お子さんの成長を祝う大切な行事である七五三。「晴れ着はどれにしよう」「着物はレンタルしようか、買おうか…」等等、七五三の着物について悩んでいる親御さんも多いようです。でも「お詣り」そのものについての事前準備は大丈夫ですか?中には、着物の準備はしていても「あれ?お参りはどこに行くの?」と直前になって慌てる…といったケースもあるようです。
「七五三って神社に行くんじゃないの?お寺なの?」「お詣りってどうやるのが正式?」初めての七五三イベントでは、わからないことが色々ありますよね。
七五三は神社でするもの?お寺でするもの?
七五三の歴史とは
七五三はとても長い歴史を持つ行事で、その発祥には諸説があります。発祥説の一つは室町時代からのもの。現代とは異なり幼少期に亡くなる子供が多かった当時、子供の親や家族達は「3・5・7才になるまで元気で育ったことに対する感謝」そして「今後も無事成長できることへの祈り」のため、近隣の神社(氏神様)にお参りに行きました。これが七五三の始まりと言われています。
また七五三が旧暦11月に行われるようになった理由についても、いくつかの説があります。ひとつは旧暦11月が「収穫祭(新嘗祭・にいなめさい等)」の時期であったというもの。稲(米)等が取れたことに対する感謝を神様に申し述べるのと同時に、子供の無事な成長についての感謝も行い、加護を祈る…という考え方があったのですね。また別説では、江戸時代に徳川5代将軍綱吉公の息子である徳松様の健康を祈る儀式を11月に行ったことから、七五三が11月に定着したとも言われています。
いずれにしても、元々は子供の守り神ともなる自宅近くの神社(氏神様・産土神様)に旧暦11月(頃)に参拝をする行事として「七五三」が定着したのです。
「成長を感謝する場」であることが大切
上記の発祥説から、七五三は「神社」で行うことが一般的であると考えられています。しかし必ずしも「神社のみ」が七五三を行う場所とは決まってはいません。「お寺」でも、七五三の参拝ができるところは数多くあるのです。日本の仏教の考え方では、「先祖代々の祖先達の霊が子孫を守る存在である」とされています。お寺の七五三では、仏様に子供の無事を感謝すると共に、ご先祖にも子供の健やかな成長をお願いするのですね。
「この年齢になるまで元気に育ったことを感謝する」「そしてこれからも元気に、健やかに成長することを祈る」…七五三に対する両親や祖父母といった家族の祈りの形は、神社でもお寺でも基本的には同じと言えるでしょう。つまり神社でも、お寺でも、お子様のご両親やご家族が「子どものことを祈りたい」と考えられる場であれば、それが正解なのです。
この他、お身内にご不幸があった場合、忌中のうちには神社には入れない…ということで、その期間に七五三があたる場合には「お寺での七五三」を選ぶという方も居ます。
七五三参り(七五三詣で)の選び方と注意点
上記のとおり、現代の日本では神社だけでなくお寺でも七五三の参拝に対応するところが多いです。ただその分だけ「選択肢が増えて、どの神社(お寺)を選べばよいのかわからない!」と頭を悩ませてしまうご家族が少なくありません。七五三詣り先を選ぶ時には、どんなところに注意をしたらよいのでしょうか。選び方のポイントをご紹介していきましょう。
神社では氏神様/産土神様が基本
日本の神道では、「生まれた土地の氏神様」のことを「産土神(うぶすながみ)」と呼び、この神様が子ども守る存在であると考えられてきました。そのため原則としては、お子様が生まれ、育った場所であるご自宅の周辺の神社やお寺に参拝をするというのが大きな選択の要素となります。
ただ最近では、神社によっては「神主が常駐しない」というところもありますし、祈祷の日取りや時間に制限がある神社も珍しくなくなっています。ご自宅のお近くの神社に目処をつけたら、早めに七五三詣りについて確認をしておいた方が良いでしょう。
有名な神社・大きなお寺を選ぶメリット・デメリット
氏神様・産土神様等にこだわらず、近隣等の有名な神社・大きなお寺を選ぶという方も多いです。大規模な神社やお寺の場合、施設側が七五三詣での様々な手続きに慣れており、行事が比較的スムーズに進められるという点が大きな利点となっています。
また駐車場・トイレ等の施設の設備が整っている点もメリットですね。特に七五三では慣れない和装でのトイレに戸惑うケースが多いです。トイレが広々としていることの多い大規模な神社・寺院の方が助かる方は少なくないでしょう。
ただ反対に、有名神社・寺院ほど七五三の時期の予約が混み合ういがち。ご希望の日にちで予約が取れなかったり、神社・寺院によっては予約をしていても待合室での待ち時間が意外と長い…というところもあるようです。
ご家族に縁がある場所ですか?
いくら有名で名高い寺院や神社を選んでも、その立地がご家族のどなたにも縁がない場所なのは考えもの。その神社仏閣とのご縁は「七五三で行ったっきり」ということになってしまいますよね。それよりは、ご自宅やご実家等、ご家族のどなたかにはご縁がある場所の方が、ご家族の皆様の思い出にも残りやすいはず。また後々にも何かのきっかけで訪れ、七五三を懐かしむ場所となりやすいのではないでしょうか。
お子さまやご家族に負担の無い距離ですか?
七五三のお祝いでは、お子さまが慣れない和装で体力を使い、お疲れになるケースも多々見られます。特にお子さまに弟妹がいるご家族の場合、更に小さな赤ちゃん・幼児がご同行することになります。
ご自宅やご実家から移動に時間がかかる場所、特に自動車移動・公共機関での移動が多い場所等は、あまりおすすめができません。
寺院・神社に到着してからの祈祷中等にお子さまが疲れてしまうと、祈祷への参加が続行できないようなことにもなります。お祖父様・お祖母様も含め、ご家族皆様の体力的な不安の無い距離感の神社仏閣を選ばれた方が良いでしょう。
ご参拝の皆さまのお考えを確認していますか?
