春夏秋冬の四季を楽しめる日本では、昔から「着物の柄」でも四季を味わう伝統があります。現在でも冬には冬の着物の柄を合わせるのがオシャレであり、またお茶席等では一定のルールともされています。
冬に着る着物の柄の代表例
まずは冬に着る着物の柄について、代表的な例をご紹介していきます。「冬」と一口に言っても、日本では年末までとお年始(お正月)からでは季節感が変わってきます。その点も考慮することが大切です。
【年末頃まで】
- 菊
- 雪
- 南天
【お正月・1月】
- 梅
- 松
- 椿(リアルな柄)
- 十二支(その年の干支)
- 水仙
- 南天
- その他の吉祥柄
【お正月明け~2月頃】
- 水仙
- 梅(リアルな描法)
【通年OK】
- デザイン的な椿
- デザイン的な松
- デザイン的な雪(雪輪)
- 他の季節の花と組み合わせた花柄 等
ここで言う「リアルな柄」というのは、より写実的でリアリズムに則った柄行の着物のことを言います。リアル志向の柄行については、より「ピッタリあった季節」に着ることが求められやすいのです。
反対に「デザイン的な柄」というのは、デフォルメを強くして、シンプルに「模様」っぽく作ったもののことを言います。同じ梅や雪等でも、デザインとして作り上げたものだと季節性がやや弱くなるので、「いつ着ても着やすい柄」になるわけです。
例えばリアルに雪が積もった様子を描いてある帯等は冬にしか身につけることができません。しかしデフォルメの強い「雪柄」デザインだと、夏に「こんなふうに涼しくなればいいのに」という気持ちを込めてお召しになる人も居るんですよ。
「冬の着物柄」に「秋・春の花」が混じる理由は?
冬の着物柄の代表例を見て、「冬の着物の柄の話なのに、菊って秋の花じゃないの?」「梅って春を告げる花のイメージがあるけど…」と不思議に思われる方も多いのではないでしょうか。これは「暦のズレ」と、着物における「季節の先駆け」が関係をしています。
昔の「冬」と今の「冬」は違う!?
江戸時代まで、日本では太陰暦という1ヶ月28日の暦(旧暦)が採用されていました。現在の太陽暦(新暦)が採用されたのは明治になってからです。旧暦と新暦には、だいたい1ヶ月くらいのズレがあります。
さらに日本では「新年」を季節の区切りと考える伝統も加わります。そのため、着物の伝統的な「冬」の感覚と、現在の日本の「冬」の括りにはだいぶ違いが出てくるのです。
- 現在の「冬」 → 「冬」は12月・1月・2月頃を指す。11月までは秋、3月からは春
- 太陰暦の頃の「冬」 → 現在でいう10月後半~11月・12月までが「冬」、正月を過ぎると「春」
よくお正月に「初春」と書いてある年賀状やポスターなどを見たことはありませんか?あれは昔は「お正月が来た=春が来た」という感覚だったためなんです。そのため「冬の着物の柄」は、現代でいう「冬」の感覚とはちょっと違うお花の柄が含まれていたりもします。
季節を少し先駆けるのがオシャレ
現在の洋服の流行でも、シーズンを少し先駆けて取り入れるのがオシャレとされていますよね。例えば9月の頃を思い浮かべてみましょう。まだまだ暑い時期ではありますが、あまりにも「真夏っぽい」リゾート風のワンピースやサンダル等を着るのはちょっと…と感じる方が多いのではないでしょうか。少し「秋」を感じさせる、落ち着いた色合い等を取り入れる方がオシャレとされています。
春先でもそうですよね。まだちょっと寒いしコートは着ているけれど、メイクの色合い等は春っぽい色を取り入れたい!と考える人も多いことでしょう。
これは着物の場合でも同じです。特に春については「早くあったかくなって花が咲いて欲しい」と感じるもの。冬の1月頃に、少し先のシーズンである「春」を感じさせる柄行を着ることで「春が早く来ると良いですね」と感じさせる…これはルール違反ではなく、むしろオシャレなんです。
ただし1月に桜の柄行を着るのは、さすがにちょっと早すぎます。やはり「お正月から、もう少ししたら咲く花」である梅、水仙などを身につけるのがシーズン的にもベストと言えるでしょう。
