気軽に着られるウールの着物は、最近特に人気のアイテムです。着物ブームの到来によって、特に若い方が軽いおしゃれ着としてウールの着物をお召しになったり、アンティーク着物を楽しむ傾向も見られています。
その分だけ「ウールの着物のシミ抜き方法は?」「ウールの着物を汚したら洗える?」といった質問を見かけることも増えました。ウールの着物はお手入れが楽そうに見えますが、汚した場合のシミ抜き方法はどうなのでしょうか?
ウールの着物のシミ抜きで水洗いしていい?
「ウールの着物をシミ抜きする時、家で水洗いできるの?できないの?」という点をお悩みの方は多いのではないでしょうか。
実は「ウールだから洗える」といった”素材でのひとくくり”の回答は、残念ながらできないんです。お手持ちのウールの着物が水洗いできるのかどうか、次のような点を参考に考えてみましょう。
目次
ウォッシャブルウールのマークがある?
ウールは基本的に「水洗いをすると少しずつ縮んでいく」という特性を持った素材です。しかしその中でも、縮みにくい作り方をしているものがあります。それが「ウォッシャブルウール」です。
ウォッシャブルウールの着物は、中性洗剤を使った水洗いをしても問題ありません。まずは洗濯表示やメーカーの指定等を確認してみましょう。
つくりは単衣?袷?
単(ひとえ)の着物は洗って多少縮んでも、そのサイズとしてお召しなることもできます。しかし袷(あわせ)の着物は裏表で縮み方が違うため袋のようになってしまったり、激しい型崩れを起こす可能性が高いです。
襟に裏地がついている?
襟の裏地が同じウールや化繊(ポリエステル等)でない場合、裏地が収縮して激しい型崩れとなる可能性が高いです。襟元の型崩れは目立ちますし、あとからの直しができません。
丈には余裕がある?
女性向けの着物はおはしょりで調整ができますが、現在の丈の状態はどうでしょうか。元々おはしょりを作るのがギリギリといった小さめの着物の場合、少しでも縮んでしまうとおはしょりが作れなくなったり、着崩れが起きやすくなります。
家にアイロンはある?
着物を水洗いした場合、細かなシワはアイロンをしっかりとかけて取る必要があります。
特殊加工はある?
次のような特殊加工がある着物は、家での水洗いができません。
- 刺繍(ししゅう)
- ビーズ縫い付け
- スパンコール縫い付け
- 金箔、銀箔押し
- 金糸・銀糸の使用
- レースの縫い付け 等
気楽な着物?大切な着物?
日常着として着る着物、お稽古着として着る気楽な着物等なら、万一多少の型崩れがあったとしても着続けることはできるでしょう。
でもウールの着物の中には、軽いパーティーに着るような着物もあります。高価な品物・大切な品物については、万一のトラブルを避けるためにもご家庭での水洗いは避けることをおすすめします。
縮んだウールは元に戻せません!
水洗いで一度縮んでしまったウールは、専門店でも元には戻せません。一部が縮んで型崩れした場合も同様です。ウォッシャブルウールマークが無い着物の水洗いは自己責任であり、「万一ダメになっても良い」という場合のみに限られると考えましょう。
洗えるウールの着物のシミ抜き方法
ウォッシャブルウール等の洗えるウール着物の場合、シミ抜きの方法は次のようになります。
1.油溶性の汚れを落とす
シミの原因が「ファンデーション」等の油溶性の汚れや、「ドレッシング」「カレー」等の混合性の汚れである場合には、まず油溶性の汚れを分解するところから行います。
汚れの原因が「汗」「お茶」「醤油」等の水溶性汚れの場合は、このプロセスは飛ばして構いません。
用意するもの
- ベンジン:シミ抜き・クリーニング用のもの(カイロ用はNG)
- 古い布かガーゼ:汚れても良いもの
- 大きなタオルかバスタオル:汚れても良いもの
事前の準備
- ベンジンは揮発性が高い物質です。使用の際には、窓を開けるか換気扇を回して換気をします。
- ベンジンは引火性物質なので、使用の際には火器類の使用は厳禁です。ストーブやライター、コンロ等は使用できません。
- 着物の染色方法によっては、ベンジンで色落ち・変色等が起きることがあります。シミ抜きを行う前に、裏面等の目立たない箇所でテストをしましょう。
シミ抜きの手順