七五三はお子さま御本人とご両親だけでなく、お子さまの両方のお祖父様・お祖母様達(お母様・お父様たちのご両親)にとっても大切なイベントです。ご両親や義両親の世代の方の場合、昔のしきたりに従って「七五三は神社に行くもの」「七五三は氏神様に詣るもの」が常識とお考えの方も少なくありません。
特にご両親が幼い頃に行われた七五三とは異なる神社・寺院をお選びになる場合には、事前におじい様・おばあさまにもご連絡をして、納得をしていただいた方が安心です。七五三については、お住まいの地方にもよっても考え方が大きく異なります。
両方のお祖父様・お祖母様、そしてご両親、ご親戚といった参加者の皆さまが気持ちよく参拝できるよう、よく相談をしておきましょう。
神社とお寺では七五三の作法も違うことに注意!
同じ「七五三」でも、神道の「神社」と仏教の「お寺」では作法が異なります。当日になって慌てることが無いよう、基本の作法を確認しておくと安心です。
神社での作法は?
●鳥居(とりい)の前では一揖(いちゆう)を
神社の鳥居を何もせずにくぐるのはNG。服装を整えて、両手を胸の前で組み合わせるようにして背筋を伸ばし、一礼をしてから入ります。(帽子等はここで取ります)これを「一揖(いちゆう)」と言います。
大きな神社で一の鳥居、二ノ鳥居…とある場合にも、できれば正面玄関である一の鳥居からキチンと一揖してから入ることが正式です。
●鳥居から先は静かに歩く
鳥居をくぐったら、そこから先は神様のエリアです。はしゃがずに静かに気持ちで歩きます。神社の道(参道)の真ん中は「正中(せいちゅう)」と言い、神様の通り道。ですから道の中心は避け、少し端を歩くようにします。
●手を清める
手水舎(ちょうずや)で手と口を清めます。
- 右手に柄杓(ひしゃく)を持ち、水をすくいます。
- 左手に水をかけます。
- 柄杓をもちかえて、右手に水をかけます。
- 再度右手に柄杓を持って、左手の手のひらを丸め、水をてのひらで受けます。
- てのひらの水で口をすすぎます。
- 柄杓の柄の部分を下に向けて立て、水を垂らして柄の部分を洗い、元に戻します。
●参拝方法
一般的な神社での参拝方法は以下のとおりです。
- 服装を整えて背筋を伸ばし、軽く一礼(一揖)します。
- 鈴・銅鑼がある場合には慣らします。鈴の音によって神様を呼ぶのです。
- お賽銭を入れる場合には、ここでお賽銭を静かに入れます。
- 二礼二拍手一礼を行います。神社に向かい深いお辞儀を2回→大きな拍手を二回→最後に深く1回の礼(深いお辞儀)をします。お寺とは異なり、手を合わせての参拝はしません。
- 丁寧な作法では、最後にもう一揖(軽いお辞儀)をして、参拝を終了します。
※拝殿に上がり正式に参拝を受ける「昇殿参拝」の場合、祈祷内容や神社によってその作法が大きく異なります。各神社の禰宜さん・巫女さん等の指示に従ってください。
お寺での作法は?
●山門で一礼する
お寺では、神社での「鳥居」と同じように「山門(さんもん)」の前で礼を行います。この時には、両手を合わせた「合掌(がっしょう)」をしながら一礼をする宗派が多いです。また敷居(しきい)が高く作られている山門も多いですが、この敷居を踏んでしまうのは絶対にNG!敷居は踏まずに、男性の場合には左足から、女性の場合は右足からまたぐようにして入ります。
●手水(ちょうず)で手を清める
手水で手と口を清めるのは、神社もお寺も同じです。作法も基本的に同じと考えてOKです。
●参拝方法
一般的なお寺での参拝方法は以下のとおりです。
- 常香炉(じょうこうろ:煙を浴びることで心身を清めると言われる大きな香炉のこと。本堂の手前にある)がある場合には、頭や体等に煙を浴びて、体を清めておきます。
- 本尊の前でお賽銭を入れます。勢いよく入れずに、そっと入れましょう。
- 賽銭箱と並んで香炉がある場合には、ここでお焼香(しょうこう)をします。親指・人差し指・中指の三本の指でお香をつまみ、額の高さで掲げてから香炉へとお香を静かに落とします。お香をつまみ落とす回数は宗派により異なります。宗派不明の場合には、1回だけ行えばOKです。
- 胸の前で静かに手を合わせます(合掌)。神社のように拍手はしませんので、注意してください。
- お線香(せんこう)を灯す場合には、火を口で吹き消さないことも大切です。一度火をつけたら左手に持ち替え、右手で扇ぐようにして火を消しましょう。
※祈祷等を依頼する場合には、作法や手続きがお寺によって大きく異なるため、住職等の指示に従うようにしましょう。
おわりに
「七五三」という行事は、現在においても各地方で考え方が大きく異なる行事と言われています。例えば「満年齢ではなく数え歳で行う」という地方もあれば、「数え歳と満年齢の両方でお祝いをする」という地方等もあるほど、地域差の大きい行事なのです。
そのため「日本の標準的なルール」にこだわるよりも、各地域の考え方をよく確認し、それぞれのご家庭の都合等ともすり合わせながら、ベストな神社・仏閣を選ぶことが大切であると言えるでしょう。しっかりと下調べをしておけば、お子さまの成長を祝う大切な一日をご家族皆様が笑顔で過ごせるはずですよ。