「久しぶりに出した着物、なんだか変な匂いがする…」こんなことってありませんか?ホコリっぽいような匂い、なにかが腐ったような匂い…そんな嫌な匂いがしていたら、それは着物がカビ臭い状態になっているのかもしれません。
また最近では「アンティーク着物を買ったらカビ臭い」「ネットで着物を買ったらカビの匂いがする」等、古い着物を購入した人からのカビの匂いについての悩みもよく聞かれるようになっています。カビ臭い着物って、どうしたら臭い取りができるんでしょうか?

着物がカビ臭い時に行う応急処置・消臭対策
着物の臭い取りには様々な方法がありますが、カビには向かない対策もあるので要注意です。ここでは着物のカビの匂いにも使用できる応急処置・消臭対策をまとめてみました。
1.表面のカビを取る
消臭対策をする前に、まずは表面にカビが浮いていないか確認しましょう。白っぽいフワフワとしたカビ(白カビ)の場合、表面に生えているものは意外とカンタンに落とすことができます。
【白カビ取りで準備するもの】
- 和装ハンガーや洗濯物干し
- 古い布(起毛した素材が理想的)
- マスク
- ビニール袋
- 作業用手袋(軍手など)
※作業は天気が良く、湿度の少ない日に行うのが理想的です。
※カビ取り作業は屋外で行うのが理想的です。
※室内で行う場合には必ずすべての窓を開けて換気します。
※室内で行う場合には、着物の下に要らない布や新聞紙等を敷いておきます。
【白カビ取りの方法】
- 作業前にマスクや手袋を装着しておきます。
- 和装ハンガー等に着物をかけて、直射日光があたらない場所に干します。
- 明るい場所で全体をよく見て、白カビが浮いている場所を確認します。
- 古い布地でカビ部分を軽く叩いて落とします。強くこするとカビを中に押し込んでしまうので気をつけましょう。
- 布や手袋にはカビ菌が付いているため、作業後にすみやかにビニール袋に入れて廃棄します。
2.陰干しで匂いを飛ばす
「陰干し(かげぼし)」とは、直射日光が当たらないところで着物を干すこと。カビ等の発生を防ぐ他、虫害(虫食い)を防ぐ働きもあるため、定期的に陰干しを行うことは「虫干し(むしぼし)」とも呼ばれます。カビ菌は湿気のある場所が大好きなので湿度が高いとどんどん増えて匂いがきつくなりますが、しっかりと乾燥させると増加が抑えられ、同時に嫌な匂いもある程度飛ばすことができます。
【屋外での陰干しの方法】
- 庭先・ベランダ・屋上等の、直射日光が当たらない場所を選びます。
- 和装ハンガー等に着物をかけて、形を整えて干します。
- 1日あたりは3~4時間以上は外気にさらし、日が暮れる前には取り込みます。(夜間は室内にかけておきます)
- 1.~3.を3日~1週間程度繰り替えします。
【屋内での陰干しの方法】
- 窓からの直射日光が当たらない、風通しの良い場所を選びます。
- 窓はすべて開けてよく換気します。(カビ菌が飛ぶ恐れがあるため)
- 和装ハンガー等に着物をかけて、形を整えて干します。
- 終日干した状態を一週間程度続けます。
※屋外・屋内共に、日光の当たる場所には絶対に着物を置かないでください。染色や素材によっては短時間でも色あせ・変色が起こることがあります。
※カビの発生状況・匂いの状態によっては、着物のカビ臭さを飛ばすために更に長い陰干し(1ヶ月程度)が必要となることもあります。陰干しは余裕を持って行うことが大切です。
3.扇風機をあてる
特に梅雨時等の湿度の高い季節には、自然風を使った陰干しだけではなかなかカビ臭さが取れないことがあります。そんな時には、よりしっかりと風を当てられる「扇風機」も陰干しに加えてみましょう。
【扇風機を使った方法】
- 前述した「屋内での陰干し方法」と干し方は同じです。換気を忘れずに行います。
- 着物の正面側から風が当たるように扇風機を設置してみます。
- 扇風機の風で着物が捲れたり、シワにならないかをよく確認しつつ、風量と設置場所を調節します。
- 一定期間風を当て続けたら、着物の前後を返して反対側からも風を通しましょう。
4.ドライヤーで匂いを飛ばす
「もっと急ぎで匂いを飛ばしたい」という時には、隅々にまで風を行き渡らせやすい「ドライヤー」が便利です。少々手間はかかりますが、時間が無い時の応急処置に向いています。
【ドライヤーを使った方法】
- 基本の干し方は上記の「屋内での陰干し方法」と同じです。必ず換気をします。
- ドライヤーを冷風設定にします。
- ドライヤーを着物から少し離して、全体にゆっくりと風をあてていきます。
- 着物を裏返して、同様に風をあてます。
- 匂いが目立たなくなるまで、3~4を繰り返します。
※ドライヤーの電源をONにした状態でその場を離れないでください。火災の原因となります。
5.お茶の葉でカビの匂いを取る
緑茶の葉(茶葉)に含まれるカテキンには、消臭・抗菌といった様々な効果があることで知られています。現代のように科学的な研究が進められる前からこのような消臭効果・防虫効果は知られており、昔の人々も着物の消臭に茶葉を使っていました。
【茶葉消臭で準備するもの】
- 茶葉(緑茶用の茶葉)
- フライパンか鍋
- 半紙かお茶パック(茶葉を包める複合繊維の袋)2~3個
- タトウ紙/文庫紙(着物や帯を包むための紙)
【茶葉を使った方法】
- フライパンに茶葉を適量入れて、そのまま火にかけて炒ります。
- 茶葉が茶色くカラカラになったら取り出します。
- 炒った茶葉を半紙で包みます。お茶パックに入れてもOKです。
- 着物を畳み、タトウ紙で包みます。
