着物の衿は気をつけて着ていても、意外といろいろな汚れが付きやすいですよね。家に帰って着物をチェックしてみたら「衿のシミ・汚れが気になる」ということも多いのではないでしょうか。
着物の衿に付く汚れは、早い段階であれば自分で落とすことができます。こまめにお手入れをすることで、着物をクリーニングに出す頻度も減らすことができるんですよ。
目次
ファンデーションや軽い皮脂汚れは「ベンジン」で
着物の衿に付く汚れとして代表的なのは以下の2つです。この2つは季節を問わず「着用したらほぼ汚れが付く」と考えた方が良いでしょう。
- 皮脂の汚れ(最近付いた汚れ)
- ファンデーションの汚れ(お化粧をしていた場合)
着物の衿についた皮脂の汚れ・ファンデーションの汚れは、両方とも油に溶けやすい「油溶性の汚れ」です。そのため付いたばかりの軽い汚れであれば、着物の衿をベンジンでシミ抜きすることでお手入れができます。
ベンジンは石油から精製して作られた溶剤で、機械の洗浄等に用いられます。ご家庭だと衣類のシミ抜きの他、シールはがし、油性ペンの落書きの除去等に使われることが多いです。ベンジンは薬局やドラッグストア、Amazon等でも買えますよ。
ベンジンを使った着物の衿のシミ抜き方法
準備するもの
- ベンジン:シミ抜き用のもの
- 古い布やガーゼ:汚れて捨てて良いもの、柔らかい布が良い
- タオル:汚れて捨てても良いもの
- 着物専用のハンガー:乾燥用。型崩れするので洋服向けのものはNG。
※肌が弱い場合はゴム手袋等の着用をおすすめします。
※ベンジンは気化しやすいので、マスクの着用をおすすめします。
下準備
- 窓を開けるか換気扇を回して、常に換気した状態にしておきます。密閉空間での作業は厳禁です。
- ベンジンは引火性なので、ストーブやライター、コンロ等の火器類の使用はすべて中止します。
- 少量のベンジンを着物の裏面等の目立たない部分に付け、変色・色落ちなどが起きないかどうかのテストを行っておきます。
シミ抜きの手順
- タオルを敷いて、着物のシミのある部分を上に載せます。
- 古い布をベンジンでしっかり濡らします。
- シミがある部分を布で軽く叩いていきます。
- 汚れが下に落ちていくので、布やタオルを動かして、常にキレイな面が触れるようにしながら作業します。
- 汚れが取れたら、もう一度ベンジンで布をしっかり濡らします。
- 衿全体にベンジンを塗り拡げ、濡れた箇所の境界がわからないようにします。縫い目の部分にまで優しく丁寧に塗り拡げましょう。
- 水洗いができるものは、この後に中性洗剤(おしゃれ着洗い用)を使って仕上げ洗いをします。
- 水洗いできない着物は、そのまま着物専用のハンガーにかけて乾燥させます。乾燥中もベンジンが空気中に飛ぶので、換気は続けましょう。
注意点
※ベンジンを含ませた布でゴシゴシこすったり強く叩いたりしてはいけません。色落ちをしたり、毛羽立ちが起きる原因になります。
※ベンジンは空気中に飛びやすく、またその成分は喉や目を刺激することがあります。小さいお子様やお年寄り、ご病気の方、ペット等の居るお部屋での作業は避けましょう。
※その他、製品パッケージの取扱説明書をよく読んでから作業をしましょう。
なお次のような場合には、ベンジンでは汚れが落ちません。
- ファンデーションや皮脂汚れが付いてから時間が経っている
- いつ付けた汚れなのかわからない
- 水性の汚れが混じっている
- 広い範囲に汚れが付着している
ベンジンは家庭用溶剤であり、シミ抜きの効果はクリーニング店で使う溶剤等に比べると弱めです。汚れが落ちない場合には無理に作業を続けず、専門店に相談をしましょう。またお店選びの際には、3.の項目も参照しておくことをおすすめします。
「汗抜き」で着物の襟の汗シミ予防
暑い時期に着物をきたり、パーティー等の人が多く集まる場所にお出かけをすると、着物の着用中に意外とたくさん汗をかきますよね。このような「汗」の汚れを、着物の衿もしっかり吸っています。
