和装のボトムである袴(はかま)。男性の結婚式等の正装用として、また女性が大学の卒業式に「女学生風」に袴を身につけたりします。この他には剣道等の道着として、また最近では「かるた(百人一首)」のブーム等で文化部で袴を身につける方も増えたようです。
さてこの袴、和装に慣れない人だと思いもよらぬ場所に汚れが付いていた…といったことが多々あります。帰宅後に袴を脱いだら、シミがある!こんな時、自分で袴をシミ抜きできるのか、それとも袴をクリーニングに出した方が良いのか迷ってしまいますよね。
家でシミ抜きできる?失敗しない見分け方
袴を自分でシミ抜きしようとする前に、まずはその汚れが家で落とせるのか、袴がシミ抜きできるものなのかを確認しましょう。
汚れの原因を確認しましょう
汚れには大きく分けて4つの種類があり、袴をシミ抜きする時の対処法が違います。袴のシミ抜きで失敗しないためには、汚れの原因特定が大切です。
油溶性(脂溶性)の汚れ
油分が多く、水には溶けずに油に溶けやすい汚れです。ご家庭のシミ抜きでは、ベンジン等の石油系溶剤を使います。
- 皮脂の汚れ
- ごま油のシミ
- バターのシミ
- クリームファンデーションの汚れ 等
水溶性(水性)の汚れ
水分がほとんどで、水に溶けやすい汚れです。ご家庭のシミ抜きでは水に溶かした洗剤液を使ったり、水洗いが必要です。
- お茶のシミ
- 汗の汚れ
- ビールのシミ 等
混合性の汚れ
水分と油分が混じり合い、油溶性・水溶性のどちらの性質も持った汚れです。ご家庭では、ベンジンと水洗いの両方でシミ抜きします。
- フラペチーノのシミ
- ドレッシングのシミ
- 焼き肉のタレのシミ 等
不溶性の汚れ
水にも油にも溶けない汚れです。泥ハネ等は水洗いで落ちることがありますが、その他のシミはご家庭では残念ながら対処ができません。早めに専門店に相談をしましょう。
- 泥ハネ
- ペンキ汚れ
- サビの汚れ
- 墨汁のシミ
- ボールペンインクのシミ
原因不明の汚れは専門店に相談を
「汚れの原因がよくわからない」という場合、無理に自分でシミ抜きをすると汚れが取れずに広がったり、着物の毛羽立たせてしまうことがあります。原因不明の袴のシミは「何で汚したかわからない」と言い添えて、クリーニングに出した方が良いです。
いつ頃に袴についたシミですか?
袴を自分でシミ抜きできるかどうかは、シミがついた時期等でも変わります。
- 2~3日以内
基本的にはシミ抜き可能です
- 一週間~1ヶ月以上経過
- シミが乾いてしまっている
- 洗ったが汚れが残っている
ご家庭ではシミ抜きができません、クリーニング店で「シミ抜き」を依頼しましょう
- タンスから出したら袴にシミがある
- いつ付けたかよくわからない
- 黄ばんでいる
- 茶色っぽいポツポツシミがある 等
原因が「黄変(おうへん)」という酸化による変色ジミである可能性が高いです。ご家庭では取れません。着物クリーニングに強いお店で「古いシミ抜き(黄変抜き)」を依頼しましょう。
袴の素材はわかりますか?
袴は素材等によって、ご家庭で水洗いできるものとそうでないものがあります。
水洗いできる袴
- ポリエステルの袴、ジャージの袴
- テトロンの袴
- 木綿の袴(縮むことがあるので注意)
- ウォッシャブル加工済の袴 等
油溶性・水溶性・混合性のシミのシミ抜き対処ができます。
水洗いできない袴
- 正絹の袴
- シルク混紡・シルク交織の袴
- 昔のウールの袴 等
ご家庭でシミ抜きできるのは、油溶性の汚れのみです。その他の汚れについては、クリーニング店でのシミ抜きで汚れに対処します。
【素材不明の袴に注意】
袴の素材や洗濯表示等がわからない場合は、無理にご家庭で水を使ったシミ抜きは行わないでください。縮んだり、色が白っぽくなる「スレ」という現象が起き、袴が元に戻らなくなることがあります。
シミの大きさ・範囲はどの位ですか?
