能で20秒~30秒だけ脱水します。(シワがつきやすい素材や形崩れが不安な着物の場合には、この工程を省略しても良いです)
- バスタオルで挟んでで、ポンポンと叩くようにして水分を取っていきます。
- 着物をハンガーまたは物干しにかけて形をよく整えます。(縮みやすい着物の場合は、濡れた状態でアイロンがけを行ってから干します)
- 直射日光に当たらない、風通しの良い場所で自然乾燥させます。
- アイロンで形をよく整えて仕上げます。
※シミが落ちない場合には無理にシミ抜き作業を繰り返さ図、早めに専門店に持ち込みましょう。無理にご家庭でのシミ抜きを繰り返すと、摩擦などの負担によって、布が毛羽たったり部分的に白っぽくなる「スレ」が起きてしまいます。スレができると専門店でも直すのが難しくなります。
着物のコーヒーのシミはクリーニングで落ちますか?
着物のコーヒーのシミを落とすには、着物に強いクリーニング店での「シミ抜き」または「洗い張り」、状態によっては「染色補正」が必要です。一般的な「着物丸洗い(京洗い、全体のドライクリーニング)」では汚れが落ちないのでご注意ください。
着物のシミ抜きとは
着物の汚れ取り専門の職人さんが手作業で行うシミ取りです。シミが比較的新しいものだったり、シミ範囲がそこまで広くなければ、部分的な対処である「シミ抜き」で着物のコーヒーシミをキレイにできます。シミ抜き料金は基本的に「シミの大きさ」で、直径1センチごとに段階的に上がっていきます。小さなシミなら安くキレイにできますよ。
着物の洗い張りとは
「洗い張り」は着物を解いて布の状態に戻してから、徹底的に水洗いする伝統的な方法です。コーヒーのシミがとても広かったり、コーヒーが縫い糸にまで染み込んでいるような場合、洗い張りが必要になることもあります。
着物の染色補正とは
着物のコーヒーのシミは、時間が経つと繊維に完全に定着して「着物を染めた状態」になってしまいます。こうなると汚れ取りだけではなくて、強い漂白を行ったり、部分的な染め直しや、柄の書き足しなどでカバーしていくことが必要になります。これらの作業を「染色補正」と呼びます。
「着物専門クリーニング店」と宣伝していても、実際には全体のドライクリーニング(丸洗い)しかできないお店もあるので、お店選びには十分に注意しましょう。職人によるシミ抜きや染色補正など、幅広い対応ができる専門店に頼ることが、着物を確実にきれいにする近道ですよ。
おわりに
今回は着物についたコーヒーのシミについて解説しました。当店『ふじぜん』も着物専門クリーニング店として、着物のコーヒーのシミのシミ抜きを受け付けています!古いシミのご相談もどうぞお気軽にお寄せくださいね。また、よく着物でコーヒーを飲むという人には、シミ予防としての「ガード加工(撥水加工)」もオススメです。水を弾きやすくするので、着物のコーヒーシミの対処がグッと楽になりますよ。お気軽にご相談くださいませ。