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浴衣と夏着物の違いとは?見分けるポイントやTPOについて

21世紀に入り、昔ながらの「和の文化」が注目されるようになった日本。着物や浴衣といった和装スタイルに挑戦をされる人も増えました。中でも浴衣(ゆかた)は価格帯がリーズナブルな商品も多く、着付けも比較的カンタン。そのため、花火大会・夏祭り等に浴衣にチャレンジする…という方が多いようです。

ただ日常的に着物に親しむ人が少ない現代日本では、「浴衣とその他の着物の違いがわからない」という疑問の声が聴かれるようになっています。浴衣と着物って何が違うんでしょう?今回は着物初心者さん向けに、浴衣と夏着物の違いをできるだけわかりやすくご紹介していきます。

「着物」と「浴衣」の違いって何?

まずは着物と浴衣の違いについて、その種類や成り立ちを知っておきましょう。

着物の成り立ちと種類

着物は平安時代の「小袖(こそで)」等が発展して生まれた衣類です。ウエスト部分を重ねるようにして着る「おはしょり」を作る女性用の着物と、おはしょりを作らず「対丈(ついたけ)で着る男性用の着物があります。室町時代・戦国時代・江戸時代・明治大正…と時代を経る中で、用途にあった様々な着物が生まれるようになりました。女性用の着物の場合、現代では以下のような種類があり、TPOに合わせた使い分けがされています。

着物の格による分類

【礼装(フォーマル用)】
・留袖(とめそで)
・振袖(ふりそで)

【セミフォーマル~オシャレ着】
・訪問着
・付下げ(つけさげ)
・色無地(いろむじ)

【普段着】
・小紋(こもん)
・紬(つむぎ)

また着物にも洋服と同じように、夏物や冬物といったシーズンによる種類分けがあります。

季節で違う着物の種類

【袷(あわせ)】
胴裏(どううら)という裏地が付いており、空気を含んで暖かく着られる着物です。秋~冬、翌春にかけて、3シーズン程度着られます。

【単衣(ひとえ)】
胴裏の無いタイプの着物です。一枚仕立てなので袷よりは軽く涼しいのが特徴。初夏・秋のはじめといった、季節の変わり目に着用します。

【夏着物(なつきもの)】
風を通しやすい素材や織り方で作られた、盛夏用の着物です。7月・8月の特に暑い時期に着用します。

浴衣の成り立ちと歴史

浴衣は「浴」という名前がつくとおり、元々は湯上がりのバスローブのように使うものとして生まれました。平安時代には貴族が湯浴み(ゆあみ)の後に浴衣を使っていたという記録が残されています。その後には徐々に庶民も浴衣の文化が広まり、「寝間着(ナイトウェア)」や「家着(ホームウェア)」として使われるようになりました。現代でいうと、浴「浴衣はパジャマ代わりのTシャツ」「浴衣はコンビニくらいになら着ていけるジャージ」といった感覚だったと思うと、着物との違いがわかりやすいのではないでしょうか?

和装が日常的だった時代の「夏祭りや花火に浴衣姿」というのは、今で言えば「Tシャツ+短パン+ビーチサンダル」といった、家の近所向けのリラックスしたスタイルだったんですね。温泉旅館等に泊まった時に、お風呂上がりの時や寝間着として浴衣を着たことがある…という方も多いことでしょう。あの「浴衣」こそが、元々の浴衣の在り方だったわけです。

現代の「浴衣」の変化

1990年台~2000年代頃から「夏の花火などのレジャーに浴衣を着る」というオシャレが注目され、ふだん和装をしない若者達が浴衣を再度着るようになりました。また花火大会・夏祭り等の夏の遊びについて「家の近所で遊ぶ」という感覚から「遠くの街の有名な花火大会を見に行く」という考え方が根付いてきたのもこの頃です。

つまり浴衣姿は日常的なものではなく、「特別な時の特別なオシャレ」として考えられるようになったわけですね。現代では「浴衣」はリラックススタイルのものではなく、「街着(オシャレ着)」として考えられることが増えてきました。着物風に着付けを行ったり、華やかな着付けをするスタイルも珍しくなくなっています。

浴衣には種類がある?

