暑い中に、がんばって着物でオシャレしてお出かけ。こんな時には、帰ってきたら疲れた体をゆっくり癒やしたいところですよね。でも夏着物を着て帰ってきたら、まずは一番に着物のお手入れをすることが大切です!汗をかいた着物を放っておくと、汗ジミによる変色・カビ等の原因にもなってしまうんですよ。今回は汗を吸った着物のお手入れ・アフターケア方法について、4つのポイントをご紹介していきます。
目次
1.帰ってきたら「汗抜き」をしましょう
冬・春にお着物を着た場合には、帰宅後にいきなり「陰干し」をして水分を飛ばすだけでもOK。でも夏着物の場合、着ている間にかいた汗の量がかなり多いので、陰干しだけで済ませるのは不安です。
汗に含まれるタンパク質やミネラルが繊維に残って固まり、変色・カビの元ともなってしまいます。
まずは「汗抜き」で、繊維に残っている汗をできるだけ吸い取りましょう。
【用意するもの】
・スプレーボトル・霧吹き(できるだけ細かい霧が出るもの。水玉になってしまうようなものはNG)
・タオル2~3枚(柔らかいもの)
・水(水道水でOK)
【汗抜きのやり方】
- 1)スプレーボトルに水を入れておきます。
- 2)着物を和装ハンガーにかけるか、バスタオル等を敷いた上に広げます。
- 3)汗をよくかいた場所に水を裏側からスプレーしていきます。軽く湿る程度でOKです。
- 4)タオルでスプレーをした部分をトントンと軽く叩き、水分を吸い取ります。
→この後、必ず2.でご紹介する「陰干し」を行います。
【汗をかきやすい場所】
以下の部分には、丁寧に汗抜きを行うようにしましょう。
・ワキ(脇の下)
・背中の中心部(背骨のあたる部分)
・ウエストまわり(帯の下になる部分)
・襟元
・膝の裏側
・肘の裏側
・座っている時間が長い場合、腿の裏側
特に肘・膝の裏側等は意外とよく汗をかいているのですが、汗抜きの時には見落としてしまいがち。帰宅してすぐに和装ハンガーに着物をかけて、どこが汗濡れをしているかよくチェックしておくと良いでしょう。
・水スプレーのしすぎはNG!びっしょりと濡れさせると、生地によっては収縮・変質が起こります。
・濃色製品の場合、色落ちが起きることがあります。目立たない場所でテストをして激しい色落ちが起きないかを事前確認しましょう。また使用タオルは汚れても良いものを使ってください。
・金箔・銀箔等の箔押し部分には水をかけるのを避けましょう。
・刺繍がある部分には水スプレーをしないでください。糸の収縮等による刺繍の歪み、色落ちの原因になります。
なお汗汚れは時間を置けばおくほど汗の中のタンパク質等が固まりやすくなり、汗が抜けにくくなります。汗抜きはできれば帰宅直後に行うのが理想的。翌日~翌々日までも放置することがないように、早めにお手入れをするようにしましょう。
2.しっかりと「陰干し」をしましょう
自宅での軽い汗抜きをした後には、「陰干し」を行います。陰干しとは「干す」という字が入っている通り、着物を干して水分を飛ばすことを意味する言葉です。
陰干しをしなかったり、陰干しが不十分だったりすると、保管中に着物の生地にカビが生える原因になります。また誤った方法で干すと、着物が色あせしてしまうことも。
干す場所の選び方も大切になってきます。
陰干しのやり方
<<屋外の場合>>
1)物干し竿・和装ハンガー等に着物をかけて、形を整えます。
2)日光が直接あたらない場所を選んで干します。
3)汗抜きの後の陰干しの場合、半日程度は乾かし続けます。太陽が動き直射日光がさしそうになる場合には、干す場所を変えるか室内干しに切り替えます。
<<屋内の場合>>
1)和装ハンガーに着物をかけて、形を整えます。
2)窓から入る直射日光がささない場所を選び、着物を干します。
3)湿度が高い場合には、エアコンをかけて湿気を飛ばします。湿度が低い場合には、窓を開けて換気をするだけでもOKです。人が居ない場合でもエアコンはかけ続けてください。
4)室内での陰干しの場合には、丸一日程度干し続けてしっかりと湿気を飛ばします。
