本ブログでは着物のシミ抜き等のお手入れについて解説をしており、様々なシミについて対処法をご案内しています。ただ、着物についた赤ワインのシミについては、対処法・落とし方の最も確実な正解が「ご家庭で対処するより、少しでも早く専門店でシミ抜きしてほしい!」という結論になってしまいます。
「自分で着物の赤ワインシミを落とす対処法を知りたいのに」と不満に感じる方もたくさんいるはず。当店が着物専門のクリーニング店なので「儲けようとしてウソを言ってるのでは」と考える人もいるかもしれません。でも、着物の赤ワインシミについては本当に「早めに専門店へ」が本当にベストなのです。
目次
赤ワインのシミは「即時で水洗い」でもギリギリ
衣類についた赤ワインのシミについて、ご家庭での最適な対処法は「とにかく一刻も早くザブザブと水洗いをする」ということになります。赤ワインは水に溶ける水溶性のシミなので、汚れてすぐ!という速さで水洗いをすれば、色素が繊維に残る前に落とし切れる可能性があるからです。しかしこれでもギリギリであって、落ちきらないこともあるのです。
つまり反対に言うと「すぐに水洗いできなければ赤ワイン汚れはほぼ落ちなくなる」ということですね。その点、着物の場合だと、「すぐに水洗いをする」という対処法は、残念ながら現実的ではありません。
ほとんどの着物が水洗いNG
正絹(シルク)やウールの着物は、水で洗うこと、水に濡れることに弱いです。特に正絹(シルク)は水濡れに極端に弱いので、濡れた部分だけがどんどん縮んで「水シミ」になってしまいます。着物についた赤ワインシミを応急処置しようとして水を使えば使うほど、絹着物の水シミ(輪じみ)の被害を拡げていくことになります。
「洗える着物」もビッショリとは濡らせない
赤ワインのシミは色素がとても多いため、濡れタオルなどで軽く処置するだけでは汚れを取りきれません。完全に濡れるほどビッショリと濡らして、やっと汚れが取れるかな?というケースがほとんどでしょう。外出先で着物をそこまで濡らすのは難しいですよね。
また、いくらウォッシャブル対応の着物でも、一部だけを完全に濡らしてしまうと輪ジミなどができてしまう可能性があり、おすすめができません。(中途半端に濡れタオルで対処をすると、赤いシミの範囲を広げてしまいます)
着物の赤ワインシミについては、外出先でできる応急処置の対応が「水分を取っておく(ハンカチやナフキンで水分を抑える)」が最大限かつ最適というところでは無いでしょうか。
自己処理で赤ワインシミが広がる
着物のシミは、種類によってはご自宅でシミ抜きなどのお手入れができるものもありますね。そのためのアイテムをご自宅に持っているという方も多いことでしょう。ただ残念ながら、一般的な着物のお手入れ溶剤では着物の赤ワインシミの対処ができないのです。
ベンジン等では赤ワインシミは取れない
着物のお手入れによく使われるベンジンは、揮発性の高い「油」です。そのため皮脂などの油性汚れを溶解して落とすことは(そこまでパワーはありませんが)できます。ですから着物の襟元などのお手入れに使われるのですね。
ところが赤ワインのシミは「水性の汚れ」です。ベンジンの油では汚れを溶かし出せず、移しとることができません。赤い色素汚れを広げていくだけとなります。ちなみに専門店のシミ抜きでは、料金が「シミの大きさ」によって変わります。自己処理でシミを大きくすればするほど、シミを取るための料金が高くなってしまうのです。
洗っても赤ワインの色素が残る
着物の中には「ウォッシャブルウール」や「洗える木綿着物」など、水洗いに対応しているものもありますね。着物に赤ワインのシミがついた場合、上でも解説しましたが「即座に水洗い」ができるケースであれば、赤ワインシミを落とせることもあるわけです。
しかし赤ワインの原料であるブドウの皮・果汁は非常に色素が多く、また繊維に定着しやすいという特徴を持っています。汚れがついてから数時間も経過すれば、とてもガンコなシミに変化してしまっている、というわけですね。そのためいわゆる「洗える着物」を通常通りに洗っても、赤ワインのシミが落ちきらず、赤か紫の色が残ってしまうケースが多いです。
