お手入れ

プロが教える足袋の洗い方とアイロンのコツ

    足袋(たび)は着物を着る時に欠かせないアイテムの一つです。和装のアイテムはご自宅で洗えないことが多いですが、例外的に足袋はほとんどの製品を自分で洗うことができます。着物は足元が目立ちますから、いつでもキレイな足袋で過ごしたいですね。

    吉原ひとし
    吉原ひとし
    こんにちは。創業明治三九年 四代目 ふじぜん 吉原ひとしと申します。着物を専門に取り扱うクリーニング店の店主をさせていただいております。ここでは足袋の洗い方やアイロンがけのポイントを、着物のプロが詳しく解説していきます。

    足袋を洗う前に確認しよう!4つのチェックリスト

    「足袋はご家庭で洗える」というのが基本ですが、足袋の製品や状態によってはご自宅で洗わない方が良いこともあります。自分で足袋を洗い始める前に、まずは4つのポイントをチェックしてみてくださいね。

    1.足袋の素材は?

    足袋は素材によって縮み方やアイロン仕上げなどのお手入れの仕方が異なります。まずはお持ちの足袋の素材を確認しましょう。

    主な足袋の素材

    • 綿(コットン)100% キャラコ、ブロードなど。伸縮性がなくしっかりとした作りです。一般的な伸縮性のないフォーマル向け白足袋は、多くが綿製品です。水洗いできますが、縮みやすいため、しっかりと引っ張って伸ばす必要があります。
    • 絹(シルク混紡) 光沢感があるのがポイント。絹はとても縮みやすいので、アイロンでかなり強く引っ張るだけでなく、お手入れはデリケートに行う必要があります。上級者向けの素材です。なれない人はクリーニングを。
    • 化繊混紡(ナイロン、ポリエステル+綿) ストレッチ性のある足袋は、多くが化繊混紡です。ご自宅でも洗いやすいのがメリット。化学繊維の混入率が高いと、アイロンがいらない場合があります。
    • 麻 風通しがよいですが、シワになりやすい素材です。ご自宅であらえますが、縮みやすく、洗濯後のアイロンは必須です。
    • フリース 冬用の暖かな素材です。洗濯後はアイロン不要で、お手入れは楽です。
    • 別珍 冬用の暖かな素材です。洗濯後はアイロン不要ですが、型崩れをしっかり直すことは忘れずに。

    2.アイロンはありますか?

    天然素材(綿、絹、麻)を含む足袋は、洗うと縮みます。そのため「洗ったらすぐにアイロンで引っ張る」というプロセスで、縮みを伸ばす必要があります。アイロンをしないと足袋がピチピチのキツいものになり、不要なシワができて見た目にも良くありません。

    「アイロンフリー」「アイロン不可」とされている製品以外は、原則として洗濯後のアイロンが必要と考えてください。アイロンで引っ張る作業なので、吊るして蒸気を当てる「スチームアイロン」はNGです。アイロンが無い場合には、クリーニングに出した方が安心です。

    3.天然染めですか?

    藍染など、天然の草木などの染色製品は、色落ち・色移り・変色などが起きやすいです。そのため洗濯には原則として「中性タイプの洗剤(おしゃれ着用の洗剤)しか使えません。また他の薄色・白色の足袋と一緒に洗うのもNGです。

    4.履いたばかりの足袋ですか?

    ご家庭の洗濯で落とせるのは、最近履いたばかりの足袋の汚れです。

    • いつ汚れがついたかわからない
    • 黄ばみになっている
    • カビによるシミや匂いがある
    • 原因不明のシミ・変色がある

    上のような状態の足袋は、ご家庭での染み抜きや洗濯では汚れ落としができない可能性が高いです。和装専門のクリーニング店などに早めに相談することをお勧めします。

    足袋は手洗い?洗濯機洗い?

    足袋は手洗いすべきか洗濯機洗いで良いのか、迷う方も多いことでしょう。目安としては次のポイントをチェックします。

    1.白足は手洗い

    白足袋は基本的に手洗いした方が良いです。足袋を洗濯機洗いすると、指先や足首周りなどの皮脂汚れが残りやすく、これが白足袋だと「くすみ」「黒ずみ」になり、とても目立ちます。また時間が経つと、取れない「黄ばみ」になってしまうことも。白足袋をキレイに長持ちさせるには、手洗いするのが一番です。

