袷(あわせ)の着物ですと、裏側には薄い裏地・胴裏(どううら)が付いていますよね。「着物の裏地にカビっぽいシミがある」「胴裏に茶色いシミができた」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
この裏地・胴裏のシミは、その原因や対応の仕方が表地とは少し違ってきます。着物の表地であれば自分でのシミ抜き等の対応ができることもありますが、裏地は扱いが難しいのです。
目次
着物の裏地・胴裏のシミの原因とは
着物の表地に比べると、裏地には汚れが付きにくそうですよね。にもかかわらず、着物の裏地には茶色やオレンジのシミがいっぱい……これはどうしてなのでしょうか。
カビによるシミ
原因のひとつは「カビ」によるものです。白カビ等のフワフワとしたカビは、表面に生えた部分は振り払えば落とすことができますが、「カビの根」は家庭では除去することができません。一度カビが生えた着物を放置していると、徐々にあちこちにカビ菌が繁殖することになります。
カビが生えた着物は数年するとカビ臭さがほとんどなくなりますが、その代わりに「カビによるシミ」が発生します。
- オレンジっぽいシミが点々と付いている
- 黒・青のシミがあちこちにある
シミが上のような状態の場合には、シミの原因は「カビ」であったと考えられます。
汗の変色による黄変
胴裏・裏地のシミの大きな原因となるのが「汗」です。汗にはミネラル・タンパク質等の様々な成分が含まれています。汗のシミは乾けば透明になって見えなくなりますが、これらの成分は繊維の奥に残ったままです。
時間が立つとミネラル等が酸素と結びついて、「黄変(おうへん)」という酸化ジミになります。黄変はその名のとおり布を黄色く変色させるシミなのですが、時間が経つ毎に色は濃くなっていきます。
- 黄色いシミがある
- オレンジ~茶褐色のシミがある
- シミがワキ、背中等に広がっている
上のような場合、胴裏・裏地のシミの原因は「汗」と考えられます。
絹の酸化による黄変
「正絹(シルク)」は蚕(かいこ)から生まれた繊維であり、動物性タンパク質を豊富に含みます。そのタンパク質は酸化しやすいのが特徴です。つまり正絹の裏地は、何もしなくても黄ばみやすいのです。
黄ばみは数十年の時をかけて、徐々に茶色・焦げ茶色へと進んでいきます。
- ほとんど着用していない着物の裏地にシミがある
- 30年~40年以上前の着物の胴裏である
- 振袖や留袖等の裏地
- 花嫁衣装等の裏地
- 裏地が白の正絹
上のような場合は絹の酸化が原因と考えられます。特にアンティーク着物、40年以上前の着物には裏地に黄変防止の加工が無いので、黄変を起こしやすいです。
着物の裏地・胴裏はシミ抜きできない?
結論から言うと、着物の裏地・胴裏のシミは家庭ではシミ抜きができません。さらに、クリーニング店や悉皆屋等の専門店でもシミ抜きをすることができません。これには、次のような理由があります。
家庭では「カビシミ」「黄変シミ」は対処できない
上で解説したように、着物の胴裏・裏地のシミの原因は「カビのシミ」もしくは「黄変シミ」です。これを取るには、次のような「黄変抜き」という対処が必要になります。
黄変抜き
- 漂白をする(強い漂白剤を使って変色を落とす)
- 汚れを落とす(汚れの原因、カビ等を除去する)
- 染色補正をする(漂白で色落ちした部分を染め直したり、柄を足してカバーする)
カビのシミや黄変シミを取るには、強い漂白剤を使うしか方法がありません。ご家庭でこの方法を取ると、シミ部分以外(表地等)も広く色が抜けてしまったり、布地自体がダメになってしまいます。
そしてご家庭では「染め直し」等もできませんよね。カビのシミや黄変シミについては、表地・裏地を問わず、ご家庭では対処ができないのです。
「漂白」に布地が耐えられない
着物の表地(表面側の布)の場合、着物に強い職人がいるお店であれば、上の『黄変抜き』という方法で対処できることもあります。
しかし着物の胴裏・裏地は、とても薄くてデリケートにできています。そのため漂白剤を使うと、布地が溶けたり破けたり、極端に薄くなってしまうのです。
そのため「着物の裏地の黄変シミ・カビのシミ」については、プロのクリーニング店でも、悉皆屋でも、シミ抜きをすることができません。
着物の裏地・胴裏は「交換」でキレイに!
