お宮参り・ハウツー

お宮参りの祝い着・産着・初着とは?知っておきたい基礎知識

赤ちゃんの無事を祝い、これからの成長を祈る大切な行事である「お宮参り」。このイベントでは、主役である赤ちゃんは「祝着/祝い着(いわいぎ)」「初着・産着(うぶぎ・はつぎ)」等と呼ばれるお祝いのための衣装を着用します。ここでは初めてのお宮参りの準備のために知っておきたい、祝着・産着についての基礎知識をご紹介していきましょう。

お宮参りの祝着の歴史とは?

お宮参りは、一般的に生後1ヶ月前後(男子生後31日目、女子が生後32日目)に行われる行事です。お宮参りが定着した鎌倉・室町時代頃から昭和初期頃に至るまで、赤ちゃん達は生後直後には使い古した襤褸(ぼろ)を着せられ、お宮参りに初めて「祝着」としてキレイな着物を着ることができました。祝着・初着とは、赤ちゃんたちにとっての初めての「晴れ着」「フォーマル服」だったのです。

退院の時から新しいベビードレス等に身を包む赤ちゃんがほとんど…という現代とは、赤ちゃんの着る服についての考え方にもかなりの違いがありますね。これはなぜか?というと、昔の日本では「赤ちゃんの生命が悪いもの(魔物、悪霊等)に取られる」ということがとても恐れられていたためなんです。栄養状態も良くなく、更に医療技術が発達していなかった昔の日本では、生まれて間もない赤ちゃんが病気等で亡くなることが珍しくありませんでした。そのため生まれた直後の赤ちゃんが「魔・邪(悪霊等)」の目に止まらないよう、わざと地味な服を着せたり、変わった幼名等を付けて、生後直後の赤ちゃんたちを守っていたんです。

そんな昔の家庭にとって、生後1ヶ月を無事に過ごせたのは大きな喜びです。氏神様(もしくは産土神様)に顔見世(挨拶)をして、まず1ヶ月が無事であったことに感謝をし、更に今後の加護を祈る--これが宮参りの根本的な考え方でした。「宮参り」は、言うなれば赤ちゃんが初めて「社会の一員」として認められる行事だったんですね。ですから、それまで赤ちゃんに着せてきた古着や普段着とは異なり、赤ちゃんの無事と成長を祈る正式な「晴れ着」を着せることが、お宮参りでは大切と考えられてきました。

 

お宮参りの産着は「一つ身」もしくは「四つ身」

お宮参りで赤ちゃんに着せる祝着・産着は、「着物(肌着等の上にスタイ・フード等を付けて、上から着物を重ねるスタイル)」もしくは「ベビードレス」等で行うのが一般的です。昭和後期~平成初期頃はベビードレスで簡易的にお宮参りをするご家庭が増えていましたが、「和の文化」が注目されるようになった最近では、再度「着物」を着せたいと考えるご家庭が増えています。「着物ブーム」の後押しもあり、赤ちゃんだけでなくご家族も着物で参加するというご家庭も多いようです。

着物の場合は、男子・女子ともに「一つ身(ひとつみ)」もしくは「四つ身(よつみ)」という大きさの幼児・子供向けの着物を準備します。お宮参り着物の場合には反物から仕立てることは少なく、お仕立て上がり(既成品)を購入するという方がほとんどです。

一つ身とは


「一つ身(ひとつみ)」とは、赤ちゃんの頃から2~3才頃まで使用できる大きさの着物です。小裁ち(こだち)と呼ぶこともあります。とても小さいサイズなので、背中の中央部に縫い合わせが無いのが特徴です。お宮参り等の新生児の時には肩上げ等をせず、付け紐を付けた状態にして、帯の変わりに結ぶようにして着用させます。

肩上げ(かたあげ)・腰上げ(こしあげ)をすることで、七五三の3歳の時の晴れ着として使うことも可能です。一般的に「お宮参りの産着」というと、一つ身を連想する方が多いでしょう。

