せっかく着物でお出かけをしたいのに、天気予報は雨模様…「雨だから着物はやめたほうがいいかも」と考える人も多いのではないでしょうか。たしかに着物にとって、雨は大敵です。でも素敵な着物でのお出かけ、雨だからと諦めるのは残念ですよね。
着物を着る日には、いつもよりしっかりとした雨対策をしていきましょう!
目次
1.着物の素材を選びましょう
一口に「着物」といっても、その素材は様々です。そして素材によって、雨濡れへの耐性は大きく違います。
【素材による着物の雨濡れへの耐性】
↑ 強
・ポリエステル
・ウォッシャブル加工済製品
・ポリエステル混紡
・撥水加工済の製品
・木綿
・ウール
・麻
・正絹(シルク)
↓ 弱
ポリエステルは水に強く、色落ちや収縮等がほぼ起こりません。木綿はグッショリ濡れるのはまずいですが、サッと雨がかかった程度なら大丈夫という生地もあります。
麻は意外と色落ちが起きやすいので、濡れるシーンはできるだけ避けたいところ。そして雨に最も弱いのが正絹で、ほんの少しの水滴でも「雨ジミ」ができてしまいます。
【雨ジミとは?】
雨ジミとは水滴によって生地が収縮し、その部分だけ色が変わったように見えてしまう現象のことを言います。着物に雨ジミが一度できてしまうと、ご家庭では直すことができません。専門店での対策が必要です。
お友達同士でのお出かけやお買い物等の気軽なご用事であれば、雨の日にはポリエステル着物を選ぶのが一番です。フォーマルな場なのでどうしても正絹着物を雨の日に着なくてはならない…そのような場合には、次から解説する対策をしっかり行うようにしていきましょう。
2.雨コートを準備しましょう
雨コートとは、着物の上から羽織る和装用のレインコートのことです。一体型になっている一部式と、上下が分かれた二部式があります。雨の日に着物をお召になる場合には、絶対に用意しておきたいアイテムです。
一部式雨コート(道中着型)
一部式は普通のレインコートのような感覚で着ることができます。
良い点
- サッと羽織れる
- 道中襟デザインなら見た目も和装風
注意点
- 丈が合わないと着物の裾が汚れる
- かさばりやすい製品もある
二部式雨コート(道行型)
二部式は上下が分かれているセパレートタイプです。まず下側で腰~裾の部分を包み、それから上着のように短めのコートを羽織ります。
良い点
- 丈の調節がしやすい
- 上だけ使うこともできる
注意点
- 付け方が正しくないと下が着崩れしてくる
- 下は着るのに手間がかかる
それぞれ長所短所があるので、状況に合ったものを選ぶようにすると良いでしょう。雨に強いポリエステル製品がおすすめですが、使用回数が少ないのならお手頃なナイロン製等もあります。
3.移動中にはクリップで裾上げ
いくら雨コートを着ていても、足元の水はね・泥ハネはなかなか防ぎ切るのが難しいものです。そのため、移動中には「クリップ」で裾を上げてしまうことをおすすめします。
大きめの紙クリップが理想的
着物の裾を上げて止めるには「洗濯ハサミ」も使えますが、物によっては挟む力が強すぎてアトが付いてしまうのが難点です。少し大きめの紙クリップだと挟む力がちょうどよく、使いやすいものが多くあります。
大きめの紙クリップは100円均一ショップ等でも売っていますので、事前に準備しておくと良いでしょう。
裾を上げて上からコートを
移動時の裾の上げ方は、着物でトイレに行って裾をまくる時に似ています。
- 着物のあわせの部分から裾をつまみます
- 筒をひっくり返すようにして上にまくり上げます
- 帯の部分までまくりあげて、クリップで数箇所固定します
- 不安な場合には腰紐等で全体をくくって止めてもOKです
上から雨コートを着てしまえば、裾をまくっていてもわかりません。コートを脱いで裾を戻す時には、トイレなどでていねいに作業しましょう。
4.足元は雨草履・草履カバー
着物のときの雨対策で大変なのが「足元」です。草履と足袋だけの足元は、雨にはとても無防備。軽い雨でもビッショリと濡れてしまうこともありますし、お出かけ先で見た目が悪くなるのも問題です。しっかり対策しておきたいですね。
雨草履を準備しておく
