着物のお手入れのために一本持っておきたいのが「ベンジン」です。着用のたびに付きやすい困った着物のシミや汚れは、ベンジンでキレイにすることができるんですよ。

目次
ベンジンとは何?どこで買える?
ベンジンとは、石油を精製して作られた揮発油の一種です。工業用としても使われますが、ご家庭では、着物等の衣類のシミ抜き・機械の掃除等に使われます。ベンジンは薬局やドラッグストア等で買うことができます。
ベンジンを使ったお手入れのメリット
- 水洗い不可の着物にも使える
- 街やネットでも手軽に買える
- 価格帯も安定している
ベンジン使用の最大のメリットは揮発性が高くすぐ乾く点、そして水を一切使わずともお手入れができる点です。
例えば正絹(シルク)等やウール等の水濡れに弱い着物のお手入れにも、ベンジンであれば使うことができます。
安いものであれば数百円程度で買える気軽さも魅力。ただし、良質な製品の方が揮発も早くニオイも少なく、安心して使えます。
着物のお手入れでのベンジンの使い方は?
柔らかな布等に染み込ませてから、シミの部分を軽く叩くようにして汚れを溶かし落としていきます。汚れを洗い流すのではなく、汚れを溶かして別の布に移すような感覚です。
ベンジン以外に用意するもの
- タオル(下に敷きます。汚れて捨てても構わないものを)
- 柔らかい布またはガーゼ等(これも汚れるので捨てても構わないもの)
- 着物用のハンガー(物干し等でも代用できます。)
作業前に読みましょう
- 作業前から乾燥終了まで、常に換気してください。刺激の強い成分が空気に乗って飛び散ります。
- 小さなお子さんやペット、病人の方と同室での作業は避けましょう。
- ベンジンは引火性です。火事の原因となるので、火器類はすべて止めてください。ストーブ等の他、ライターやコンロもNGです。
- 事前に共布または裏目等を使っての変色テスト(色落ちテスト)をしておきましょう。
ベンジンの使い方
- 下にタオル等を敷いてから、着物のシミがある部分を広げて置きます。
- 柔らかい布にベンジンを染み込ませます。ビッショリ濡れるほど使うのがポイントです。
- 着物のシミ汚れがある部分を、柔らかい布で軽くトントンと叩いていきます。絶対に強く擦らないことが大切です。
- 汚れがベンジンで溶けて、布やタオルに移っていきます。触れる面を動かして、常にキレイな部分が当たるようにします。
- 汚れが目立たなくなったら「ぼかし」の作業に入ります。もう一度、柔らかい布にたっぷりとベンジンを染み込ませます。
- ベンジンで濡れている部分の境目がはっきりわからなくなるように、ベンジンを塗り拡げるようにしてぼかしていきます。
- 着物専用のハンガーにかけて自然乾燥させます。
※水洗いができる着物の場合は、作業後すぐに水と中性洗濯洗剤で部分洗い→仕上げの全体洗いをすることをおすすめします。その方が輪ジミになりにくいです。
着物のどんなシミ・汚れもベンジンで落ちる?
