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着物と呉服って違いがある?意外と知らない着物用語の基礎知識

「来年は成人式だから、下見に着物屋さんに行こうかな」「え?振袖を買いに行くなら呉服屋さんでしょ?」--こんな会話をしている人、意外と多いかもしれませんね。着物を扱うのは着物屋さんなのか、それとも呉服屋さんなのか、どちらが正解なのでしょう。

そもそも着物と呉服という用語に違いはあるのでしょうか?着物を普段からお召しになっている人でも、このような点は「よくわからない」と悩むようです。今回は「着物」と「呉服」という言葉の違いについて、詳しく解説していきます。

 

着物とは?言葉の歴史や意味

「着物(きもの)」という言葉は、大きく分けて3つの意味で使われています。

1.「衣類全般」を指す言葉

着物(きもの)とは、元々「身につけるもの全般」「着ているものの全般」を指す意味の言葉として扱われてきました。江戸時代が終わる頃までの日本人は全員が「和装」をしていたわけですが、当時は「和装」なんて言葉や概念はありません。そもそも「洋」の服が無いのですから、とにかく着ているもののすべては「キモノ」だったんですね。

そのため現在でも、「洋服を含めた衣類全般」を「着物」と呼ぶことがあります。例えばお風呂屋さんの脱衣所で「着物はこちらで脱いでください」「着物はこちらの乱れかごに入れてください」などと張り紙がしてあるのは、このような「衣類全般」を指す意味です。

2.「和服全般」を指す言葉

江戸時代の終わり頃から明治時代となると、「洋服」という文化が日本に入り込んできます。当初は特別な日に着るためのもの、上流の人が着るものだった「洋服」は、明治末期・大正・昭和と時代を経るにつれてどんどん庶民にも伝わり、日常的な服へと変化していきました。

そんな中で、昔から着ていた服(和服)は昔通りの呼び方である「着物」、新たな服は「洋服」と区別をする考え方が根付いていったのです。

現在でも「和装・和服」を括る大雑把な言葉として「着物」という言葉が使われています。この場合の「和装」とは、例えば以下のようなものです。

・振袖や留袖等の礼服
・浴衣(ゆかた)
・作務衣や甚平
・羽織
・袴
・舞台装束 等

日本古来から着ているものはまとめて「キモノ」と呼ぶという考え方ですね。

3.浴衣や作務衣以外の「外出着向けの和装」を指す言葉

より細かく分類をする場合には。「着物」は以下のような和装を指す言葉として使われることが多いです。

【「着物」の範疇に入るもの】
・留袖
・振袖
・訪問着
・色無地
・小紋
・男着物 等

対して、以下のような種類は「着物」とは区別されます。

【「着物以外」とされるもの】
・浴衣
・甚平
・作務衣 等

なぜ浴衣は着物とは違うのか?というと、元々は浴衣は「家の中で着るもの(パジャマやホームウェア)」であり、現在のような「おしゃれ着・外出着」ではなかったからなんですね。

現在の浴衣は外出を考慮したしっかりとした作りになっていますが、それでも「着物」が下に長襦袢を着るのに対して浴衣は一枚で着るのが基本ですし、夏以外の季節に浴衣を外出着として着ることはありません。このような意味で、「きものと浴衣は別」という考え方は現在も根強く残っています。

また同様に、甚平や作務衣等も元々、オフィシャルに着る外出着ではなく、着物の範疇外とされることが多いです。そのため現在でも「着物を着た方向けのサービス」等で、甚平や作務衣は除外とされるケースは多々見られます。

 

呉服とは?言葉の歴史や意味

では今度は、「呉服(ごふく)」の意味を見ていきましょう。

1.絹織物・正絹着物の総称として

呉服とは、古代中国の王朝「呉(ご)」から伝わった服という意味の言葉です。とは言え、服のデザインが中国風というわけではありません。呉から伝わったのは、素材や繊維の織り方です。

呉(中国)からやってきた織り方(綾織・くれはとり)を使った生地とは、現在でいうシルク(正絹)の織物のこと。そのため「呉服」には「絹織物」ならびに「絹織物で作られた着物(正絹着物)」を指す意味合いが生まれました。