雨草履(あめぞうり)とは、足の甲の部分に雨よけのカバーが付いている草履のことを言います。踵の部分等も合皮やビニール加工等がされているので雨に強く、気軽に履けるのが魅力です。
なお雨草履はあくまでも「外用」の草履なので、フォーマルな場にはそのまま履いていくことはできません。フォーマル用草履は荷物として持っていき、会場で履き替える必要があります。
お気に入り草履に草履カバー「おとも」
草履カバーとは、草履を鼻緒の部分から踵まで全体的に包むタイプの透明なナイロンカバーです。いつもの草履にホックでつけるだけで良いという気軽さと、1,000円前後で買えるというリーズナブルさも魅力です。
ただしカバーがズレてしまうと、雨が染み込んできてしまう可能性があるので要注意。畳んで持ち歩きやすい点は利点なので、折りたたみガサのように、「雨が降ってきたときのための準備」として持っておくのはおすすめです。
5.足袋カバーと替えの足袋も
着物の雨対策では「足袋」の雨汚れにも注意しておきたいところ。特にお出かけ先で草履を脱いで上がる時や、会席、お茶席の時等には足袋対策にしっかり気を配りましょう。
足袋カバーがあると安心
足袋カバーとは、足袋の上から重ねて履いて、雨や汚れから足袋を守るカバーのことを言います。ナイロン等の雨に強い素材でできていますが、パッと見ただけでは普通の足袋のように見えるので、違和感が少ないのがメリットです。
足袋カバーにはコハゼが付いているものと、ストレッチ性がしっかりあってソックスのように履くだけのものがあります。これはお好みで決めて良いでしょう。なお足袋カバーのままで茶席等に上がってはいけません。草履を脱いだらできるだけ早く足袋カバーも外しましょう。
替えの足袋もしっかり準備
大雨の日には、雨草履や足袋カバーをしていても足袋が濡れる可能性があります。濡れた足袋でいるのは不快なだけでなく、お出かけ先の床等を濡らして汚す可能性もありマナー違反。また足元を濡らしたことで、体調が悪くなる恐れもあります。
雨の日のお出かけには、必ず「替えの足袋」を一足持っていくようにしましょう。万一に足袋が濡れてしまった時には、すぐに履き替えるようにしてください。
6.スカーフで首元カバー
雨が強い時や霧雨等の場合、水滴は裾からだけでなく「首元」から入ってきてしまうことがあります。意外に思えるかもしれませんが、正絹着物の雨シミができやすい箇所のひとつが「襟元」なのです。襟周りも雨からしっかり守りましょう。
ポリエステルスカーフで安心
雨コートを着る前に、大きめのスカーフで首元(襟元)をクルリと巻いておきましょう。上からコートを着ればスカーフも固定されますし、コートの隙間から雨が入ってくるのを防げます。
スカーフはポリエステル製等の雨に強いものがおすすめ。雨コートと色を揃えたものを用意しておくと、移動中の見た目も良いですよ。
7.大きな長傘・傘袋を用意して
24本骨アンブレラ 65cm 大きい グラスファイバー 長傘 RWS-22007-LU
着物の雨対策の基本とも言えるのが「傘」です。傘は誰もが持っている雨グッズですが、着物の際には特に選び方が重要になります。
折りたたみ傘や通常のビニール傘はNG
雨の日に着物でお出かけする場合には、折りたたみの傘をお使いになるのは止めましょう。折りたたみは基本的にサイズが小さめであり、着物全体を雨から守る力は弱いです。
また折りたたみ傘は強風等で骨が戻ってしまうことがあるため、着物が濡れるリスクが高くなります。同様に、一般的なビニール傘の利用もサイズ・強度等の点からあまりおすすめができません。
サイズ65センチ以上の傘が理想的
着物は袖や裾が長いため、体全体を覆うようにカバーしてくれる大きな傘が必要になります。女性向けの傘サイズは55センチ~65センチが一般的ですが、できれば65センチ、またはそれ以上のものをお持ちになるのが理想的です。
男性であれば75センチサイズの傘をお持ちになっても良いでしょう。サイズが10センチ違うだけでも、襟や肩にかかる水滴の量は違ってきます。しっかりした傘を選ぶことが大切です。
傘袋があると安心