四つ身とは


「四つ身」とは、5才~7才頃まで使用することができる大きめの子供用の着物です。身丈のおおよそ4倍を身頃の幅として取ることから「四つ身」という名前が付けられました。。一反(いったん)の1/2、もしくは1/3を使用して布を裁つことから、中裁ち(なかだち)とも呼ばれます。地域によっては、こちらの「四つ身/四ツ身」がお宮参りの祝着として一般的と考えられているところもあります。

四ツ身はかなり大きめなので、宮参り(宮詣)では赤ちゃんに無理に着せずに、上からくるむように使っておしまい…というご家庭も少なくありません。そのかわりかなり成長しても使用でき、七五三の5才の晴れ着にも使用するというケースがよく見られます。

 

お宮参りの初着には「家紋」を入れる?

「家紋(かもん)」とは、その家を表す印として使うシンボルマークです。一般的には「その家の一員」という意味を示すために用います。昔は家紋を見れば、その人がどこの家の人なのかがわかった、というわけですね。ただし地域によっては、「着物の購入者(準備をした家)がどこか」「着物の所有者は誰か」といった意味合いを家紋が示していることもあります。

男児の場合は家紋が必須

お宮参りの男の赤ちゃんの産着には、必ず家紋を入れます。男児の産着の場合、正礼装(フォーマル)の扱いとなる「五つ紋(いつつもん)」を入れるの一般的です。五つ紋は「両胸(左右)」「両袖(左右)」「背中(中央)」の五ヶ所に家紋を入れます。

男児用の産着の場合、家紋を入れることを想定した上で着物のデザインが考えられていることがほとんどです。そのため着物のデザインを家紋が見出してしまう…といった心配はほぼ要らないでしょう。

女児の場合は家紋は要らない?

お宮参りの女の赤ちゃんの産着には、家紋を入れないことがほとんどです。ただ「絶対に家紋を入れてはダメ!」というわけではありません。正装の証として、家紋を入れるご家庭もあります。ただ五つ紋や三つ紋を入れるケースは少なく、背中の一箇所に(一つ紋)を入れるケースが多いです。

女の赤ちゃん用の宮参り産着の場合、家紋を入れることを想定して作られていないため、「背中の家紋が柄にかぶってしまう」ということも考えられます。紋付きの産着の制作を予定されているご家庭は、紋入りとなることを事前に呉服屋等に伝え、柄を選んでいった方が良いでしょう。

家紋はどの家のものを入れる?

「お宮参りの産着に父系・母系どちらの家紋を入れる?」という疑問を持つ方も多いのですが、これは地域によってかなり考え方が異なります。

【家紋についての考え方の違い】
・男の子の産着には父系の家紋を入れる、女の子には家紋無し
・男の子の産着には父系の家紋を入れる、女の子の産着には母系の家紋を入れる
・男の子の産着も女の子にも母系家族の家紋を入れる 等

「宮参り」という行事が非常に伝統的なものである分、地域による考え方にも大きな差異が出がちなのです。「この考え方が絶対」といった全国統一のお宮参りのマナー・ルールがあるわけではないので、父系・母系の両方のご家族の考え方をよく確認しておくことをおすすめします。

初着をレンタルすると家紋はどうなるの?

初着・産着をレンタルする場合、「家紋」はどのような扱いになるのでしょうか。これはレンタル業者によって扱いが異なります。

1)「五三の桐(ごさんのきり)」が入っている:「五三の桐」とは、どのご家庭でも代用品として使えるオールマイティーな家紋です。現在では貸衣装・レンタル衣装専用の家紋という扱いになっています。
2)貼り紋で対応する:「貼り紋」とは、ワッペンやアップリケのようになっている家紋のことです。レンタル着物の場合、マジックテープやホックのような方式で着脱可能となっており、使用する際に貼り付けて使います。
3)何種類かの家紋入の着物の用意がある:桜や桐等、メジャーな家紋を入れた着物をあらかじめ準備しておくケースです。ただし紋の種類が非常に少ない・在庫数に限りがあるケースがほとんどとなります。