着物の裏地・胴裏は、上でご案内したとおり「シミ抜き」や「クリーニング」では解決することができません。でも汚い胴裏のままなのはスッキリしないですよね。
こんな時には、胴裏を新しい布地に取り替えましょう。胴裏を取り替える方法には二通りあります。
1.仕立直し
仕立直し(したてなおし)とは、着物を一度全部ほどいて、一から作り直す方法です。
メリットとしては「裏地がキレイになる」というだけでなく、「現在の自分に合ったサイズに作れる」ということが挙げられます。例えばおばあさまからお孫さんに着物を譲るけれど、身長が大きく違う…といった場合には、仕立直ししてしまった方が良いでしょう。
ただ、仕立て直しは料金が高いのがネックです。業者によっては「胴裏の交換は仕立て直しのみ」で、10万円近い高い工賃を取るところもあります。
2.胴裏交換(裏地交換)
胴裏交換(裏地交換)とは、着物を完全にはほどかないで、裏地部分(胴裏)だけを新しいものに交換する方法です。「仕立直し」より工程が少ないので、安い料金で胴裏を新しいものに交換できます。
ただ胴裏のみの交換は、どのお店でもやっているわけではありません。当店は元々が着物加工店としてスタートしたお店ですので胴裏のみの交換を受け付けていますが、「できない」「そんなサービスは無い」というお店も多いです。事前に確認することをおすすめします。
裏地の持込みできる?
裏地を自分で選んで持ち込むことができるお店なら、原料代を抑えて胴裏交換を安く済ませたり、自分好みに着物をリメイクすることもできますね。
当店『ふじぜん』では裏地の持込も大歓迎ですが、これもお店によって対応が異なります。先にお店に確認を取っておきましょう。
部分交換でもっと安い料金で
もっと安く着物の裏地を交換したい!という人には、外から見える「袖」だけを部分的に裏地交換する手もあります。
どのお店でもやっているわけではないのですが、当店『ふじぜん』ではこのような部分交換も受け付けています。「目立つところだけなんとかしたい!」という時にはご相談くださいね。
ただ、胴部分のシミが重症(焦げ茶色、広い範囲)の場合には、袖部分だけの交換はおすすめしません。裏地の変色が表にうつってしまうことがあるためです。この点には十分、注意しましょう。
胴裏を取って単衣にする方法も!
着物の種類や今後の着方にもよりますが、胴裏を全部取って「単衣(単・ひとえ)」の着物として着るという手もあります。
当店『ふじぜん』では、胴裏・八掛(はっかけ)を外して、単の着物として着られるようにする加工も受け付けています。また胴裏だけ取って袖裏等は残す「胴抜き」も可能です。
どのお店でもできるわけではないですが、着物加工に強いお店であれば、このような対応もできます。当店では「裏地の交換、どうするのがベスト?といったご相談も受け付けているので、お気軽にご相談ください。
胴裏・裏地交換のタイミングは?
胴裏・裏地交換はシミ抜きに比べるとお金もかかるので、「いつやろう」「すぐにやらないといけない?」と悩んでしまう人も多いことでしょう。
小さなシミが2~3個程度であれば、着用時に外から見えるわけではありませんし「すぐに裏地交換を!」と焦る必要はありません。それに裏地が変色しやすいのは呉服の業界では常識ですから「着付けの時に恥ずかしい」といった心配をする必要も無いですよ。
ただ、次のような時には早めに裏地を交換することをおすすめします!
- 袖裏(袖の部分)にシミが出てきた
- シミがこの1~2年で増えた、広がっている
- シミの色が濃い茶色になってきた
茶色~濃い茶色の黄変シミは、放置すると「裏地の脆弱化」を招くだけでなく、着物の表側にもシミを作る原因になります。
シミ抜きに比べると裏地交換等の加工は専門店でも時間がかかりますから、「気になるなあ」と思ったら早めに相談をしましょう。
おわりに
最近はアンティーク着物等のブームによって、特に「裏地のシミ・胴裏のシミ」についての疑問・質問が増えてきました。フリーマーケット等で着物を購入する場合には、ぜひ裏地の状態もしっかりと確認するようにしましょう。