着物についた果汁やジュースのシミ、どのように対処するのが正解なのか知っていますか?ジュースや果物は、着物でのお出かけの際にも食べたり飲んだりすることが多いですよね。大切な着物を守るために、着物につく果汁・ジュースのシミへの対処法や落とし方を知っておきましょう。
目次
着物についた果汁・ジュースのシミの応急処置は?
外出先で着物に果汁・ジュースのシミやハネができた場合、水濡れに強い着物かどうかで適切な応急処置が違ってきます。ここでは水濡れに対応している着物とそうでない着物の2種類の処置を解説します。着物お素材や洗濯可否がわからない場合には「水濡れに弱い着物」の方を選びましょう。
水濡れに対応した着物の場合
- ウォッシャブル着物(家庭で洗える着物)
- ガード加工・撥水加工済みの着物 など
水濡れに比較的強い着物の場合には、水で濡らして硬く絞ったタオルで軽く叩き、汚れを吸い取ります。その後、乾いた清潔なタオルで軽くたたいて水分を取ります。
水濡れに弱い着物の場合
- 正絹(シルク)の着物
- 一般的なウールの着物 など
※振袖・留袖などのフォーマル着物の多くは正絹製品です
水濡れに弱い着物の場合、応急処置で水を加えると布が縮んでしまったり、シミが広がる恐れがあります。そのため、応急処置は乾いたタオル(または毛羽立ちにくいペーパーなど)で軽く押さえ、水分を取る程度で済ませます。
着物についた果汁・ジュースのシミは家で落とせますか?
着物についた果汁・ジュースのシミにご家庭で(自分で)対処できるかどうかは「着物の素材」「シミの新しさ」「シミの範囲」「果汁の種類」の4つのポイントで変わってきます。まずはこの4つのポイントをチェックしてみましょう。
水洗いできる着物ですか?
着物についた果汁・ジュースのシミを自分で落とすには「水洗い」の工程が必要です。果汁・ジュースのシミは水分の多い水溶性汚れなので、ベンジンなどの溶剤ではシミを落とすことができません。そのため「水洗いできる着物」だけがご家庭で対処できることになります。
なお「シルク」「一般的なウール」の着物は水洗いできません。振袖、留袖、訪問着などのフォーマル着物はほとんどがシルク製品ですので、ご自宅ではジュース・果汁の染み抜き対処はせず、早めに専門店に依頼しましょう。
シミがついて2日以内ですか?
着物についた果汁・ジュースのシミは、汚れの色素成分が布に定着しやすいです。自分でシミが落とせるのは、シミがついた当日もしくは翌日までと考えた方が良いでしょう。
シミがついてから3日以上が経過していて乾いてしまった場合、着物の果汁シミを自分で無理に落とそうとすると、シミが落ちないだけでなく、シミ以外の生地部分にダメージが起きてしまう可能性が高いです。
シミの範囲は1センチ程度ですか?
ご自宅で着物の果汁シミ・ジュースシミに対処できるのは「水滴がはねた」位のところまでと考えた方が良いです。コップをひっくり返したような広い範囲のシミだと、ご自宅の処理では汚れが残りやすくなります。後からシミが浮き出たりカビたりするリスクが上がるため、プロに任せた方が良いです。
ブドウやベリー以外のシミですか?
ブドウとイチゴ、そしてベリー系(ブルーベリー、ラズベリー、クランベリー等)の果汁シミはご自宅では落とせないと考えた方が良いです。(理由は下の項目で解説します)早めに専門店に相談しましょう。
着物についた果汁・ジュースのシミの落とし方は?