シミの大きさや範囲でも、シミ抜きの難易度は変わります。特に油溶性シミについては、次のような点を目安とすると良いです。
- シミ範囲が1センチ程度 → ご家庭でもシミ抜きできます。
- シミ範囲が2~3センチ以上 → シミ抜き失敗の可能性が高いです。クリーニング店への依頼をおすすめします。
- 汚れが広く、縫い目をまたいでいる → 汚れが「糸」に染み込んでいるので、即時にクリーニング店に持ち込みましょう。
色素の多いシミではありませんか?
次のようなシミは色素成分が多く、繊維が染まりやすいです。ご家庭では「漂白」の対処ができないので、早めにクリーニング店でシミ抜きしましょう。
- ワインのシミ
- ブドウジュースのシミ
- カレー(ウコン)のシミ
- 紅茶のシミ 等
袴のシミを自分でシミ抜きする方法
では袴の汚れを自分でシミ抜きする方法を、汚れの種類別に解説していきます。
袴の油溶性の汚れをしみ抜きする方法
油溶性の汚れにはベンジンを使います。薬局やドラッグストアで500円~1,000円前後で購入できます。
用意するもの
- ベンジン
- タオル
- 柔らかい布(色が薄いもの)
- ハンガー
※ベンジン使用の際には必ず換気してください。
※ベンジン使用中の火器類の使用は厳禁です。
※手荒れが気になる方は手袋等で保護してください。
※ベンジンは揮発性で刺激臭があります。マスク等の使用をおすすめします。
シミ抜きの手順
- タオルを敷いてから、袴のシミがある場所を上に置きます。
- 柔らかい布に、ベンジンを染み込ませます。
- 汚れがある部分を、布でやさしく叩いていきます。
- 汚れが溶けて落ちていくので、布やタオルは常に汚れの無い面が当たるように動かしていきます。
- シミが取れたら、もう一度ベンジンを布にたっぷり含ませて、シミの周辺部を濡らして(ぼかして)いきます。
- 輪郭(境目)がよくわからなくなるように、ベンジンで濡れたところを広げていきましょう。
- 袴をハンガーにかけて、風通しの良いところで陰干しします。
※ベンジンを含ませた布でゴシゴシこするのはやめましょう。表面が白く毛羽立つ「スレ」が起きてしまうと、最悪の場合、袴の状態を元に戻せません。
※ベンジンの濡れた箇所はしっかり「ぼかし」を行いましょう。「輪ジミ」が残る原因になります。
袴の水溶性の汚れをシミ抜きする方法
袴の水溶性の汚れには、素材へのダメージが少ない「中性タイプの洗濯用洗剤」を使います。
用意するもの
- 中性タイプの洗濯洗剤:アリエールさらさ、エマール、ファーファココロ 等
- タオル
- 柔らかい布
- 洗面器かボウル
- 洗濯用ネット
- ハンガー
- アイロン、アイロン台、あて布(※スチームアイロンでは形が整いません)
シミ抜きの手順
- タオルを敷いて、その上に袴のシミがある部分を載せます。
- 洗面器かボウルに水を入れて、中性洗剤を少量垂らしてよく溶かします。入れる量は、製品パッケージ説明書の「手洗い」の比率を参考にしてください。
- 作った洗剤液を、シミの部分だけに少しずつ垂らして染み込ませます。全体を濡らさないように注意。
- 乾いた柔らかい布を乗せて、優しく上から押さえて、洗剤液と溶けた汚れを一緒に吸い取ります。
- 「洗剤液を垂らす」→「押さえて吸い取る」を何度か繰り返します。
- シミが取れたら、水道水で軽くすすぎます。
- 全体の仕上げ洗いをします。
- 乾いたタオル2枚で袴をはさみ、ポンポンと軽く叩いて優しく脱水します。
- ハンガーにかけてシワを伸ばし、直射日光を避けて自然乾燥させます。
- アイロンをかけて形を整えます。「テカリ」が目立ちやすいので、必ずあて布を使いましょう。
ポリエステル袴等の場合:洗濯機洗でOK。中性洗剤を使い、洗濯ネットに入れてから、ソフト洗い等の優しい洗い方で、脱水は30秒以内に設定して洗います。浸け置き・タイマー洗いは禁止です。
木綿袴・ウォッシャブル加工袴の場合:中性洗剤で手洗いします。洗濯液を浴槽等に張って、ネットに入れた状態で袴を漬けて、優しく押し洗いします。脱水は洗濯機で30秒程度行います。浸け置きは禁止です。
袴の混合性汚れをシミ抜きする方法
混合性の汚れのシミ抜きは、「油溶性の汚れのシミ抜き」を行い、ベンジンが乾かないうちにすぐに「水溶性の汚れのシミ抜き」を行えばOKです。
袴をクリーニングに出す場合の注意点
- 汚れの原因がよくわからない
- 古いシミなので家では落ちない
- 正絹等の洗えない袴だった
- 自分では失敗しそうなので不安
こんな時には無理に袴を自分でシミ抜きせず、プロに任せた方が安心です。ただ袴をクリーニングに出す場合には、次の点に気をつけましょう。
「丸洗い」ではシミは落ちない?