冬に着る着物の柄の意味について
着物の柄にはそれぞれの意味が込められています。着物を着る際には、そんな「柄の意味」についても知っておくと良いですね。冬に着る着物の代表的な柄について、それぞれの意味や着用シーン等についてご紹介していきます。
冬の着物柄の代表格「梅」
梅はおめでたい柄である「松竹梅(しょうちくばい)」のひとつです。単純に季節的に合っているというだけでなく、華やかでおめでたい時期であるお正月にはまさにピッタリの柄行と言えます。
梅は春一番に咲く花であり、その香りの良さも特徴。初春の喜びや、気高く上品なイメージもあり、日本人好みの花のひとつと言えるでしょう。特に女性には着やすい柄のひとつです。
お正月からが最適
梅の模様の着物は、ルール的には年末にも着てもまったく問題はありません。ただやはり「おめでたさ」や「春待ち」のイメージの強い花なので、お正月(1月)に入ってから身につけた方が粋であり、お祝い感も際立つのでオススメです。
学業祝等にもピッタリ
梅は天神様として祀られている菅原道真公が好んだ花であるとされています。「受験の神様」としても有名な大宰府や湯島天神等にも、たくさんの梅の木が植えられているほどです。
1月~2月頃に行われる合格祝いの集まりや、お習字、その他の学業に関するお祝いごと等でも、梅の柄行は最適と言えるでしょう。
梅ランクは安くありません
現在の飲食店や旅館などですと「松竹梅」だと梅ランクは一番下に扱われてしまうことも多いですね。しかし元々は松竹梅には上下関係はありません。どれも同等にありがたい柄であり、だからこそお店側も「同じ位に良いメニューですよ!」という意味で「梅」と名付けたわけです。
「梅柄が松竹梅では下」ということはまったくありませんから、安心して梅柄の着物を楽しんでくださいね。
年末も年始もOKの「南天」
赤い実がかわいらしい「南天(なんてん)」は、中国から伝来した植物です。日本では平安時代にはすでに広く分布しており、様々な書物にも登場しています。
冬の着物の柄の代表格のひとつであり、比較的長く着用ができるのもポイントです。
単体の南天は年末にもピッタリ
南天の実は現代でいうところの11月~12月頃に実をつけ、その赤赤とした姿を目立たせます。花の少なく色の寂しくなりがちな冬の季節において、珍しい「華やかな花柄」というわけです。
赤は現代ではクリスマスをイメージさせる色合いでもあり、年末ムードにもピッタリ。南天単体の柄行は、着る着物に困る12月頃にも向いた柄と言えます。
「難を転じる」おめでたい柄
南天は「難を転じる=悪いことを良いことに変える」という意味にも繋がることから、昔からおめでたい吉兆の植物であると考えられてきました。
現代でも「松+南天」「鶴+南天」等、様々な吉祥柄に南天を加えた柄行は人気があります。お正月にはもちろん、冬のお祝いごと等に身につけるにはちょうど良い柄行です。
ちなみに南天単体の柄ですと「冬」のムードが強いですが、「松+南天」等でデザイン性の高いものであれば、吉祥柄(おめでたい柄)として礼装着物等に通年用いられます。
お正月明けにもおすすめ「水仙」
水仙(すいせん)も、冬の着物の柄として忘れることはできません。縦にすっきり、ほっそりと伸びた可憐な姿は、着物の裾にあしらう柄に最適。また、帯の柄行としても人気があります。
厳しい冬からの「春」を感じさせる
水仙も梅と同じく、長い冬を終えて誰よりも早く花をつける「春のさきがけ」の植物として扱われます。「早く春が来ますように」水仙には、そんな意味合いもあるのです。
そのためお正月にはもちろん、お正月明け~2月頃の雪深い時期にも、水仙の柄の着物は好まれます。
凛とした姿や色合いもポイント
水仙は上記のとおりお正月にきてもまったく構わないのですが、「お正月明け」に着るのもステキです。
松の内(お正月中)ですと、やはり皆様、松竹梅や鶴亀、宝船などの華やかな吉祥柄を好んで身につけられることが多いもの。ところがお正月を過ぎて松が明けてからの集まりだと、ちょっと華やか過ぎてしまうかも?という柄行もあるんですよね。