    2.アイロンがけする足袋は手洗い

    アイロンがけが必要な木綿や麻などの足袋は、手洗いした方が良いです。洗濯機洗いで脱水をすると激しい型崩れが起きやすく、また、繊維の縮みが激しくなります。

    3.天然染め足袋は手洗い

    藍染、草木染めなどの天然染色製品は、一枚ずつ手洗いをした方が色移りや色落ちといったトラブルを防げます。

    4.刺繍・レース足袋は手洗い

    レース足袋、刺繍入りの足袋や、その他の特殊加工がある製品は手で優しく洗いましょう。ダメージを防ぎ、足袋を長持ちさせることができます。

    洗濯機洗いできる足袋の目安

    • アイロンフリーのもの
    • 色落ちしにくい染色のもの
    • カジュアル用に履くもの
    • ストレッチがとても強いもの

    カンタンにいえば「普段使い用にガンガン使う足袋」なら、洗濯機洗いでもOK。フォーマル向けやおしゃれ着として身につける足袋は、優しく手洗いした方が良いです。

    足袋を洗うために用意するもの

    では足袋を洗うための準備を始めましょう。

    中性タイプの洗濯洗剤

    おしゃれ着洗い用の液体洗剤を使います。製品名ですとエマール、アクロンなど。パッケージ表示で中性タイプか確認しましょう。

    洗濯用の固形石鹸

    洗濯用固形石鹸は洗浄力が強く、泥汚れや足の皮脂汚れを落とすのに向いています。ウタマロ石鹸など。

    重曹

    洗浄力を上げるために使用します。天然染め製品の場合には使いません。

    洗濯のり

    足袋をパリッとシワなく仕上げるために使います。液体タイプでもスプレータイプでもOK。アイロンフリーの足袋の場合には不要です。

    靴洗濯用ブラシまたは歯ブラシ

    足袋の内側の汚れや指先の汚れ取りに使います。

    洗濯用ネット(洗濯機洗いの場合)

    洗濯機洗いの場合、型崩れ防止のためにネットは必要です。ブラジャー用などのワイヤー入りのネットが理想的です。

    タオル

    足袋の脱水のために使います。色移りの心配のない、白色か薄い色のものを。

    アイロン、アイロン台

    足袋の縮みを戻し、形を整えるために使います。スチームアイロンはNG。アイロンフリーの足袋の場合には使いません。

    酸素系漂白剤

    黒ずみが激しい場合に使用します。

    足袋の洗い方・アイロンのかけ方

    では実際の足袋の洗い方やアイロンのかけ方、型の整え方などを見ていきましょう。

    1)足袋を洗う

    洗濯機洗いの場合
    ※上の「洗濯機洗い・手洗いの目安」を必ず確認してから洗濯してください。製品によっては洗濯機洗いで激しく型崩れや縮みが起きます。

    1. しっかりとした洗濯ネットに足袋を入れます。
    2. 中性タイプの洗剤を洗濯機に入れます。
    3. 脱水時間を短めに設定し「ドライ洗い」「ソフト洗い」など、優しい洗い方のコースで洗濯機洗いします。
    4. 洗濯のりを使用する場合は、洗濯機洗い後に洗面器などに糊を適量入れて、足袋を漬けてから仕上げます。(スプレーのりの場合にはアイロン時でOKです)
    5. 脱水をできるだけ短くして最後にタオルで挟んで脱水するようにすると、型崩れや縮みを防げます。
    6. すぐに次の「アイロン」の項目に移ります。

    手洗い(白足袋)の場合

    1. バケツや洗面器に35℃前後のぬるま湯を入れて、中性洗剤を適量と重曹少量を加えて溶かします。作った洗濯液に2時間~一晩程度、漬けておきます。(※こはぜがステンレス以外の場合はつけ置き時間を少なくしてください。変色・劣化の原因になります)
    2. 洗濯液から足袋を出し、外側の指先などの汚れやすい部分に固形石鹸を塗りつけます。
    3. 足袋の中に手を入れて、外からブラシで擦って汚れを落としていきます。
    4. 足袋の内側に履き込み口からブラシを入れて、底の内側を擦っていきます。
    5. 水を取り替えて、3回くらいしっかりと濯ぎます。
    6. タオルで挟むようにして軽くポンポンとたたき、水分を吸い取っていきます。
    7. すぐに次の「アイロン」の項目に移ります。

    手洗い(色落ちしやすい足袋やレース足袋など)の場合

    1. バケツや洗面器に水を入れて、中性洗剤を適量加えて溶かします。作った洗濯液に足袋を20分程度漬けておきます。
    2. 洗濯液から足袋を出し、外側の汚れやすい部分に中性洗剤原液を少量付けます。
    3. 丈夫な素材の場合には足袋の中に手を入れて、外からブラシで擦ってOK。レースなどのデリケートな素材は、優しくつまむようにして洗います。
    4. 足袋の内側に履き込み口からブラシを入れて、底の内側を擦っていきます。
    5. 水を取り替えて、3回くらい濯ぎます。
    6. タオルで挟んで軽く叩き、水分を吸い取ります。
    7. すぐに次の「アイロン」の項目に移ります。