お宮参りの赤ちゃん用の着物の場合、「五三の桐」もしくは「貼り紋」で対応する業者が多いようです。ただ「五三の桐」はレンタカーで言えば「わナンバー」のような存在ですし、貼り紋はワッペン方式なので、通常の「染め抜き紋(もしくは刺繍紋)」とは見た目が大きく異なります。そのため特に男の赤ちゃんの場合、「貸衣装(レンタル)」かどうかは見る人が見ればすぐにわかります。「まわりにバレないようにレンタルで済ませる」というのは、ちょっと難しいかもしれません。

 

昔の着物も「祝着」に使える?

「お父様やお母様がかつて使っていた祝着を、赤ちゃんに使いたい」そう考える方も多いのではないでしょうか?ご実家で眠り続けている祝着をそのまま寝かせておくより、再度活躍の場が有る方が良いですよね。

ベビードレス等の洋装の場合だと、親子代々で使うといった方式は少々難しいかもしれません。余程の高級品を除いては生地の劣化が激しく、またデザインの移り変わりの波が大きいためです。30年前・40年前のベビードレスというとかなりクラシカルになってしまいます。

しかし和装着物、中でもフォーマルな礼装用の着物には、洋服のような「トレンド」「流行り廃り(はやりすたり)」というものがほとんどありません。これはお宮参りの産着・祝着も同じです。現代のデパートや呉服店で販売されている祝着でも、男の子ならば「熨斗目模様」(のしめもよう)という柄の付け方で、兜(かぶと)や虎(トラ)等の勇壮な柄行のもの、女児の場合も花や吉祥文様といった伝統的でお目立たい柄行が好まれています。30年前・40年前と、基本の色柄が変わらないのです。

きちんと保管してあった昔の祝着の場合、現代のものよりも良い絹素材が使われていたり、高品質な刺繍や染技術が駆使されている…というケースも多々あります。日本ならではの着物文化が再注目される中、親から子へ、更に孫へ…着物を受け継ぎながら祝着に使うという考え方が、再度支持されるようになっているのです。

「家紋」を入れ替えればOK

男児向けの祝着の場合には「家紋」が入っているので、「家紋が違うのは困る」と気にしている方も居るかもしれません。「お父さんの祝着→息子の祝着」であれば同じ父系の家紋ですから問題はありませんが、「母方のお祖父様の祝着→孫息子の祝着」であったり、「母方のお祖母様の祝着→孫娘の祝着」であったりすると家紋が合いませんよね。

このような場合には、「家紋の入れ直し」をすれば問題を解決できます。呉服店や和装専門のクリーニング店等の和装着物を専門に扱う業者では、家紋を消す(紋消し)、家紋を入れる(紋入れ)、そして紋の入れ替え(家紋入れ替え)を依頼することができるのです。お祖父様・お祖母様の着物、お父様・お母様の祝着…ご自宅に眠っている初着・祝着があるかどうか、一度探してみてはいかがでしょうか。

 

おわりに

お宮参りの初着・祝着・産着についての基礎知識はいかがだったでしょうか?購入する場合でも昔の着物を使う場合でも、気をつけたいのは「家紋入れ(もしくは家紋入れ替え)」にかかる時間です。購入した店舗や業者によっては、完成までに1ヶ月程度時間がかかる場合もあります。

またお宮参りの祝着をレンタルする場合にも、早めのご予約をおすすめします。最近ではお宮参りの時期を「産後1ヶ月」にこだわらず、春秋の過ごしやすい時期の3連休や、里帰りの時期等にあてる方が増えています。そのため人気の時期にはお宮詣の産着・晴れ着レンタルの注文も集中しがち。人気の色柄の在庫がなく、借りられない…といったケースも増えているのです。「お宮参りの準備はまだ先で良いか」と考えず、早め早めに祝着・産着の準備を考えておきましょうね。

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吉原ひとし


着物ケア診断士 吉原ひとし


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