着物に直射日光が当たることは絶対に避けましょう。色味や染色によっては、わずか2~3時間の間で色が褪色(色あせ)をしてしまうことがあります。「室内だから大丈夫」ということはありません!窓ガラスを通した日光でも日焼け・褪色はしますので、必ず影になる場所を選ぶようにしてください。
3.半襟・長襦袢はすぐに洗いましょう
夏のお出かけで汗をしっかりかいた場合、半襟と長襦袢は相当に汗で汚れていることになります。「あとで片付けよう」と置いておくと、汗汚れが黄ばみ・黒ずみ等に変化してしまうことも。早め早めにお手入れをしておくことが大切です。
半襟(半衿)の洗い方
【用意するもの】
・洗濯用の中性洗剤
・柔軟剤かヘアリンス
・タオル
・アイロン、アイロン台
・ハンガー
【半衿を洗う手順】
1)長襦袢から半衿を外しておきます。
2)洗面器等に水をはって、中性洗剤を適量溶かしておきます。
3)半衿を2)の溶液に浸けて、優しく押し洗いします。
4)水をかえて、1回すすぎます。
5)洗面器にもう一度水を張って、柔軟剤かヘアリンスを適量溶かします。
6)半衿を5)の溶液に浸けます。
7)水をかえて、2回すすぎます。
8)タオルで半衿を挟んで、トントンと叩くように脱水します。(絞るのはNG!)
9)半衿が半分濡れている状態で、アイロンがけの準備をします。
10)半衿の生地を軽く引っ張るようにしながら、アイロンをかけていきます。
11)ハンガーに半衿をかけて形を整えます。
12)半日~1日以上陰干しをして、しっかりと乾かします。
以下のような素材は自宅で洗うことができません。無理に自宅で半衿の洗濯を行うと、箔が剥がれたり、生地が縮んでしまう恐れがあります。
・刺繍が行われているもの。特に金糸・銀糸のものはNG
・金箔・銀箔等の箔押しがされている半衿
・縮緬(ちりめん)の半衿
・レース織りになっている半衿
長襦袢の洗い方
【用意するもの】
・洗濯用の中性洗剤
・柔軟剤かヘアリンス(白以外の場合にはヘアリンスが理想的)
・洗濯用ネット
・アイロン、アイロン台
【長襦袢を洗う手順】
1)半衿は外して、長襦袢を畳んでおきます。
2)洗面器等に水を入れて、中性洗剤を適量溶かしておきます。
3)畳んでおいた長襦袢を浸けて、柔らかく押すように洗っていきます。
4)すすぎを1回行います。
5)洗面器等に水を入れて、柔軟剤かヘアリンスを適量溶かします。
6)長襦袢を5)の溶液に浸けて、全体に溶液を行き渡らせます。
7)すすぎを2回行います。
8)畳んだ状態で洗濯用ネットに入れて、洗濯機での脱水を30秒~1分程度(ごく軽く)行います。
9)アイロンを低温に温めておきます。
10)軽く脱水し、濡れている状態の長襦袢をアイロン台に広げます。
11)生地を引っ張って伸ばすように気をつけながら、アイロンを全体にかけていきます。
12)完全に乾かさず、半乾き程度に仕上げます。
13)和装ハンガーにかけて、形を整えます。
14)陰干しを1日程度行って、水分を完全に飛ばします。
・半衿は必ず外してから洗いましょう。
・正絹(シルク)の長襦袢の場合、大幅な収縮(縮み)、生地の変質が起こることがあります。
・シボのある素材の場合、かなりの縮みが起こります。
・今まで水洗いをしたことが無い長襦袢の場合、収縮が起こりやすいです。
・アイロンは必ず洗った直後の濡れている状態でかけましょう。水洗いによって縮んだ状態で乾燥してしまうと、縮みを元に戻すことができません。
・アイロンでの伸ばしが不十分だと、生地の縮みが戻りきらず、着物との寸法差が合わなくなることがあります。
不安な場合には専門のクリーニング店へ
半衿や長襦袢の洗濯では、アイロンがけにかなりの技術が必要とされます。また素材によっては洗えなかったり、激しく縮んでしまうものも。「この半衿、自分で洗って大丈夫なのかな」「長襦袢の素材がよくわからない…」「アイロンがけって苦手」等等、不安な点がある場合には、早めに和装小物を扱うクリーニング店に相談をしてみましょう。
和装専門のクリーニング店の場合、長襦袢から半衿を外さなくてもクリーニングOK!というお店も多いです。「アフターケアを手軽に済ませたい」という時には、専門店を頼ってみるのも手ですね。
4.着物クリーニングでは「汗抜き」「洗い張り」を!