そんな時にも、水仙の凛とした佇まいをあしらった着物はピッタリ。「春が来るまでに何を着たらいいかしら?」と迷った時にちょうどよい柄行なのです。
立身出世や延命長寿の縁起物
厳しい冬を耐えて花を咲かせる水仙には、立身出世や延命長寿といったおめでたい意味合いもあります。栄転が決まった方のお祝い、米寿や傘寿のお祝い等にも、水仙の着物は向いていると言えるでしょう。
椿
冬の着物の柄で、普段遣いにも使いやすいもののひとつが「椿(つばき)」です。冬になっても緑の葉を落とさない椿には、魔除けや厄除けといった意味合いもあります。
年内に着始めるのが「粋」
冬椿が花をほころばせるのは、大体12月頃から。寒さが厳しくなってから、赤や白の華やかな花をつけます。そのためリアリティのある実写的な椿の場合、少しシーズンを先駆けて、11月の下旬頃から着物を身につけるのが「粋」「オシャレ」とされています。
初冬の着物をどうしようかな?と迷った時に、椿の柄を候補に上げてみたいですね。
デザイン的な柄なら通年OK
椿は主に冬に咲く花ですが、よりデザイン的な柄行であれば通年使いもOKとされています。「まだ着物の枚数があまり無い」「いろいろなシーンで着物を着たい」といった場合には、写実的な椿よりもデザイン的な椿を選んだ方が、長く着物を楽しむことができますよ。
お茶席での椿柄には要注意
椿模様の着物は、大きく大胆で遠目から見てもハッキリと「椿だ」とわかることも多いものです。あまりにもクッキリとした椿の文様は、お茶席等では避けた方が良いかもしれません。
他のお花が活けられているのに椿模様の方が目立ってしまったり、せっかく飾られている椿より、着物の椿の方が派手だったり…これでは、お招きいただいた人に失礼になってしまうかも。どのお花の柄でも言えることではありますが、椿は特に冬に飾られることの多い花なので、要注意です。
「冬の着物の柄」、成人式の振袖は大丈夫?
冬の着物のイベントというと「成人式」を思うかべるという人も多いのではないでしょうか。冬に着る着物の柄ルールについて、成人式の振袖はどう考えるのかを解説します。
成人式振袖は何を着ても原則OK
成人式の振袖については、原則として上記の「着物の柄ルール」はあまり適用されません。成人なさる方の御祝着・晴れ着であり、着るのはお祝いされるご本人(主役にあたる方)ですから、基本的にはお好みの柄を着ていただいてOKなのです。
結婚式等にも着るなら通年着られる柄を
振袖をこれからお買い求めになるという場合だと、振袖の登場が成人式一回のみ…というのは、ちょっと寂しいですよね。将来的にはお友達の結婚式等にも着ていきたいとお考えになる方が多いことでしょう。
このように礼服として振袖を着る予定がある場合には「どの季節にも着られる」通年タイプの柄の振袖を選ぶことをおすすめします。
【通年性の高い柄の例】
- 四季おりおりの花が入っている:春夏秋冬いずれの花も描かれていれば、どの時期に着てもOKです。
- 吉祥柄との複数組み合わせになっている:例えば「菊だけ」「梅だけ」等で写実的だと季節性が強くなりますが「梅と松と竹」「松と南天」「梅と宝具」といったように複数の組み合わせ柄になると、季節性は弱まり「おめでたい柄」としての意味合いが強くなります。
- よりデザイン性が強い:原則として写実的な柄行きは季節性が強いです。反対に古典柄としてデザイン性が強められているものだと通年使いがしやすくなります。
振袖のみならず、訪問着等でも、柄行の考え方は大体上記のとおりです。「フォーマル着物としていつでも着られる着物の方が良い」という場合には、季節性の高い柄よりは、より通年性の高い柄行のものを選んだ方が良いでしょう。
おわりに
冬に着る着物の柄について、ルールや意味合い等をご紹介していきましたが、情報はお役に立ちそうでしょうか?着物の柄は自分がオシャレを楽しむだけでなく、一緒にその日を過ごす人達、お招きくださった人達への「心配り」でもあります。
皆様が気持ちよく「ステキな着物」と思えるような柄の着物を自然に選べるようになりたいですね。