「汗」の汚れは水溶性なので、ベンジンのお手入れでは汗の成分を落とし切ることができません。汗に含まれるミネラル成分等が繊維に残ると、汗ジミ・黒ずみ等の原因となってしまいます。
着物の衿等に汗の汚れが付いたら、早めに「汗抜き」のお手入れをしましょう。
汗抜きの方法
用意するもの
- 柔らかいタオル 2~3枚
- 着物専用のハンガー
汗抜きの手順
- 着物は広げておきます。
- 40℃以下のぬるま湯にタオルを浸して、ギュッと固く絞ります。
- 着物と肌が触れやすい部分、汗汚れが気になる部分を、トントンと軽く叩いて汚れを吸い取っていきます。
- 時々ぬるま湯にお湯を浸し直し、絞り直してから作業を続けます。
- 最後に乾いたタオルで軽く叩き、残った水分を取ります。
- 着物用のハンガーにかけて換気した部屋、または直射日光の当たらない屋外に干し、自然乾燥させます。
※衿の他、ワキ、背中等の汗をかきやすい部分も汗取りをしておくと、汗染みの予防に繋がります。
※刺繍・金箔・銀箔等の特殊加工がある着物ではこの方法をしないでください。加工が剥がれたり、変質する恐れがあります。
着物の衿に「黒ずみ・変色・黄ばみ」があったら?
衿についた汚れは、時間が経つ毎に取れにくい汚れになり、最終的に「黒ずみ」や「変色シミ」へと進化します。
着物の衿の黒ずみ・変色の原因例
黒ずみ(縦シマのような黒っぽい汚れ)
皮脂汚れが何度も積み重なった状態です。動物性皮脂が固まって、層のようになっています。
衿の変色(白っぽくなる、薄ピンクになる等)
ファンデーションの成分によって、着物の繊維の染料が変質してしまい、色が抜けている(脱色している)状態です。ファンデーションの汚れが付いたままで長い時間が経つと、このような脱色・変色が起こります。
衿の黄ばみ・茶色~焦げ茶のシミ
着物が「黄変(おうへん)」を起こしている可能性が高いです。黄変とは、汗に含まれるミネラルやタンパク質等が酸化してできる変色シミのこと。汗汚れ等が付着したままで長い時間が経つと、あとからこのようなシミが浮き上がってきます。
早めに「着物に強い専門店」に相談を
目で見えるほど黒っぽくなった黒ずみや変色したシミは、残念ながらご家庭では対処することができません。できるだけ早く、着物のケアに強いクリーニング専門店に相談をしましょう。
丸洗いでは汚れが落ちません
一般的な着物クリーニングである「丸洗い(機械洗い)」では、黒ずみは落とすことができません。また、変色ジミも機械で洗っただけでは状態が変わりません。
洋服系のクリーニング店等だと、着物用メニューが「丸洗いのみ」ということが多いのでご注意ください。
「シミ抜き」「黄変抜き」「染色補正」が必要
着物の衿の黒ずみや変色では、専門の職人による次のような対処が必要です。
- シミ抜き:手作業での汚れ取り
- 黄変抜き:変色した部分の漂白等
- 染色補正:脱色・変色をカバーするための色掛け、柄足し等
特に黄変や変色シミは対処が難しいので、一般的なお店では「受付NG」とお断りされてしまうケースも多いようです。なお当店『ふじぜん』では黄変抜き(古いシミ抜き)や染色補正等も宅配便で全国対応しています。「近くに対処ができるお店が無い……」という時には、お気軽にご相談ください。
おわりに
着物の衿についた皮脂の汚れや汗の汚れは、付いたばかりのときは透明なので「お手入れはいらないかも」と思ってしまう人も多いようです。しかし汚れはしっかり付いていますかし、時間が経つと家では落ちない黒ずみや変色シミになってしまいます!
着物を着た当日・翌日中にベンジンでのシミ抜き・汗抜き等のお手入れをする習慣、しっかり付けておきましょう。
また変色シミ等は、あまりにも時間が経つと、専門店でも対処ができないことがあります。「黒ずみかも?」「変色してるかも?」と思ったら、早めにお店に相談しましょう。