- タトウ紙の中に半紙(もしくはお茶パック)を入れて、タトウ紙で蓋をしておきます。
- 数日以上放置します。
6.置型消臭剤で消臭する
着物が好きな人の間で最近流行しているのが、台所用等の置型消臭剤を使った消臭方法です。
【準備するもの】
- 置型消臭剤(無香料タイプ)
- ゴミ袋
- 布テープ、クラフトテープ
【置型消臭剤を使った方法】
- 着物を畳んで、ゴミ袋に平らに入れます。
- 置型消臭剤をゴミ袋の端の方に置きます。着物の上に置いたり、着物に触れないように気をつけます。
- ゴミ袋に布テープ等で封をしておきます。
- 数日間放置してから匂いをチェックします。匂いが残っている場合には、更に時間を置きます。
※香料タイプは絶対に使わないでください。匂いが着物に移り、取れなくなります。
※着物と消臭剤が直接触れると、変色等が起こる恐れがあります。
※ゴミ袋は直射日光の当たらない場所に置きましょう。
着物のカビ臭い匂いは何故ガンコで取れにくい?4つの原因とは
上記でご紹介した着物のカビ臭さ対策について、「時間と手間がかかるなあ…」と思った人も多いはず。更に残念なことに、上記のカビ臭さ対策はどれも応急処置的な対策となっています。カビの匂いを永久的になくせるものではなく、放置すればまたカビ臭さが戻ってきてしまうのです。なぜ着物のカビ臭さは、自宅ではカンタンに消臭しきれないのでしょうか。
着物には消臭スプレーが使えない
洋服の消臭ではおなじみの「消臭スプレー」。ファブリーズ・リセッシュ・ハイジア等、銘柄もどんどん増えていますね。また消臭機能も向上し、帽子等の服飾小物やソファ等の家具類の消臭もできるようになっています。
ところが消臭スプレーは「着物」には使えません。これはスプレー消臭剤が「水」をベースとしているためです。着物や帯といった和装製品は水濡れに弱く、繊維の収縮・染めの変色・色落ち等が起きやすいことで知られています。
そのため消臭スプレー製品では、必ず「和装類には使わない」という注意書きが書かれているのです。この注意を見逃してしまい「消臭をしよう」と消臭スプレーをたくさんスプレーした結果、着物が輪染み(水性のシミ)になってしまった…というケースも珍しくありません。
スチームアイロンでの消臭効果が弱い
着物の匂い取りとしては、スチームアイロンも定番人気の対策となっていますね。ペットの臭い、タバコの臭い、香水の臭い等は、スチームアイロンを丁寧にかければおおよそ落とすことができると言ってよいでしょう。
しかしカビの臭いについては、スチームアイロンでは殆ど効果が得られません。それどころかスチーム(蒸気)に含まれる水分で、余計にカビが増えてしまうこともあります。
カビ菌が根深くて取り切れない
カビ菌(白カビ・青カビ等)は、どれも根を非常に深く張るのが特徴となっています。白カビ等は表面部はカンタンに落とすことができますが、繊維の奥にはまだまだ根が張っており、見えないところでカビ菌は生き続けています。いくら陰干しをして匂いを飛ばしても、保管中にカビ菌が増えてしまえば、カビの匂いが再度発生してしまいます。
アルコールを使った除菌ができない
カビの元となっているカビ菌類は、高熱や純度の高いアルコールを使えば殺菌できます。そのため「着物のカビ対策」として、「アルコール類(エタノール等)をスプレーすれば良い」と考える人も多いようです。
ところが家庭用として購入できる無水アルコール・エタノール等は、正絹着物等には使うことができません。染色によっては色落ち・変色等が起きてしまい、その着物が二度と着られなくなってしまうケースも珍しくないのです。
着物のカビ臭さが取れない時には専門店で「カビ取り」を
「どの応急処置をしても、全然カビ臭さが少なくならない」「結婚式には応急処置で間に合ったけど、やっぱりタンスから着物を出すたびにカビの匂いが気になる…」こんな時には、やはりクリーニングのプロの手を借りることをおすすめします。ただ、一般的なクリーニング店では「着物のカビ」には対処しきれないことも。着物をキレイな状態に戻すには、クリーニング業者選びも大切なのです。
「カビ取り」「カビ落とし」のコースがありますか?
「着物のクリーニングができる」といっても、「着物丸洗い(ドライクリーニング)」にしか対応していない店舗も多々あります。
ところが匂いの原因がカビの場合、丸洗いでは対処がしきれないことも。着物丸洗いではカビ菌を殺菌しきれず、再度カビの匂いが発生してしまうこともあるのです。
手作業でカビ取りを行う「カビ取り」「カビ落とし」「カビ落とし洗い」等のコースがあるか、事前に確認しておきましょう。
専門店なら変色対応や染料の色掛けもOK
悉皆屋(しっかいや)や和装クリーニングの専門店であれば、カビによる変色(黒いポツポツや褐色の変色等)や染料が落ちてしまったトラブルにも対処できます。「カビて臭い上に汚くなったから、もう着られない」と思っていた古い着物も、キレイに蘇らせることもできるのです。「カビたから、もう無理」と諦めてしまう前に、一度専門店に相談をしてみてはいかがでしょうか。
おわりに
着物に生えたカビは、自宅で根絶することができない厄介な存在です。中古着物・レトロ着物等を購入する場合には、匂いの状態を入念にチェックしてから購入することをおすすめします。特にネットで着物を買う時には、店舗の評判等を事前によく確認しておきましょう。
また保管中に着物がカビ臭くなってしまった場合には、クローゼットやタンスの中の換気や除湿剤の交換なども徹底して行うことが大切ですよ。