一般的なクリーニング店で行う「袴の丸洗い(ドライクリーニング:機械洗浄)」の場合で落とせるのは、次のような汚れです。
- チリ
- ほこり
- 軽い皮脂汚れ
大きなシミ、水性の汚れ等を取るには、別途「シミ抜き」をオーダーする必要があります。ただ洋服メインのお店等だと、受付の方が袴の仕組みをよくわかっておらず、普通に機械での丸洗いをするだけでお客様のお手元に返してしまうこともあるようです。
受付(相談)の段階から袴のシミの状態をよく確認してくれる「着物・和装に強いクリーニング店を選ぶようにしましょう。
【ふじぜんなら丸洗いでシミも落ちます!】
ちなみに当店『ふじぜん』では、丸洗いの際に「手作業での洗い」も行っているので、丸洗いでも袴の「油性シミ」「水性シミ」をキチンと落とすことができます。
古いシミ・変色したシミでなければ、丸洗いをオーダーしていただくだけで大丈夫ですよ!
古いシミ・水性シミを断られる?
袴のシミでよくあるのが「クリーニングに出したら『このシミは落ちない』と言われた」「クリーニングを断られた」という話です。特に洋服メインのクリーニング屋さんでは、このようなお話をよく聞きます。
袴のシミが古くなってしまうと、汚れを取り除くだけではなくて、少しずつ漂白をしたり、色を染め直したりといった対処が必要になります。より高度で専門的なワザが無いと、シミを取れない…というわけです。
袴の古いシミ、黄変シミ等に対処ができるのは、着物を昔から扱ってきた職人さん達が居るお店です。あまりたくさんは残っていませんが、「古いシミ」「黄変抜き」ができる着物専門クリーニング店もあります。
もちろん当店でも古いシミのご相談を受け付けていますので、お気軽にご相談くださいね。
レンタル袴のシミはレンタル業者に相談を
最近増えているのが、「レンタル袴にシミを作ってしまった」というお声です。これについては「レンタルの業者さんに相談する」というのが一番と言えます。
業者さんによっても契約内容は違いますが、基本的にレンタル料金には多少の汚損に対処するための保障料金が上乗せされています。一般的なクリーニングで落ちる程度のシミであれば、追加料金を取らないお店の方が多いです。契約書をよく確認しましょう。
また着物レンタル業者さんには馴染みのクリーニング屋さんがありますし、ご自分の判断でクリーニングに出すより「汚した」と正直に相談した方が適切な対処を取って貰える可能性が高いです。
なお一番やってはいけないのは「レンタル袴を自分でしみ抜きする」です。万一しみ抜きに失敗した場合、もうレンタル製品として使えなくなるため、製品を「買い取り」しないといけなくなります。自己判断でシミ抜きをせず、業者さんに相談しましょう。
おわりに
ひとくちに「袴(はかま)」と言っても、実はそのランクは様々です。スポーツ向けでザブザブ洗えて気軽な袴もあれば、結婚式等の大切な式典に使うための高級な礼装用袴もあります。
剣道の練習着等であればシミ抜きもラクですが、フォーマル袴はクリーニングに出した方が確実…というわけです。「袴は洗えますよ」とザックリとひとくくりにした安易な情報がネット上には出回っていますが、そのような情報を鵜呑みにするのは危険です。
当店『着物ふじぜん』では、袴のシミ抜きやクリーニングついてのご相談も承っています。わからないことがあったら、お気軽にご相談ください!