着物についた果汁・ジュースのシミを落とすには、着物へのダメージが比較的少ない中性洗剤を使用します。また、洗濯時に中性指定が無い素材の場合には、洗浄力のより強い台所用洗剤をポイント使いしてもOKです。以下に詳しく工程を解説します。
※ご自分の着物がシミ抜きできるものかどうか「2。」の4つの項目を必ずチェックしてから作業してください。
※ご家庭でのシミ抜きでは色落ち・変色などが起きる可能性があります。作業は自己責任でお願いします。
【用意するもの】
- 中性タイプの洗濯洗剤(おしゃれ着洗い用のもの)
- 洗濯用ネット
- 柔軟剤
- 着物用ハンガーまたは物干し
- バスタオル
- アイロン、アイロン台、霧吹き、当て布
※木綿などの縮みやすい素材の場合、ハンガーにかけて蒸気を当てるスチームアイロンではNGです。引っ張って伸ばせるアイロン台+アイロンが必要です。
- アルカリ性洗剤が使用できる素材の場合 食器用洗剤
※洗濯時に中性指定のある製品、天然染色製品等に食器用洗剤を使用すると色落ちや布の変質が起きる可能性が高いので、絶対に使わないでください。必ず着物の洗濯表示などを確認してから使用してください。
【事前準備】
シミ抜き後には必ず、仕上げ洗いを行います。
仕上げ洗いや脱水時の襟元の固崩れを防ぐため、ぐし縫いして軽く縫いとめるか、安全ピンなどで固定をしておきます。
【シミ抜き工程】
- シミ部分をぬるま湯で濡らし、中性洗剤(または食器用洗剤)を原液で適量たらします。
- 指で擦らないように優しく泡立て、汚れを落とし、ぬるま湯で流します。
- 汚れが落ちたかチェックしたら、浴槽やタライなどにぬるま湯を入れて、中性洗剤を適量溶かしておきます。
- 着物を畳んでネットに入れ、洗剤を溶かしたぬるま湯に全体を浸け、優しく押し洗いします。
- 水を取り替えて2回濯ぎます。最後の濯ぎで柔軟剤を使用します。
- ネットのまま洗濯機の脱水機能で30秒程度脱水させます。シワや型崩れが起きやすい製品の場合には省略してOKです。
- バスタオルで挟んで軽く叩き、水分を吸い取ります。
- 着物専用ハンガーまたは物干しに着物をかけて、よく形を整えます。
(木綿などの収縮しやすい素材の場合には、濡れた状態でアイロンをかけてから干します) - 直射日光を避け、風通しの良い場所で自然乾燥させます。
- 当て布を使ってアイロンをかけ、形を整えます。
※シミ部分を強く擦るのは絶対にNGです。毛羽立ち・色ハゲの原因になります。
※汚れが落ちない場合には作業を中止し、すぐに専門店に相談しましょう。
着物の果汁・ジュースシミ、漂白剤や重曹を使ってはダメ?
着物の果汁やジュースシミには、酸素系漂白剤や重曹を使わない方が良いです。この理由には、素材や染料によって、色落ちや変質をしてしまうリスクが非常に高いことが挙げられます。
重曹などのアルカリ性に反応して素材が縮んで固くなってしまった場合、後から専門店に相談しても、着物を元に戻すことができません。また変色をしてしまった場合、着物を元に戻すには染め直しなどが必要になります。シミ抜き料金の何倍ものお金がかかってしまうのです。
なぜ着物についたブドウやイチゴの果汁・ジュースシミは落ちない?
着物についたシミがブドウジュースやイチゴ果汁の場合だと、自分で対処しないで即時で専門店に相談するのが一番です。これはなぜなのでしょうか?
ブドウのシミとイチゴならびにベリー系(ブルーベリー・ラズベリー・クランベリーなど)のシミには、アントシアニンなどの色素が非常に多く含まれています。この色素は植物に含まれる天然色素なのですが、繊維に対する定着力がとても強いのが特徴です。
カンタンに言うと「布を染めてしまう色素」なのです。地域によってはブドウやベリー類の果汁を使って染物をするところがあるほど、色が取れにくい果汁なのですね。
そのためブドウのシミ・イチゴやベリー類のシミをご家庭で落とすのはとても難しいです。無理に落とそうとして着物を変色させたり、白っぽく毛羽立たせてしまったという失敗ケースが多くあります。無理せず早めにプロに任せることをお勧めします。
着物の果汁・ジュースのシミはクリーニングで落ちる?
着物の果汁・ジュースのシミは一般的な「きもの丸洗いクリーニング(京洗い、着物全洗い)」では落ちません。着物専門のシミ抜き職人g手作業で行う「シミ抜き」や、場合によっては「染色補正」と言う漂白・部分的な染め直しが必要になります。
洋服メインのクリーニング屋さんだと、着物の果汁シミは「落ちない」とお断りされてしまうこともあるようです。着物に強いクリーニング店、着物専門のクリーニング店に相談することをおすすめします。
おわりに
着物の果汁・ジュースのシミは、放置するとカビや虫食いの原因になったり、さらに何年も経つと酸化して変色し、取れないシミとして浮き上がってきます。できる限り早めに対処することが大切です。当店『ふじぜん』は着物専門の加工・クリーニング店として、着物の果汁やジュースのシミにも対応しています。時間の経った古いシミ、他店で断られたシミも諦めず、ぜひ一度ご相談ください!