夏場に何度も着た着物は、きちんとクリーニングをしてから保管したいもの。でも「着物クリーニング」と一口に言っても、その種類は様々で、内容にもかなりの違いがあります。中には「クリーニングに出したのに、汗の汚れが取れてない!」なんてこともあるんですよ。
「着物丸洗い」だけではダメ?
「着物のクリーニング」というと、「着物の丸洗い」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?ところが「丸洗い」だけでは、夏着物の汗汚れを落としきれないことがあるんです。
「着物丸洗い」はドライクリーニングと同じで、石油溶剤を使って着物を洗います。そのため油溶性の汚れ(ファンデーション汚れ、食べこぼし等の「脂汚れ」には)には強いのですが、「汗の汚れ」を落とすのはニガテなんです。
「着物丸洗い」で落としきれなかった汗汚れは、クローゼット等での保管中に徐々に酸化します。これが着物を黄色く変色させる「黄ばみ」の原因になるんです。
「ちゃんとクリーニングをしたはずなのに、着物が黄ばんだ」…これは汗汚れが分解できていなかったせいなんですね。
丁寧な「汗抜き」ができる業者を選びましょう
ではどうしたら汗汚れを落とすことができるんでしょうか?その答えが、プロの手による「汗抜き」です。丸洗いに加えて本格的な「汗抜き」のプロセスを行えば、汗に含まれるアンモニアや塩分等を繊維からきちんと落とすことができます。
クリーニング業者によって「汗抜き」のやり方は異なりますが、最近では高圧蒸気をかけて、繊維に染み込んでいる汗を弾き飛ばす方法が多いです。夏着物のクリーニングを依頼する時には、「汗抜き」のメニューがあるかどうかを必ず確認しましょう。
【どんな時に「汗抜き」を依頼すればいい?】
・夏のシーズンの終わりに
・背中・ワキ等の汗ジミが気になった時に
・留袖・訪問着等、今後しばらく着ない礼服をしまう前に
ひどい汚れの時には「洗い張り」がオススメ
上記でご紹介した「汗抜き」は、基本的に「ウエスト周り」や「ワキ」等の部分的な汗汚れを落とすのに向いたクリーニングの方法です。猛暑によって体中から汗がふきだし、ワキや背中だけでなく着物全体をびっしょりと汗まみれにしてしまった…という場合、汗抜きだけでは対応しきれない可能性があります。
このような全面的な汗汚れに対しては、「洗い張り」を行った方が安心です。「洗い張り」とは着物をほどいて反物の状態に戻し、水と専用の洗剤で丁寧に洗うクリーニング方法のこと。料金も時間もかかるのが難点ですが、全体の汚れがしっかりと落ちますし、新たに糊を引き直すので着物が新品のように蘇るのも魅力です。
【どんな時に「洗い張り」を依頼すればいい?】
・着物の全体を汗ビッショリに汚してしまった時に
・汗汚れ以外の食べこぼし汚れ、泥汚れ等がたくさん付いている時に
・着物のサイズ変更をしたい時に 等
なお「洗い張り」ができる業者はかなり限られます。洗張屋(あらいはりや)もしくは悉皆屋(しっかいや)、またはそれらの業者で技術を学んだ和装クリーニング専門業者等でないと、洗張りを行うことはできません。「汗抜き」で大丈夫なのか、「洗い張り」をした方が良いのかわからない…そんな時には、「洗張り」と「汗抜き」の両方ができる業者に相談をしてみることをおすすめします。
おわりに
汗の汚れは、濡れた部分が乾いてしまうと「シミ」があまり気にならないもの。そこが「食べこぼし汚れ」等とは違うところです。そのため多くの人が汗汚れをきちんと落とさずに着物を保管してしまいがちです。
しかし汗汚れを放置して着物を保管すると、その着物は半年後・一年後に「黄ばんだ着物」になってしまいます。一度黄ばんでしまった着物は、専門の業者でも元に戻すことが難しくなってしまうんです。
大切な着物を長く着るためにも、汗をかいた後のお手入れが大切!「これくらいなら…」と軽く見ないで、早め早めに夏着物の丁寧なアフターケアをするようにしましょう。