よく風を通す麻の着物は、夏のおしゃれの定番とも言える存在です。でもこの麻の着物、シミや汚れが付いた時のシミ抜き等のお手入れはどのようにしたらよいかご存知ですか?
麻はザブザブ洗える素材と思われがちですが、実は用途によっては洗わない方が良いこともあります。麻の着物の使い方や用途、また付いたシミの原因等によって、お手入れ方法を変える必要があるのです。
目次
麻の着物は洗える?洗えない?
麻という素材そのものは水洗いができるため、ネットでは「麻の着物は自宅で洗えます」というザックリとした説明をしているところも多いです。しかし実際には、麻を水洗いすると様々なデメリットもあります。麻の着物を水洗いしても良いかどうかは、次のような点で判断をすることが大切です。
丈が縮んでも問題はない?
麻という素材は綿等の他の天然素材と比較しても縮みやすい傾向を持っています。初めての水通しの場合、8%~10%程度の収縮が起きる可能性があります。1メートルの布地が10センチ縮むということです。
丈に余裕がある着物であれば縮んでもおはしょりで処理ができますが、丈がギリギリの着物が縮むとおはしょりが作りにくくなったり、着付けがキレイにできなくなることがあります。
色落ちをしても大丈夫?
麻はもともと「染料の定着率・浸透率が良くない」という特徴を持っています。カンタンに言うと、水洗いで色落ちがしやすいのです。
特に黒・紺・赤等の濃い色の場合、水洗いを繰り返すと段々と色が薄くなっていく(白っぽくなる)のが目立ちます。それを「風合い」と取る人もいれば「色あせてしまった」と感じる人もいるわけです。
新品の頃のような濃い色合いを求めるのであれば、ご家庭での水洗いは避けた方が良いでしょう。
型くずれしても大丈夫?
ご家庭での水洗いを繰り返すと、麻は柔らかくくったりとした風合いに変化していきます。日常着としてお召しになるのであれば、これもまた良い「味」です。
しかし夏のお出かけ着やフォーマル服として麻の着物を着る場合だと、襟等が柔らかく崩れてしまっているのは良い状態とは言えません。パリッとした着こなしをしたいというのであれば、ご家庭で水洗いはしない方が良いです。
メーカーの推奨は?
着物メーカーでは、上のような染料や収縮率の要素を考慮した上で洗濯表示等を決めています。メーカーが指定した洗濯表示が「手洗いNG」の場合には、それに従ってください。
洗濯表示がない、わからないという場合には、上で紹介したような要素を考慮した上で、自己責任でお手入れするかどうかを判断しましょう。
水洗い可能な麻着物のシミ抜き方法
ご家庭で水洗いができる麻の着物の場合、シミ抜き方法は次のようになります。
用意するもの
- 中性洗剤
- 洗濯ネット
- 着物用のハンガー
- アイロン、アイロン台
注意
このシミ抜き方法だけで落とせるのは、汗やお茶の汚れ等の「水性の汚れ」です。着物についた汚れが「油溶性」「混合性」の場合には、先に下の「3.」の方法で油性汚れを分解して、それからこの方法で残った水性汚れを落とします。
シミ抜きの手順
- 洗面ボウルなどにぬるま湯を入れて、中性洗剤を適量溶かします。
- 麻の着物は、シミのある箇所を表に出して畳んでおきます。
- ぬるま湯に着物を全体的に漬けます。
- シミのある部分に中性洗剤を適量つけて、優しく振り洗いをします。強くこすらないようにしましょう。
- 汚れが取れたら両手で着物全体を優しく押して、押し洗いをします。
- 着物をネットに入れて、洗濯機で20秒程度脱水させます。
- 浴槽の水を取り替えて着物を入れ、押し洗いをするようにすすぎます。6.~7.のすすぎは2回繰り返しましょう。
- ネットに入れたまま洗濯機で40秒程度脱水します。長く脱水させるとシワになるので注意しましょう。バスタオルで挟んで脱水する方法を取ると、脱水ジワを回避できます。
- 着物専用のハンガーにかけて、直射日光のあたらないところで自然乾燥で乾かします。
- アイロンをかけて形を整えます。
※汚れの部分を強くこすりあわせるのは止めましょう。麻は色落ちしやすく、その部分だけが色が薄くなってしまいます。