ベンジンで落とせる着物の汚れは「油溶性のシミ・汚れ」です。また、最近付いた比較的新しいシミで、小さいシミに限ります。
ベンジンで落ちる汚れの種類
着物には様々な汚れが付きますが、ベンジンだけで落とせるのは「油溶性の汚れ」に限ります。
1)油溶性汚れ
ほぼ油や脂性成分で構成されていて、水性汚れがほぼ無い汚れ。油(ベンジン)で溶かすことができます。
例
- 皮脂汚れ
- バターの汚れ
- オリーブオイルのシミ
- ファンデーションの汚れ 等
2)水溶性汚れ
ほぼ水で構成されていて、油分をほぼ含まない汚れ。油には溶けず、落とすには水洗いが必要です。ベンジンでは汚れを落とせません。
例
- 汗の汚れ
- お茶のシミ
- 日本酒の汚れ
- コーヒーの汚れ 等
3)混合性汚れ
水と油の両方を含む汚れ。ベンジンで落とせるのは油分のみなので、後から水洗いをしないと水性汚れ成分が残ってしまいます。
例
- ドレッシングの汚れ
- ステーキソースの汚れ
- アイスクリームの汚れ 等
4)不溶性汚れ
水にも油にも溶けない、金属粒子や鉱物等を含む汚れ。ベンジンでは落ちません。ご家庭では対処できない汚れです。
例
- 墨・墨汁の汚れ
- サビの汚れ
- ジェルインクボールペンの汚れ
- 一部のアイメイク製品の汚れ 等
ベンジンで落ちる汚れの新しさ
ベンジンで落とせるのは、付いてから数日以内の比較的新しいシミです。
- 付いてから一週間以上経って乾いたシミ
- いつ付いたかわからないシミ
- 後から浮き上がってきた油シミ
- 変色した古いシミ
- カビになっているシミ
上のようなシミには、ベンジンでは対処ができません。
ベンジンで落ちる汚れの範囲
ベンジンで溶かして落とせるのは、直径1センチ前後の小さめのシミまでです。
直径2~3センチを超えるような大きなシミで色素の多いシミは溶かし落とすことができず、輪ジミになったり、汚れが残ります。
すべて汚れを落とそうと何度も作業すると、後から説明する「スレ」が起きやすくなるのでおすすめできません。大きなシミは専門店でシミ抜きをしましょう。
ベンジンで擦ったら着物の表面が白っぽくなる…
力を入れたり、シミ抜き作業を繰り返し何度も行っていませんか?ベンジンで「強くこする」「硬いタオルを使う」「同じ箇所を繰り返しこする」といったダメージを与えるのは絶対にNGです。
白く毛羽立つ「スレ」のリスク
着物はその多くがデリケートな素材で作られているので、摩擦等のダメージには弱いです。ベンジン等の作用の強い溶剤を使った場合、さらにダメージがかかることになります。
あまりに強い負荷がかかると、着物の表面の色が白っぽく落ちたように見えたり、布が毛羽立ったようになることがあります。これは「スレ」という現象で、一度起こるとプロでも元に戻せません。
特に着物のお手入れに慣れていない人だと、次のような作業を行ってしまいがちです。
【ベンジンでのお手入れのNG例】
× ゴシゴシと力を入れて強く擦る
× 汚れが落ちないからと同じ場所を擦り続ける
× ゴワゴワしたタオル等を使う
ベンジンを使ったら輪ジミができた
ベンジンを使った着物のお手入れでは「輪ジミ」ができやすいです。汚れをしっかり落とした上で、「ぼかし」をキチンと行うことが大切です。
輪ジミとは
輪ジミはその名のとおり、輪っかのように残るシミのことです。着物にできる輪ジミには何種類かありますが、ベンジンでのお手入れの場合には以下の2種類が考えられます。
- 汚れが取り切れずに輪郭部に残っている
- 「ぼかし」が不十分で輪郭がクッキリ残っている
輪ジミを作らないために
輪ジミを作らないためには、次の点を守って作業するようにしましょう。
ベンジンはたっぷり使う
ベンジンを少ししか使わないで居ると汚れが残りやすくなります。また「ぼかし」が不十分になりやすいです。
丁寧に「ぼかし」を行う
「汚れが落ちきったから」と作業を終わらせるのはNG。きちんと輪郭がわからなくなるようにぼかしましょう。衿等のパーツであれば、パーツ全体(縫い目部分まで)全体に塗り拡げた方が「輪ジミ」ができにくいです。
洗えるなら水洗いを
水洗いに対応した着物であれば、ベンジンが乾ききる前に水を使った部分洗い・仕上げ洗いをしましょう。
色素の多い大きなシミは対処しない
口紅のシミ等の特に色素の多いシミの場合、大きなシミは無理に対処しないでください。汚れが取り切れず、輪ジミがどんどん広がってしまいます。
おわりに
着物のシミや汚れを落とすためのベンジンの使い方はわかりましたか?ベンジンは一本持っておくとなかなか便利なお手入れのアイテムです。でも「輪ジミ」等の失敗もあるので、できれば練習を重ねておくことをおすすめします。
まずは普段の洋服や、普段着の着物等でシミ抜きの練習をしてみましょう。いきなり高価なフォーマル着物で本番をするのはちょっとリスクが高いですよ。