着物の袖口は意外と汚れが付きやすい部分です。着用後のお手入れをしなかったり、汚れ対策をしないままで居ると、気づいた時には袖口が汚れやシミだらけ…ということも。袖口はそばに居る人達から意外とよく見える部分なので、きちんとキレイにしておきたいですね。
ここでは着物の袖に付きやすい汚れである「皮脂汚れ」「食べもの・飲み物のシミ」「水のシミ」の3つの原因に合わせて、着物の袖汚れの落とし方や対処法を解説していきます。
目次
「皮脂汚れ」はベンジンでお手入れ
着物の袖口に付く汚れのナンバーワンは「皮脂汚れ」です。なぜか?というと、長襦袢の方が着物の袖より短く作られていますから、袖口の裏はつねに皮膚と触れ合っています。つまり常に皮膚の皮脂を押し付けている状態というわけなんですね。
皮脂汚れは放っておくと、家では落ちない汚れになってしまいます。着物を着るたびに汚れを落とすお手入れを習慣づけましょう。
ベンジンでの着物の袖のシミ抜き方法
皮脂の汚れは油溶性なので、付いたばかりであれば家庭用のしみ抜き剤である「ベンジン」でお手入れができます。
用意するもの
- ベンジン:シミ抜き用のもの(カイロ用や工業用はNGです)
- 古い布やガーゼ:汚れて捨てて良いもの、布は柔らかいもの
- タオル:汚れて捨てても良いもの
- 着物専用のハンガー:乾燥用に使います(洋服向けのものはNGです)
※肌が弱い場合は、ゴム手袋等を使うことをおすすめします。
※ベンジンは気化しやすく、刺激臭があります。気になる場合はマスクの着用をおすすめします。
下準備
- 作業中・乾燥中は窓を開けるか換気扇を回し、常に換気しておきます。
- ベンジンは引火性です。ストーブやライター、コンロ等の火器類の使用は厳禁です。火災の原因になります。
- ベンジンは染色によっては色落ち・変色を起こすことがあります。裏面等の目立たない部分に付けるか、共布を使い、変色・色落ちなどが起きないかどうかのテストをしておきます。
シミ抜きの手順
- タオルを敷いて、汚れがある部分を上に載せます。
- 古い布かガーゼをベンジンでたっぷり濡らします。
- 汚れた部分を布で軽くトントンと叩いていきます。
- 布やタオルを動かして、常にキレイな面が触れるようにしながら作業します。
- 汚れが取れたら、もう一度ベンジンで布をしっかり濡らし、濡らした部分と乾いている部分の境界がわからなくなるようにぼかします。
- 着物専用のハンガーにかけて乾燥させます。
注意点
※ベンジンを含ませた布でゴシゴシこすったり強く叩いてはいけません。色落ちをしたり、毛羽立ちが起きる原因になります。
※ベンジンは空気中に飛びやすく、喉や目を刺激することがあります。小さいお子様やお年寄り、病気の方、ペット等の居る部屋での作業は避けましょう。
「黒ずみ」は落とせません
ベンジンで着物の袖のシミ抜き・汚れ落としができるのは、付いたばかりの皮脂汚れまでです。次のような汚れには対処ができません。
- 汚れを付けてから一週間以上経過している
- お手入れせずに着用を繰り返している
- 黒ずみになっている
時間が経過した汚れは、早めに専門店に相談を!特に「黒ずみ汚れ(古い皮脂汚れ)」は、クリーニング屋の丸洗い(機械洗い)でも落とせない頑固な汚れです。さらに放っておくとどんどん取れない汚れになっていきます。お店によっては「お断り」となることがあるので、着物に強いクリーニング専門店(着物のシミ抜きができるお店)を選ぶことをおすすめします。
食べ物のハネは性質に合わせて
お食事のときの料理が着物の袖口にハネた場合には、外出先等でその「汚れの原因」をよく覚えておきましょう。性質に合わせたシミ抜きが必要になります。
油溶性汚れにはベンジンで対処
例
- バター
- オリーブオイル 等
油分の多い汚れは一見処理が難しそうに見えますが、「油溶性」という油に溶ける性質を持つため、早い段階であればベンジンで対処ができることもあります。
お手入れの方法は、上の「皮脂汚れ」のお手入れ方法と同じです。ただしシミの範囲が広かったり、チョコレートソース等の色素が多い汚れは分解ができないので、専門店におまかせをしましょう。