赤ワインシミを落とそうとして色落ちや変質する
着物を洗っても赤ワインのシミに対処ができないーーーこういう時、多くの人が「より強力な洗剤」「漂白剤」などを使った対処を考えることでしょう。しかし着物の場合、たとえ「洗える着物」であっても、ご家庭ではこのような対処を取ることが本当におすすめできません。赤ワインシミを落とそうとして、着物そのものをダメにしてしまう可能性があるからなのです。
アルカリ性使用による素材の変質
まず多いのが「アルカリ性の洗剤を使った」ことによる着物の変質です。アルカリ性洗剤といえば以下のようなものが代表的ですね。
- いわゆる洗濯洗剤(オシャレ着用では無いもの)
- 食器用洗剤
- 石けん、粉石けん
中性洗剤(おしゃれ着用洗剤)で洗えばダメージが少ない着物でも、アルカリ性洗剤を使えば一回で変質してしまうものは多いです。例えば布地が縮んだり、ゴワゴワになったりします。このような変質が一度起きたら、残念ながら着物を元に戻せません。
また「重曹」なども弱アルカリ性ですので、同様のトラブルは起きやすいです。「地球に優しい」を謳った製品が多い重曹ですが、着物に優しいわけではありません。
漂白剤使用による色落ち・色にじみ
次に多いのは漂白剤の使用です。一般的な洋服類であれば「色柄ものに使える」という酸素系漂白剤でも、デリケートな染料を使った着物だと、色落ちや色滲みが起きることがあります。特に赤ワインシミの場合、ガンコなシミを落とそうと漂白剤で「漬けおき」をした結果、色落ちや布の縮み、変質などを起こしてしまうケースが多いです。
漂白剤使用による一部の色ハゲや変色の場合であれば、専門店での染色補正(部分的な染め直し)でなんとかリカバリできることもあります。とは言え、染色補正で対処するための料金は通常のシミ抜きよりずっと高くなってしまいます。また最悪のケースが、広範囲に漂白剤が行き渡った結果、全体的な染め直しが必要になってしまうケースです。ほんの少しのシミ抜きで済んだ筈が、大掛かりな対処を必要とするトラブルに拡大してしまうのです。
残った色素が「変色シミ」になる
赤ワインのシミが着物にほんの少し残ったけれど、この程度なら大丈夫かと思って放置したーーこのようなケースも多いですね。赤ワインのシミは少し残っただけでも着物の繊維に定着し、やがては布地を完全に染めてしまいます。さらに困るのが、年単位の時間を経て酸化し「変色シミ」になってしまうことです。
浮き上がってきた変色シミは、さらには周囲の染料を破壊し初めて脱色したようなシミになることもあります。また、赤ワインの匂い成分や栄養価が「カビ」「虫害(虫食い)」といったトラブルを引き寄せることもあります。
変色シミや脱色などのトラブルが起きると、一般的なシミ抜きだけでは対処ができず、やはり染色補正を視野に入れた対処が必要になります。またカビが生えれば「カビ取り」もしなくてはなりませんし、虫食いで穴が空いたら「かけはぎ」で目立たなくさせる対処も要ることでしょう。シミを放置しておけばおくほど、もう一度着物をキレイに着るためにかかるお金が何倍にも膨れ上がってしまうのです。
おわりに
上でも少し解説しましたが、お店での着物シミ抜き料金は「シミの大きさ(汚れの範囲)」が大きければ大きいほど高くなっていきます。そのため自己処理に失敗してシミを大きくしてしまうと、それだけシミを取るために余分なお金がかかってしまうのです。赤ワインシミは色素が多くて定着力が強いため、特に「自己処理に失敗してしまった」と後から専門店に相談されるケースが多く見られます。「最初からお店に持ってきてくれたら、安く済んだのになあ」と、こちらが残念な思いになってしまうほどなのです。
着物にもしも赤ワインのシミがついたら、「シミ抜き」のできる着物専門クリーニングのお店に持ち込むのが最も早くて確実な対処法です。(丸洗いクリーニングだけでは赤ワインシミは落ちませんから、必ず『シミ抜き』をオーダーできるお店に相談しましょう)ちなみに当店『ふじぜん』では、着物のシミ抜きだけ単品でのオーダーも承っています!小さなシミ1箇所だけでも喜んでご対応します。