実は雨ジミは、外でばかり付くとは限りません。屋内に入って畳んだ傘が着物に触れて、水滴が付いてしまった…こんなケース、実はとても多いのです。屋内に入ったらすぐに傘の水滴をていねいに取ることが大切ですが、不安な場合には「傘袋」を用意しておくことをおすすめします。
8.濡れても平気なサブバッグ・エコバッグ
雨の日の着物でのお出かけは、様々なアイテムを持ち歩く必要が出てきます。また、礼装用のバッグは素材によっては雨に弱いことも。和装にあった「雨用サブバッグ」を準備しておきましょう。
荷物がたくさん入るサブバッグ
まず絶対に必要になるのが、替え足袋やタオル等を入れておくためのサブバッグです。ナイロンやポリエステル等、雨に強い素材のサブバッグを選びます。ファスナー等でしっかり口を閉じることができるタイプが理想的。色柄を雨コートと揃えておくと、お出かけの際の見た目も良いです。
エコバッグに和装バッグを入れて雨予防
フォーマル向けの和装バッグを濡らしたくない…そんな時には、一時的にナイロンのエコバッグ等に和装バッグを入れておいてしまうのも手です。刺繍入のバッグ等は一度濡れると専門店でも元に戻せない可能性が高いです。どうぞ「防水対策」をしっかり取ってくださいね。
ポリエステルの風呂敷も大活躍
お出かけ先で荷物が増えてしまった、雨コートをしまっておく場所が無い…そんな時には「風呂敷」も大活躍。大きめの風呂敷を持っておけば、バッグ代わりに使うこともできます。
9.タクシーアプリを準備
着物を着た日の雨対策には様々なものがありますが、それでも外を歩けば歩くほど、着物に雨ジミが付く確率は上がります!特に正絹の着物を着る日には、できるだけ外を歩く時間を短くしておきたいところです。
事前にアプリをインストールしておこう
スマホ用タクシーアプリでは、スマホの現在地に手軽にタクシーを配車することができます。あと何分程度でタクシーが到着するかも細かくわかるので、お店や施設を出る時間を把握しやすいのも魅力です。お出かけ前にタクシーアプリをスマホにインストールしておきましょう。
タクシー代は雨ジミ処理代より安い
「タクシーに乗るのは高い」「配車を頼むと手数料がかかる」と思う方も多いことでしょう。しかし、正絹着物に雨ジミができてしまった場合、一般的な着物クリーニング(ドライクリーニング)では着物を元に戻すことができません。
雨ジミの被害の程度によっては、一度着物をほどいてから洗う「洗い張り」が必要になることもあります。こうなってしまうと、洗い張りの料金だけで数万円以上、お仕立て直しでさらにまた料金がかかります。
基本的に「雨シミができてしまうより、タクシー代の方が安い」と考えていただいた方が良いです。特に振袖、留袖、喪服着物等のフォーマル着物については、タクシー利用による雨ジミ対策を強くおすすめします。
10.お気に入り着物に撥水加工
「雨の日にもう少し気軽に着物でお出かけがしたい」「ポリエステル着物だと、あらたまった場にはでかけにくい」そんな方には、着物に撥水加工をするという手もあります。
撥水加工(パールトーン加工)とは?
撥水加工では繊維の一本ずつに「パールトーン」と呼ばれる特殊な成分を浸透させ、着物の繊維の「水を弾く力」をアップさせます。小さな水滴程度でしたら繊維は水を吸い込まないので、サッと拭くだけでお手入れを済ませられます。
風合いが変わらないのが魅力
パールトーン加工では、加工前後で手を触れてもわからないくらい、繊維そのものの風合いが変わらないのが魅力です。ただし撥水加工は「防水」というほどの強い水を弾く力があるわけではないので、ビッショリと濡れるほどの水は繊維に染み込んでしまいます。パールトーン加工の着物だからといって雨対策が不要というわけではないので、その点には注意しておいてくださいね。
おわりに
特に成人式や結婚式等で着物を着る場合だと「雨対策をするのが面倒」と感じる方が多いようです。でも着物、フォーマル着物は本当に雨に弱いもの。水シミだらけの着物を見て「しまった」と後悔することの無いように、しっかりと雨対策をすることをおすすめします。
なお当店「着物ふじぜん」では、雨シミ・水シミのできてしまった着物のお手入れの相談も受け付けています。水シミも通常のシミと同じく、できるだけ早く対処するのが一番です。水シミを見つけたら、早めにご相談くださいね。