水溶性汚れは中性洗剤でお手入れ
例
- 醤油
- お酒
- ジュース
- 果汁
水をベースにしている汚れは、汚れ落としにも「水」が必要になります。原因が水溶性汚れの場合には、まず着物が水洗いに対応しているかどうか確認しましょう。水洗いできる着物の場合は、次の方法でシミ抜きを行います。
用意するもの
- 液体洗濯洗剤:中性タイプのもの、エマール等
- 洗濯ネット:着物を畳んで入れられるサイズ
- 着物用ハンガー:物干し竿でも代用可、洋服ハンガーはNG
- アイロン、アイロン台
シミ抜きの手順
- 洗面ボウルや浴槽などにぬるま湯(30℃前後)を入れて、中性洗剤を適量溶かしておきます。
- 着物は一度畳んでおきます。
- 袖を軽く広げて、ぬるま湯で濡らします。
- シミが付いた部分に中性洗剤を少量つけて、優しく撫でるように洗います。
- 汚れが取れたら着物をたたみ直し、ネットに入れます。
- 最初に作った洗濯液にひたして、両手で全体を優しく押し洗いします。
- 水を取り替えて2回すすぎます。
- ネットに入れたまま洗濯機で30秒~40秒程度脱水します。シワになりやすいものの場合、脱水無しでバスタオルで挟んで脱水してもOKです。
- 着物専用のハンガーにかけて、自然乾燥で乾かします。直射日光をあてないように注意しましょう。
- アイロンをかけて形を整えます。
注意点
※中性洗剤で落とせるシミは「汚れを付けた当日~翌日」程度のシミです。乾いたシミ、時間が経った古いシミは対処できません。
※ワイン、ココア等の不溶性色素の多い水溶性シミはご家庭では落とせないことがあります。
※漂白剤・溶剤などは使用しないでください。素材の色落ち・変色を招く恐れがあります。
水洗い不可の着物は対処NG!
水溶性の汚れを取るには、ご家庭の場合、「水を使う工程」が必要になります。しかし正絹やウール等の素材はこの方法を使うと縮んでしまいます。
また部分洗いをする場合でも、後から解説する「水シミ」を作ってしまう可能性が高いです。水洗い不可の着物に水溶性汚れが付いた場合には、専門店でシミ抜きをしてもらいましょう。
混合性汚れもあるので注意
例
- カレー
- ラーメンのスープ
- 焼き肉のタレ
- アイスクリーム 等
混合性汚れとは、水性の汚れと油性の汚れが混じっているタイプの汚れです。この場合には、上の「油溶性汚れ」の対処法で油分を分解してから、次に「水溶性汚れ」の対処法で水性の汚れを洗い流します。
少々手間がかかりますが、こうしないとどちらかの汚れが残ってしまい、後からシミが浮いてきてしまいます。丁寧に処理を行いましょう。
「水シミ」は家では直せません
特に正絹(シルク)などの着物の場合、袖口に次のような「水シミ」「雨シミ」ができることがあります。
例
- 洗面所で水がハネた
- グラスの水滴が袖についた
- 傘の水滴で袖が濡れてしまった
この「水シミ・雨シミ」は、上のような「汚れ」によってできているものではありません。以下のいずれかの理由で「汚れが付いたような状態」になっているのです。
水シミの原因
- 濡れた部分だけが縮んだことで、光の屈折率が変わり、その部分だけが色が濃く見えてしまう(ウォータースポット)
- その部分の染料が流れ出している
このような着物の袖についた「水シミ」「雨シミ」は、残念ながら家では対処をすることができません。また、一般的なクリーニング方法である「丸洗い(機械洗い)」でも元に戻せないので注意しましょう。
水シミ・雨シミについては、次のような専門的な対処を行う必要があります。
- 輪ジミ・水シミ専用の「シミ抜き」
- 洗い張り(着物をほどいて反物の状態で水洗いする方法)
一般的なクリーニング店だと水シミは「お断り」となりやすいので、着物に強い専門的なクリーニング店や悉皆屋等に相談することをおすすめします。
おわりに
着物の袖についた汚れ・シミは、原因によって対処法が大きく変わってきます。「原因がよくわからない」という時には、着物に詳しいお店に相談するのが一番です。