「夏に着る浴衣、久しぶりに出してみたらカビくさい」「浴衣のこのシミってもしかしてカビ?」…一年を通して着る機会が少ない「浴衣」では、このようなカビによるトラブルが多く見られます。
また間違った自分でのカビ取り、適切でないカビの防止対策によって、余計にカビを増やしてしまったり、着物をだめにしてしまうケースも珍しくありません。
目次
カビの浴衣を水洗いで対策
木綿などで作られている浴衣は、多くの場合にはご自宅で洗うことができます。そのため浴衣にカビの症状を見つけた時に「洗えばカビが落ちるのでは?」と考える人はとても多いです。
しかし残念ながら、水洗い(一般的な洗濯)では浴衣のカビ菌を取り除くことはできません。
白カビ等は表面的に取れて目立たなくなることはあっても、カビ菌の根は繊維の奥にまで張っていて、通常の洗浄では除去できないので、何度でもカビが再生してしまうのです。
また水洗いの方法によっては、次のようなトラブルが増える可能性もあります。
- カビ菌が浴衣の他の場所にも付着して、被害が拡大する
- カビ菌が水分を得ることで活性化し、一気にカビが増える
カビ対策として「水洗い」を行うことは絶対におすすめできません。
カビが生えた浴衣をシミ抜き
食べこぼし等の浴衣のシミは、種類によっては「シミ抜き」をすれば綺麗に落ちることもありますね。ベンジンやしみ抜き剤等を使って浴衣や着物のお手入れをしているという人も多いのではないでしょうか。
しかし「浴衣のカビ」については、ご自宅でのシミ抜きでは対処をすることができません。
カビに効果が無いしみ抜き剤の例
- ベンジン
- アルコール
- 重曹
- クエン酸
- 酸素系漂白剤 等
そもそもカビは「カビ菌」という細菌が繁殖していることによって生まれたシミなので、「汚れ」が付着した状態のシミとは対処法がまったく異なります。カビ菌を完全に死滅させなくては、浴衣のカビ問題は解決しないのです。
無理なシミ抜きで色あせ・変色も
浴衣では、藍(インディゴ)等の天然染料が多く使われています。天然染料は合成染料に比べて定着力が弱いものも多く、また変色等もしやすいです。
例えば「藍」は粉末タイプの酸素系漂白剤等に非常に弱いという性質を持っています。「浴衣のカビを取りたいから」と無理に漂白・シミ抜き等を行った結果、次のようなトラブルになる可能性が高いのです。
漂白・シミ抜き失敗の例
- 色が薄くなる(藍色が薄い青になる等)
- 色がまだらになる
- 柄が白い部分に流れ出す
- 柄の輪郭がにじむ 等
浴衣の染料で上のようなトラブルが起きた場合、後から専門店に相談しても浴衣を元に戻せないケースが少なくありません。
浴衣のカビ対策にスチームアイロン
近年ではシワがつきにくい洋服が一般的になった結果、「自宅にアイロンを持っていない」という人も増えました。スーツなどは吊り下げておいて、簡易式のスチームアイロンでシワ取りするという人も多いことでしょう。
浴衣をしまう前のお手入れやカビ予防対策等で、スチームアイロンを使えばよいのでは?と考える人も少なくないようです。しかしスチームアイロンを使うのも、あまりおすすめができません。
ご家庭用のスチームアイロンでは、カビ菌を完全に死滅させることも難しいです。さらにアイロンの蒸気によってカビが水分を多く含み、繊維の中が適度に温められるため、方法によっては「カビが活性化してしまう」というリスクもあります。
カビの症状がまったくない浴衣にスチームアイロンをかけた場合でも、その後には3日間以上のしっかりとした陰干しが必要です。少しでもカビ臭い浴衣等には、スチームアイロンは避けた方が良いでしょう。
カビが生えた浴衣をそのまま保管
衣替え等の時に浴衣を出して「少しカビ臭い」「これ、もしかしてカビのシミ?」と思ったとき、すぐに対処をしていますか?「この程度ならまだ平気」と考え、そのまま保管してはいないでしょうか。
カビ菌は暖かな場所・湿った場所等に保管されていると、どんどん増えていきます。日本の家屋は昔は通気性が良かったのでそこまでカビが増えなかったのですが、近年の鉄骨マンションや一戸建ては密閉性が高いので、カビ菌にとっては天国です。
カビが生えた浴衣を放置すれば、カビによる被害は広まる一方でしかありません。さらにカビを放置すると、次のようなトラブルが起こります。
カビを放置するリスク
- 目立たなかった白カビも「黄ばみ」になる
- 時間が経つ毎に黄ばみ オレンジ 茶色とシミの色が濃くなる
- 専門店のシミ抜きでも落としにくなる
- 最終的には「布の脆化」が起きて、布が破れやすくなってしまう
カビが生えた浴衣をドライクリーニング
カビが生えた浴衣、近所のクリーニング店等にそのまま出していませんか?浴衣の一般的なクリーニング方法は「丸洗い(ドライクリーニング」ですが、残念ながらこの方法ではカビは落ちません。
ドライクリーニング(丸洗い)とは石油系の溶剤を使って、専用の洗濯機で全体を機械洗いする方法です。皮脂汚れ等の油分汚れを落とすのには向いていますが、これだけでカビは除去できません。
「クリーニングに出したから大丈夫」と浴衣をしまっていたら、浴衣がカビのシミだらけになってしまった…こんなトラブルは珍しくないのです。
浴衣にカビが生えた時の正しい対処法は?
では浴衣にカビが生えたら、どのように対処をしたら良いのでしょうか。
すぐに専門店に相談する
浴衣のカビは、残念ながらご自宅で除去することができません。浴衣にカビの症状を見つけたら、できるだけ早く専門店に相談をしましょう。
「浴衣のカビ取り」ができるか確認
浴衣のカビには、専門店での「カビ取り」という対処が必要です。カビ取りでは職人が手作業でカビを取り除き、さらにオゾン消毒等を行ってカビ菌を根こそぎ死滅させます。
なお洋服類に比べて、浴衣等の和服は作りがデリケートです。そのため洋服のカビ取りができるお店でも、浴衣のカビ取り・カビ対策はできないということが多々あります。
「着物・浴衣」を専門に扱うクリーニングのお店で、さらに「カビ取り」のメニューがあるかどうか事前に確認することが大切です。
「黄変抜き」「洗い張り」が必要になることも
浴衣のカビが「オレンジ・茶色のシミ」になっている場合等には、カビ取りだけでは問題解決できず、さらに漂白等を行う「黄変抜き(おうへんぬき)」が必要となる場合もあります。
またカビが全体的に広がっている場合等には、浴衣を一度ほどいて全体を徹底的に洗う「洗い張り(あらいはり)」をした方が良いことも。浴衣のカビの症状が重い場合には、浴衣・着物について、幅広いお手入れに対応できる専門店に相談をした方が安心です。
おわりに
浴衣を着る時期は暑い夏なので、洗い方によっては繊維に汗の成分が残ってしまいがち。そのため、浴衣のカビのトラブルはとても多いです。
浴衣に生えたカビのトラブルを長い間放っておくと、専門店でも手の施しようがない…という状態になってしまうことがあります。「もしかしてカビ?」と思ったら、できるだけ早くお店に相談してくださいね。
なお当店『ふじぜん』でも、カビが生えた浴衣のお手入れ、カビ取りやその他ご相談を受け付けています。宅配便での全国対応も可能ですので、お近くに相談できるお店が無い時にはお気軽にご利用ください。