絹は当時から貴重な原料であり、正絹の反物や着物は「高級な衣類」の扱いでした。対して庶民にも買える一般的な素材だったのが「木綿」や「麻」です。昔は木綿や麻で作られた織物(反物)は「太物(ふともの)」と呼ばれていました。

つまり昔は「太物屋」が日常的な着物を作るための反物屋で、「呉服屋」が高級衣類を作るための反物屋だったわけですね。

2.反物・織物全般の総称として

太物屋・呉服屋という分類があった頃から時代が過ぎて、徐々に反物を扱う店舗にも「大手」が生まれるようになります。すると太物も呉服も一手に扱う「太物呉服屋」が誕生するようになりました。

庶民的なものも高級なものも扱うのであれば、どちらかというと高級な製品の名前のを使った方がイメージが良いですよね。そのため徐々に、木綿・麻・絹といった素材にかかわらず、反物類全般を扱うお店は「呉服屋」と呼ばれるようになっていきました。

3.和装全般を意味する言葉として

昔の日本では衣類は反物(生地・織物)の状態で販売し、仕立ては別というのが一般的な売り方・買い方でした。消費者は生地を買ってきて自分で着物を縫うか、仕立て屋さんに着物を縫ってもらっていたのです。

現在でも高級な着物(振袖や留袖等)では、このような販売方法が主流となっています。しかし時代が変わるにつれて、着物も「お仕立て上がり(今で言う既成品)」の需要が出てきました。そのため呉服屋さんが「反物」だけでなく、「仕立てた着物」も扱うことが増えたのです。

更に、昔は「足袋は足袋屋」「帯は帯屋」「扇子は扇子屋」「草履は履物屋」といった具合で、小物類にもそれぞれ専門店がありました。呉服屋さんは「反物と仕立てた着物」だけを扱えば良かったんですね。

ところが和服を着る人が減ったことで、足袋屋等の専門店はどんどん姿を消していきます。帯や足袋に肌着に草履…と、和装についての様々な品物を一手に扱う総合的な店舗となった呉服屋が増えていったのです。

そのため現在では「呉服=和装全般」「呉服屋=和装全般を取り扱う店」という意味合いが強くなっています。

 

現代の「着物と呉服」

上記のような言葉の成り立ちから、昭和時代頃までは「着物を売る店」と言えば「呉服屋」と呼ばれるのが一般的でした。しかし平成に入ると「呉服」という言葉に馴染みの無い人も増え、徐々に「着物の××」「着物屋」という名称を使う店舗が出てきました。そのため現在の和装関連の店舗名称については、以下のような傾向が見られると言われています。

● 呉服店・呉服屋 → 比較的昔から営業を続けている老舗店舗が多い。反物から仕立て上げるスタイルを主力とするか、反物からの注文を受ける。正絹・麻・木綿着物から浴衣まで、取り扱いが幅広い傾向が見られる。

● 着物店・着物屋 → 比較的新しく誕生した店舗・リニューアルしたブランドが多い。お仕立て上がり(既成品)のみの店舗やアンティーク着物専門店等、反物を扱わない店舗も見られる。若者層を対象とした店舗が比較的多い。化繊や木綿等、カジュアルな着物や普段着きものの扱いに強い店舗が比較的多い。

とは言え上記はあくまでも「傾向」であり、必ずしも着物店=若い人向けとは限りません。「着物」も「呉服」も和装全般を意味する言葉としては同じであり、「着物店」「呉服店」の定義が明確に定められているわけではないのです。

京都で大昔から営業をしている「着物屋」もあれば、最近できたばかりのネット上の「呉服屋」もあります。「反物」といった和装文化を知らない人が増えている分、着物と呉服の差は今後更に曖昧になっていくことでしょう。

 

おわりに

「着物」と「呉服」、その言葉の違いはいかがだったでしょうか?なんとなく使っていた「呉服」という言葉に高級品の意味があり、驚いている人も居るかもしれませんね。

着物ブームによって多くの人がキモノに興味を持つようになりましたが、和装にまつわる言葉や歴史に興味を持つ人も増加しているようです。着物を着るだけでなく関連性のある文化に親しむことで、より一層キモノを楽しんでいただけたら嬉しいですね。

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吉原ひとし


着物ケア診断士 吉原ひとし


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