着物のトラブルで意外と多いのが「虫食い」による被害です。特に最近はアンティーク着物のブームによってウール着物等を着用される人が増え、着物の虫食いトラブルの話が再度よく聞かれるようになっています。
大切な着物が虫食いの被害に遭わないように、しっかり予防をしていきましょう。
着物の虫食いとは?
まずは着物の虫食いとは何か、どんな着物が被害に遭いやすいかをカンタンに説明します。
カツオブシムシ等の幼虫による「食い荒らし」
着物の「虫食い」とは、その名の通り「虫」によって繊維を食べられてしまうことを意味します。以下のような虫が代表的な存在です。
- ヒメマルカツオブシムシ
- ヒメカツオブシムシ
- コイガ
- イガ
これらの虫が繊維に卵を産み付け幼虫が孵ると、卵の周辺にある繊維が「餌」として食べられてしまうのです。
虫食いは「穴」が開く
虫たちに食べられてしまった部分は、その跡として布地に「穴」が開きます。ごく小さな目立たない穴であることもありますが、被害がひどい場合にはその穴がいくつも散らばったり、最悪の場合には大きな穴だらけになっているケースも珍しくありません。
ウールが多いが正絹・木綿も虫食いされる
虫食い被害に遭いやすい着物としては、ウール着物が代表的な存在に挙げられます。動物性繊維である羊毛(ウール)は、ヒメマルカツオブシムシの大好物です。また正絹(シルク)は繊維が細くて食べやすいことから、ウールほどではないですが虫食い被害に遭います。
さらに、自然繊維である綿(木綿きもの)でも虫食い被害が起こることはあります。基本的に「ポリエステル着物以外は虫食いのリスクが一定数ある」と考えておいた方が良いです。
着物の虫食い予防をしよう
着物の虫食いトラブルは、まず「予防」することが何より大切です。着物の代表的な虫食い予防法を見ていきます。
着用後には陰干しを
基本中の基本のお手入れですが、着物を着た後には必ず「陰干し」をして、繊維の奥に含まれる湿気を取りましょう。一度の着用でも、着物には多くの汗等の湿気が含まれます。これをそのまま畳んでしまうと、ヒメカツオブシムシ等の虫を招きやすくなります。
シミ汚れが付いたらすぐにシミ抜き
着物の虫食いトラブル対策として、まず何より大切なのが「汚れた着物をそのままにしておかない」ということです。ヒメカツオブシムシ等の虫は、次のような汚れがある場所を特に好みます。
- 食べこぼし
- 飲み物のシミ
- 汗ジミ・汗汚れ 等
汚れが無いキレイな状態にしてからタンスに戻す習慣を付けましょう。
● 汗抜きを習慣づける
着物の着用後には、まずご自宅でできる「汗抜き」のお手入れをして、汗に含まれるミネラル等の成分をできるだけ除去しておきます。
● 汚れの種類によっては自宅でシミ抜き可能
汚れの種類によっては、ご自宅で自分でシミ抜きケアができることもあります。汚れの原因別の着物のお手入れ方法については当ブログでも詳しく解説していますので、併せてチェックしてみてください。
● 家で落ちない汚れは専門店でシミ抜き
家で落とせない着物のシミについては、早めに専門店で「シミ抜き」をしておきましょう。ちなみに当店「着物ふじぜん」でも着物のシミ抜きを受け付けています!部分的な汚れ落としだけでもできるので、最安価格は500円~です。お気軽にご相談くださいね。
新しい「防虫剤」を入れましょう
防虫剤は、ヒメカツオブシムシ等を寄せ付けないための大切な存在です。ただし、昔ながらの防虫剤は使うのがあまりおすすめできません。
「樟脳(しょうのう)」や「ナフタリン」等の防虫剤はニオイがきついのです。着物に一度これらの防虫剤のニオイが付いてしまうと、なかなか取れません。ニオイがつかない、新しいタイプの防虫剤を使いましょう。
おすすめの防虫剤成分例
・フェノトリン
・エムベントリン 等
なお防虫剤は必ず「1種類だけ」を使うこと。何種類も混ぜると成分が混合されて、悪臭や有毒なガスが発生する恐れがあります。また「着物用」と書いてある製品を選ぶことも大切。特に金糸・銀糸加工の着物をお持ちの場合には、変色を防ぐために必ず「着物用」の防虫剤をお使いください。
防湿剤を入れることも大切
着物の虫食い予防では、防湿剤(湿気取り)を着物の収納部に入れておくことも大切です。何度も言っていますが虫食いの「虫」は湿気っぽいところが大好きです。タンスやクローゼットの中が温かく湿っていては、虫よけしていても虫がくる恐れがあります。
防虫剤は置型タイプのものとシートタイプのものがあるので、両方使うと安心。置型タイプはクローゼットの中等に、シートタイプは引き出しの中等に入れて使いましょう。
定期的に虫干しを
日本はとても湿気が多い気候です。さらに最近の日本家屋は昔に比べて密閉性が高くなっているので、湿気がたまり込みやすくなっています。湿気取りを置いていても、着物が湿気てしまいやすいのです。
着物の虫食い予防のためにも、年に2~3回は「虫干し」をして、繊維の中にこもった湿気を取り除くようにしましょう。またこの時に防湿剤や防虫剤を交換し、着物になんらかのトラブルが起きていないかのチェックも行います。
ビニール保管をしない
一般的なクリーニング店に着物を出すと、まれにビニール袋をかけた状態で着物が戻ってくることがあるようです。着物専用のクリーニング店ではまず無いことなのですが、洋服系のクリーニング店だとタトウ紙が無い、または少ないということでこのような対応なのかもしれません。
クリーニングでビニールにかかってきた場合には、着物のビニールはすぐに取り除きましょう。空気がこもって湿気る最大の原因です。ちなみにタトウ紙の場合には、そのまま保管して大丈夫ですよ。
プラスチック収納は避けましょう
着物の虫食い予防という観点から言うと、プラスチックケースでの収納はあまりおすすめができません。木製のタンスや箱、または不織布の収納袋、布・不織布製の着物収納ケース等を使った方が通気性が改善され、虫食いリスクを下げられます。
着物の虫食いを見つけたら
着物の虫食い被害に遇ってしまったら、どうしたら良いのでしょうか。
虫食い部分は「かけつぎ」できることも
虫食いの程度と大きさにもよりますが、職人による「かけつぎ(かけはぎ)」という穴埋めのテクニックで虫食い部分を目立たなくさせられることもあります。着物加工の専門店に相談「虫食い穴ができてしまった」と相談してみましょう。
すべての衣類にプレスを
一枚の着物や衣類に虫食いが起きたということは、その他の衣類にも「虫の卵」が付いている可能性が高いです。卵が付いてしまうと、防虫剤などでは駆除ができません。
虫の卵を死滅させるには、高熱のアイロン(プレス)等で処理をしていく必要があります。普段着向けの着物等であれば、ご自宅でのアイロン処理でも大丈夫なことも。ただしフォーマル着物等は専門店に相談をして、プロにプレスや虫対策処理をしてもらった方が良いでしょう。
おわりに
着物の虫食いは、一度でも被害が起こると一緒に保管しているすべての衣類に対策をしなくてはなりません。また被害の程度によっては、大切な着物が二度と着られなくなってしまうことになります。被害が起こるとお金も手間もかかるので、とにかく予防に気を配ることが大切です。