- 大きなタオルを敷いて、ウールの着物を上に広げます。
- ガーゼまたは古い布にベンジンを染み込ませます。
- シミが付いた部分をガーゼで軽く叩きます。
- 汚れが下に落ちていくので、ガーゼやタオルの位置を動かし、つねにキレイな面が触れるようにしておきます。
- 汚れが取れたら、もう一度ガーゼにベンジンを染み込ませ、輪郭を叩いてていねいにぼかします。
- すぐに2.の水洗いの工程に移ります。
※ベンジンを付けたガーゼで強くこすったり叩いたりするのはやめましょう。色ハゲ、色落ちの原因になります。
※ぼかしを丁寧に行わないと「輪ジミ」の原因になりますのでご注意ください。襟等の小さいパーツの場合には、襟全体にベンジンを塗り拡げてもOKです。
2.水溶性の汚れを落とす
お茶やコーヒー、醤油等の水溶性汚れを落とすには、洗剤と水を使ってウール着物を洗う必要があります。また水と油の成分が混じっている「混合性の汚れ」の場合も、水性汚れの成分を落とすために水洗いの工程が必要です。
油溶性汚れの場合も、最後に水洗いをしておくことで輪ジミを防ぎやすくなります。
用意するもの
- 中性洗剤(おしゃれ着洗い用のもの)
- 洗濯ネット(畳んだまま着物が入るサイズ)
- 着物用のハンガー
- アイロン、アイロン台
シミ抜きの手順
- 洗面ボウルなどにぬるま湯(30℃位)を入れ、中性洗剤を適量溶かします。
- ウールの着物は、シミのある箇所を表に出して畳んでおきます。
- ぬるま湯に着物を全体的に漬けて、優しく押し洗いをします。
- シミのある部分に中性洗剤を適量つけて、優しく撫でるように洗います。強くこすらないようにしましょう。
- 水を取り替えて、2回ほどすすぎを行います。
- 洗濯ネットに入れて、洗濯機で40秒程度脱水します。
- 着物専用のハンガーにかけて、直射日光のあたらないところで自然乾燥で乾かします。
- アイロンをかけて形を整えます。
※汚れの部分を強くこするのはやめましょう。毛羽立ち等の原因になります。
※つけ置き洗いはできません。縮みの原因になります。
強い洗剤・漂白剤はNG!
ウールの着物には、次のような洗剤・漂白剤は使用ができません。
- アルカリ性(弱アルカリ性)の洗濯用洗剤
- 酵素入り、蛍光剤入りの洗剤
- キッチン用洗剤
- 酸素系漂白剤 等
動物性タンパク質であるウール(羊毛)は、アルカリ性等の強い成分にふれることで変性しやすい性質を持っています。「縮む」「シワになる」「色落ちする」等の変性が起きた場合、着物を元に戻すことができませんので十分に注意しましょう。
水洗いNGのウールの着物をシミ抜きする方法
水洗いができないウールの着物でも、上の「水洗いができるウールの着物のしみ抜き方法」の1.でご紹介した「油溶性の汚れを落とすシミ抜き」は行うことができます。
ただし落とせるのは次のような油溶性汚れまでです。
油溶性汚れの例
- ファンデーション汚れ
- 軽い皮脂の汚れ
- 少量ついた口紅の汚れ 等
お茶、ワイン、コーヒー、汗等の水性汚れや、ラーメンのスープ、ドレッシング等の混合性の汚れは家では落とすことができません。水性汚れ・混合性シミが付いてしまった場合には、専門店でシミ抜きを依頼しましょう。
家では落ちないウールの着物の汚れとは
シミの種類や状態が次のような場合には、残念ながらウール着物のシミを家では落とせません。
- シミが付いてから時間が経っている
- シミがいつ付いたかわからない
- シミの原因が不明
- 墨汁やサビ、マスカラ、ペンキ、ボールペン等のシミである
- シミの範囲が直径3センチを越えている
このような場合は無理に家でシミ抜きをせず、早めに専門店に相談をすることをおすすめします。
おわりに
ウール着物のしみ抜きのトラブルで多いのは、「ウォッシャブルウールだからと普段着感覚で洗濯機で洗ったら型くずれした」というものや、「現代のウール着物の感覚でアンティーク着物を洗ったら縮んでしまった」というものです。
「洗えるウール着物」が増えたとは言っても、着物自体がデリケートな存在であることにはかわりはありません。特に昔のウールはご家庭で水洗いすることを想定していないので、激しく縮んでしまうことがあります。「ウールは洗える」というくくりだけで軽く判断しないことが大切です。