※シミのあるところだけを部分的に濡らす、洗うだけで終わらせるのはNGです。ご家庭で部分洗いをすると、色ムラ等が出やすくなります。
※キッチン洗剤、酸素系漂白剤や酵素洗剤等の使用は避けた方が良いです。独特の風合いや色合いが失われる恐れがあります。
水洗いしない麻着物のしみ抜き方法
ご家庭では水洗いができない着物の場合には、水を使わずに「ベンジン」でシミ抜きを行います。
注意
このシミ抜き方法で落とせる汚れは「油溶性」の汚れのみです。汗やコーヒー、醤油等の「水性汚れ」、ラーメンのスープやドレッシング等の「混合性汚れ」等は落とせません。シミの原因によっては、専門店でのシミ抜きが必要になります。
用意するもの
- ベンジン:シミ抜き用のもの(カイロ用はNG)
- 古い布かガーゼ:汚れて捨てても良いもの
- バスタオル:汚れても良いもの
- 着物用ハンガー:洋服用はNG、和装専用のもの
下準備
- ベンジン使用の際には、窓を開けるか換気扇を回して換気をします。
- ベンジン使用の際には、火器類の使用は厳禁です。ストーブやライター、コンロ等は使用をやめましょう。
- ベンジンは染色方法によっては色落ち・変色等が起きることがあります。シミ抜きを行う前に、裏面等の目立たない箇所でテストをしましょう。
シミ抜きの手順
- バスタオルを敷いて、麻の着物を上に広げます。
- ガーゼまたは古い布にベンジンをたっぷりと染み込ませます。
- シミが付いた部分をガーゼでトントンと軽く叩きます。
- 汚れが下に落ちていくので、いつもキレイな面が着物に触れるようにガーゼを動かしていきます。
- 汚れが取れたら、もう一度ガーゼにベンジンを染み込ませます。6)ガーゼで輪郭を叩き、濡れた部分の境目がわからなくなるようにぼかします。襟等の小さいパーツのときは、襟全体(縫い目の部分まで)にベンジンを塗り拡げても構いません。
- 着物用ハンガーに着物をかけて形を整え、乾かします。(この間もベンジンが空気中に飛ぶので換気をし続けます)
※ベンジンを付けたガーゼで強くこすったり叩いたりするのはNGです。色ハゲ、色落ちの原因になります。
※ぼかしを丁寧に行わないと「輪ジミ」の原因になりますのでご注意ください。
家では落とせないシミもある?
麻の着物に付いた次のようなシミは、残念ながら家では落とすことができません。
不溶性のシミ
例
- マスカラの汚れ
- サビの汚れ
- 墨汁の汚れ 等
元の成分が細かな石や砂等でできている不溶性の汚れは、水にも油にも溶けないため自分では取り除くのが難しいです。
時間が経った古いシミ
例
- 乾いてしまったシミ
- いつ付いたかわからないシミ
- 変色しているシミ 等
麻の着物のシミを自分でお手入れができるのは、付いた当日・翌日等、汚れがついて間もない時までです。汚れが繊維に定着してしまった場合、ご家庭ではお手入れができません。
大きなシミ
シミが大きくなるほど、汚れを落とすための摩擦等のダメージが布にかかります。麻の場合は特に色落ちがしやすいため、汚れを落とす前に色ハゲが起きる可能性が高いです。
直径2~3センチを超える汚れが付いたら、専門店におまかせすることをおすすめします。
おわりに
洋服の場合でも、普段着向けな麻のトップスやワンピースもあれば、特別な日のために着るジャケットやスーツもありますよね。それと同じで、麻の着物にも「普段着向けのもの」と「フォーマル・おしゃれ着向けのもの」があります。
極端に言えば、普段着向けはTシャツ感覚で自宅でザブザブ洗って多少色落ちや型崩れをしても気にせず着るわけですが、おしゃれ着・フォーマル向けになるとそういうわけにもいきません。
「麻の着物」とひとくくりに考えてしまうと、大切な高級品着物をダメにしてしまう恐れもあります。お手入れの際には、「どのように着物を着る予定なのか」をよく考えることが大切です。「着物の種類や見分け方、シミの種類、お手入れ方法がよくわからない・・・」そんな時にはどうぞお気軽に当店にもご相談ください。