浴衣には着物のような多彩な種類分けといったものはありません。ただ現代の浴衣文化の変化で考えると、以下のような区別は付けておいた方が良いかと思われます。

  • オシャレ着としての浴衣:デパートや呉服店等で取り扱う街着としての浴衣。様々な色合い・柄があります。着物風の着こなしをするスタイルも増えています。
  • 寝間着・部屋着としての浴衣:ご高齢の方、和装生活を好む方からは、現在も寝巻き用としての浴衣の需要があります。寝巻き向けの浴衣は、白地に紺の柄といったシンプルなものが多いですね。
  • 高級浴衣:浴衣としても着物としても着られる特別な浴衣です。綿紅梅(めんこうばい)・綿絽(めんろ)・綿縮(めんちぢみ)、綿絞り(めんしぼり)、麻縮(あさちぢみ)等、元々は絹で作られる織りの方法を麻・綿で作った生地で仕立てられています。高級浴衣は反物で売ることが多く、お仕立て上がり(既成品)での販売はほとんどありません。

 

浴衣と夏着物を見分けるポイント

浴衣も着物も、その形には差がほとんどありません。そのため初めて和装に触れるだと、「着物と浴衣ってどこが違うんだろう」と迷ってしまうこともあることでしょう。ここでは一般的な「浴衣と夏着物の差」についてご紹介していきます。

長襦袢を着てる?

「着物」では、中に着て裾・袖からチラ見せするインナー「長襦袢(ながじゅばん)」の存在は必須です。「長襦袢だと暑いなあ」という時に、簡略化した「うそつき襦袢」で代用をすることはありますが、うそつき襦袢でも「長襦袢を着ている風」に見せかけてはいます。つまり「袖口(そでぐち)」や「裾(すそ)」から襦袢が重なっているところが見えれば「着物」というわけですね。

対して浴衣の場合、長襦袢は着ません。浴衣は成り立ちが「ホームウェア」「湯上がり着」なので、見せインナーを重ねるということが無いんです。現代では汗対策のため等に「浴衣用のスリップ」等を中に着ることはありますが、襦袢を重ねることはありません。

半衿では見分けにくい?

「浴衣と着物の見分け」について、かつては「胸元を見れば一発でわかる!」と言えるものでした。着物は長襦袢に「半襟(はんえり)」という飾り襟を付けます。この半襟は衿元から必ず見えるもの。対して浴衣では長襦袢や半襟等は使いませんかあら、その差は歴然…というわけだったのです。

ところが最近では、浴衣の中に敢えて半衿を付ける「着物風」の着こなしが人気となっています。浴衣の中に着る半襦袢風のレースTシャツ等も販売されるようになり、襦袢を着なくても「半衿を付けたように見えるコーディネート」がカンタンに作れるようになったのです。

特に初めて和装に挑戦する方の場合、半衿を手がかりにすると「浴衣」と「着物」の見分けが付きにくい…ということが多いかもしれません。袖口・裾あたりをご覧になれば長襦袢の有無はすぐにわかりますので、そちらで見分けをした方がわかりやすいのではないでしょうか。

合わせている帯は?

着物の場合、コーディネートをする帯の種類は多彩です。礼装等のフォーマルな着物には「袋帯(ふくろおび)」等を合わせるのが一般的。その他には名古屋帯(なごやおび)・半幅帯(はんはばおび)等があります。着物の場合、帯をした上からは「帯締め(おびじめ)」という飾りの紐を更に巻き、帯の内側上部にチラリと「帯揚げ(おびあげ)」というアクセントになる布も巻きます。

浴衣の場合、しっかりとした袋帯をあわせることはほぼありません。重たく豪華な帯を合わせると、浴衣とのバランスが取れないからです。軽めの兵児帯(へこおび)、もしくはカジュアルな雰囲気の半幅帯を使用します。浴衣のコーディネートでは、基本的には帯揚げ・帯締めといった帯のアクセサリー類は使用しません。ただ最近では、名古屋帯にレース風の帯揚げをフンワリと重ねるといった、着物風のコーディネートの提案も増えています。

足元は何を履いてる?

着物の場合、留袖等の「礼装(フォーマル)」に合わせる足元は「白足袋(しろたび)」一択です。結婚式や式典といったあらたまった場所の場合には、白以外の足袋類は履けないわけですね。洋服で言うと、肌色もしくは黒のストッキングでなくてはダメで、タイツはマナー違反…といったところでしょうか?またフォーマルの履物(靴)としては、金糸・銀糸等が使われている草履(ぞうり)を履きます。

くだけたパーティーや観劇といったオシャレ着として着物を着る場合ですと、白以外の色足袋を履くこともOK。またカジュアルに着物を楽しむ方の中には、レース足袋等を合わせる方も多いです。履物としては、エナメル製等の草履を合わせます。

浴衣の場合、基本は「裸足(はだし)」です。原則としては足袋類は履きません。ただ最近では、レースや色柄の足袋ソックスを合わせるといったコーディネートをする方も増えています。履物は木製等の「下駄(げた)」です。草履がヒールのある華奢なパンプスのようなもので、下駄がスニーカーやカジュアルなサンダルのような扱いであると考えると、足元の違いがわかりやすいのではないでしょうか。

透け感がある?