    汚れが気になる場合

    1. 汚れが気になる部分に固形石けんを塗りつけておきます。
    2. バケツや洗面器などに40℃程度のお湯を入れて、酸素系漂白剤を適量より少し薄めに溶かします。
    3. 20分~30分程度つけ置きにします。バケツや洗面器にフタをしておくとお湯が冷めにくく、漂白剤の効果が出やすいです。
    4. 上の「手洗い」の方法で全体を洗います。

    ※化学繊維混紡の場合、高温のお湯で縮みやすいため、お湯の温度を30℃程度に下げます。
    ※濃すぎる酸素系漂白剤の使用や長時間のつけ置きは「こはぜ」の変色や周辺の劣化の原因になります。十分にご注意ください。
    ※足袋には塩素系漂白剤は使用できません。

    2)アイロンをかける

    一般的な洋服は、洗って乾かしてからアイロンをかけますよね。でも足袋の場合には、洗ってすぐ、濡れているうちにアイロンがけを行います。これは洗って縮んでしまった素材を、早めに引っ張って元に戻すためです。「洗濯→アイロン」は素早く行うことが鉄則です!半乾きになるまで、素早く作業を行いましょう。

    ※アイロンフリーの足袋の場合には、この工程は必要ありません。次の「形を整えて干す」の項目に移りましょう。

    1. アイロンは綿・麻の場合は高温に、化学繊維混紡の場合には、洗濯表示に合わせた温度に設定しておきます。
    2. 洗って濡れている状態の足袋をアイロン台に置きます。
    3. アイロン台のへりに内甲側を出します。アイロンの先を足袋のかけ糸の方向に向かって回しながら、強く引っ張るようにしてアイロンをかけます。
    4. 足袋の足裏を上に向けます。かかとを抑えて、足指の方向へ引っ張るようにしながらアイロンをかけます。
    5. 足袋の内側(親指がある側)を上に向けます。かかとを抑えて、足指側へ引っ張るようにしながらアイロンをかけていきます。
    6. 反対側を上にして、足指側からかかとに向かってシワを伸ばしていきます。
    7. 足の下側から足首側に向かってアイロンを滑らせていきます。
    8. 履き込み口(こはぜのある部分)の形を整えます。アイロン台の角を使うと形を整えやすいですよ。

    3)形を整えて干す

    アイロンをかけて足袋が半乾きになったら、次は自然乾燥させます。ただしこの時にも、キチンと形を整えることが大切です。アイロンフリーの足袋も、形をきちんと整えることで次回の見た目の良さが変わってきますよ。

    1. 足裏を上にして、横方向に何度か引っ張ります。
    2. 今度はかかととつま先を持って、縦方向に引っ張ります。
    3. 足の甲側を上にして、縫い目の両端を持って引っ張ります。
    4. 足首部分の両端を持って引っ張ります。
    5. シワがある場合には、その部分を軽く叩いて伸ばします。(シワが深く、叩いても取れない場合には再度アイロンがけを行なってください)
    6. 内側に手を入れて、足が入っているように膨らませて形を整えます。
    7. コハゼをかける糸(かけ糸)の部分をピンチに挟んで干します。
    8. 直射日光を避け、風通しの良い場所で自然乾燥させます。

    足袋を洗う時の注意点

    シワを作らないように気をつけて

    足袋を洗う時には、中に手を入れて「履いている時の形」を意識しながら洗うと、余分なシワや型崩れを防げます。反対に平面的にグシャグシャと洗うと、シワがたくさんできてしまいますし、足裏が崩れて履きにくい足袋に。歯ブラシや靴ブラシをうまく使いながら、部分的な汚れをていねいに落としていきましょう。

    足袋は「即日・翌日洗い」を習慣に

    足袋はできるだけ早く洗うことで、皮脂汚れ等を浮かせやすくなります。足袋の洗濯はできれば当日中に。遅くとも履いた翌日には洗う習慣を付けましょう。

    おわりに

    足袋の洗い方・アイロンのかけ方はお役に立ちそうですか?「ちょっと難しそう」「アイロンが無い」「高級な足袋だから縮ませたくない」…そんな時には、足袋をクリーニングに出すという手もあります。足袋のクリーニング料金は、一足あたり300円~500円位です。着物を着る機会が少ない方なら、長襦袢等と一緒に足袋もクリーニングに出してしまうと手早いですね。

    普段の洋装とは違って、和装の足元の汚れは隠しにくく、黒ずみや黄ばみがあるととても目立ちます。特にフォーマルな場に履いていく白足袋は、常にキレイにしておくことを心がけましょう。

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    吉原ひとし


    着物ケア診断士 吉原ひとし


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