当ブログでは様々なシミの種類や着物の種類に合わせて、シミ抜きの方法をご案内しています。そんな中でご質問が多いのが「帯にシミが付いた場合の対処法」なのですが……帯については、着物とは大きく対処法が変わってきてしまうのです。
原則として、帯はご家庭でのシミ抜きができません。またクリーニング店に出す場合も、お店選びを慎重に行う必要があります。
目次
帯だけは家庭でシミ抜きNG!その理由は?
帯でご家庭でシミ抜きができるのは「家で洗える」とメーカーが銘打ったウォッシャブル対応のものだけです。しかしウォッシャブルの帯は非常に珍しく、全体の1%にも及びません。
つまり帯だけは原則として「ご家庭でシミ抜き等のお手入れができない」ということになります。
× 素材だけが水洗いに対応していてもNG(例えば木綿等)
× ベンジン等の溶剤を使ったシミ抜きもNG
当ブログでは「着物」や「長襦袢」のお手入れ方法については、様々なシミ抜き対処法をご案内しています。けして「帯は自宅でシミ抜きできないと言った方が当店が儲かるから、情報を紹介しない」というわけではありません。
ではなぜ、帯は自分ではシミ抜きできないのでしょうか?
帯芯がダメになってしまう
名古屋帯や袋帯には、形を整えるための帯芯(おびしん)という芯地が入っています。帯はカンタンに言えば、中身のわたを取り出せないクッションや、綿入りマスコットのようなものなのです。
水洗いをしたり水を含ませると、この「帯芯」がものすごく水を吸って、型崩れを起こしてしまいます。
またベンジン等でお手入れをした場合でも、表地と裏地の収縮率が異なるため、芯地が剥がれるといったトラブルが起きやすいです。
カビやすい・黄変ジミができる
袋状に作られている帯は、水分を中に溜め込みやすいという特質を持っています。特に帯芯がある場合は内側の芯が乾ききりません。
シミ抜き後に残った水分は、「カビ」や「黄変」の原因となります。
帯にカビが生えるとカビ臭いいやなニオイの原因となるだけでなく、数年後には取れないシミ(カビのシミ、黄変シミ)となって表面にあらわれます。
溶剤で装飾がダメになる
帯は着物に比べて、繊細な刺繍や装飾が多かったり、染色が弱いものが多い傾向があります。織り糸に金糸・銀糸が含まれていたり、和紙素材を含んだ糸がこっそりと使われている…といったケースもたくさんあるのです。
「ベンジンならすぐに乾くから」と帯のシミ抜きにベンジンを使うと、このようなデリケートな装飾が縮んだり変色したり、刺繍の中の糸の一色だけが剥がしく色落ちして、他の糸を染めてしまうことがあります。
家庭ではアイロンがかけられない
着物に比べて繊細な作りである「帯」は、熱にも弱いです。そのためご家庭ではアイロンがけをすることができません。
着高温のアイロンをあてることで変色・色落ち等が起きてしまう可能性が高いのです。着物のように、シミ抜きをした後にアイロンで形を整えて…といったことがご家庭ではできないのです。
専門店でも元に戻せない
「自分でシミ抜きをしたけれど失敗してしまった…」当店ではこのような自己処理に失敗した着物の相談等もよく承ります。着物の状態・シミの種類等によっては、プロの技術で着物を元に戻せることもあります。
しかし「帯」については、自己処理で失敗したものを元に戻すことはほぼ無理です。例えばベンジンでの変質や、水で濡らしたことによる多大な色落ち等が起きた場合、プロの職人でも帯を戻せなくなってしまうのです。
帯のシミ抜きについては自己処理をした場合のリスクが非常に高いです。失敗した場合に専門店でも「代わりに直す」ということができません。そのため、帯についてだけは「できるだけ早く専門店でシミ抜きをしてほしい」というご案内になります。
帯がシミ抜きできないクリーニング店も?
さて「帯は早めにクリーニングでシミ抜きしよう」というご案内なのですが、どのお店でも帯のシミ抜きができるか?というと、そういうわけでもありません。
丸洗いだけでは汚れが落ちない
洋服を扱うクリーニング店で「和服クリーニングもできます」という場合、案内できるメニューが「丸洗い(着物丸洗い)だけ」ということも多いです。
この「丸洗い」とは、石油溶剤を使って特殊な洗濯機で機械洗いをする方法。付いたばかりの皮脂汚れやチリ・ホコリなどの汚れであれば落ちますが、次のようなシミは落とせません。
- 食べこぼし
- しっかりと付いた化粧品のシミ
- コーヒー・紅茶等の飲み物のシミ
- 脂肪分・油分が多いシミ
- 汗・水・雨等による水シミ 等
帯で「シミが気になる」という場合、ほとんどは水性のシミまたは油分・色素が多いシミであることでしょう。機械洗いのみで汚れを落としきるのは期待できません。
帯は対応NGの店が多い
洋服を扱う一般のクリーニング店(チェーン店舗等)の場合、そもそも帯のクリーニングを受け付けていないということも多いです。これはやはり、帯の扱いが難しいからでしょう。
帯の対応がメニューに無い店、「丸洗い」しか対応していない店に帯を預けることはおすすめできません。無理やり丸洗いをして「汚れは落ちませんでした、型崩れはしました」といった最悪の結果にもなりかねないからです。
「和装のシミ抜き」ができる着物に強い専門店へ!
帯についたシミ・汚れを取るには、次のような対応が必要になります。
「シミ抜き」や「カビ取り」等、着物向けの様々なメニューが揃っているお店を選ぶことが大切です。できれば着物を専門に扱うクリーニング店や、悉皆屋さん等を選んだ方が店舗も職人も着物に詳しいので安心度が高いですよ。
なお当店では、新しいシミはもちろん、帯についた古いシミのシミ抜き等についてもご相談を承っています。帯の状態によっては洗い張り(帯をほどいて反物の状態に戻し、職人が水洗いする方法)が必要となることもありますが、この方法のご案内も可能です。
宅配便による全国対応も承っていますので、お近くに和装専門のクリーニング店が無い時等はぜひご検討ください。
帯のシミは予防対策に力を入れましょう
「帯」は上でご案内したとおり、自分でのシミ抜き等のケアが行えない難しいアイテムです。着物全般がそう…とは言えるのですが、帯は特に「シミを作らない予防策」に力を入れることが大切と言えます。
食事のナフキンは帯までかける
着物でのお食事の時、膝にナフキンやハンカチを置く人は多いと思います。しかしできれば帯の上にまでナフキンをかけた方が、ハネ対策としては安心です。
手洗いのときは手ぬぐいを
トイレや洗面台での手洗いで水がハネ、水シミができるケースも多いです。水を使う場所では手ぬぐい・大きいハンカチ等で帯の前面を覆う習慣をつけましょう。
クリップを準備すると安心
ナフキンや手ぬぐいは帯揚げの上から押し込むようにして入れると安定しますが、クリップを使うと外れにくくて安心です。大きめの紙クリップ等でも良いですが、抑える力が優しいものを選ぶと、アトがつきにくくて安心ですよ。
おわりに
帯は着物に比べて、とても水分や湿気を含みやすいアイテムです。そのため汚れを付けたつもりは無いのに、帯にカビによるシミができてしまった…といったケースも多く見られます。
定期的に陰干しをして、帯に溜まっている水分や湿気を取り除いてあげましょう。また着用後にも、しっかりと陰干しをして湿気を飛ばしてあげることが大切です。