夏着物では、着物を涼しげに見せるために「絽(ろ)」や「紗(しゃ)」といった透け感のある織り方の生地が使われることが多いです。今でいうと「シースルー」ですね。そのため中に着ている長襦袢が透けて見えます。このような着方であれば、「夏着物」であることがすぐに分かります。畳んだ状態等の場合には、手を少しだけ裏に入れてみて、透け感をチェック。「ストライプのように透けている」「ネットのように手が透けて見える」ということであれば夏着物と考えて良いでしょう。

対して浴衣の場合には、「透け感」がある素材を使うことはありません。浴衣は「長襦袢等のインナー無し」で着ることが基本。透け感があると、体が全部スケスケに見えて困ってしまうんです。最近では汗対策の涼感インナー等を中に着る方も増えていますが、浴衣は夏着物のように「中のインナーを見せる」という考え方では作られていません。特に現代のオシャレ着としての浴衣の場合、ハリのある織りの生地が選ばれることが増えています。

 

浴衣でパーティーはダメ?知っておきたい浴衣のTPO

前述のとおり、浴衣は元々「寝間着」「部屋着」という扱いだったものです。そのためかつては「浴衣で公共機関に乗るのはNG」「浴衣で飲食店に入るのはNG」といった考え方がありました。部屋着用のジャージで街に出るのって、勇気が要りますよね。「浴衣=ワンマイルウェア(近所用の服)」として考えると、「浴衣で電車に乗るのはちょっと…」と考える世代の方の気持ちも伝わるのではないでしょうか。

ただ近年では「浴衣=オシャレな街着」という考え方が浸透し、浴衣での行動半径もグッと広がりを見せるようになりました。

【浴衣がOKなシーン】
・友達同士での買い物(ショッピングモール等)
・動物園・遊園地などでのデート
・カジュアルなカフェでお茶をする
・居酒屋で飲み会をする 等

上記のような「洋服の場合、カジュアルな服を着ていってもOKなシーン」であれば、ほぼ浴衣でお出かけをしてもOKと考えて良いでしょう。ただ以下のようなフォーマルなシーンについては、浴衣で出かけることはできません。

【浴衣がNGなシーン】
・結婚式(二次会を含む)
・入学式、入園式等の式典関係
・ドレスコードのあるレストラン
・あらたまったパーティー 等

 

いくら「着物風」の着付けをしても、浴衣が「カジュアルな装い」であることには変わりはありません。フォーマル・セミフォーマルな場所では、浴衣を着られないのです。前述した「着物の格」の項目で、「普段着としての着物」があることはご紹介しましたね。普段着の着物も結婚式のようなフォーマル・セミフォーマルなシーンには着ることができませんが、浴衣の格は更に「その下」なのです。結婚式の場に浴衣を着ると、みんながフォーマルなワンピースやスーツを着ている時に、一人だけジャージやハーフパンツを履いてきた人がいる…というような違和感があるわけですね。

「出かける場所がセミフォーマルなのか、カジュアルなのかが判断が付かない…」と思った時には、洋服でのTPOで考えてみると良いでしょう。

【洋服で考えてみると】
・きちんとしたヒールの靴を履いた方が良さそう→セミフォーマル以上
・ストッキングを履いた方が良さそう→フォーマル、ビジネスフォーマル
・スニーカーでも大丈夫→カジュアル
・ジーンズを履くのはNG→セミフォーマル以上
・男性のTシャツがNG→セミフォーマル以上
・男性がハーフパンツでもOK→カジュアル
・ビーチサンダルでもOK→カジュアル

あらたまった観劇やパーティー等のセミフォマールな場に和装をしたいという場合には、夏着物を涼やかに着た方がTPOにかなっています。また結婚式等のフォーマルの場合には、通年用の留袖・振袖等を着ても大丈夫ですよ。

 

おわりに

浴衣と夏着物について、そのTPOや格の違いが伝わったでしょうか?着ていく場所等には違いがある夏着物と浴衣ですが、7月・8月の盛夏にピッタリの服装という点は同じですね。夏らしさを感じさせる柄の浴衣や夏着物で、涼し気なオシャレを楽しんでみましょう!

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吉原ひとし


着物ケア診断士 吉原ひとし


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